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2013

非平衡相転移について少し調べてみようと思ったのだが全く分からなかった

はじめに

先日思い立って非平衡相転移について少し調べてみようと思い, 適当にググって PDF を読んだ. 京都の小貫さんによる『非平衡相転移現象: 熱流による非線形効果』という記事だ. いいものなのかどうかは全く判断できないが, とにかく読んでみた.

メモ

相転移現象は実に多岐にわたっており, 殆どの研究者にはそれぞれになじみのある相転移現象があるであろう. 相転移を平衡現象として捕らえるのは理解の第一歩であり, その先に多くの非平衡効果がある. 二次転移点近くのダイナミクス研究はその流れの初めの一歩である.

私でいうと強磁性が馴染み深いというか, ほぼそれしか知らない. それですら物理としては怪しいところばかりで悲しい.

一見して平衡に見えるがそうではなく, ガラス状態や構造相転移の中間状態のように準安定性が本質の物質状態もある. また高分子・液晶・ゲルなどのソフトマターは, その柔構造・多層構造のため, 多彩な非線形非平衡効果を示す. 濡れ現象や界面運動に着目した斬新な本もある.

学部の頃の固体物理か何かだと思ったが, ガラスがかなり難しい対象だと聞いてびっくりした覚えがある. あと濡れ転移だとか界面の話は東大数理の舟木先生が数学として研究していたような気がする. 読んだことないが, 多分これ.

これら潜熱の関与する現象はありきたりだが, 物理として理解するのは実は至難である. それには熱流下での液体・気体界面における一次相転移を正しく理解しないといけない. ここに相転移物理学と流体力学の融合された基本問題がある.

やたら格好いい. 1-2 ページにかけて van del Waals や Korteweg の仕事が紹介されているが, Korteweg は Korteweg-de Vries (ソリトン) で有名な Korteweg とのこと.

通常の自由エネルギーを用いる理論では一様な温度を想定するが, 温度が非一様な場合の相転移はどの様に記述できるかは自明でない.

非平衡は全然知らないので, そもそも非平衡での自由エネルギーとは何者か, 考える意味があるのか, 平衡状態で果たすような重要性は変わらずあるのか, というところが気になる. すぐ下でエントロピーも出てくるが, この辺, 非平衡でどこまで意味を持つのだろう.

潜熱流は熱伝導に比べ圧倒的に熱移送効率がよいのがわかる. ガスに僅かに液体を封入するだけで効率よく作動するヒートパイプの原理が納得されるであろう.

ヒートパイプなるものを初めて知る夏.

大分飛ぶが次のような記述があった.

身近で体験する現象ですら非線形非平衡効果に満ちており実はよく理解できなていない 3,6). 熱力学で論じられる現象 (例えば断熱変化・カルノー過程) は公理的な記述がされるが 実際の物理過程は複雑で誰も理解していない側面もある.

こういうの凄い好き. 現象自体は良く知られているが, きちんと考えると理屈が全く分からないとか最高に楽しい.

非平衡相転移については何も分からなかったが, 非平衡の熱力学・統計力学はやばい, ということだけ了解した.

量子力学教育の現代化に関する適当な考察

Twitter で物理系の大学教員が量子力学教育の現代化というお題でいろいろ言っていた. 旧来の水素原子に関する偏微分方程式の解析などよりも, 量子情報や量子測定理論など現代的な量子論の理解にもとづいて教育を組み直すべきではないか, 無限次元の面倒な議論よりも有限次元のヒルベルト空間論で本質は十二分に説明できるはず, そうした話が展開されていた. それについて適当にツイートしたので, せっかくなので適当にまとめておく.

放言

  • 量子力学、関数解析の隠語という方向で考えたい。
  • 物理はよくわからないので、量子系の数理・幾何の基礎数理という感じで市民感覚の線型代数コンテンツを作りたい。
  • 量子力学の教科書から水素原子取り除いたら解ける具体例どうすんの、、、?井戸型ポテンシャルだけやるの、、、?

    • 調和振動子はあるのでは。
  • いま有限体に対する応用線型代数として符号理論を再勉強しつつコンテンツのために整理している。
    • 物理への応用線型代数という趣で作った現代数学観光ツアーだけでも既に300ページを超えるボリュームがある。
  • 水素原子に関わる数学が好きだから水素原子の議論を決死擁護するというスタンスを取るまである。
  • 200ページくらいで量子情報がさらりと眺められるPDFとかほしい。

私の趣味という意味での数理物理的観点

  • 水素原子、励起状態の固有値、量子電磁場の「摂動」を入れると励起状態は全て準安定状態的なアレになっていろいろ処理が必要で、基底状態は固有値であってほしいと思いつつ赤外発散処理が必要でそれがまた修羅という世界観で生きている方の市民。

もう少し真面目な教育的話題

  • 水素原子の問題のいいところ、そこまでに習ってきた数学をきちんと使うところというか、そういう風にカリキュラムを組んでいるところだろうから、物理学科のカリキュラム自体根底から組み直す必要があるだろう。何で量子力学の話だけしているのかがよくわからない。
  • 物理学科、何となく教科書という何といい、教育改革が死ぬほど遅れている印象があり、死ぬほど保守的なのだろうという気分とこれが物理帝国主義かという気分がある。
    • そうですかね、、、?

    • とりあえず比較対象は数学で、観測範囲では学部レベルが少なくとも数学よりはかなり固定的な印象があります。
    • まぁ昭和の教科書普通に最近のと同じように読めちゃうのでそうなんでしょうねぇ、、

  • 物理の人間がどう思うかは知らないが、数学科の人間が読みやすい物理のコンテンツを作りたいという気分はあるものの、現代的に適切な物理の内容をよく知らないという致命的な問題がある。
  • 現代的な量子力学、とりあえず偏微分方程式を解けば何か出せるというタイプの話ではなく、かなりの抽象論になるような気がするし、理論系ではない学生を全員処刑してしまうタイプの講義になりそうな気もする。実験系の人はどういう気分なのだろう。
    • 偏微分方程式解く系の数学、数学の使い方が難しい事案で、現代的な量子力学は教養数学の一番難しいところだけを丁寧に集めたタイプの地獄になるような印象がある。多分流体やら何やらで添え字だけ見ればいいタイプでは済まない、数学のテンソル積が必要になって血の雨が降りそう。
  • 添え字の計算ではない、テンソル積空間などのテンソルを理解できる非数学科の人、どのくらいいるのだろうか。そもそも線型空間やら、行列と線型写像の区別がきちんとつくやら、なかなかハードな気分がある。
    • (量子情報理論、(数ベクトル空間の話に落とし込んでお茶を濁す手もあるとはいえ、)まともに説明しようとするとすぐにテンソル積が出てくるので地味に大変なんですよね)

    • 数ベクトルに落とすと、今度はテンソル積が逆に具体計算として特に高階のテンソルがすさまじく面倒なことになり別の強い負荷がかかるという認識で、何をどうやろうとも難しいことは難しいという事案だと思っています。
    • そうなんですよね… >特に高階のテンソルがすさまじく面倒 学部の講義でちょっとだけ量子情報理論の話をしたときには、2量子ビット系までしか扱わなかったのでまだ何とかなった(と信じている)のですが

  • 平均的な物理学科の平均的な学生、どれだけ現代物理に耐えられるのか問題が浮上してきている気がする。
  • 学部の時、量子力学は微分方程式をとりあえず解くだけで全てが終わり、特にいろいろな特殊関数の計算に追われて物理をやるどころではなく、学部4年で数学科進学用の関数解析系の勉強ついでに量子力学の公理みたいなのを改めてやることでようやく少し何をしているか把握したという部分があり、偏微分方程式の計算を必死で頑張るタイプの量子力学、学部3年程度で誰が耐えきれるのかという気分はある。特に特殊関数を駆使した計算、使う人と使わない人が極端に分かれるだろうし教育的にどうなのかはいまだに全く分からない。
  • 山の事故で亡くなってしまったが、最後早稲田に行った生物物理の木下さん、関数論で挫折して理論を諦めたと言っていたし、趣がだいぶ違うとはいえある程度優秀なはずの実験屋さんでさえそのくらいとなると現代的な量子力学、線型代数の抽象論で大半の物理の人間にわからない代物になりそうな。

最後に

私が作った現代数学探険隊はまさに水素原子の量子力学に必要な解析学を 1 から整備したコンテンツだ. その辺について, infinity_topoi さんのブログの記事に対するコメントとしていくつかまとめた. 興味があればぜひ読んでほしい.

何にせよ線型代数に関わるコンテンツはいろいろ必要で, 今後も解析または微分幾何視点でいろいろ作っていく.

コメントの移行

HashiraQさんから

量子力学について特に業績もなく本当に教科書が出るのか出ないのかも不明なツイ廃物理教員方面のホラ話、そんなに真に受けなくても、と思わんでもないっす。

だいたい何をもって「現代的」??水素原子も実空間系のスペクトルも取っ払って量子情報系に特化した教科書なんかいくらでもあるでしょ。日本語でももう長らく清水本、北野本とあって特に何のニュースもないいのでわ。

いずれにせよ現状では絵に描いた餅。いろんな教科書が出て選べるのはいいことなので、まずはお手並み拝見、教科書が出た時点で議論すべきことだと思いますね。

それより相転移P著の数学っぽい量子力学の教科書が読みたい。

自分

新井先生とLieb方面の相の子のような趣味をしているので、その辺の本の劣化版が私が書く本にあたります。劣化版をあえて書くなら、日本語でカバーされている本が(多分)ないという意味ではLieb方面の水素原子からのStability of matterを市民でも読めるように議論を丁寧に書く部分に全力を振るだろうと思います。

追記

新井先生の本に関しては恐ろしく丁寧で言うことはないものの, Lieb の本に関してはそこそこ行間があるため, そこを補うコンテンツはあっていいと思う. 特に stability of matter は前から興味があるので, コンテンツを作る体で勉強するのは本当にある. やりたいことが本当に多い.

高圧物理学の聖杯, 金属水素

はじめに

どこだか忘れてしまったが, Twitter で金属水素なるものがあることを知る. とりあえずWikipedia の該当記事を貼っておこう.

引用

金属水素 (Metallic hydrogen) は, [水素(http://ja.wikipedia.org/wiki/水素)が圧縮され, 相転移を経た状態であり, フェルミ縮退の一例である. 固体状態では, 水素原子核, つまり陽子結晶格子の間隔は, ボーア半径よりもかなり小さく, 電子ド・ブロイ波長と同程度と予測されている. 電子は束縛されず, 金属における伝導電子のように振る舞う. 液体状態では, 陽子は格子に並ばず, 陽子と電子の液相系となっている.

水素は, 周期表上でアルカリ金属の列の最上段にあるが, 通常の状態では金属ではない. しかし 1935 年, ユージン・ウィグナー と Hillard Bell Huntington は, 25Gpa 程度の超高圧で, 水素原子は電子を保持できなくなり, 金属的な性質を示すことを予測した{1}. それ以降, 金属水素は, 「高圧物理学の聖杯」と呼ばれるようになった {2}.

高圧物理学の聖杯とか格好良すぎるだろう. 何だこれは. 「聖杯」と言いたいためだけにでも研究する価値がある.

解析力学は一般論・抽象論を組み上げる必要があって難しいという話

はじめに

Twitter で hisen_kei さんと ゆきみさんが解析力学のセミナーをするとかいう話があったので, 思ったことを書いておく. 物理が非専門の人が読むのにいい本を全く知らないので, ハイパー困るのだが, とりあえず私が読んだ本は山本-中村だ.

解析力学2 (朝倉物理学大系) 解析力学1 (朝倉物理学大系)

物理として学ぶ段階ですでに一般性が必要になってつらいので, 特に非専門家が勉強するときには, まず自分の知っているところ・使うところに特化して勉強し, そこを突破口にして学ぶのがいい. 力学系の議論は機械工学でも使うようだが, 数学的にそこに特化した本としては次のような本がある. 読んだことはないので, 質については保証できないが, (数学として) 何が問題かというところは把握できると思う.

常微分方程式と解析力学 (共立講座 21世紀の数学) 力学と微分方程式 (現代数学への入門) 微分方程式と力学系の理論入門―非線形現象の解析にむけて

解析力学の特徴紹介

ここではむしろ, 本を紹介するよりも, 解析力学の特徴を紹介することで学習の一助としたい. ちなみに『力学と微分方程式』の書評に次のような記述があって面白かった.

力学系の本は本書の他にもいくつか出版されていますが, これほど読みやすく, 分かりやすいものはないでしょう. 初学者がつまずきそうな点には, しっかりフォローが入っています. 練習問題の解答もついていますし, 入門書として適当だと思います.

ただし, 本書は数学者が書いていることもあって数学的で, 物理学的な色はあまり濃くありません. ですから, 物理大好き☆物理命☆みたいな人にはあまり向かないかもしれません. (この点は他の本もある程度共通していますが…).

しかし, 逆に言うと, 「ほとんど物理を勉強したことがないけども力学系の知識は必要. 困ったなぁ…」. と密かに悩んでいる経済学や生物学などを専攻する人には, 間違いなく最高の本です. 経済理論や生物学の本などにも, 巻末の付録に力学系の申し訳程度の解説が付いていたりしますが, 今後の動向を考えると, やはり本書のようなものを読んでおいたほうが良いでしょう. 教養・アイデアの種として, 物理学の知識も得られますし.

数学と物理のギャップ

数学の本は物理的な感覚が使いづらくハードルが高いという印象があった. だが, 逆に物理をあまり知らなくても読める (自分の専門に引きつけて解釈をつける) と思えば, かえっていい場合もあるのかと. 数学的にやばすぎると別のハードルが上がりまくるので, きちんと選ぶ必要はあるが.

タイトルで解析力学で一般性が大事だと言っているが, それを説明していこう. 例えば 3 次元の Laplacian を自然な直交座標系と極座標系で書いてみると次のようになる. \begin{align} \triangle_{\mathrm{o}} &= \frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2}, \ \triangle_{\mathrm{p}} &= \frac{\partial^2}{\partial r^2} + \frac{2}{r} \frac{\partial^2}{\partial \theta^2} + \frac{\cos \theta}{r^2 \sin \theta} \frac{\partial}{\partial \theta} + \frac{1}{r^2 \sin^2 \theta} \frac{\partial^2}{\partial \phi^2}. \end{align} 何も知らずに見たとき, この 2 つが同じ演算子 (作用素) だと思うのはまず無理だろう. こうした見た目に左右されずに本質的な部分を見抜く必要がある. そのためには本質的な部分が何か, もっというなら本質とは何かということをきちんと意識する必要がある. 大事な部分を抜き出し一般化し, 議論をクリアにするために必要があれば抽象化までかける. 抽象化して議論自体はクリアになっても, 今度はクリア過ぎて何がなんだかさっぱり分からなくなる. そこを埋めるために適切な具体例をいくつも知っている必要がある. 物理に使うにはこの具体と一般・抽象を両方きちんと知っておかねばならないため, 負担がどんどん大きくなる.

もう少し具体的に

このあたりをもう少し具体的にしてみよう. 物理で大事な概念として保存量というのがある. 具体的に運動量を考える. Lagrangian を 1 つ取ろう:$L = - p^2/2m$ でも想像してくれればいい. これに対して空間並進群 $\mathrm{R}^3$ の作用を考えると, この作用に対して Lagrangian は不変になるとする. このとき空間並進群に対する保存量が定義され, それが運動量になる.

一般化

次にこれが一般化される. 任意の Lagrangian $L$ を取り, 任意の群 $G$ を取る. $L$ が $G$ の作用で不変なとき, 一般に $G$ に対応する保存量が定義できる, となる. ここで考えられる限り最大に一般な Lagrangian と群を取る必要がある. なぜなら, 新たな理論を構築したりする場合, どんな Lagrangian, どんな群が出てくるか分からない. そうした場合にも使えなければいけないからだ. 非相対論のときにしか使えないとかいうのでは話にならない. 群も非相対論の状況では Poincare 群や Lorenz 群は視野に入らないが, こういう群作用がある場合にだって使えなければ意味がない. まだ見ぬ場合も含めていつでも使えるようにするため, できる限りの一般性を担保する必要がある.

場の解析力学

また結果は普通の力学だけでなく, 適当な場の理論にも使えると嬉しい. 実際電磁場の Lagrangian なども考えられる. 場に対しても使っていきたい. 特に場の量子論を場合を考えると電荷に由来する $U (1)$ ゲージ不変性も出てくる. 既知の保存量であっても, それに対応する対称性は何か, という議論だってしたくなる.

逆にいうと, 解析力学にはここまでの射程距離があるのだが, この射程距離を持つにはそれだけの頑張りが必要になる. それが解析力学がつらい理由だ. 当然一気に, 頭から本格的な本を読もうとするとつらい. そこで冒頭に戻る:自分が使うところから徐々にやっていき, 突破口を作っておいて必要がある範囲をまずおさえる. その後必要があるごとに勉強していく感じでやるのがいいだろう. 物理学科なら, カリキュラム的な都合もあるし, 学科の特性もあるのである程度はじめからきちんとやらなければいけないが, それは専門なので当然だ.

何に限らず (大学で) 学ぶ内容が簡単ということは全くないのでどこかしらで頑張る必要はある. ただ, 特に非専門家が勉強するときに困る部分というのは専門でやる場合と違う可能性があるので, そこはどうしたらいいか分からず惱むところ. 困るな, というところで歯切れ悪く記事を終える.

2013 コーシーの積分定理の定式化から考える物理に必要な数学のレベル

本文

以前他のところでも書いたが, 原さん, 田崎さんによるイジングの相転移本, 今, 東大物理の有志とともにの査読ゼミをしている. 勝手きままに好き放題駄目出しをしまくっているのだが, 一部復習を兼ねた数学の付録 F で物理として甘い数学の記述を見つけた.

ゼミでも指摘したのだが, 物理の人が読み飛ばしそうで, かつ数学の人は気にはするが物理としての意識はしないだろう部分がある. そうした意味で気になる記述はそこだけではないが, 現状の草稿を読んでいる方に役に立つと思ったので, 複素解析を例に気になる部分を具体的に指摘しておきたい.

追記

ここ に置いてある PDF に, 早稲田で早稲田や東工大の学部 2 年相手に話した複素解析ショートコースの記録がある. 3 時間くらいで関数論のメインストリートを駆け抜けた. 興味がある方は読んでみてほしい.

本題

本の草稿から Cauchy の積分定理と積分公式の記述を抜き出してみよう.

(コーシーの積分定理と積分公式) 単連結な領域 $D$ で正則な一変数複素関数 $f (z)$ と $D$ 内の任意のなめらかな閉曲線 $\gamma$ に対して \begin{align} \int_{\gamma} f (z) dz = 0 \end{align} が成り立つ. また, $a \in D$ と $D$ 内にあって $a$ を反時計回りに一周する閉曲線 $\gamma$ に ついて \begin{align} f (a) = \frac{1}{2 \pi i} \int_{\gamma} \frac{f (z)}{z - a} dz \end{align} が成り立つ.

この記述は物理的に問題があるのだが, それがどこか分かるだろうか. 今回は数学的にもっと一般化できる部分で起きた問題とたまたま一致しているが, 実際には物理での応用時に問題が起きるという話なので, 数理物理としてはきちんと対処しておくべきところだ.

ちなみに Cauchy の積分定理の別バージョンだとか数学上の注意については下記の本の IX 章 $7 を参考にしてほしい.

数学的問題

何が問題かというと閉曲線の取り方にある. 引用した部分では「なめらかな閉曲線」とあるが, 例えば上記『解析入門』にあるように「区分的 (またはなめらか) 」としなければいけない. ときどき, この文脈では「なめらか」と書いて を意味することはあるので, そこはどちらでもいいのだが, 問題は「区分的」と入っているかどうかだ. これは物理での応用時に次の問題を引き起こす.

Cauchy の積分定理から留数定理を証明することになるので, 留数定理にも上記の曲線に対する条件が引き継がれる. 実際に留数定理で計算をするとき, 良く次の図のような積分路を取るだろう.

図で丸をつけておいたところは積分路が尖っているので, 当然微分ができない. 「区分的になめらか」としておけば問題ないのだが, 曲線に微分不可能な点を許した形で定理を書いていないので, この場合に使えるかは分からない. 一般に, 条件を一つ落としたとき定理が成立するかどうかは自明ではないし, 本当に反例がある場合があるため慎重に判断する必要がある.

応用上の問題

ここで問題なのは物理の人はこの類の条件を適当に読み飛ばすだろうし, 数学の人は気にするにしても純粋に数学的な面からの問題としか見ないだろう, ということだ. この定理に限らず, 命題の設定や結果に物理的な意味がある場合にそれを正しく見抜くこと, 感じることが大事なのだが, 現状の草稿ではそうした指摘が弱い部分が多い.

もちろん出てくる定理全てに明確な物理的な意味があるわけでもないが, 物理的に非常に重要な命題にすらその旨注意がないことがあり, 物理の人は「単なる数学か」と素通りしてしまい, 一方数学の人は物理的な意義が見えないという悲劇が起きる. このあたりは, 何というか, きちんとした教育を受けた「純粋な数理物理」の人間にしか感じ取れない気がする.

コメント

念のため書いておくと私は数理物理という言葉の使い方について物理, 物理寄りの数理物理, 「数理物理」, 数学くらいの段階があると思っていて, 数学者が数理物理というのは「物理が元ネタになっている数学」のくらいの意味だと思っている. 「物理寄りの数理物理」は極めて物理的なモチベーションの高い数学的に厳密な研究を指し, 田崎さんや原さんがここに属する. これが微妙なのだが, 「数理物理」は物理的な意義が多少薄いが全くないということもなく, 一方数学としてもあまり独立した興味が無いような話だが, 「数理物理」という何か良く分からない区分にすると意味を持ってくる結果, くらいの何とも言えない意味で使っている. ちなみに例えば超弦理論で数理物理といったとき, 特に物理の人がやっている場合は「数学的に厳密な」という条件が落ちることが良くあるが, 私はこれを「物理」と呼んでいる. 人によって意味がばらばらなので注意されたい. 田崎さんと原さんでもまた違うだろう. ここでは私の使い方を説明した.

ついでに紹介

日本評論社の数理物理シリーズの編者コメントには次のような話が書いてある.

ロシアの R. L. Dobrushin は, 統計力学を確率論的に深めた多くの著しい業績をもつが, 「仕事は何か」と問われて「応用数学を純粋数学にすること」と答えたとか. これにならって, 数理物理学とは物理に用いられた数学を純粋数学にすることだ, といってもよさそうだ.

また上のような説明は数理物理の文献なら必ず明記してあるかというとそうでもない. 大事なところにはもちろん適切に注が入るが, 当然分かるだろうという部分にはいちいち注は入らない. こうした注意が明文化されている文献をあまり見かけないので注意しておくことにした. 改訂されるまで (見ていれば, だが) 査読者の方々は注意されたい.

最後に

色々言い出すときりがないが, 数学的に一般化できるところまで一般化しきればいいというものではなく, 物理にとって大事な条件下で必要な範囲の定理を示せれば, 物理としては十分だ. 自分が何をしたいのか, 物理がしたいのか数学をしたいのかという問題があるが, この本は「数理物理」の本なので, 読むときには上記のようなことに注意するともっと楽しめるということをお伝えしておきたい.

2013-12-28 Keith Moffatt, Rattleback Reversals

解析的に解くというジャーゴンがふと気になった. 何はともあれ記録.

2013-12-30 2次元連続スピン系の連続相転移に関する解説など

「2 次元連続スピン系の連続相転移」に関するプレゼンテーションファイルなどが公開されていたのでとりあえずメモ. これこれ.

https://twitter.com/tnksh/status/417610817039650816 【Shu Tanaka's Blog: 2 次元フラストレート連続スピン系における連続相転移に関する解説を作成しました http://shutanaka.blogspot.com/2013/12/blog-post_30.html?spref=tw

https://twitter.com/tnksh/status/417595165101293568 【以前論文を書いた「 2 次元連続スピン系の連続相転移」に関するプレゼンテーションファイルを slideshare に掲載しました. http://www.slideshare.net/shu-t/prb-87214401slideshare

あとで読もう.

2013-11-16 東大, 原子 1 個に記録された磁気情報を長期間保持するためのメカニズムを解明. 原子磁石の情報保持時間を従来比 10 億倍に向上

いまは原子 1 個をいじるのもさほど難しくなくなったらしい.

原子一個を普通に扱う時代なんだねえ… https://twitter.com/sjn_news/status/401719791079002112

東大, 原子 1 個に記録された磁気情報を長期間保持するためのメカニズムを解明. 原子磁石の情報保持時間を従来比 10 億倍に向上 (発表資料) http://bit.ly/1bCzyCC http://pic.twitter.com/uHrwD3goEU

この辺, 多体系ではないはずだし数学的にも色々突っ込んで調べられる範囲ではなかろうか. 岡山大の廣川先生とかこういうの好きそう. 自分でもいじってみたい.

量子力学, 何だかんだで物性物理的にきちんとした数学的結果はほとんどないような印象がある. 数学的にはそれだけ結構な難易度があると言ってもいい. 数学の人もこの辺, 何かもっとやってくれないだろうかと思っている.

2013-11-05 阿部龍蔵先生の訃報を知る方の市民

本文

佐々さんのツイートで阿部龍蔵先生の訃報を知った.

少し前だが, 阿部龍蔵先生の訃報 http://mainichi.jp/area/tokyo/news/20131103ddlk13060157000c.html 実は, 直接の面識はないのだが, 僕が駒場で 18 年間使っていた机は阿部先生のを引き継いだものだった (らしい) ので, 特別な気分になっている.

毎日新聞から

毎日新聞の方も引用しておこう.

訃報: 阿部龍蔵さん 83 歳=元放送大副学長, 東京大名誉教授, 物性理論物理学専攻 / 東京 毎日新聞 2013 年 11 月 03 日 地方版

阿部龍蔵さん 83 歳 (あべ・りゅうぞう=元放送大副学長, 東京大名誉教授, 物性理論物理学専攻) 1 日, 肺炎のため死去. 通夜は 7 日午後 6 時, 葬儀は 8 日午前 10 時, 品川区西五反田 5 の 32 の 20 の桐ケ谷斎場. 喪主は妻康子 (こうこ) さん.

歴史上の人物感ある.

2013-10-19 メトロノームの同期動画が見ていて楽しかったので共有する

立川さんが次のような動画を紹介していた.

なかなか素敵な物理実験です. ずれているメトロノーム 32 個が同期します. http://www.youtube.com/watch?v=JWToUATLGzs

単純に見ていて楽しい. 実験系構成能力, 鍛えたい.

2013-10-05 久保記念シンポジウムに参加し, 沙川さんの初観測に成功した

10/5 に久保記念シンポジウムに行ってきた. 前日にピカチュウさんに教えてもらったので, 急遽参加を決めた. 何せ若きスーパースターとして活躍していると評判の沙川さんのトークが聞けるのだ. 市民として滅多にない機会なので超楽しみということで参加した.

沙川さんトーク, 面白かった. 小林さん (と呼んでいいのかどうかアレだが) も話がうまくて面白かった. 実験の人の話を滅茶苦茶久し振りに聞いたが, そんなことできるのか, と思って単純に楽しかった. 自分の研究に役立つ方向では, 勝本さんの話, spin-boson モデルの話が出てきたのが大変に興味深い. 廣川先生が spin-boson の役割みたいなことを言っていたのを聞いたことがあるが, 実験の人が実際に spin-boson を使って実験の説明をしているのを聞いて, spin-boson 結構使えるのか, というのが少し感覚として分かった. spin-boson, 実際に最近結構数学的にもきちんと研究できるようになってきていて これとかこれとかあったりする. 適当に検索して見つけただけなので, この論文が非常に良い結果とかいうわけではない. 私が知る範囲では, 数学的には廣川先生が一番熱心に研究していると思う. 興味がある向きは廣川先生の仕事から色々調べていくといい.

実験トークはよく分からないので, 沙川さんトークだけ記録しておく. 上田先生ともやっている, 情報熱力学周りの話だった. 当人は「あまりガチガチなことをするとまずいからと思ってゆるふわな内容にしてしまったが申し訳ない」みたいなことを言っていたが, 感覚の全くないところだったので, 逆に私にはゆるふわでちょうどよかった. 何をやっているのか雰囲気は把握した. 確かに面白い. エントロピー生成に関して, 2 つの不等号を繋げて全体として非負, という話をしていて, 同時に等号が成立するような実験系などあるのか気になったので質問してみたが, やはりまだよく分かっていない, ということだった. 系のエントロピー生成とメモリ側のエントロピー生成で等号成立条件が全く違うので, ということらしい. 隣にいた宮下先生から「それは物理としては期待できないでしょう」みたいなコメントを頂いた. しかし, 何かできたら面白そう. 実験的に実現できるかはともかく, とにかく理論的に何か言えたら面白いとは思う. 物理に関してはほぼ素人なので, ピント外れの考えかもしれないが, こう色々と想像をかきたててくれる. トーク後, 田崎さんに「大分話すのうまくなったけれども基本的な設定の部分についての説明が全然ないし云々」という突っ込みを受けていた.

ここ最近, Summer School 数理物理など楽しいイベントがたくさんで非常に楽しい. それはそうと, 沙川さんに「どちらの方でしょうか」と聞かれたときに「Twitterの相転移Pです」と言ったらそれで通じたことは記録しておきたい.

2013-09-18 市民論文メモ: 大栗・中村論文 Holographic Refrigerator

ツイート

佐々さんのツイートで大栗さんの非平衡論文への言及があった.

引用

中村さんと大栗さんのほろぐらふぃっく非平衡論文 (ほろぐらふぃーで解析できる) 特別な模型の性質ではなくて, 一般的な性質として議論する枠組みを作るのが僕たちの課題. 先週, 集中討議したが, 時間があいてしまって休憩中.

コメント

先日大栗さんの超弦理論の本の感想を書いたが, ブレーンの熱力学・統計力学みたいな話があったので少し気になっていた. 軽く眺めたがもちろんさっぱり分からない.

とりあえず超弦からの宇宙の非平衡状態に関するリファレンスの 1 つとして覚えておきたい.

2013-09-13 Feynman物理学が全てオンラインになったという衝撃

やばい.

なんと!Caltech がファインマン物理学を全てオンラインに http://feynmanlectures.caltech.edu/ それもスキャンしただけでなく, 本文は HTML, 式は MathJax, 図は SVG だそうです

(英語版を) 買うだけ買ってろくに読んでいない方の市民だが, これは凄い. 私も面白いこともっとたくさんしたい.

2013-06-27 ピカチュウパイセンによる物性理論向け日本語文献のリンク集 in Togetter

はじめに

ピカチュウパイセンによって Togetter にまとめられていた.

http://togetter.com/li/525304 物性理論向け日本語文献のリンク - Togetter とりあえず, 仮まとめだん.

流れを追っていないのだが. この辺が発端だろうか.

ほほう. これを超えるものを用意せよと…. http://twitter.com/fujisawamasashi/status/350208239369060353

references -解説記事- https://sites.google.com/site/fujisawamasashi/home/study/references 最近, 更新をサボっているけど….

物理でいうと私も物性理論の人間だが, ここにあるネタ, 原さんと田崎さんの話にややかすっているくらいで, ほとんど何も知らないことを改めて思い知らされる. 物理も数学も半端で本当に何にもならない.

Togetterのメモ

ネット上の情報は時々何の前触れもなく消えるので, Togetter を転載しておく.

超伝導

超伝導の普遍性と多様性 (理論)/ 斯波 弘行 http://t.co/nooThCYiFR #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:19:55

いろいろあるね. 相関の強い電子系における超伝導 http://t.co/1AAPpInoX2 cometscome_phys 2013-06-27 21:00:22

強相関電子系の異方的超伝導 : BCS 理論からエキゾティック超伝導へ http://t.co/2bqW16rz45 cometscome_phys 2013-06-27 21:01:33

スピン三重項超伝導体の d ベクトル http://t.co/uePoTW3rky #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:03:58

スピン 3 重項 p 波超流動研究の新たな展開 : アンドレーエフ束縛状態とその多面性 http://t.co/mfqBYCmvWm #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:05:52

超伝導転移及び Andreev 反射と Josephson 効果~「超伝導 Night Club 」会員の手引き ~/ 浅野 泰寛 http://t.co/rmHkeJAlii #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:57:49

解説:空間反転対称性のない系での超伝導/ 林伸彦 http://t.co/xidXR3Zj9X #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:32:05

準古典近似を理解する上でのおすすめ:PrOs4Sb12 に対する多バンド超伝導の理論/ 麦倉雅敏 http://t.co/xYj6xAMHLP #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:28:04 Content from Twitter Green 関数

松原から実エネルギーへの解析接続なら:最大エントロピー法講座/ 武藤 哲也 http://t.co/gOeaITjMU8 #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:55:21

歴史的なことも含めた話:統計力学における Green 関数/ 阿部 龍蔵 http://t.co/UOa7TfBUu0 #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:10:49 Content from Twitter 強相関

強相関電子系の物理/ 川上 則雄 http://t.co/ZZTtbwzliO #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:09:42

多電子系の遍歴・局在・秩序化/ 倉本 義夫 http://t.co/L2e2R2rlke #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:02:48

遍歴と局在のはざ間でせめぎ合う電荷・スピン・軌道自由度 (第 52 回物性若手夏の学校 (2007 年度),講義ノート)/ 求幸年 http://t.co/zOEasOyWOY aki_room 2013-06-27 21:43:43 Content from Twitter "0 次元系"

近藤効果の系譜 : 重い電子系と量子ドット/ 上田和夫 http://t.co/UqkSIbeAPK aki_room 2013-06-27 21:17:10

ダイアグラム展開に基づく連続時間量子モンテカルロ法/ 楠瀬 博明ら http://t.co/GBB1pL5wyj #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:53:05

動的平均場理論の基礎と応用/ 楠瀬博明 - 愛媛大学理学部物理学科 量子物性理論研究室 http://t.co/IoIWN0hNKN aki_room 2013-06-27 21:19:44 Content from Twitter 1 次元系

1 次元量子系 : 共形場の理論と朝永・ Luttinger 液体/ 川上 則雄 http://t.co/03nuKeMAna #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:22:55

わかりやすいベーテ仮説:1 次元量子系の厳密解とベーテ仮説の数理物理/ 出口 哲生 http://t.co/cC0ZzmQJuS #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:04:31

量子スピン系の理論 (講義ノート)/ 田崎晴明 http://t.co/eRy2O0iBvY aki_room 2013-06-27 21:23:30

低次元強相関電子系におけるクロスオーバーと相転移 : 電子系繰り込み群ミニマム (第 47 回物性若手夏の学校 (2002 年度),講義ノート)/ 岸根順一郎 http://t.co/vHoARoFING aki_room 2013-06-27 21:31:02 Content from Twitter

@aki_room Renormalization-group approach to interacting fermions http://t.co/k8GPXZvyuw なお, 英語でもいいなら電子系のくりこみはこれをれこめんどなう. aki_room 2013-06-27 21:34:27

S=1/2 Heisenberg 梯子模型の密度行列繰り込み群による研究/ 成島毅 http://t.co/mB3XoQzlEA aki_room 2013-06-27 21:22:31

「密度行列繰り込み群」の変分原理/ 西野 友年ら http://t.co/Pij53VFmO9 #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:24:34 Content from Twitter 物性と高エネルギーの境界

密度行列繰り込み群の最近の話題 : テンソルネットワークに潜むエンタングルメント構造/ 松枝宏明 http://t.co/iuMqCU6OfA aki_room 2013-06-27 21:08:05

トポロジカルな弦理論とその応用/ 大栗博司 http://t.co/sI9fBGD8ba aki_room 2013-06-27 21:06:40 Content from Twitter トポロジカル・ベリー位相 量子ホール効果

量子ホール効果 : 進展と展望/ 青木秀夫 http://t.co/CYHcS0bFiJ aki_room 2013-06-27 21:06:22

量子ホール効果 : その意義と幾何学的および代数的構造/ 初貝 安弘 http://t.co/7ouoCJ3Czy #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:40:21

グラフェンの特異な物性とカイラル対称性/ 初貝 安弘 http://t.co/b7PNbfrAVT #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:37:18

スピンホール効果とスピントロニクス/ 村上修一 http://t.co/CQx2KI8xZG aki_room 2013-06-27 21:06:02 Content from Twitter トポロジカル絶縁体

トポロジカル絶縁体の物理/ 村上修一 http://t.co/iWfgWQwbz8 aki_room 2013-06-27 21:05:04

Z_2 トポロジカル絶縁体の 3 階建て理論/ 井村 健一郎 http://t.co/GKdZJf7NQJ #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:14:08

トポロジカル絶縁体の理論に関するノート/ 御領 潤 http://t.co/FqnH4a55EG #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 21:15:56

Lecture note "Topological insulators" - Kentaro Nomura (ページの一番下) http://t.co/KBvWGKSBCQ aki_room 2013-06-27 21:27:26 Content from Twitter ベリー位相

固体電子論におけるベリー位相/ 永長直人 http://t.co/CTpY0Dd44s aki_room 2013-06-27 21:03:39

ベリー位相を再考する/ 藤川和男 http://t.co/BubfCv9PNn aki_room 2013-06-27 21:05:39 Content from Twitter 熱統計力学・非平衡物理

<特集>線形応答理論から 50 年-非線形・非平衡の物理学 http://t.co/e66YradQAh aki_room 2013-06-27 21:09:31

ブラウン運動と非平衡統計力学/ 田崎晴明 http://t.co/wnPpxuDoBv #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 22:25:45

動的縮約の構造/ 蔵本由紀 http://t.co/T0XPl9RZow #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 22:29:14

液体のダイナミックスと非平衡物理学/ 吉森明 http://t.co/Q89EsD3LOx #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 22:24:09

パターン形成の数理/ 小林亮 http://t.co/72aLwpIM0J #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 22:34:16

振動しネットワークのダイナミクスとゆらぎ/ 郡宏 https://t.co/9F61nwjlxY #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 22:33:16

詳細つりあいを満たさないモンテカルロ法 (最近の研究から)/ 諏訪秀麿・藤堂眞治 http://t.co/OxgAaVdNhz aki_room 2013-06-27 21:15:46 Content from Twitter 輸送現象

非平衡輸送現象 : 輸送現象における計数統計を学ぶための基礎 (講義ノート)/ 齊藤圭司 http://t.co/8jgPRbpcZ2 aki_room 2013-06-27 22:07:19

1 次元非対称単純排他過程の厳密解 (講義ノート)/ 笹本智弘 http://t.co/lbNzBmNHDZ aki_room 2013-06-27 21:39:42

ランダム行列理論とメゾスコピック系/ 今村卓史 http://t.co/Efnm9KOKSp aki_room 2013-06-27 22:07:40

微小な系の電気伝導 : 多体効果と非平衡電流に関する理論/ 小栗 章 http://t.co/ZHi8i38VhW #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:13:25

グラファイトシートの電子物性 : ナノグラフェン/ 若林 克法ら http://t.co/f8E45OP1ZX #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:16:37

グラフェンの電子物性とナノスケール効果/ 若林 克法 http://t.co/RnQ07pqnib #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:39:13 Content from Twitter ガラスから量子統計・量子情報

ガラス転移理論の新展開 : 動的不均一性とモード結合理論/ 宮崎州正 http://t.co/pIuEAYuMV0 aki_room 2013-06-27 21:12:54

スピングラス模型の臨界点と双対変換 : 厳密解を求めて/ 大関真之 http://t.co/CN2INeWcob aki_room 2013-06-27 21:11:41

量子アニーリング/ 大関真之・西森秀稔 http://t.co/gKmNjhhs89 aki_room 2013-06-27 21:11:02

量子計算超入門/ 藤井啓祐 http://t.co/si77mYik3O aki_room 2013-06-27 22:00:59

量子統計力学の基礎付けについて/ 杉田歩 http://t.co/vwgBBKX4Eb #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 22:31:24 Content from Twitter 研究に困ったら?

和達三樹 最終講義 - Todai OCW http://t.co/LV6GWs0Xv1 aki_room 2013-06-27 21:51:53 Content from Twitter 分類に困ったら? あとで分類します…きっと. (aki_room)

フェルミ原子光格子系の基礎知識/ 奥村 雅彦 http://t.co/YKl6ce0Elw #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:54:41

フェルミ原子ガス超流動における BCS-BEC クロスオーバー/ 大橋 洋士 http://t.co/RwH4hDjR0K #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 23:15:29

内部自由度を持ったボース・アインシュタイン凝縮体 : スピノル BEC におけるトポロジカル励起/ 川口 由紀 http://t.co/r7Ob5eyCfZ #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 22:56:52

第一原理計算 : バンド理論の基礎/ 小口 多美夫 http://t.co/sjIAjmE3VP #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 23:18:12

水の電気分解はどこまで分かったか? : 第一原理計算で見えてくる物理/ 大谷 実 http://t.co/6KSCKnOg5B #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 23:12:30

相対論的バンド理論による電子状態と磁性/ 山上 浩志 http://t.co/6ngF9kJSyB #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 23:09:40

「悪魔」との取り引き : エントロピーをめぐって (最近のトピックス)/ 田崎晴明 http://t.co/PVB16STaZg aki_room 2013-06-27 23:07:08

「ゆらぐ界面」をめぐる実験と理論 (最近のトピックス)/ 田崎晴明 http://t.co/c5N9DRxZiu aki_room 2013-06-27 23:06:18

非平衡定常系のボルツマン因子 (最近の研究から)/ 小松 輝久 , 中川 尚子 http://t.co/cIkl8eYGLy aki_room 2013-06-27 23:11:59

南部理論と物性物理学 (<特別企画>南部陽一郎,小林誠,益川敏英 3 博士ノーベル物理学賞受賞記念)/ 青木秀夫 http://t.co/sxGHvchg2D aki_room 2013-06-27 23:10:54

量子スピン鎖における磁化プラトー/ 押川 正毅 , 戸塚 圭介 , 山中 雅則 http://t.co/CwQMPpz34y aki_room 2013-06-27 23:09:57

スピンはそろう : 強磁性の起源をめぐる理論/ 田崎晴明 http://t.co/EeRfy3iHRN aki_room 2013-06-27 23:09:00

動的分子場理論/ 佐宗 哲郎 http://t.co/9NCgboUPFG #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 23:20:50

非 Gauss 過程の揺らぎのエネルギー論/ 金澤輝代士 http://t.co/8iqcWp9R8e #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:54:40

非平衡物理学/ 吉森明 http://t.co/8skq5Ldd7c #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:47:53

ボーズ・アインシュタイン凝縮の生成, 観測およびその理解/W. Ketterle, D. S. Durfee, and D. M. Stamper-Kurn http://t.co/ibCY2Vya8u #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:12:24

量子測定の原理とその問題点/ 清水明 http://t.co/lHFDn9xPO8 #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:05:16

熱力学とランダムネス :付録/ 佐々真一 http://t.co/9i8BFAz40n #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:04:40

カオスの物理/ 矢木雅敏 http://t.co/oAN1N1o85P #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:04:13

高分子の相転移とダイナミクス / 川勝年洋 http://t.co/9BZOP7nbHb #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:03:26

ソフトマター統計物理の基礎概念/ 堂寺知成 http://t.co/rF72jwVjBe #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:02:34

近可積分系の諸問題をめぐって –安定性の視点から - / 伊藤秀一 http://t.co/5dZzNADzk7 #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:01:57

場の理論と統計力学- くりこみ群の見方 -/ 原隆 http://t.co/xO5hNiffTq #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-28 22:00:48

AdS/CFT 対応の超伝導理論への挑戦/ 前田 健吾 http://t.co/UZPUDw40Mz #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-28 16:49:53

磁場下の超伝導/ 池田 隆介 http://t.co/hAzmJ1B2c6 #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-28 16:46:44

平衡超伝導電流に働くローレンツ力とそのホール係数/ 北 孝文 http://t.co/f2DhABrKXh #物性理論ミニマム cometscome_phys 2013-06-27 23:55:55

モンテカルロ法の前線/ 福島孝治 http://t.co/PM0W6jG0Ry #物性理論ミニマム Perfect_Insider 2013-06-27 23:42:34

非線形性とくりこみ/ 大野克嗣 http://t.co/EV52U9gBsk aki_room 2013-06-28 23:01:04

実演レプリカ法/ 樺島祥介 http://t.co/aKnFeS2NFp #物性理論ミニマム

2013-05-16 Lieb-YngvasonによるThe entropy concept for non-equilibrium statesがarXivに出たので読んでみた

はじめに

Lieb-Yngvason のプレプリントが出たのだが, 普通の理論物理の人が「ちょっと衝撃的?」と言っていたので眺めてみた. The entropy concept for non-equilibrium statesだ. Lieb-Yngvason がまた何か面白いことをしたようだ.

余計な話もいくつか書くが, 論文紹介というよりも私がこれを読んで思ったことの読書メモみたいな感じで読んで頂ければ, と思う. それなりに専門的に勉強した人間が何を考えながらどう読む (反応する) のか, というのを見てみたい向きには面白いのではないかと期待して.

アブストラクト

まずアブストラクトを見る. 引用部の訳は意訳の上に適当なので, きちんと原論文にあたってほしい.

P1.

以前の Lieb-Yngvason が論じてきた枠組みで非平衡のエントロピーが特徴付けられた. 今回, 同じ枠組みで, 物理的に望むべき性質を持つ一意的なエントロピーの存在が言えないことが示された. ただし, 一意性がないだけでそれらしき関数が 2 つ定義できる.

平衡系の熱力学の論文は, 例えば The Physics and Mathematics of the Second Law of Thermodynamics だ. 一意性がないだけで, とりあえずエントロピーは定義できるらしい. とりあえず本文に入っていこう.

P1.

エントロピーは時間とともに増えていくとされている. エントロピーは平衡状態では何の問題もなく定義できているが, 宇宙の中にある物質の状態の多くは平衡状態にはない. 非平衡状態に対するエントロピーが何なのか分からければ, その増大というのもきちんと定量化できない. 非平衡状態のエントロピーの定義もあるが, 色々な問題がある.

当たり前の現状認識から入る. 別件だが, Jaksic-Pillet あたりが非平衡定常状態に対して, エントロピー生成を証明したという話があった覚えがあるが, あれは具体的にどういう設定下で何をしたのかよく知らない. あれと今回の結果, どういう関係にあるのだろう.

P2.

状態の比較時, 化学的な組成は同じ状態を考える. 今回の議論では状態の断熱比較性 (以下比較性という) が大事. 一般には非平衡状態のエントロピーは一意に決まらないが, $S_{\pm}$ という 2 つの両極端なエントロピー関数がある. 比較性が成り立つときにはこの 2 つは一致する. 当然非平衡状態での比較性が成立することは極めて非自明であって, しかも一般には期待できない.

$S_{\pm}$ が恐ろしく非自明で凄まじい. あと, 化学的な組成が同じ状態に対する比較性を考えるというの, ここではさらりとしか書いていないがかなり重要だろう. 化学反応が起きる場合, さらに修羅のような状況になるのは簡単に想像がつくし, そのときは $S_{\pm}$ のような量が consistent に定義できるのかすら怪しいという印象. あくまでただの印象だが. そもそもエントロピーを定義する意味があるか, という問題もあるけれども.

2 章

とりあえず 2 章に進む. これは以前の論文の復習なのでとりあえずさらりと. 興味がある向きで自分できちんと上記平衡系の論文を読もう.

全然関係ないが, 非平衡状態での多体系のエネルギーは相加性を見たすのだろうか. 基底状態に関する相加性については, やはり Lieb が主導している物質の安定性の数理物理でのメイントピックだし, 恐ろしく非自明. 物質の安定性, 関西ぶつりがく徒のつどいとかで話したいがまず勉強が必要な人生だった. 数学の人に話すには量子力学と熱力学の上に物理に興味があるかという部分まで要求することになるので無理っぽい. 基底状態に関する限り, 物質の安定性は (量子) 統計力学というより量子多体系の話なので, 統計力学に頼るという話ではない. ただ, ミクロなモデルには頼るので今回の話とは別途切り分けるべき話ではある.

また, 相転移を考えなければいけないために起きる, 熱力学の数学的な処理の面倒さと, 面倒さそれ自身が持つ物理的な意味と重要性 (要は相転移) についても書いた方がいい気がしている.

3 章

3 章に進む.

P9.

平衡状態と違い, エントロピーで全てが決まるわけではないので非平衡状態のエントロピーを考えても平衡状態ほどの意味はない. ただし, 平衡状態のエントロピーが持つよい性質を保ちながら, 非平衡状態に対してどのくらいよいエントロピーが定義できるかを考えるのには意味がある.

非平衡状態の空間は, 全ての非平衡状態を含む必要はないことを強調しておく. これは, 爆弾の爆発のような状況を考えるときにそもそも状態の関数としてエントロピーを考える意味があるか, といった物理的な設定を反映させている.

非平衡状態は時間依存, または環境と完全に切り離せないことにも注意する.

状態空間に reproducible という条件をつけるようだが, 後で出てくるのだろうか.

3.1 節に進む.

P10.

拡大状態空間でも順序の物理的意味は平衡状態と同じとする.

これは物理的に妥当なのかよく分からない. 純粋に数学として議論を進める上では関係ないが, 最後きちんと物理にするためには決定的に重要なところ. とりあえず先に進む.

N1 で A6 (Stability) を仮定しているが, 非平衡でも成り立つと思っていいのだろうか. 他はとりあえず仮定しておいていいとは思うのだが. 平衡状態に近いところ (非平衡状態の空間をそのくらいに小さめに取る) なら仮定してもよさそうな気はするが, 遠平衡状態 (と私が仮に名付ける) ではどうなのか.

どうでもいいことだが, 数論幾何で遠 Abel 幾何というのがある. 名前しか知らないが Grothendieck が提唱したということだけ知っている.

ふと思ったのでメモしておくと, 公理的場の量子論や代数的場の量子論での「公理」はここで言う「仮定」の意味だ. 「ある仮定のもとで何がどこまで言えるのか」を確かめようという取り組みが公理的場の量子論と言える.

何故こんなことをするかというと, 少なくとも 1950 年代は特に場の理論の散乱がうまく扱えず, 何をどうしたらいいのか全く分かっていなかったという背景がある. しかも場当たり的な仮定をつけて, その場ではうまくいくが, 別の場合には全く使えないというひどい状況だった. まずは「この程度は成り立つと思っていいだろう」というラインを決めておいて, そこから導かれる結果を吟味し, どんな仮定ならば適切かを判断する材料にしようという試みなのだ.

なので, とりあえず仮定しておいて何が出るかを調べよう, という姿勢なら (数学的には) 条件をつけておいても構わない.

P10.

N2:全ての (考察下の) 非平衡状態 $X$ に対し, 2 つの平衡状態 $X'$, $X''$ があって, $X' \prec X \prec X''$ が成り立つ.

N2 の意味の説明:訳は省略.

初見では適当に読み飛ばしてしまったが, これはかなり強い意味を持っていた. 物理としては自然な仮定かとは思う. 詳しくは P10 の N2 直下の文参照.

P10.

非平衡状態の空間上で定義される関数で, 平衡状態の空間上, 平衡状態のエントロピーと一致する関数を探そう, というのが基本的な問題となる.

(14), (15) で定義される関数 $S_{\pm}$ がこう色々と大事. 物理的な意味もある.

P11 の命題 1 に基本的な性質がまとまっている. あまりきちんと落っていないが, 証明もそれほど難しくなく追えるレベル.

P12 の定理 4 では非平衡エントロピーの一意性に関する同値条件がまとまっている.

3.2 節では温度 $T_0$ の熱浴を仮定して最大仕事と, 最大仕事からのエントロピーの定義について考えている.

3.3 節に進む.

P15.

定理 4 と非平衡状態空間上の比較原理, つまりエントロピーの一意性は, 全ての非平衡状態はある平衡状態と断熱的同値性と同値になる. 平衡状態に近いところであってもまず期待できない性質であることを見ていく.

4 章

P16, 4 章でまとめに入る.

あまり証明をまじめに追っていないが, 数学的には問題ないだろう. 問題は物理への適用だ. 設定した公理 (仮定) がどこまで物理的に真っ当かという議論もある. 統計力学の設定で「追試」するというのも面白そう.

2013-04-27 大栗さんの『重力とは何か』がオーディオブックになる

大栗さん自身のツイートにより, 『重力とは何か』がオーディオブックになるという情報を得た. これだ.

拙著『重力とは何か』が FeBe からオーディオブックになりました. ⇒ http://www.febe.jp/product/144944 最初の部分は, こちらの Youtube で試し聞きできます. http://www.youtube.com/watch?v=wS-5QVg1_DE&feature=player_embedded

読もうと思っていてずっと読んでいないというか買っていない.

大栗さんの理研での講演についての記事を前に書いたことがある. 「大栗さんの講演「科学者の矜持」が Youtube に上がっていたので見た」でコメントしている. 動画へのリンクと単なる感想だけでなく, 知り得る限りでのある程度専門的なこともコメントしておいた. 興味がある向きはご覧頂きたい.

2013-03-27 純粋状態と熱力学第2法則に関する論文2本: 田崎さんのと池田さん, 作道さん, 上田先生の共著の論文

本文

田崎さんの日記で表題に関する文献が紹介されていた. 非常に面白そうなのでシェアしておこう. 何より自分が読みたい. この 2 本だ. 田崎さんのは The second law of thermodynamics for pure quantum states で, 池田さんや作道さん達のが Emergent Second Law in Pure Quantum States. 池田さんや作道さんは一応知り合いなので聞けばいいという説もある.

まだ中身を全く見ていないが, 忘れないうちに読みたい. 田崎さんの日記からこれだけ引用して今回は終わる. 早く読みたい.

タイトルのとおりだが, 「量子力学の純粋状態から出発し, 量子力学の時間発展だけを用い, 熱力学の第二法則を導く」という大胆不敵な論文である. (普通のエネルギースケールでは) もっともミクロな量子力学を, 中間の統計力学の形式をすっ飛ばして, もっともマクロな熱力学と直結させようとしているといえば, 大胆さが伝わるだろうか?

続報: 勉強のための参考文献情報つき

以前, 田崎さんと池田, 作道さんらの純粋状態と熱力学第 2 法則に関する論文に関する田崎さんの日記を紹介した. そのあと Twitter でも教えてもらったのだが, この日の日記で田崎さんのが改訂されたことがアナウンスされた. というわけで早速読んでみた.

物理としては正直, いまだにさっぱり分かっていない. 数学としては非常に簡単なので, 多分学部 2 年 でも読めるだろう. ここで学部 2 年というのはこの 4 月時点での, という意味で書いている. 1 年生と書くとこの春からの新入生と思われてしまう可能性があるので, 2 年生とした.

数学としてはおそらくこれ以上ないほど簡単になってしまっているので特にいうことはなく, 物理としては全くピントが合っていないのでこちらも何も言えることはないが, 1 つタイポを見つけたので, それは田崎さんに報告した. タイポが見つけられる方の市民であった.

この辺, 興味があり折角なので, メールしたときに勉強用の参考文献を教えてもらった. 出しても問題ないと思うのでここでも紹介しておきたい. 田崎さんの The approach to thermal equilibrium and "thermodynamic normality" --- An observation based on the works by Goldstein, Lebowitz, Mastrodonato, Tumulka, and Zanghi in 2009, and by von Neumann in 1929 と Goldstein, Lebowitz, Tumulka, Zanghi らの On the Approach to Thermal Equilibrium of Macroscopic Quantum Systems, Canonical Typicality だ.

微妙に畑違いなので Goldstein は知らなかったのだが, 同じく微妙に畑違いといえども Lebowitz おじさんは知っている. 「おじさん」と書いたが, もう 70 とか行っていた気はする. とりあえず物理寄り数理物理の Ising 界隈では人類最強クラスの人間なので, この辺に興味がある人は名前くらいは覚えておこう.

ちなみに「物理寄り数理物理」と書いたのは, 数学の人が Ising というとき, 可積分系だとかその辺の数学的に格好いい話を想起するかと思うのだが, そういう格好いい綺麗な話ではなく, 死ぬ程泥臭い不等式証明とかそういう話, くらいの意味で使った.

2013-03-05 統計力学は相転移を記述できるか: 佐々さんの日記から

本文

いつの間にか佐々さんが京都に移っていた, というくらいその辺の事情に疎い市民の私である. Twitter 上で回ってきて見かけて面白かった記述があったのでメモ代わりに記事を書いておく. 元記事はこれだ.

引用

昼食後の長い話の中で, でた話題はちょっと書ききれないくらい. 僕が知らない話もあった. 「「1937 年の会議で, 「統計力学が相転移を記述するかどうかを公に議論した. 挙手で決めれば, 半々くらいだった. チェアーのくらーまーすは, 熱力学極限の重要性をその時点で指摘していた」とそこに参加したうーれんべっくが言っていた.」.」とこーえんが言った. 他に, 非平衡熱力学をめぐる話, 流体方程式をめぐる話, 非平衡統計の話. . 基本的には, 「最近の研究に期待はするけれど, 警鐘をならしたい」というので一貫していた.

1937年時点での疑義

1937 年の時点でまだ統計力学が相転移を記述できるかが話題になっていたとのこと. (古典) 統計力学自体は 19 世紀最後の 4 半世紀にはあったわけだが, 統計力学と相転移の議論がこんなに最近 (!) まで議論の対象になるほどだったことに単純に驚いた. 南部さんの素粒子での相転移の議論が 60 年代にあったことを考えると, 30 年の時の経過を思う.

つどいでも少し関連する話をするつもりだが, 統計力学 (特にスピン系) でははじめ有界系で諸量を定義して, そのあと熱力学的極限とも呼ばれる無限体積極限を取る. 「連続関数の極限が連続であるとは限らない」という数学的事情を使って, 相転移をつかまえにいく. また相転移の熱力学的な定義は熱力学関数の特異性 (不連続性や微分不可能性) であったことを注意しておこう.

2013-01-28 大栗さんの講演「科学者の矜持」が Youtube に上がっていたので見た

本文

Youtubeに科学者の矜持というタイトルで理研の講演が公開されていた. 下に未整理の適当なメモを書いておいたが, 正直全く分からない話だった. ただ, 折角見たのに何も書かないでおくのも惜しいので, 感想を残しておきたい.

桂利行先生との会話の記憶

以前, 桂先生か誰かと話していたとき, 数学者が「大栗さんと村山さんは数学めちゃくちゃできる」と言っていた. 超弦の周辺はそういう物理学者がごろごろいるらしいので戦慄する. 私の分野も大雑把にはそういう分野だし, 私自身物理から数学に行ったとはいえ, そういう類の (多分) 物理出身の人が書いた数学の本 (Reed-Simon とか) が良く分からなくて泣きながら勉強していたことを思い出すと, 数学者に数学できると言わせる物理学者, 実に恐ろしい.

Reed-Simon の思い出

ちなみに Reed-Simon あたりは有名だがかなり難しいので, 少なくとも物理出身者には勧めにくい. 以前, 東大数理の河東先生のセミナー用の推薦書にこれが挙がっていたが, 河東研に進む人はこのくらい読みこなせるのか, さすが数学科は違う, と感心した. ちなみに, Reed-Simon の本で半ページくらいで終わっている証明が, 新井先生の量子現象の数理には 3 ページくらいの長きに渡って証明が書いてあったので, つらいわけだ, と思った記憶がある. 新井先生の本が丁寧すぎる (のでよくない) という見解もあるかもしれない.

動画の話

まず 26 分くらいで「超弦理論の余計な 6 次元は素粒子模型の構造の起源. 6 次元空間は複雑で距離さえ測れない. 数学者でも無理」という発言があった. これで何を言っているのかが気になる.

「数学者でも無理」ということは物理的な測定法という話ではないと思うのだが, そうなると何の話をしているのだろう. 6 次元というのは複素 3 次元の Calabi-Yau 多様体の話をしているのだと思っているのだが, これは Kahler (a にはウムラウトがつく) なので一応は計量がある. 現象を説明するのに適切な計量の存在または選択みたいな問題かと思ったが, その辺は良く分からない. 聞いてみたら存在だけがわかっている事案だった。

全く関係ないが, Calabi-Yau が Kahler だったか確認しようとググろうとしたら「Calabi-Yau 多面体」がサジェストされて深い悲しみに包まれた.

さらに別件だが, Calabi-Yau 多様体はここに関係する数学的業績で正に Yau がフィールズ賞を取ったレベルに凄まじい数学的対象だ. Einstein-Kahler 計量の問題はいまだに複素幾何の大きな問題と聞いている.

場の量子論の数学的理解

あと, 最後の部分で「超弦理論は場の量子論も大事で, この場の量子論の数学的理解も大事」みたいな発言があったが, この辺が私の専門なので, ついでに宣伝しておきたい. 以前 Witten あたりは「超弦理論は 22 世紀の数学のはずが, 何の間違いか 20 世紀に出てきてしまった. 20 世紀は量子力学を数学にする時代だったので 21 世紀は場の量子論を数学にする時代だ. (構成的) 場の量子論の連中はもっと頑張れ」みたいなことを言ったと聞いているが, そういうならもっとこちらに人を連れてきてほしい.

以下講演の適当なメモ

たまねぎの芯:観測のためにエネルギーを高くするとブラックホールができてしまう. ブラックホールが観測したい領域を隠してしまう. これを「これより小さいサイズの世界はない」と見なす.

重力と量子力学を統合する理論が究極の理論:超弦理論.

超弦理論は 1960 年代, バークレイの加速器が多くの素粒子を発見。 1968 年にベネツィアーノが公式を提唱. 1970 年に南部理論が提唱, しかし余計な素粒子があった. この素粒子が重力を伝える.

欠陥:基本法則レベルでパリティ対称性が破れているが, 弦理論でこれを破るのは難しそうだった.

超弦理論の余計な 6 次元は素粒子模型の構造の起源. 6 次元空間は複雑で距離さえ測れない. 「数学者でも無理」.

1992-1993 にトポロジカルな弦理論を開発.

ホーキングの問題. ブラックホールの情報問題. Hawking 輻射:ブラックホールが量子的ゆらぎのために発熱する. 輻射は Planck 分布:元の情報はなくなってしまう. これでは因果律に反してしまう. この主張に穴はないか? 超弦理論はこの挑戦を受けてたった. 本の情報はブラックホールの量子状態の中に書き込んで保存できる.

重力のホログラフィー. 双対性:同じものが 2 つの異なる状態を持つ. ホログラフィー原理:3 次元空間の重力理論は空間の果ての重力なしの理論に等価. ホログラフィー原理でブラックホールの蒸発過程を説明できる.

場の量子論の数学的理解が大事.

Twitterで大栗さんに質問して回答を頂いた

Twitter に大栗さんがいるので, ちょっと聞いてみたら教えて頂いたのでこちらにも転記しておく。

疑問

疑問自体は次の通りだ.

まず 26 分くらいで「超弦理論の余計な 6 次元は素粒子模型の構造の起源. 6 次元空間は複雑で距離さえ測れない. 数学者でも無理」という発言があった. これで何を言っているのかが気になる.

「数学者でも無理」ということは物理的な測定法という話ではないと思うのだが, そうなると何の話をしているのだろう. 6 次元というのは複素 3 次元の Calabi-Yau 多様体の話をしているのだと思っているのだが, これは Kahler (a にはウムラウトがつく) なので一応は計量がある. 現象を説明するのに適切な計量の存在または選択みたいな問題かと思ったが, その辺は良く分からない.

大栗さんからは次のようなお返事を頂いた.

@phasetr コンパクトなカラビ-ヤウ多様対については, 計量テンソルが存在することは証明されているが, その具体的な形がわかっていないということを噛み砕いて述べたものです.

Calabi-Yau 多様体は Wikipedia をご覧頂きたい. どうでもいいといえばどうでもいいが, 「しかし, 他にも同値ではない多くの同様な定義がある」という記述にびっくりした. 同値な定義ならもちろん色々あるのは普通だが, 非同値なのを挙げるというのも凄い. 「コンパクトなケーラー多様体が単連結であれば, 上記の弱い定義と強い定義は一致する」ということなので, それでもいいと思う気持は分からないでもないが.

説明の追記

それはそれとして, いくつか説明を追記しておく. Calabi-Yau の定義は省略するが, まずコンパクトと計量テンソルを説明する.

コンパクト性

コンパクトというのは「有界閉集合」のことだ. 有界というのは「無限には大きくない」または「必ず有限な大きさの球体に含まれる」という意味だ. Calabi-Yau が超弦理論で出てくる文脈では「小さい」と言っていいのかもしれないが, コンパクトだからといって「小さい」と言っていいわけではない. 「無限には大きくない」と言っておけば (今の文脈で) 間違いはない. ちなみにここ「有界閉集合」といったのは Riemann 幾何の基本定理, Hopf-Rinow の定理を前提にしている. 本当は多様体の連結性を仮定しなければいけないはずだが, 細かくなりすぎるのでやめておこう.

計量テンソル

計量テンソルというのは多様体の曲がり具合を表す. 講演でも話があったし, 一般相対論なりなんなりで「時空が曲がっている」という話があるが, この曲がり具合を指定するのが計量テンソルになる.

ここで大栗さんから「存在は証明されている」というコメントがついているが, その存在証明をしたのが Calabi-Yau の名前にある Yau だ. この業績で Fields 賞を受賞している. その元の問題である Calabi 予想については [[http://en.wikipedia.org/wiki/Calabi_conjecture ][ここ]] を参考にしてほしい. 大栗さんのコメントは, 懸案だった大事な計量の存在自体は示されたが (一般に) 具体的にどんな形かが分かっていないということだろう. 具体的な Calabi-Yau 多様体に対しては分かっているものはあるはずだが, 物理で出てくる全ての Calabi-Yau に対して分かっているというわけではないのだろう.

追記

$n$ 次方程式で例えるとこうなる:「代数学の基本定理から $n$ 次方程式に $n$ 個の解があることは分かっているが, 具体的に解の値が何かというのはこの定理だけでは分からない」. こういう感じで適切な曲がり具合が何かあることは分かっているが, 具体的な曲がり具合が分かっていない.

ちなみに Yau の証明そのままかは知らないのだが, 予想の証明自体は下記の本に書いてあると思う. 詳しくないので間違っているかもしれないが, それはご容赦願いたい.

また, この辺の問題は Einstein-Kahler (Kahler の a にはウムラウトがつく) 計量の問題として今でもまだ色々な議論があるようだ. 中島啓さんの次の本にある程度まとまっている (と思う).

そういえば, 中島啓さんも Twitter にいる. 最近は上記の本で議論されているような問題からは離れて代数的な表現論関連の話を研究されているようだが, 詳しくは知らない. 興味がある向きは詳しい人は Twitter 上にも色々いるので, そういった方々を掴まえて聞いて頂きたい.