いろぶつ熱力学本査読に関する感想からはじまる物理の話
引き続きのいろぶつ熱力学査読で、物理で要求される空気を読む力の具体例と思しき概念を見つけた。「物理的に考えると」という言葉がまさにそう。これ、そもそもが多義語で便利で適当に使われている。多分「数学的」という言葉も多分相当に曖昧に・多義的に使われている。
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
具体的な状況設定として、ポテンシャルとつり合いの話がある。ポテンシャル中のつり合いを考えるとき、安定性の議論があって2階微分の正負を見て、2階微分が正の場合が「物理的に実現」するという記述があった。
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
この「物理的」は「実験的に実現する」くらいの意味で、もっと言えば「実験的に実現させやすい」(不安定なつり合いでもものすごい精密なことをやればもちろん一時的には実現させられる)という意味だろう。これが割と面倒。すぐに実験できて想像もできる簡単な力学の例題なら問題はないが、
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
どんどん難しく面倒になる物理の議論の中で、一貫して「物理的」という言葉が使われ続ける。何というか、物理という学問の枠組みで考えていることを表すのに使うところから、学問抜きに単なる現実というか実験的に実現するのが難しいというくらいの意味まであって、数学系市民を困惑させる言葉感がある
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
「熱力学が数学的」とかいうのもよくわからない。その「数学的」を定義しろという気分。きれいに書けるところだけ抜き出したから数学的にきれいに見える部分が多いだけでしょう?という感じがある。理想気体含め、具体例が魔界すぎる。熱機関の効率もエンジンに応用されたり、かなり厳しい。
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
具体例というより具体例に関わる議論といった方がいいか。
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
https://t.co/s38pnurzie後でまとめるためにつなげておこう。
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
熱機関の話、平衡系間の理想的熱機関の話とエンジンに関するゴリゴリの現実の非平衡系の話が議論されるので、たぶん相当訓練していないと何の話がどう展開されているのか全くわからない。続
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
いろぶつFAQを見ていても、「操作の途中ではいくら非平衡になってもいいが、考える状態は平衡系だけ」という議論を終始一貫させることが初学者に難しく、それが原因で混乱していると思しき内容がたくさんある。その一方で準静的操作があり、じわじわと認識を侵食している雰囲気がある。
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
統計力学でようやく熱力学(またはエントロピー)が分かったとかいう話、多分この辺が原因と思う。少なくとも入門レベルの学部の統計力学は熱力学に出てくるような状態間遷移が出てこない(私は見たことがない)。続
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
状態間遷移が面倒だという話をしているのに、それを抜きにした統計力学の議論でわかった気になってしまえるその認識自体がもうよくわからない。同じ平衡系であっても熱力学と統計力学、趣が全然違うという感じしかないのだが、物理から見るとそんなに近く見えるのか、みたいなことはよく思う。
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
https://t.co/s38pnurzieついでなので書くと、「数学的に」を「数学的に厳密に」という場合もだいぶ数学サイドと乖離がある。引用元のツイートがまさにそうで、偏微分方程式の解の議論をするとき、関数解析的な議論ではまず関数空間を設定する。
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
量子力学に限らず、物理だとエネルギーの有限性などの制約があるから、それでソボレフ空間のような舞台設定が必要になり、そこからの議論こそ面倒なのであって、単に「解」であることを確認したいだけならそれほど面倒なことはない。
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
あと偏微分方程式の議論が面倒になる理由の1つとして、物理としても要求したい解の一意性がある。代数方程式で簡単にわかるように、複素数まで解を考える範囲を広げるとたくさん解が出て、整数解なら一意、みたいな話がある。一意性は解を考える範囲を明確にする必要があり、空間設定が直結する。
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
偏微分方程式論の研究者、巷に蔓延る偏微分方程式の解法見たら発狂しそう
— ひさ (@hisagrmf) July 28, 2019
1番簡単な自由粒子のシュレーディンガー方程式の解について、数学的にきちんと解であることを示す手順。あらわに見えるだけでもユニタリ作用素、Lp空間、ルベーグ収束定理、ソボレフ空間あたりの知識が必要 pic.twitter.com/T485bKlzZY
— ひさ (@hisagrmf) July 28, 2019
https://t.co/jJN6nstbTKこれ、「シュレディンガーの解はヒルベルト空間の元であれ」という量子力学の基本設定で解くためにそれなりの道具立てが必要なだけで、単に滑らかなだけでよければもっと証明簡単だし、https://t.co/Amz1rwp5fjでいう「数学的」という言葉の使い方が多義的事案の趣がある。
— 相転移P (@phasetrbot) February 23, 2020
物理的に考えると、は確かによく使われる。意味としては「これまで我々が学んだ物理学の知識を使えば当然わかることとして」みたいな感じで、本当は何とかの法則でとか言うべきところを「他の話で知ってるよね?こうなるの」と言ってる。本当は力学の基本的知識を仮定するとか言うべきかも https://t.co/nIERZZ3Bxw
— Yuki Nagai (@cometscome_phys) February 23, 2020
物理的に考えると、は頭の中で思考実験したら、という意味もあるかも
— Yuki Nagai (@cometscome_phys) February 23, 2020
物理な人が数学的と言う場合はいくつか種類があるとは思うけど、よくあるのは、大胆な仮定を「途中に」挟まずに最初の仮定から最後までいける、みたいな意味だと思う https://t.co/9oJeIXfC5m
— Yuki Nagai (@cometscome_phys) February 23, 2020
物理の人が数学的すぎる、という時は、「俺にはこの式変形の流れは追えない」というケースもある
— Yuki Nagai (@cometscome_phys) February 23, 2020
もう一つ物理の人が数学的と言う場合の一つは、物理的直観が効かないまま式変形の過程で到達した何か、みたいなものもあると思う
— Yuki Nagai (@cometscome_phys) February 23, 2020
今またいろぶつ熱力学の査読をしているのだが、熱力学は時間を殺した平衡状態概念を基礎に据えている一方、物理的な対応のために長時間挙動で平衡状態が得られると書いたり、準静的な操作・変化で十分ゆっくりとか書くせいで状態変化に対する誤解を育みまくっていて学習者を破滅させている感がある。続
— 相転移P (@phasetrbot) March 1, 2020
いろぶつ熱力学の本のFAQを見ていても、
— 相転移P (@phasetrbot) March 1, 2020
・熱力学で考える状態は平衡状態だけ
・その変化に関してはいくら非平衡な状態を経過してもいい
・ただし平衡状態を保ったままの変化・操作も考え、それを準静的な操作と呼ぶ
という話を、学習者は即刻忘れて混乱して破滅している印象がある。続
普通の物理の人間には受け入れ難いのだとは思うが、自然のモデル化という視点をゴリゴリに進めた、もっと過激に公理的なスタイルで書かれた熱力学の本がどのくらい受容されるのか、かなり気になってきた。続
— 相転移P (@phasetrbot) March 1, 2020
Lieb-Yngvasonはハメル基底が出てくるとか別方向にも過激なので、その辺はおさえた感じのコンテンツが必要な気がする。少なくとも数学系の人が熱力学の物理はともかく理論の構造はわかるような感じのやつ。熱力学の本、来年の目標にしよう。
— 相転移P (@phasetrbot) March 1, 2020
とりあえず GitHub にリポジトリを作った.
地道に書いていこう.
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