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熱力学-まどか☆マギカの理解のために

注意

正確な記録はないものの, 2012-2013年頃に書いた古い記事です. 死蔵も勿体無いため加筆修正なしにそのまま転載します.

熱力学-まどか☆マギカの理解のために 1:はじめに

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これからこのタイトルのもとで書いていく記事は「まどか☆マギカの理解のために」と 題して熱力学を学んでいこうというのを趣旨としている. 企画の趣旨をもう少し詳しく説明したあと, 参考文献などを紹介したい.

まずは企画の趣旨からだ. 既に昨年の話になってしまったがまどか☆マギカ http://www.madoka-magica.com/ というアニメがあった. 非常に人気があったアニメで, 震災の影響で最後の 2 話が放送されないまま 宙ぶらりんになり, このまま放送されないのかと不安に思った方も多いだろう. このアニメではエントロピーや相転移など熱力学の話が良く出てきた. それだけでなく, 物語の中心的な話題でもあった. 一年経ってしまってはいるが, 折角の機会なので皆できちんと勉強しようということだ.

私自身は実際にはあまり見たことはないが, こういうことをすると「粗探し」をするのが趣旨と取る方もいるらしい. その感覚は全く分からないが, こう考えてほしい. まず, 専門的に熱力学を学んだ者であっても, 物語の科学部分が多少おかしかろうがそれはそれとして十分楽しめる. SF などで時々問題になる (する) こともあるようだが, とりあえずそれはそれとする.

ただ我々はここからが違う. 我々はまどかやほむらと共に世界と戦えるのだ. きゅうべえは (形式上) 物理法則を盾に取って少女達を陥れようとしている. これを救うのには我々も物理法則を学ぶべきではなかろうか. インキュベータ殲滅戦を挑むためにも, 彼女らを支え守るためにも. 彼女らは世界と戦おうとしているのだ. その世界がどうなっているかを知り, 支えようとは思わないのか. 邪魔をするなら世界ごと破壞するくらいの不退転の決意と覚悟を持って, 世界と戦っていきたい.

コードギアス http://www.geass.jp/ でルルーシュも愛する者のために 「俺は世界を壊し世界を創る」と高らかに謳い上げつつ死んだではないか. 我々に求められているのはこの気概だ. 私の守備範囲ではないのが非常に心苦しいが, ほむらを理解するには時空物理学の素養も必要ではなかろうか. こちらに関しても関連する数学・物理について勉強を始めている. 最終手段として宇宙物理や天文学など近隣の物理, 微分幾何など 関連する数学の知り合いにも教えを請う予定である.

口上はこのくらいにして, 本題に入っていこう. 文献としては Lieb と Yngvason による THE PHYSICS AND MATHEMATICS OF THE SECOND LAW OF THERMODYNAMICS http://arxiv.org/abs/cond-mat/9708200 を読む予定だ. エントロピーに特化した文献として同じく Lieb と Yngvason による A Fresh Look at Entropy and the Second Law of Thermodynamics http://arxiv.org/abs/math-ph/0003028 をとりあえず勧めておく. 選定理由は arxiv から無料でダウンロードできること, 以前挫折したので改めて読む機会を伺っていたことがある. 公理論的熱力学, 数理物理で非常に有名な論文でもある.

普通の本ではなく論文を選んだ理由は, 世界と戦うためにはその辺にある適当な本では全く足りないからだ. まどか☆マギカとしてはあまり良い例えではないが, 人の身のまま, もしくは魔法少女になりたてのままワルプルギスの夜と戦うようなものだ. 相応の武装が必要になる. 相手を考えれば, 現在人類が持っている最高レベルの知見を総動員しなければならないのは自明だろう.

ちなみに著者ら自身も戦慄を覚える程に有名で優秀だ. Lieb は数理物理の神々のうちの 1 人である. 賞を取っているから偉いというわけではないが, 数理物理最高の賞とされる Poincare prize, 統計力学最高の賞とされる Boltzmann prize を受けている. 統計力学の数理物理の第一人者であり, 研究領域も広い. 主に偏微分方程式・実解析的な手法を使った解析をしているが, 可解格子模型にも Tempaley-Lieb 代数などの業績がある. 当然だが, 相転移に関する業績も世界最高レベルの人間である.

Yngvason も大概だ. 作用素環を使った相対論的場の量子論から偏微分方程式・実解析的手法による BEC の解析などが主だった業績だろうか.

そうはいっても, 参考になる本がほしいという向きもあろう. 念の為いくつか本を挙げておこう. いい加減長くなってきたのでこれは次に回すことにしよう.

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まどか☆マギカのための熱力学 1

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まどか☆マギカをより深く理解し, 彼女らを支え守るためには熱力学の理解が不可欠であると確信している. 皆で共にこれを学んでいこうというのが本企画の趣旨である.

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熱力学-まどか☆マギカの理解のために 2:文献紹介

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まずは田崎さんによる「熱力学-現代的な視点から」 http://www.amazon.co.jp/dp/4563024325 だ. これは学生時代に読んだ本で, 私が専攻を決めた理由の 1 つにもなっている. 著者の田崎さんは Lieb の所にポスドクとして行っていたこともあり, 強磁性に関する相転移の数理物理でも一仕事している. この本は親しみやすい温度を中心に据えていて, そこもポイントが高い. またピストンと気体に関する考察を徹底的に掘り下げていく, 力学に根差すスタイルのおかげで焦点がぶれないのもこの本が読みやすい理由の 1 つだ.

次は清水さんの「熱力学の基礎」 http://www.amazon.co.jp/dp/4130626094 だ. こちらは前哨戦として復習がてら読み返している. まだあまり詳しくは読んでいないが良い本なのは間違いない. この本がやばいのはスペードマークである. 大学院・研究レベルの話もゴリゴリ出てくる. その他, 物理として大事な注が山程ある. おそらく初学者が一人で読むのは困難を極めるだろう. こちらを読むなら誰か詳しい人と読んだ方がいい. ちなみにここ http://as2.c.u-tokyo.ac.jp/~shmz/zakkifiles/07-04-18.html で清水さんは上記 Lieb-Yngvason 論文を批判している. この批判を念頭において上記論文を読んでいきたい.

また, この本は次の意味で田崎さんの本と対照的だ. 様々な系に適用できることを示すため, 色々な例を本文で紹介している. 特に数学だと, 普通は本の後ろで一気呵成にまとめて議論するだろうが, 必要な所で随時出している. 時々「はじめから応用先をイメージしながら勉強したい」と思うことはないだろうか. それを実行した本だ. ある意味欠点なのだが, 色々な系が出てくるので相当集中して読まないと混乱しかねない. しばらくピストンの話題に集中する田崎本とはここが対照的だ. この意味でまず田崎本を読むことを勧めたい. 清水本はエントロピーを主軸に相加的な変数による議論をしているという大事な特徴があるので, きちんと両方読むのが一番いい.

本題の 1 つでもある相転移に関する本としては, 物理では西森先生の「相転移・臨界現象の統計物理学」 http://www.amazon.co.jp/dp/456302435X/ だろうか. これは持ってはいるがほとんど読んでいない. 上記 2 冊と違って統計力学の本である. 学部 4 年くらいでないと読めない気がする. 相転移に, 世界に本気で戦いを挑もうというならそのくらいの気概がいるということだ.

最後に相転移の数学の方から新井-江沢先生による「場の量子論と統計力学」 http://www.amazon.co.jp/dp/453578163X/ を挙げておく. 相転移の数学は他にも本が (洋書で) あるし, そのうち田崎さんと原さんの本も出るはずだが, とりあえずこれにした. 最近ヒッグスで真空の相転移とかいうのが話題になったが, 相対論的場の量子論が必要になるはずだ. (私自身はほとんど何も知らない). そこもついでに学べるであろう本である. 学部 4 年程度には場の量子論・統計力学が分かっていないと面白くないだろうし, 解析学専攻の修士程度の力はないと数学部分で血の海に沈むことは私が経験済だ. ちなみにいまだにきちんと読める自信はない. こちらも覚悟を決めて読んでほしい.

私自身が論文を読みながら記事を書くことになるので次がいつになるかは不明である. 気長に待っていてほしい.

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まどか☆マギカのための熱力学 2

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まどか☆マギカをより深く理解し, 彼女らを支え守るためには熱力学の理解が不可欠であると確信している. 皆で共にこれを学んでいこうというのが本連載の趣旨である. 今回は参考文献をいくつか紹介した.

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熱力学-まどか☆マギカの理解のために 3

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色々考えたが, 結局 THE PHYSICS AND MATHEMATICS OF THE SECOND LAW OF THERMODYNAMICS http://arxiv.org/abs/cond-mat/9708200 を読むことにした. INTRODUCTION から読んでいきたい.

この論文の目的は古典平衡熱力学 (以下単に熱力学) の定式化とエントロピー原理として第二法則を示すことにある. Abstract から引けば, ここでの「エントロピー原理」は非可逆な断熱過程で平衡状態間を遷移するときエントロピーが増える, という言明だろう. 非可逆, 断熱過程ともに本によって定義が違うから, 十分に注意して読まねばならない. この論文での定義がどこにあるのかはまだ分からないので, あとできちんと確認しよう.

またここでの「古典」の意味ももちろん説明されている:統計力学を使わないという意味だ. 良く「エントロピーは (乱雑さとして) 統計力学で出てきてようやく理解できた」というのを見るが, ああいうのはやめようということ. あくまで熱力学の範囲できちんと理解することを目標にしている. このあたりは熱力学にとって本質的だ. これは量子力学の成立とも深く関係する. その昔, 空洞輻射で古典統計力学による計算が全く合わなくて困っていたところを量子統計で解決した. 統計力学, ひいては基礎となる力学に革命的な進展が起きたが, このとき熱力学は何の変更もなく生き残った. むしろ熱力学との整合性を頼りに統計力学, ひいては裏の力学のあるべき姿を探ったという経緯がある. 統計力学に頼らず熱力学単独での定式化ができなければこのような議論は望むべくもない.

またやや別件だが, 平衡状態はなかなか曲者だ. 理想化された状態なので, 厳密にいえばこんな状態は取れない. 力学でいうところの「力が働かない状態」のようなものだが, 説明が意外と難しい. 田崎さんの本や清水さんの本で勉強してほしい. ここではそこまでやらない.

今回はここで終わるが, The basic questions の 2 段落目が色々な意味で笑い泣きできる. 「もし問い詰められれば, 多くの人が『誰かはきちんと分かっているだろうが, 自分自身はあまり良く分かっていない』ということを認めるだろう」ということが書いてある. 心に突き刺さる一言だ. この状況を何とかすることもこの論文の目的の 1 つになっている.

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まどか☆マギカのための熱力学 3

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THE PHYSICS AND MATHEMATICS OF THE SECOND LAW OF THERMODYNAMICS を読むことにした. 「もし問い詰められれば, 多くの人が『誰かはきちんと分かっているだろうが, 自分自身はあまり良く分かっていない』ということを認めるだろう」という人は多い. 熱力学を明快に理解すること自体もこの論文の重要な動機だ.

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熱力学-まどか☆マギカの理解のために 4:エントロピーの簡単な解説

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何ということもなく始めてしまったが, エントロピーや相転移とは何ぞ? という方もいるかもしれない. そんな方がわざわざ論文ベースの解説ブログなど読みに来るか, というセルフ突っ込みもしたのだが, 今の自分の理解の程度を記しておくための記録とでも思って書いておきたい.

まずエントロピーだが, とりあえず「何にも使えず打ち捨てられるエネルギー」くらいに思っておいてほしい. 論文 http://arxiv.org/abs/cond-mat/9708200 ではまた違った特徴づけをされているし, あまりいい説明でもないが, まどか☆マギカとしてはとりあえずイメージしやすいだろうと思って書いている.

田崎さんの本 http://www.amazon.co.jp/dp/4563024325 P93 (6.7) を見てほしい. 正確な定義は本に譲るが, 次のような記述がある. [ Q_{\mathrm{max}}(T; X_1 \to X_2) = T (S (T; X_2) - S (T; X_1)). ] 右辺は最大吸熱量として上掲書の (5.6) で定義されている. 温度がかかってはいるが, 熱 (エネルギー) と結ばれていることに注目して上ではエントロピーを「エネルギー」と呼んだ. (もちろん正確な表現ではないので, その筋の人と話す場合は注意されたい). また「エントロピーは乱雑さを表す」といった中途半端な「統計力学的理解」をしていると, こうした認識は持てないことにも注意してほしい.

左辺の「熱」, これが厄介だ. 日常語としても使うので, そこに変にひきづられてしまうということもあるが, それ以上に平衡熱力学としてとても扱いづらい. 実際田崎さんの本でもあまり正面切って議論していない. 詳しくは 5 章を読んでほしい. 大雑把には「知らぬ間に消費されてしまって有効利用できないエネルギー」を熱と呼ぶ. 一番最初に書いた「何にも使えず打ち捨てられるエネルギー」というのもここから取った.

こちらも大事なので田崎本でのエントロピーの定義式を出しておこう: \begin{align} S (T; X) = \frac{U (T; X) - F[T; X]}{T}. \end{align} $U$ は内部エネルギー, $F$ は Helmholtz の自由エネルギーだ. 内部エネルギーは系が持っている全エネルギーで, 自由エネルギーは実際に使えるエネルギーだ. 良く見る形, 熱力学の第一法則に直すと次のようになる. \begin{align} U = W + Q. \end{align} ここで $F$ の代わりに $W$ と書いた. もちろん $Q = TS$ だ.

キュゥべえの「君の祈りはエントロピーを凌駕した」という台詞は多分この辺りから来ている. 全エネルギー $U$ を少女が持つエネルギーとみなそう. $W$ はその中で使えるエネルギー, つまり少女の潜在能力を考慮した上での祈り・願いで得られるエネルギー, 世界を変える力だ. そして $Q$ ($=TS$) は努力虚しく, 儚く消えていくエネルギーにあたる.

努力したところで報われるとは限らず, そのエネルギーは儚く消えていく. 上式の配分からすれば多少なりとも祈りに回されるエネルギーもあるが, インキュベータの取り分もあるだろうし, それが少なすぎてはどうしようもない. 「エントロピーを凌駕した」とはこの $W$ (自由エネルギーである $F$) が十分に大きいことを指すのだろう.

「そのくらいすぐ分かる」「他の所でも散々議論されている」と言われると困るが, ひとまず自分なりにまとめてはみた.

長くなってきたので相転移は次に回そう.

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まどか☆マギカのための熱力学 4

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まどか☆マギカのために論文を読み進めるとは言っても, さすがにエントロピーや相転移についての解説が全くないままなのはどうかと思ったので, 今回はエントロピーの解説をした. 大雑把には「努力虚しく儚く散り行くエネルギー」とでも思ってほしい.

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熱力学-まどか☆マギカの理解のために 5:相転移の簡単な解説

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相転移だが, まずは相の説明が必要だ. きちんとした解説は掃いて捨てるほどあるから, まどか☆マギカ的な例えでいこう.

相というのは, 「落ち着いた状態」にあるときの精神状態だ. いわゆる希望から絶望への相転移で考えよう. さやかが魔法少女化したとき, まだ希望側にいたわけだ. 杏子との戦い・やり取りでソウルジェムが濁ってはいき, 少しずつ精神も削れていくがまだ何とか保っている. これが「希望相」にいるということだ. 要は「嫌なこと」があっても耐えられる状態だ. だが仁美と恭介の一件で大きく精神が摩耗し, 果ては耐えきれずに魔女化した. このときさやかは絶望相にいたことになる.

ここで「落ち着いた状態にあるとき」というのが大事だ. 希望に満ちた状態であっても嫌なことがあると精神にダメージを追う. ただ, しばらくすれば精神も持ち直すだろう. 友達も助けてくれる.

一方, 絶望の只中にいるときはどうか. それが深くなければ多少持ち直すことはできる. 絶望が深まっていくと持ち直しがきかなくなってきて, ある所で心が折れる. これが相転移である. 世界は悲しみに満ちている.

面倒なことをいえば色々ありはするが, 希望相の比喩からすると「絶望相」にいたとしても, いきなり魔女化することはない. 「落ち着いた状態での精神状態」で決めるので, まどかなどが必死に説得していれば「心が落ち着いていない状態」にしていられる可能性はあるからだ. いわば心が折れた所からそのまま修復できずに絶望に落ちきってしまった状態が「絶望相」だ.

あくまでまどか☆マギカでの例えなので, 物理としては色々不備なところもある. 例えば通常の相転移ならこの逆, つまり絶望から希望への相転移もあるはずだが少なくともまどか☆マギカではこうしたことが起きない. これを起こせるのはまどかの祈りだけだ.

折角なのでこの準備の上で普通の相転移も説明してみよう. 水の相転移を考える. -20 度くらいの氷の状態から始めて少しずつ温度を上げていくとする. この温度を上げていくプロセスが「嫌なこと」に対応する.

少しずつ温度を上げていく. 温度の上げ方にもよるが温度を変えた直後は表面が少し溶けているかもしれない. だがしばらく放っておけば溶けている部分はまた凍る. 引き続き温度を上げよう. 0 度になるまでは耐えられる. 悲しいことだが, 0 度を越えてしまうとどれだけ頑張っても氷のままではいられなくなる. 何も考えずに部屋に置いておいたら水になり, さらには水蒸気になってしまう.

先程も言ったように, 水なら逆に温度を下げていけば氷に戻る. あと「 0 度を越えてしまうとどれだけ頑張っても氷のままではいられなくなる」と書いたが, 頑張れば 0 度でも氷のままにしておくことはできる. 例えば恐ろしく高い圧力をかければいい. この辺の話は大変なので各人きちんと学んでほしい.

さらに言えば, 実は水は非常に特殊な物質で扱いはかなり面倒だ. 例えば氷自体も圧力などに応じて色々な相に移り変わる. 水の特殊性は「水 特殊性」などでぐぐって調べてほしい. こんなサイト http://subsite.icu.ac.jp/people/yoshino/NSIII01n32.html がある.

引用しておいて何だが, このサイトの記述には気をつけてほしい. 「異常なまでの溶解能を示し, 溶かせない物はありません. あらゆる物を溶かします」. という記述があったが, 明白に嘘だ. 例えば鉄は溶けないし, 他にも溶けない物質はたくさんある. 有名所では油だ. 水と油というアレだ. 水に溶けない有機物は多い. 溶ける有機物は水酸基など適当なものがついた物質だ. このあたりは高校の化学で学ぶことなのでそちらに任せる.

次回からは論文に戻ろう.

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相転移の簡単な解説だが, やはり平衡状態をきちんと説明しておかないといけないことに気付いた. ただ天下りになりそうなので, まずは相と相転移から始めた方が良さそうということにも気付いたため, とりあえず相の話をしたい.

というわけでまずは平衡状態からきちんと議論しておこう.

田崎さんの本「熱力学-現代的な視点から」 http://www.amazon.co.jp/dp/4563024325 P29 から説明を取ってこよう.

大気や海水といった環境の中に, 環境に比べて十分に小さな熱力学的な系をおいたまま十分長い時間が経過すれば, その系はマクロな観点からは時間変化が認識できない平衡状態 (equilibrium state) に達する. しかも平衡状態の性質は, ごく少数の要素だけで決まる.

「マクロな観点からは時間変化が認識できない」状態が平衡状態だと定義されているが, これがつらい. なかなか実感しづらい. 特に, 中途半端に具体例を取ってくると混乱する. どうしたらいいのかずっと困っている. まず簡単なところからはじめる.

「平衡状態の性質は, ごく少数の要素だけで決まる」とあるが, これは温度, 体積, 物質量など 3-4 個のパラメータで決まってしまうということだ. 統計力学的にはアボガドロ数個程度の粒子系であるはずのマクロな系の挙動が 3-4 個のパラメータだけで決まるというのも壮絶な話だが, それはそれとして面倒な部分がある. それと関わることとして, とりあえず前半部を説明しよう.

「十分長い時間が経過」とある. これがどのくらいか, という問題もあるがそれ以前に考えるべき問題がある. 環境の定義だ. 本でも P30 あたりにもう少し突っ込んだ話があるがそこでもあまり触れられていないので別途議論しておきたい. あまりにも長い時間を考えてしまうと, 大気や海水 (環境) 自体の状態が変わってしまう. 例えば砂漠での「大気」を考える. 10 数時間経つと昼が夜に, 夜が昼になる. そうするとひどい場合数十度の温度差ができる. 「環境」の設定自体によるが, このように「長時間」たってしまうと環境自体が時間変化してしまう. つまり環境はその「十分長い時間」の間ずっと同じ (平衡) 状態になければいけないという暗黙の前提がある. 大気や海水よりも例えば, 温度は何度でもいいが, ヒーターで 40 度くらいに保った恒温槽を想定した方がいいと思っている. これなら一応「いくらでも長い時間」同じ状態にしておける.

これで「環境」の問題をクリアしたことにする. この上で十分長い時間放置しておく. ガラスだと天文学的オーダーである. 興味のある向きはガラス転移などで調べてみてほしい. このように物質や状態の作り方によるので面倒なことは色々あるが, 良く説明ででてくる水に関する話だと実感として分かるだろうが 1 時間も見ておけば十分だ.

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まどか☆マギカのための熱力学 5

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今回はまどか☆マギカに沿った形で相転移を簡単に説明した. それに合わせて普通の相転移も説明した.

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熱力学-まどか☆マギカの理解のために 6:II 章の概要

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改めて書いておくと, 読んでいる論文は THE PHYSICS AND MATHEMATICS OF THE SECOND LAW OF THERMODYNAMICS http://arxiv.org/abs/cond-mat/9708200 だ.

I 章 は各人読んで頂くことにして II 章に入ろう. 今回は導入ということで章の概要部を見る. 第一文で熱力学は系と状態, そして状態間の順序関係からなるとスパッと言い切っている. 凄まじい.

多成分系もあるので「系」にも注意がいるし, 状態間の遷移を考えると必ずしも純粋に平衡状態だけを扱っているともいえないためこれら 2 語も適当に読んでいてはいけないが, それよりも順序関係というのが目新しい. 実際に次に説明が来る.

順序関係は「断熱到達性」 (adiabatic accessibility. 定訳があるかどうか知らないのでこう訳してみた) による順序だと言っている. 物理的には環境に与える正味の影響が力学的なエネルギーの交換だけの過程と定義する.

また加法的な関数の存在がキーになる. もちろんエントロピーだ. 加法性は多成分系を考えるときに威力を発揮するが, とりあえず先の話である. この加法性以外にエントロピーにはもう 1 つ重要な点がある. それはエントロピーは断熱到達性を完全に決定することだ. エントロピーが低い状態から高い状態へは必ず断熱的に到達できる. ただ, これは化学反応や混合が入ると面倒な部分があるようだ. 詳しくは VI 章とのこと.

この章では温度はおろか熱い, 冷たいという概念も出てこない. エントロピーは順序関係にだけ依存するのだ. 第 4 回でエントロピーの簡単な説明をしたことを思い出してほしい. 熱や温度が出てきた. 実際にはこれらには全く依存せずに導出できるということだ. つまりこれらにも依存しない解釈も存在するはずで, それが断熱到達性になる.

またこれらを公理から導出する. つまり依って立つ基盤を明確にしてことにあたる. このとき, 比較原理というのが大事になる.

序文だけなのでまだまどか☆マギカ的な魔解釈も良く分かっていない. 追い追い考えていこう.

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まどか☆マギカのための熱力学 6

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今回は 2 章の概要を満た. エントロピー自体を公理的に導出することがメインになる. また, エントロピーの熱力学的な特徴づけとして断熱到達性という言葉が登場した.

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熱力学-まどか☆マギカの理解のために 7

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今回は II 章で一番重要なエントロピーについて簡単にまとめよう. 設定した公理系とエントロピーと呼ばれる関数の存在が同値であるというのが一番大事なところだが, その辺は一旦放ってエントロピーの定義について考えよう.

論文に沿って話を進めよう. P24 だ. ある熱力学的状態を $X$ とし, このエントロピーを定義したい. まず参照する状態を 2 つ取ってきてそれを元にして $X$ のエントロピーを定義している. 要は相対評価だ. 「まどかの祈りから生まれるエネルギーのうち有効活用できないエネルギー」と「さやかの祈りから生まれるエネルギーのうち有効活用できないエネルギー」を基準にして「ほむらの祈りから生まれるエネルギーのうち有効活用できないエネルギー」を測ろうということだ. これの便利なところは相対評価の便利なところと同じになる. 明確な基準があるので, 誰がどのくらいの位置にいるか分かりやすい.

当然, 問題は相対評価の問題点と重なる. 基準点としてマミとさやかを取り, マミが 100, さやかが 0 だとしよう. このときまどかのエントロピー (と省略する) は 100 を越える. この具体的な値にはどういう意味があるだろうか. またマミの代わりに基準としてほむらを取ろう. このときのマミのエントロピーは 100 ではない (正確にはそう仮定する). エントロピーの値は変わるが, その値の比較ができない.

今の時点で詳しい話をしていないが, 基準点を変えたときの値の変換則の存在, さらには具体的な形が分かっていないとなると, もっと面倒なことになる. 基準点を変えてエントロピーを再測定しなければいけなくなった場合, 非常に面倒くさい. まどか以前, 当然適当な魔法少女 2 人を基準にエントロピーを測定していたはずだ. ここでまどかが現れたので, 適切な比較をするため上限としてまどかを取り, 値を計算しなおすとする. 変換規則が分かっていれば機械的に計算しなおせるが, それが分からなければいちいち測定しなおす必要がある. 実用上の観点から基準点の変更に対する値の変換ルールの発見と決定が大事なことも分かる.

変換ルール含め, 相対評価の問題の克服法として, P26 のような数学としてとりあえずの対応策はあるが, 学術的には美しくないという欠点がある. 美しくないことの何が問題か. 単純に分かりづらい. 元々熱力学は分かりづらいのが嫌だからもっとすっきり書きたいという話だったことを思い出そう. また実用的にも絶対評価による値の決め方があった方が便利だ. 色々な見方, 測り方があった方がよい (多様性は善) という考え方だってある. そこで絶対評価による定義をしよう, と進む. P26 定理 2.3 だ.

どうするかというと, 適当な性質を持つ関数を定義し, それと相対評価によるエントロピーを比較する. この「適当な性質」は特別に参照する点を持たないことが大事だ. その上で定数 (正確には Affine 変換の分) だけしか変わらないことが分かるので, エントロピーが絶対評価できるようになる. さやかのエントロピーは 5 だが, まどかは 10000 などと言えるようになり, しかもこの値がきちんと意味を持ち続ける. このエントロピーの絶対評価までたどりつくこと, さらにはそうした定義ができるということがハイライトになる.

非常に腹立たしいが, インキュベータにとってこんな便利なことはない. エントロピーの計算について彼らが余裕しゃくしゃくなのはこのおかげである. ここで我々はほむらがまどかを最強最悪の魔女に育て上げてしまった悲しみを追体験し, 世界が深い悲しみに包まれる.

また純粋に物理的に言うと, エントロピーのゼロ点を設定できるのがうれしい. いわゆる熱力学の第 3 法則, Nernst-Planck の法則と関係してくる. それはあとの章で論じられている (と書いてあるがまだそこまで読んでいない).

次回はエントロピーの存在と同値になる公理系について考えよう.

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まどか☆マギカのための熱力学 7

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今回はエントロピーの定義の仕方について論じた. はじめ, いわば「相対評価」でエントロピーを定義するが, 相対評価自体の欠点が色々あって嫌なので「絶対評価」でエントロピーを定義しなおす. この絶対評価ができることが非常に大事だ. 熱力学第 3 法則とも関係する.

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THE PHYSICS AND MATHEMATICS OF THE SECOND LAW OF THERMODYNAMICS http://arxiv.org/abs/cond-mat/9708200 「熱力学-現代的な視点から」 http://www.amazon.co.jp/dp/4563024325 「熱力学の基礎」 http://www.amazon.co.jp/dp/4130626094