第 012 回 第 5 文の単語

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(講義動画と関連リンクの内容)

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YouTube 公開用: これを読んでいる方への注意・言い訳

これはコンテンツの原稿案であり, 私の勘違いや単純なミスを含めた間違いも含まれた文章・コンテンツです. そのつもりで内容を眺めてください.

勉強会の最中や後で指摘を受けてオリジナルの原稿には修正を入れ続けますが, 多重管理が大変なのでこちらの記録自体はいちいち修正しません. もちろん指摘は歓迎しますし, 個々の md に関して指摘された部分は修正します.

適当なタイミングでコンテンツ・サービスをリリースするので, もしあなたが間違いを潰した (少ない) バージョンのコンテンツで勉強したいなら, それを待ってください.

講義動画と関連リンク

はじめに

今日の予定

進捗・TODO・今日のメモ

内容: コンテンツ (案) からの転記

前回の訂正: en.4 と en.5 第 2 文の比較

次のような形になっています.

さらに言えば第 5 文には次の記述もあります.

直訳調では次のようになるでしょうか.

一見すると主語と目的語の単複がうまく噛み合っていないように見えます. もっと言えば「電場」と「電気力」のずれもあります. これは起電力と電場・電気力の意味・定義の違いです. 同じ力とついていて紛らわしいだけで, 実際には起電力は (力学的な) 力ではないのです. 歴史的・分野的な事情も含めていくつかの事情があります.

電圧とは何か 気にすると、なかなか難しいのだ。」の説明を参考にしましょう. 電気回路の理論を中心にして電圧と曖昧に呼ばれる概念があり, これの内実は電位差と起電力です. ここで電位は純粋な電磁気学的な概念で, ベクトル場である電場に対するポテンシャル (スカラー, 関数) を意味しています.

E = - \grad \phi F = - -G Mm / r^2 = - m \grad U, U = -GM/r

そしてこの電位の差が電位差でこれは文字通り静電ポテンシャルである電位の差です. 一方, 起電力が何かといえば「電気回路内で電圧を生み出す概念」です. もう少し正確に言えば「回路中にあって電子をよりエネルギーの高い状態へと押し上げようとする働き」が起電力です. そして電気回路の理論で電圧が何を表すかと言えば電流を生み出すモノ (「物質」の意味ではない) です.

私が知る限り起電力は電気回路と強く紐づく概念で, 一般の電磁気学の概念ではありません. 論文が書かれた 1905 年当時の物理学界での用語法まで調べられてはいないものの, いま電気回路の議論をしていないこともあり, ここでいう起電力は電流を生み出すモノくらいの意味でしょう.

もう 1 つ物理学史として大事なポイントがあります. ここで electric force として言及された電気力と電場の違いです. 結論から言うとここではこの 2 つをあえて区別せずに使っています: 以下の電磁気学的な解説はいったん飛ばしても構いません.

では飛ばしてもいい解説を書きます. 高校物理で電場は空間の各点に置かれた単位電荷が受ける力として定義されます. 一方, 現代物理で電場は第一義的にはマクスウェル方程式が定義するベクトル場で, 特にクーロンの法則だけを取り出すなら電荷分布が生み出すベクトル場です. いったん力とは切り離した概念として独自に定義される概念なのです.

f = q E + qv \times B: ローレンツ力

マクスウェル方程式で出てくるのはあくまで後者の意味での電場であり, 電荷が受ける力ではありません. そしてここでは (単位電荷あたりの) 力としての電場と, マクスウェル方程式 (特にアンペール・マクスウェルの法則?) 由来の電場が混同されています.

この整理のもとで先の文章を見直すと次のように整理できるでしょう.

最後に念のため物理的な整理も込めて補足しておくと, 電場・電気力・起電力が直接電流を生み出すわけではありません. 力学的に言えば, 電気力によって電荷が運動し, その電荷の運動が電流として出てきます. そして起電力を電位差と思えば, 電位差 (電位の勾配, ベクトル解析のグラディエント) によって電場が生まれ, 空間の各点での電場が電気力の源になっています.

単語

stationary

物理・数学では単に「止まった」といってもいくつか意味と対応する訳語があります. 例えば stationary process と言えば「定常過程」と訳します. 他には熱力学で時間的な変化はないものの空間的には非一様な状態を stationary state と言い, 日本語では「定常状態」です. 時間変化がなく空間的に一様な状態は equilibrium state と言い, 「平衡状態」と訳します.

Wiktionary によるとラテン語の stationarius, statio, 究極的には stō (to stand) に由来します. 二重語として stationer があります. Stationery の語源は「常設の場所 (station) で売られる品物」です. 昔の商人は教会の近くに常設の売店 (station) を開くことを許され, そこで聖職者用の品物を売っていました. 時代が下って筆記具類を専門に扱うようになり, 「文房具店」の意味に変わります.

Etymonline によると, 14 世紀後半に中フランス語の "motionless" を意味する stationnaire に由来します. 古典ラテン語の stationarius は "of a military station" の意味でした. Statarius は "stationary, steady" の意味です.

ここで stand にも注目してみましょう. Wiktionary によるとゲルマン祖語の standaną (to stand), 印欧祖語 steh₂- に由来します. この stand はよく「立つ」と訳されますが, 「(立ったまま) 動かないでいる」という意味もあります. 例えば書見台をブックスタンドというとき, 本とそのページを動かないようにおさえておく装置の意味です. 駅を station と言うのも電車にとって動かないしるべという意味からです.

また static にも似た意味があります. 例えば静電ポテンシャルを electro static potential と書くときに使います. Wiktionary によると近代ラテン語の staticus, 古ギリシャ語 statikós に由来していて, やはり stō の持つ st という共通項があります.

他にも語源が同じ言葉として state (状態), status (地位), statue (像), stay (とどまる) などがあります. 例えば station は「(人などが) 立つ所」で, 16 世紀に「宿場」「駅」などの意味に変わりました.

field

電磁場, 重力場というときの「場」を表す単語です.

Wiktionary によると西ゲルマン祖語の felþu ゲルマン祖語の felþuz, felþaz, felþą ("field"), 究極的には印欧祖語の pleh₂- ("field, plain") or pleth₂- ("flat") に由来します. ドイツ語の Feld と同根です. 古英語の folde ("earth, land, territory"), folm ("palm of the hand") とも関係があります.

Wiktionary には fold も参照するよう指示があるのでそれも見てみましょう. これは中英語の folden, 古英語の fealdan, ゲルマン祖語 falþaną ("to fold"), 印欧祖語 pel- ("to fold") に由来します.

ドイツ語の動詞: 最後に en がつく. 品詞ごとに「語尾」が決まっている. フランス語だと動詞の語尾が -are, -ire, -ere. イタリア語だと同じような語尾. イタリア語は現代ラテン語: ラテン語でも同じような動詞語尾. 日本語だと動詞は「う」行, 形容詞は「い」で終わる.

英語は語順が重要: 意味が変わる. イタリア語は動詞の活用が 1 人称の単複, 2 人称の単複, 3 人称の単複で 6 つ.

arise

Wiktionary によるとゲルマン祖語の *uzrīsaną (to rise up, arise) に由来し, これは a- + rise に分解できます. 特にこの a- は away, up, on, out のような意味を付加したり意味を強調する接頭語と思えばいいでしょう. 詳しくは接頭辞の項を見てください.

however

How + ever に分解できます.

何故 however で「しかし」の意味になるのだろう? 要調査.

force

Wiktionary によると古フランス語 force の借用語で, 後期ラテン語または俗ラテン語 fortis (strong) の中性複数形 *fortia に由来します.

correspond

Wiktionary によると中フランス語 correspondre, ラテン語 com- (with) + respondeo (to match, to answer to) に由来します. 英語でそのまま con/com + respond とみなしてもいいでしょう.

give

Wikipedia によるとゲルマン祖語の *gebaną (to give) に由来します. 同じゲルマン祖語に由来するネイティブの中英語 yiven, ȝeven が英語内部での由来です.

中英語の yiven と give を比較すると y と g が入れ替わっていることに気付きます. 実はこれはある程度一般的な現象です. 有名なのは「庭」を意味する garden と yard です. 語尾の en を抜かせば完全に一致します. 古い形を見るとこうした入れ替わりにも気付けるようになるので, 深く記憶に刻み込むためにはこういう単語の掘り方も大事です.

intensity

Wiktionary によるとラテン語の intensitas に由来します. Intense +‎ -ity と分解できます. Intense は中フランス語 intense, ラテン語 intendere (to stretch out) の過去分詞 intensus (stretched tight) の借用語です. これは in (in, upon, to) + tendere (to stretch) と分解できます. 後者の tenderetendō の活用で, tendō はイタリア祖語 tendō, 印欧祖語の ten- (to stretch, draw) の extension である *tend- に由来します.

Stretch などから考えれば *ten- は tend の語源のように思えます. 実際 Wiktionary によると tend は古フランス語の tendre (to stretch, stretch out, hold forth, offer, tender), ラテン語の tendere (to stretch, stretch out, extend, spread out) に由来します. この名詞形 tension は中フランス語 tension, ラテン語の tensiō, tensiōnem に由来します. 物理・数学ではテンソルという量は張力 (tension) に由来する概念です.

せっかくなので stretch も 見てみると, これは西ゲルマン祖語 strakkjan (to stretch, make taut or tight), 印欧祖語 (s)treg-, streg-, treg- (stiff, rigid) に由来します. ドイツ語 strecken (to stretch, straighten, elongate) も同根です. STARK を参照するようにと書いてあるので見てみると, これはゲルマン祖語 starkaz, starkuz (stiff, strong), 印欧祖語 (s)terg- (rigid, stiff) に由来し, ドイツ語の stark (strong) と同根です. これはデンプンを意味する starch と関係があるそうで, 中英語の stark, sterk (strong; stiff) の歯擦音化 starche (名詞), starche, sterch (stiff, 形容詞) に由来します.