2024¶
2024-12-24 Naoto Shiraishi and Hal Tasaki "The S=1/2 XY and XYZ models on the two or higher dimensional hypercubic lattice do not possess nontrivial local conserved quantities"¶
Naoto Shiraishi and Hal Tasaki "The S=1/2 XY and XYZ models on the two or higher dimensional hypercubic lattice do not possess nontrivial local conserved quantities" 白石さん、いや白石先生との新しい論文です!🎉
2次元以上での S=1/2 XY および XYZ スピン模型には非自明な局所保存量がないことを証明しました。これら標準的なモデルが「厳密に解けない」ことを強く示唆する結果です。 証明は白井さんによる1次元の場合の革新的な仕事の拡張ですが、もちろん高次元を扱うためのアイディアも必須でした。結果論ですが、高次元での証明の方が易しかったです! 実は、千葉侑哉さんもほぼ同時期に量子 Ising 模型について同様の結果を証明したと知りました。驚くべき偶然です! そこで arXiv に同じ日に投稿しようと相談したのですが、なんと千葉さんは arXiv のバグのため昨日は投稿できなったのでした。残念。でも明日には出るそうです。そちらも乞うご期待! もちろん、YouTuber としての矜持をもって、いつも通り解説ビデオを作りました。
- The S=1/2 XYZ and XY models in d-dimensions do not possess nontrivial local conserved quantities (J)
📺 背景と主要結果を解説した 25.5 分の動画です。スライドは英語ですが日本語で話してますので、是非どうぞ。高評価、チャンネル登録よろしく!
ある程度は証明を知りたいと思ったみなさんは(英語版だけですが)2 次元 XX 模型の場合の証明を解説した 44 分の動画をどうぞ! 今日、arXiv に論文が公開された後、Twitter での宣伝の前の短時間で「いいね」が二つも付いた(←証明の動画にしては多い!)名動画ですよ!
2024-12-24 Witten, Introduction to Black Hole Thermodynamics¶
2024-12-23¶
ネットでは「量子力学の本質は状態ベクトルより密度行列のほうがよりよく捉えている」という主張の人をよく見受ける気がしますが、電子線の二重スリットでの干渉縞は上手く説明できるのでしょうか? (いや、どっちの定式化も等価なのでどっちでも記述できるのですが、なんか片側を声高に主張する人を見かけて、そう原理主義的にならず中庸を目指してはいかがかと思ったので、こういうツイートをしてみました。若い人には、良い練習問題になるかもしれません。)
というツイートをしたら大専門家の某さんから「量子情報とか量子光学では二重スリット問題も通常密度行列で扱う、古い論文だが典型的なものとしてhttps://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.77.2154がある、この解析を状態ベクトルでやるのは不便」とコメントいただきました。僕が勉強不足なだけでした、失礼しました。
2024-12-21 量子物理学のために開発されたファインマンの経路積分を用いた拡散モデルの新しい定式化¶
Understanding Diffusion Models by Feynman's Path Integral https://arxiv.org/abs/2403.11262 「量子物理学のために開発されたファインマンの経路積分を用いた拡散モデルの新しい定式化を紹介する。」
24年3月は拡散モデルと経路積分の関係の話がおもしろかったかな。 あと、RuO2の旗色が徐々に悪化
学習物理学でも一節割かれている.
2024-12-05 BCS理論で粒子数固定の量子状態を使って議論するとどうなるか?¶
もしBCS理論で粒子数固定の量子状態を使って議論するならどうなるんだ? 異常対平均はは粒子数不定に起因するからゼロとなる そうしたら平均場近似のハミルトニアンも相互作用項が消失しないのか?... 超伝導ギャップの出現は異常対平均が有限である事に起因する 寧ろ後者の方が正確に系を記述している
(動的な電磁場を考えない範囲で)超伝導の本質は(クーパー対についての)非対格長距離秩序です。そして非対格長距離秩序は粒子数が一定の系でも生じ得ます。 平均場近似をすると長距離秩序をすっとばして対応する対称性を自発的に破った状態(異なった粒子数状態の重ね合わせ)が出てしまいます。 BCS的な(異なった粒子数状態の重ね合わせ)状態に粒子数が一定のセクターへの射影演算子を作用させて作ったものが物理的な状態です。で、この状態で諸々の(粒子数を変えない普通の)物理量を計算しても、もちろんもとの BCS 的な状態と同じ結果が得られるわけです。 BECでも話は同じで、そっちの方がわかりやすいです。 このあたりは拙著でかなり詳しく議論していますが、まあ、マニアックな数理物理の教科書です…
2024-12-03 塩素とナトリウムの化合物として2013年にNaCl₃が合成されている¶
塩素とナトリウムの化合物と言ったら塩化ナトリウム (NaCl) 一択でしょ!!! なんて思ってたら2013年に NaCl₃ が合成されてて仰天
※画像は高圧下で立方晶構造をとる NaCl₃ の単位格子。紫がNa, 緑がCl。格子中に Na: 1/8 × 8 + 1 = 2 個 Cl: 1/2 × 12 = 6 個 が含まれ、Na:Cl=1:3 になっている
2024-12-02 場の量子論によって何が可能になったと言えるか¶
しかし場の量子論によって何が可能になったと言えるのかはよくわかっていない 古典場では記述できないけど量子化したら記述できる現象が何かあるのか? 場の量子論の具体的な計算をほとんど知らないために比較ができずにいる
気分的に言えば、ラプラシアンに外場としての古典電場を入れるとゼーマン効果、古典磁場を入れるとシュタルク効果が現れるが、水素原子模型に量子電磁場をいれると水素・量子電磁場間のエネルギー間のやり取りができ、固有状態としての水素原子の励起状態が準安定状態化して光として放出され、レーザーに関わる現象が記述できるようになる。古典電磁場と水素原子がエネルギーがやり取りできると思うのはさすがに難しいのではないか。
光と原子がエネルギーのやり取りをする現象を、古典電磁場(半古典近似)で記述するのは一応可能ですね。ラビ振動とか光電効果↓とか。もちろん、場の量子化して「光子」の描像で理解する方が自然なんですが。
- URL 霜田先生は「レーザー研究」で、光電効果の説明に本当に「光子」(電磁場の量子化)が必要かなど考える連載も書いてて、それっぽい説明でそのまま納得してはいけないんだなと考えさせられます。 霜田 光一, 光の粒子性と波動性III : 光電効果とコンプトン効果の波動論
例に挙げられていたラムシフトや自然放出は真空場由来なので、場の量子化必須の例ですね。
ありがとうございます。きちんとした水準の理解に乏しいのが露呈していてお恥ずかしい限りです。
2024-11-29 電磁気学と流体力学の学習容易性(?)¶
やっぱり電磁気学と流体力学って似てる概念がかなり多いし、だったらイメージが湧き易い流体力学から先に僕は学びたかったな、って改めて思った
詳しく聞いたわけでも議論したわけでもないですが、線型の方程式系である電磁気に比べ、流体はゴリゴリの非線型方程式が基礎方程式である上、高階のテンソルもバンバン出てきて数学または計算上の負荷が重く、物理の初学者向きではないという判断もあるのでしょう。お話だけならともかく。
あー、確かに、数学面をちゃんとやろうと思ったら、流体力学のほうが大変そうというのはあるかもしれません。 具体的に扱われる現象は流体力学のほうが分かりやすい気もするので、定性的な話だけを上手く切り取れば、早い段階でも学べなくはないのでしょうが
2024-11-26 「チ。」と「天動説の周転円」の事実¶
「チ。」はあまり読んでないので批判はできないんですけど。
「天動説の周転円が複雑になりすぎた」というのは、事実に反します。プトレマイオスのときから、増えてません。また、プトレマイオスの理論は、ほとんどの惑星は円を二つしかつかいません。(月と水星だけが例外) 円の数がふえるのはむしろコペルニクス以降で、ロンゴモンタヌスの火星の理論などは、精度はよいけれども、非常に複雑です。 11月26日 中世における議論は、月や太陽に関係するものが多いです。①太陽の運動の長期的な変動の有無や、その速さの推定。②月までの距離の問題。金環食が生じるかなどもふくめて。 長期的な変動を説明するには、もちろん新たな球を付け足さないといけないです。しかし、それはケプラーの楕円で解消されるようなものでもないです。 「理論が複雑になりすぎたので、リセット」というストーリーが分かりやすいのは理解するのだけど、なかなか実際の歴史はストーリーどうりには…
ケプラーの一連の理論に関しては、精度をなるべく簡潔な理論でだしたいというストーリーと、ある程度マッチすると思う。もちろん、天文学と自然学の関係性の変革という側面は重要。しかし、観測で旧い理論に負けてたら、最初から話にならなかった。
2024-11-15 物理教育と微分方程式¶
冷静に考えたら、物理学の基礎方程式のうちニュートンの運動方程式だけが異常にシンプルすぎるのが諸悪の根源な気がしてきた。だから日本の高校では、数多ある物理学の基礎方程式のうち運動方程式しか明示的に教えず、他の基礎方程式についてはカリキュラムに含めなくなってしまった。 ニュートンの運動方程式は常微分方程式だけど、他の基礎方程式はシュレーディンガー方程式にしてもマクスウェル方程式にしてもどうしても偏微分方程式になってしまうという違いが大きいのかな。 偏微分方程式を高校で扱うのは酷だと判断されたのか? とはいえ、高校においては常微分方程式も偏微分方程式も陽に教えてないんだし、常微分方程式を教えないまま運動方程式を教えることが出来てるならば、偏微分方程式を教えないままマクスウェル方程式やシュレーディンガー方程式を教えることも出来なくはないのでは?
是非というよりも単純に多変数の処理の難しさが強く効いている印象があります。振動・波動は一次元であっても時空で二変数あって高校でも正弦波の枠で二変数を扱っています。それでも定常波に制限して議論したり、本質的に時空を動かす場合でも振動数・波長の変化だけを議論させたり、「適切な干渉縞の図を選べ」のようなスナップショットの形で時間を止めて空間変数だけ考えたりします。もちろん今ならプログラムでアニメーションを描いて見せたり、と言った対処もあるためもう少しやれることはあると思いますが、多変数の処理という本質的な難しさとの戦いがあります。
数値計算でも一変数だとscipyなどある程度までサクッと対応できるライブラリがある一方、偏微分方程式だとライブラリやツールにしても使うハードルが一気に上がって教員だけではなく生徒側にもかなりの困難があるように思います。今話題の学習物理みたいなのでいい感じに処理できると良いのですが。
やっぱり偏微分方程式で多変数関数が絡んでくると、扱いが一気に難しくなるんですなあ。 運動方程式も本来は多変数関数になり得るとは言え、高校範囲だと1次元でしか考えないことが多いのでその点で助かってる面はありますね
運動方程式でも示唆的で、大学だとベクトル値の一変数関数として解いて必要に応じて成分表示、みたいな処理はある一方、高校だと水平投射でx成分とy成分に分けて別々に議論するのが普通で、ベクトルの扱いに慣れていない状態での一変数関数の処理もそれほど簡単ではないように思います。 圧倒的に幅広い層を持つ高校生の物理に対するアプローチとして、数学色をどこまで強めていいかは相当に繊細なバランスが必要なはずで、それこそゴリゴリに教育学が頑張らないといけない部分です。 大学には進学しない層へのアプローチはもちろん、様々な工学や医学・看護のような分野への応用、情報科学・工学の知見の教育への転用まで含めて分野大横断では済まないレベルの広い知見が必要で、個人で全て知っている必要はないにせよ、物理に限らず現代の教育学のハードルは極めて高いと思っています
2024-10-08 ノーベル物理学賞での機械学習の解説¶
解説を読むと「統計物理や生物学が機械学習に与えた歴史的背景」と「機械学習が現代物理にどう生かされてるか」の両方がちゃんと書かれている。学習物理領域でもB班が前者、A班が後者に概ね対応してる。どっちも重要な課題。
2024-08-27 田中貴浩『相対論』¶
田中さんの「相対論」の第二刷が出るそうで、経緯により改めて献本いただきました。おめでとうございます。正直、文面や式を追うというレベルを超えてちゃんと読むには第6章あたりまでは全部知ってるくらいが必要な気もするのですが、僕が読んでも学ぶことの多い本なので、気合の入った方は是非どうぞ