第 005 回 第 1-2 文の単語の掘り下げ

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この動画に特化したリンク先は次の通りです。

(講義動画と関連リンクの内容)

以下いつもの関連コンテンツ群です。

(YouTube 動画の説明欄にいつも張るリンク集)

これを読んでいる方への注意・言い訳

これはコンテンツの原稿案であり, 私の勘違いや単純なミスを含めた間違いも含まれた文章・コンテンツです. そのつもりで内容を眺めてください.

勉強会の最中や後で指摘を受けてオリジナルの原稿には修正を入れ続けますが, 多重管理が大変なのでこちらの記録自体はいちいち修正しません. もちろん指摘は歓迎しますし, 個々の md に関して指摘された部分は修正します.

適当なタイミングでコンテンツ・サービスをリリースするので, もしあなたが間違いを潰した (少ない) バージョンのコンテンツで勉強したいなら, それを待ってください.

講義動画と関連リンク

はじめに

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今日のメモ

内容: コンテンツ (案) からの転記

単語の素因数分解

少し複雑な単語になると, その中にいくつかの要素が見えます. 部首やつくりがある漢字を考えるとわかりやすいでしょう. 見たことがない漢字が出てきても, 漢字を自然にいくつかのパーツにわけた上で, さんずいがあれば水に関わる意味だろうと推測できるでしょうし, パーツを組み合わせて意味を推測するのはよくやるはずです.

英語にも同じ要素があります. 典型的には語幹・接頭辞・接尾辞です. これらの概念を使って単語を因数分解していくと, 難しい単語がよく知っている簡単な要素にわかれることはよくあります. こうした視点を含め, 単語解説ではいろいろな視点から単語を眺めます.

Gould による Russian for the Mathematician という本にもこうした解説があります. ロシア語はスラブ系の言語である一方, ゲルマン系のドイツ語とロマンス系のフランス語の影響を強く受けていて, ラテン語の影響もあります. これにも単語理解のために単語を因数分解して理解しようという注意がいくつもの例を挙げて詳しく議論されています.

理解を深める

英語または他の言語を通じて日本語の理解をも深め, さらには学習全般への理解を深めることも理工系のリベラルアーツを目指すこの講座の目的です.

例えば understand の項を読んでもらうとわかるように, 理解といってもいろいろあります. 実際 understand の項では類語として apprehend/comprehend を挙げています. Understand は混乱していたものをすっきりさせるという意味での理解, apprehend は何か 1 つをがっちり掴むという意味での理解, comprehend は全体をがっち掴むという意味での理解を表しています. ここで英語を通じて「理解」という日本語自体への理解も深まりますし, 他の国の言葉を深く理解する中で国語の理解も深められます.

そして理解という言葉への認識が深まると, いまの自分の状態をさらに深く理解・分析できます. 例えば「いろいろな知識は入ってきたがすっきりとした理解ができない」状態なら, それらを統合してくれる一般論や抽象論を勉強するといいでしょう. 一方で「曖昧模糊としていてはっきり見えない」状態なら具体例をいじり倒してみるのが適切です. 何を勉強するべきか, どう勉強するべきか方向性を自分で見つけるためにも役立つのです.

今回紹介した単語

know

Wiktionary によると対応する印欧祖語は *ǵneh₃- です. Etymonline にはなかなか面倒なことが書いてあります. 特に第 2 段落を見てください. 翻訳して紹介しましょう.

いったんゲルマン語で広まったが, この動詞はいま英語でだけ保持されている. 英語では広く応用されていて, 他の言語での 2 つ以上の動詞の意味をカバーしている. 例えばドイツ語では wissen, kennen, erkennen, そして特に können, フランス語では connaître (英語では perceive, understand, recognize に対応する), savoir (「その知識を持っている」という意味での「知っている」), ラテン語では scire (understand, perceive) や cognoscere (get to know, recognize), 古代教会スラブ語では znaja, vemi が対応する. アングソサクソンではこれに対して 2 つの言葉が使われていて, もう一方は witan である.

上の日本語訳は単に「知る」とだけ書きはしました. しかし他の言語では複数動詞に分けた内容を 1 つにまとめた単語なので, それだけ多彩な意味と用法があります. 英英辞書で調べると面白いだろうと思います.

Maxwell

電磁気学を支配するマクスウェルの方程式で有名なマクスウェルです. Wiktionary には次のような記述があります.

実際マクスウェルはスコットランドの物理学者です. 日本でも地名由来の名字はよくあり, 英語にも同じ言語現象があるのです. 例えば日本でも島袋や新垣と言われると沖縄にルーツがあるような印象があるでしょうし, 実際そういう調査もあります.

他にも例えば日本でも山川のように自然物から名字を取ることがあります. そしてユダヤ人はこの手の名字がよくあり, 何を隠そうアインシュタイン Einstein は「1 つの石」という意味です. Ein はドイツ語の 1 の意味で, stein は英語の stone, rock といった意味です. 名前を見るとそれだけでその人の来歴や人種がわかることがあるのです. アインシュタインについて言うなら, そこにはユダヤ人差別の歴史も刻まれています. 例えばこの記事を引用します.

ユダヤ人の姓の売買については、『人名の世界地図』では、「すぐにユダヤ人とわかるように、その名を植物名と金属名に限ったりもした」とあります。ローゼンタールRosental(薔薇の谷)、リリエンタールLiliental(百合の谷)、ブルーメンガルテンBlumengarten(花園)、ゴールドシュタインGoldstein(金の石)、シルバーシュタインSilverstein(銀の石)、ルビンシュタインRubinsteinなど、よく聞くユダヤ系の名前に花や宝石名が多いのはそういうわけだったのです。なお、"stein"というのは、タールtal(谷)、ハイムheim(家)、バウムbaum(木)といった単語と同様、アインシュタインEinstein(1つの石=石ころ)、エイゼンシュタインEizenshtein(鉄の石)などユダヤ人の姓の語尾によく使われます。

ちなみにドイツには Karl Stein という著名な数学者がいます. スタイン多様体という彼の名前を関した数学用語・概念もあります. 日本人で一石賢という人もいます.

Wikipedia を見ると次のような注意もあります.

英単語の well には井戸の意味があり, spring にも春・ばねの他に泉の意味があります. Weblio には「コア」として次のような解説があります.

突然出てくるもの 季節でまっ先にやってくるものとして「春」,突然飛び出すものとして「ばね」,「泉」などの意味が展開

人名 1 つを少し掘るだけでも歴史・文化がそこに色濃く反映されていること, 文化・言語を超えた世界が広がっています.

electrodynamics

Electrodynamics は electro と dynamics でわけて考えることにし, 分解した語については対応する単語を調べてください. 特に electro- は electricity などから考えてます. Electro- のような形で他の語とつながって形容詞的に使うことがあるのも覚えておくといいでしょう. たくさん例を見ていると自然と体得できることでもあります.

Electrodynamic は直訳すると「電気力学的」です. 「電磁力学」という日本語も同じ意味です. また英語で使われるときに磁気の議論を含むときでも electrodynamic と書き, electromagnetodynamics のように書きません. 例えば磁気も理論も明らかに含む量子電気力学は英語で quantum electrodynamics (QED) です.

単に dynamics とだけ書くと動力学という意味です. 静力学という言葉もあり, これは statics と言います. 例えば気象静力学は meteorological statics です.

electric

詳しくは electricity を見てください.

Wiktionary によると 1640 年代に Thomas Browne が新ラテン語 ēlectricus (electrical; of amber), ēlectrum (amber) +‎ -icus (形容詞の接尾辞), 古ギリシャ語の ḗlektron (amber), ēléktōr (shining sun) に由来します.

electricity

この語にはかなり複雑な経緯があります. Electricityはラテン語の electricus から来ています. これがさらに古代ギリシャ語の ἤλεκτρον から来ていて, 琥珀 (amber) を指しています. ギリシャ語の ἤλεκτρον も複雑で Wikipedia によると, 琥珀から次の 3 つに分化しました.

古代ギリシャ語としての ἤλεκτρον はサンスクリットの उल्का (ulka, meteor) や ἠλέκτωρ (ēléktōr, shining sun), ἥλιος (helios, sun) に由来するとも言われます.

さらに言えば amber はアラビア語由来です. 中世のヨーロッパでは古代ギリシャやローマの知見は散逸してしまい, アラビアから逆輸入の形で中世ヨーロッパに戻ってきた経緯があるため, その一環なのでしょう. ちなみにアルコール, alcohol もアラビア語起源で, アラビア語起源の科学用語もいろいろあります.

dynamic

Wiktionaryによると, 元を辿れば古代ギリシャ語の dunamikós から来ていて, これは powerful の意味です. これの類語として dúnamis や dúnamai も起源で, それぞれ power, "I am able" の意味です.

日本語で「デュナミス」はいろいろなところで顔を出します. 私が思いつくところだと機動戦士ガンダム00のガンダムデュナメスです. 現代日本でもアニメや漫画やゲームの中に (古代) ギリシャ語が根付いています. 何気ない横文字を調べることで物理や数学につながることもぜひ覚えておいてください. 日常に物理・数学を組み込んでいきましょう.

私は単数形の用例を見かけたことはありませんが, dynamic は名詞として使われることもあります. これについては dynamics を参照してください.

dynamics

物理では力学, 特に動力学の意味で使われます. 動力学というからには静力学もあり, statics と言います. 高校物理で言うと物体が動かない状況で力の釣り合いを考えるのが静力学, 実際に運動方程式にしたがって運動する様子を追いかけるのが動力学です.

学問名・分野名として使うときは不可算名詞として扱います. つまり次のように形式的に単数形のように処理する必要があります.

一方, 複数形として捉えると単数扱いの名詞 dynamic の複数形として捉える必要が出てきて意味が変わります.

TODO 形容詞に s がつくと名詞化する現象, 他にもあった気がするので例. どういう気分なのだろう. semantics

understand

もちろん under+stand からなる単語です. 理解を深めるにはやはり WiktionaryEtymonline が役に立ちます. 後者を眺めてみると stand in the midst of と書いてあります. 英語にとって, 何かを理解することは「世界を見通しよく眺める中心に立てている・その中心に立って制圧する」といった気分があるのでしょう. そして実際にはここでの under の意味についてはもっと深く切り込んでいくべき事情があります. ここでの under は下にある (beneath) の意味ではなく, 古英語, そして印欧祖語の *nter- が指す between, among と言った意味で捉えるべきなのです. サンスクリットでは同じ意味が antar, ラテン語では inter, ギリシャ語では entera で表現されていて, こちらの意味を継いでいるとみなす方が適切です.

同じく Etymonline ではさらに強く究極的な意味は「---に近い」という意味で見立てるべきとあります. ギリシャ語の epistamai は科学・知識という意味の名詞で, 英語で言えば stand upon という形の語の成り立ちです. 対応は epi = upon, stamai = stand です.

ここの epi は数学的な応用があるのでそれも少し書いておきます. 圏論ではエピ射という概念があります. 気分としては集合論での全射を圏論的に定式化した概念です. ここで大事なのは全射の英語表現です. 名詞としては surjective map ですが, this map is onto と言うこともあります. これに対応する日本語は「上への写像」です. もちろん upon と onto で少し変わりはしますが, on を含む重要な共通点があります. このような形で回り回って数学にも影響する語彙なのです.

Wiktionary には類義語として apprehend, comprehend, grasp, know, perceive, pick up what someone is putting down, realise, grok, believe が挙がっています. これらの言葉と比較しつつ語源なども調べていくとまた理解が深まります.

比較のとき, 語源を調べるのと同じくらい画像検索も役に立ちます. 1 つ例を出しておきます.

私の画像検索結果とあなたの画像検索結果が一致する保証がないので, 1 つずつ印象的な画像が張られたページへのリンクをつけてあります. 注目してほしいのは特に後者の apprehend です. 具体的な画像参照の方では後ろ手に手錠をかけられた画像がトップに来ています. つまり同じ「理解する」という日本語をあててはいるものの, apprehend が表す「理解」は「手錠をかけてがっちり掴まえる」といった意味なのです. Wiktionary で語源を調べると, ラテン語の apprehendere からの借用語であることがわかります. さらに apprehendere を Wiktionary で調べると語源としては ad- + prehendō であり, ad- は "to, towards, at" を意味し, prehendō は "lay hold of, seize" を意味しています. Seize は「掴む」という意味です.

掴むというと, apprehend の中に hend があり, これが hand に近いので何か関係があるのではないかという気分も出てきます. Wiktionary で hand を調べてみると, 次のような記述があります.

hand 自体が理解するという言葉を語源に持っていることがわかります.

もう 1 つ prehend つながりで apprehend と comprehend の違いも気になります. これは apprehend の Wiktionary に次の記述があります.

特に注目すべきは最後の例文, "We may apprehend many truths which we do not comprehend." です. この 2 つにはこのような明確な違いがあるのです. Wiktionary, Etymonline はもちろん, Google 画像検索を駆使するとこうした意味の違いを一段深く, そして視覚的にも印象的に理解できます.

Wiktionary で comprehend も調べてみると, ラテン語の comprehendere (to grasp) 由来で接頭辞の com- + prehendere ((to seize) からなっています. 接頭辞の com- は次の文字が b, m, p の場合の con- の変形であり, Wiktionary によると con- は次の 2 つの意味があります.

当然ではありますが comprehend の 1 まとめ感は com で表現されています. Converge は高校数学の極限・微分積分で出てくる「収束する」の意味です. もう 1 つ数学的に大事な例を挙げておくと complete があります. Etymonline によるとこれも com + plere で, plere は「満たす」 (to fill) の意味です. Complete には数学の距離空間論で「完備」という日本語を表すのに使います. 完備性は例えば相対性理論と並ぶ現代物理学の柱である量子力学の数学, ヒルベルト空間論で出てきます.

接頭辞 mis をつけた misunderstand という単語があります. Under+stand に miss しているので「誤解」といった意味です. ここから接頭辞の概念, 特に mis の語感を知るのにも役立つでしょう.

第 1 文の単語

英語

ドイツ語

フランス語

第 2 文の単語

英語

ドイツ語

フランス語