量子力学教育の現代化に関する適当な考察¶
Twitter で物理系の大学教員が量子力学教育の現代化というお題でいろいろ言っていた. 旧来の水素原子に関する偏微分方程式の解析などよりも, 量子情報や量子測定理論など現代的な量子論の理解にもとづいて教育を組み直すべきではないか, 無限次元の面倒な議論よりも有限次元のヒルベルト空間論で本質は十二分に説明できるはず, そうした話が展開されていた. それについて適当にツイートしたので, せっかくなので適当にまとめておく.
放言¶
- 量子力学、関数解析の隠語という方向で考えたい。
- 物理はよくわからないので、量子系の数理・幾何の基礎数理という感じで市民感覚の線型代数コンテンツを作りたい。
-  量子力学の教科書から水素原子取り除いたら解ける具体例どうすんの、、、?井戸型ポテンシャルだけやるの、、、? - 調和振動子はあるのでは。
 
- いま有限体に対する応用線型代数として符号理論を再勉強しつつコンテンツのために整理している。- 物理への応用線型代数という趣で作った現代数学観光ツアーだけでも既に300ページを超えるボリュームがある。
 
- 水素原子に関わる数学が好きだから水素原子の議論を決死擁護するというスタンスを取るまである。
- 200ページくらいで量子情報がさらりと眺められるPDFとかほしい。
私の趣味という意味での数理物理的観点¶
- 水素原子、励起状態の固有値、量子電磁場の「摂動」を入れると励起状態は全て準安定状態的なアレになっていろいろ処理が必要で、基底状態は固有値であってほしいと思いつつ赤外発散処理が必要でそれがまた修羅という世界観で生きている方の市民。
もう少し真面目な教育的話題¶
- 水素原子の問題のいいところ、そこまでに習ってきた数学をきちんと使うところというか、そういう風にカリキュラムを組んでいるところだろうから、物理学科のカリキュラム自体根底から組み直す必要があるだろう。何で量子力学の話だけしているのかがよくわからない。
- 物理学科、何となく教科書という何といい、教育改革が死ぬほど遅れている印象があり、死ぬほど保守的なのだろうという気分とこれが物理帝国主義かという気分がある。-  そうですかね、、、? 
- とりあえず比較対象は数学で、観測範囲では学部レベルが少なくとも数学よりはかなり固定的な印象があります。
-  まぁ昭和の教科書普通に最近のと同じように読めちゃうのでそうなんでしょうねぇ、、 
 
-  
- 物理の人間がどう思うかは知らないが、数学科の人間が読みやすい物理のコンテンツを作りたいという気分はあるものの、現代的に適切な物理の内容をよく知らないという致命的な問題がある。
- 現代的な量子力学、とりあえず偏微分方程式を解けば何か出せるというタイプの話ではなく、かなりの抽象論になるような気がするし、理論系ではない学生を全員処刑してしまうタイプの講義になりそうな気もする。実験系の人はどういう気分なのだろう。- 偏微分方程式解く系の数学、数学の使い方が難しい事案で、現代的な量子力学は教養数学の一番難しいところだけを丁寧に集めたタイプの地獄になるような印象がある。多分流体やら何やらで添え字だけ見ればいいタイプでは済まない、数学のテンソル積が必要になって血の雨が降りそう。
 
- 添え字の計算ではない、テンソル積空間などのテンソルを理解できる非数学科の人、どのくらいいるのだろうか。そもそも線型空間やら、行列と線型写像の区別がきちんとつくやら、なかなかハードな気分がある。-  (量子情報理論、(数ベクトル空間の話に落とし込んでお茶を濁す手もあるとはいえ、)まともに説明しようとするとすぐにテンソル積が出てくるので地味に大変なんですよね) 
- 数ベクトルに落とすと、今度はテンソル積が逆に具体計算として特に高階のテンソルがすさまじく面倒なことになり別の強い負荷がかかるという認識で、何をどうやろうとも難しいことは難しいという事案だと思っています。
-  そうなんですよね… >特に高階のテンソルがすさまじく面倒 学部の講義でちょっとだけ量子情報理論の話をしたときには、2量子ビット系までしか扱わなかったのでまだ何とかなった(と信じている)のですが 
 
-  
- 平均的な物理学科の平均的な学生、どれだけ現代物理に耐えられるのか問題が浮上してきている気がする。
- 学部の時、量子力学は微分方程式をとりあえず解くだけで全てが終わり、特にいろいろな特殊関数の計算に追われて物理をやるどころではなく、学部4年で数学科進学用の関数解析系の勉強ついでに量子力学の公理みたいなのを改めてやることでようやく少し何をしているか把握したという部分があり、偏微分方程式の計算を必死で頑張るタイプの量子力学、学部3年程度で誰が耐えきれるのかという気分はある。特に特殊関数を駆使した計算、使う人と使わない人が極端に分かれるだろうし教育的にどうなのかはいまだに全く分からない。
- 山の事故で亡くなってしまったが、最後早稲田に行った生物物理の木下さん、関数論で挫折して理論を諦めたと言っていたし、趣がだいぶ違うとはいえある程度優秀なはずの実験屋さんでさえそのくらいとなると現代的な量子力学、線型代数の抽象論で大半の物理の人間にわからない代物になりそうな。
最後に¶
私が作った現代数学探険隊はまさに水素原子の量子力学に必要な解析学を 1 から整備したコンテンツだ. その辺について, infinity_topoi さんのブログの記事に対するコメントとしていくつかまとめた. 興味があればぜひ読んでほしい.
何にせよ線型代数に関わるコンテンツはいろいろ必要で, 今後も解析または微分幾何視点でいろいろ作っていく.
コメントの移行¶
HashiraQさんから¶
量子力学について特に業績もなく本当に教科書が出るのか出ないのかも不明なツイ廃物理教員方面のホラ話、そんなに真に受けなくても、と思わんでもないっす。
だいたい何をもって「現代的」??水素原子も実空間系のスペクトルも取っ払って量子情報系に特化した教科書なんかいくらでもあるでしょ。日本語でももう長らく清水本、北野本とあって特に何のニュースもないいのでわ。
いずれにせよ現状では絵に描いた餅。いろんな教科書が出て選べるのはいいことなので、まずはお手並み拝見、教科書が出た時点で議論すべきことだと思いますね。
それより相転移P著の数学っぽい量子力学の教科書が読みたい。
自分¶
新井先生とLieb方面の相の子のような趣味をしているので、その辺の本の劣化版が私が書く本にあたります。劣化版をあえて書くなら、日本語でカバーされている本が(多分)ないという意味ではLieb方面の水素原子からのStability of matterを市民でも読めるように議論を丁寧に書く部分に全力を振るだろうと思います。
追記¶
新井先生の本に関しては恐ろしく丁寧で言うことはないものの, Lieb の本に関してはそこそこ行間があるため, そこを補うコンテンツはあっていいと思う. 特に stability of matter は前から興味があるので, コンテンツを作る体で勉強するのは本当にある. やりたいことが本当に多い.