第 001 回 勉強会の概要と論文タイトル解説

まず自分への確認

これを読んでいる方への注意

これはコンテンツの原稿案であり, 私の勘違いや単純なミスを含めた間違いも含まれた文章・コンテンツです. そのつもりで内容を眺めてください.

勉強会の最中や後で指摘を受けてオリジナルの原稿には修正を入れ続けますが, 多重管理が大変なのでこちらの記録自体はいちいち修正しません. もちろん指摘は歓迎しますし, 個々の md に関して指摘された部分は修正します.

適当なタイミングでコンテンツ・サービスをリリースするので, もしあなたが間違いを潰した (少ない) バージョンのコンテンツで勉強したいなら, それを待ってください.

講義動画と関連リンク

はじめに

(改めて) 内容

原論文と各種翻訳へのリンク

参考: 日本語訳と数学・物理に対する補足 (購入の必要なし, お好みで)

当面の進め方の予定

作ろうと思っているコンテンツの全体像

大きくわけて次のモジュールからなる.

ここではあくまで語学に集中する. 文法は (面白さを除けば) 既存のコンテンツでもかなりカバーできるはずなので優先度は低い. まずは単語と読解を重視して進める.

参考: 数学・物理・プログラミング系でやった・やっていること

読解

単語 (ボキャビル)

指摘メモ

今日話した内容メモ

今日の英文解釈: 論文タイトル

英文と訳

文構造・文法事項

タイトルに関わる一般的な事情

日本語でもよくあるように章や節のタイトルは完全な文ではないこともよくあります. ここでは「---について」で, 日本語でもよくあるタイプの句です.

上の英文では全て大文字になっています. ここでタイトル書きの大文字小文字のパターンをいくつか注意しておきます.

他のパターンもあるかもしれません. 少なくとも私が見たことがあるのはたいてい上のどれかです. 論文雑誌の投稿規約で指定があります. 英文の文章作法もあると思いますが, 説明できるほど調べ尽くせていません.

英語の文構造

では実際の文構造を見てみましょう.

タイトルのうちメインフレーズは the electrodynamics で, 特に of moving bodies という限定の修飾がついています. Electrodynamics は学問名でふつう学問名は無冠詞です. ここでは電磁気学の対象はいろいろある中で, 特に moving bodies に対する電磁気学だ, という意味で定冠詞の限定がついています.

次に moving bodies に関して見てみましょう. ここでの moving は現在分詞です. 日本語文法の言葉で言えば, 現在分詞は形容詞であり, 動名詞は名詞です. 名詞 bodies を修飾している moving は形容詞なので, 現在分詞とみなすべきです.

ときどきこの 2 つの区別がきちんとできない人がいるようです. それを説明しておきます. 現在分詞は「進行感・ライブ感」を表しています. つまりいままさに何かしている状態を表します. moving body は「move している body」を表しているのです. もっと言えば a body moves と主語・動詞の文章に書き換えられると言っても構いません.

一方, 動名詞はまさにその動きです. 例えば動名詞としての running は「走ること」そのものです.

聞くところによると, そもそも現在分詞と動名詞自体, ラテン語などの時代には区別がなかったようで, そもそもそう簡単な話でもないようです. 格の話など古い時代の方が複雑な文法をしていることもあり, 文法の変遷や言語ごとの特徴理解は簡単ではありません.

単語レベル・訳の説明

個別の単語の解説は必要に応じて単語編を参照してください.

英語
ドイツ語
フランス語

単語集

electricity

この語にはかなり複雑な経緯があります. Electricityはラテン語の electricus から来ています. これがさらに古代ギリシャ語の ἤλεκτρον から来ていて, 琥珀 (amber) を指しています. ギリシャ語の ἤλεκτρον も複雑で Wikipedia によると, 琥珀から次の 3 つに分化しました.

ちなみに磁石の magnet も語源の 1 つとされているのは「古代ギリシャのマグネジア地方で取れた変な石」なので, 電磁気に関わる語源にはギリシャ語が深く関わっています. さらに言えば amber はアラビア語由来です.

中世のヨーロッパでは古代ギリシャやローマの知見は散逸してしまい, アラビアから逆輸入の形で中世ヨーロッパに戻ってきた経緯があるため, その一環なのでしょう. ちなみにアルコール, alcohol もアラビア語起源で, アラビア語起源の科学用語もいろいろあります.

electrodynamics

Electrodynamics は electro と dynamics でわけて考えることにし, 分解した語については対応する単語を調べてください. 特に electro- は electricity などから考えてます. Electro- のような形で他の語とつながって形容詞的に使うことがあるのも覚えておくといいでしょう. たくさん例を見ていると自然と体得できることでもあります.

Electrodynamic は直訳すると「電気力学的」です. 「電磁力学」という日本語も同じ意味です. また英語で使われるときに磁気の議論を含むときでも electrodynamic と書き, electromagnetodynamics のように書きません. 例えば磁気も理論も明らかに含む量子電気力学は英語で quantum electrodynamics (QED) です.

単に dynamics とだけ書くと動力学という意味です. 静力学という言葉もあり, これは statics と言います. 例えば気象静力学は meteorological statics です.

body

中学生どころか小学生でも「身体」という意味を知っているでしょう. 物理では「物体」の意味で使われます. このように専門用語として理解しなければいけない単語はたくさんあります. もちろん日本語でもエネルギーやポテンシャルのように専門用語としての意味を本歌に取りつつそれとはずれた意味で日常語として使われている言葉があります. まずはそういう概念・言葉があると知るのが大事です.

対応する印欧祖語は bʰewdʰ- でこれは "to be awake, observe" という意味があります. 観察対象のような意味から物体に派生していったのでしょう.

他の意味について少し触れておきます. Etymonline では 1660 年代から "main portion of a document" としての用例があると紹介されています. これは IT 系でもよく使われます. もしあなたが HTML を知っているなら, この中にも head と body というセクションがあるのを知っているでしょう. この body がまさに「ドキュメントの主要部」の意味です.

ちなみに上の portion はポーションと読みます. あなたは「ポーション」と聞くとゲームのファイナルファンタジーで出てくる回復アイテムとしてのポーションを想像するかもしれません. それは potion で別物です. 特に Wiktionary によると, ラテン語の potio (飲み物) に由来していて, ラテン語自体がさらにギリシャ語の poton に由来します.

bewegen

Bewegter は動詞 bewegen から来ています. 一見するとこれと move が対応する理由が全くわからないでしょう. Bewegen の接頭辞 be は自動詞から他動詞を作るはたらきを表していて, 接尾辞の en は動詞を表す接尾辞です. 動詞を表す接尾辞という概念については日本語でも次のような特徴があることからその存在は推察できるでしょう.

したがって問題は weg です. これは語源からの視点, そしてある意味物理・数学的に考えれば move との対応が見えます. いくつかのポイントがあるので順に見ていきます.

少なくとも英・独・仏語には g と y の交替現象があります. 例えば英語内部で garden と yard は同じ (ような) 意味ですし, フランス語では jardin が対応し, ドイツ語では der Garten が対応します. 英・独対応を見ると d と t の交替現象も見え, 音に注目すれば「ディー」と「ティー」で, 日本人の感覚からすれば文字のレベルで似ていることがわかりますし, 音の類似の重要性も見て取れます. 英・仏対応を見ると g と j の交替現象も見え, これまた音に注目すれば「ジー」と「ジェー」で似ています.

さて, g と y の交替に戻りましょう. ここで言えば weg から way (道) が想像できます. ドイツ語では「ヴェーグ・ヴェーク」で, 英語では「ウェイ」です. ここでも w に関する濁音かどうかの違いがあるものの, e と a は気分的に「ェイ」で音の対応があります.

音の観点からすると w と v, g と k, c の対応があります. つまり weg から vec・vek が連想できます. ここからさらに vector/vektor にまで話を持っていければ完璧です.

Vector はもちろん数学のベクトルに対応する英語で, vector の語源はラテン語の vehere で「運ぶ」といった意味があります. Wiktionary によればラテン語の vector は "carrier, transporter" で vehō ("I carry, I transport, I bear") に由来します. ラテン語・イタリア語は主語に応じて動詞の活用の形が全て違います. 主語を省略しても意味が通じることから, 日本語のように主語が省略する方が多いようで, vehō だけで I carry です.

他の英単語からすると vehicle などとも関係があります. そして etymonline を見ると from PIE root *wegh- "to go, move, transport in a vehicle" という記述があります. ここで PIE は Proto-Indo-European の略で, *wegh- は印欧祖語という仮想的な言語の語根という意味です. つまり weg (wegh) という綴りに vehere, vector などと同じ感覚が籠められています. 漢字でさんずいが水に関わる概念を表すのと同じ気分です. ドイツ語の bewegen と英語の move が対応するのは weg に込められた意味によります.

言い始めるときりがありません. 例えばドイツの自動車メーカーでフォルクスワーゲン (Volkswagen) があります. この Wagen は車の意味で, wag が上でコメントした「運ぶモノ」の意味です. 英語でも wagon が車を指すわけで, それと同じ気分の動詞が bewegen なのです.

他にもベルトコンベアのコンベアは conveyer で動詞 convey から来ています. この convey の vey に y と g の交替原則を使うとやはり veg で, 音の類似から weg または vec/vek をイメージすれば「運ぶモノ」です. こうして weg が描く世界が見えてきます.

der Körper / die Körper

特殊相対性理論の論文で対応する英語は body でした. Wiktionary で見ても語源は似ても似つきません. しかし同じく Wiktionary とフランス語で対応している corps を見るとここに対応する英語として corpse があるのがわかります. これは遺体という意味です. 少なくとも英語にも身体を表わす言葉として残っています. 直接 body との関係はないにせよ, 英・独・仏の間で語源が同じ言葉が似た意味を持っているのです.

また数学, 特に代数学の群・環・体の体もドイツ語では Körper です. 代数学の対象としての意味の体は英語だと field です. なぜこういうのか私は知りません. ちなみに電磁場は electromagnetic field で, 場は field です.

corps

Wiktionary によるとやはりドイツ語の Körper と同じくラテン語起源で「身体」の意味の corpus から来ています. 複数形では軍隊などの意味も持っていて, 英語でも複数形で同じ意味です. 派生語として corporation もあり, 会社の意味があります. ちなみに生協のコープは英語の協同組合 co-operative です.

さらに corpus二重語でもあります. これは日本語でも使われる言語学の「コーパス」, つまり「テキストや発話を大規模に集めてデータベース化した言語資料」です. 二重語が何かというと, 1 つの言語の中である 1 つの共通の語源に由来しながら, それぞれ違う語形を取り, 別の意味や機能を持たせて同時に使われている 2 つの語を指す言葉です. 姉妹語ともいいます.

ドイツ語と同じく, 代数学の群・環・体の体を表す言葉です.