第 015 回 第 6 文の読解

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YouTube 公開用: これを読んでいる方への注意・言い訳

これはコンテンツの原稿案であり, 私の勘違いや単純なミスを含めた間違いも含まれた文章・コンテンツです. そのつもりで内容を眺めてください.

勉強会の最中や後で指摘を受けてオリジナルの原稿には修正を入れ続けますが, 多重管理が大変なのでこちらの記録自体はいちいち修正しません. もちろん指摘は歓迎しますし, 個々の md に関して指摘された部分は修正します.

適当なタイミングでコンテンツ・サービスをリリースするので, もしあなたが間違いを潰した (少ない) バージョンのコンテンツで勉強したいなら, それを待ってください.

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内容: コンテンツ (案) からの転記

第 6 文

英文と訳

en.6

Examples of this sort, together with the unsuccessful attempts to discover any motion of the earth relatively to the light medium, suggest that the phenomena of electrodynamics as well as of mechanics possess no properties corresponding to the idea of absolute rest. They suggest rather that, as has already been shown to the first order of small quantities, the same laws of electrodynamics and optics will be valid for all frames of reference for which the equations of mechanics hold good.

de.6

Beispiele ähnlicher Art, sowie die misslungenen Versuche, eine Bewegung der Erde relativ zum "Lichtmedium" zu konstatieren, führen zu der Vermutung, dass dem Begriffe der absoluten Ruhe nicht nur in der Mechanik, sondern auch in der Elektrodynamik keine Eigenschaften der Erscheinungen entsprechen, sondern dass vielmehr für alle Koordinatensysteme, für welche die mechanischen Gleichungen gelten, auch die gleichen elektrodynamischen und optischen Gesetze gelten, wie dies für die Grössen erster Ordnung bereits erwiesen ist.

fr.6

Des exemples similaires, tout comme l'essai infructueux de confirmer le mouvement de la Terre relativement au «médium de la lumière», nous amène à la supposition que non seulement en mécanique, mais aussi en électrodynamique, aucune propriété des faits observés ne correspond au concept de repos absolu; et que dans tous les systèmes de coordonnées où les équations de la mécanique sont vraies, les équations électrodynamiques et optiques équivalentes sont également vraies, comme il a été déjà montré par l'approximation au premier ordre des grandeurs.

jp.6

光の媒質に対して相対的な地球のどんな運動を見つけられなかったことと合わせて, この種の例が示唆するのは, 電磁気現象と力学現象は絶対静止の概念に対応するどんな性質も持たないことである. それらはむしろ次の内容を示唆する: つまり既に 1 次の微少量までは示されているように, 力学の方程式がよく成り立つ全ての座標系に対して, 電気力学と光学の物理法則は正しい.

解説
英語
# 英語第 2 文
## 構文

主節は They suggest that で suggest する内容が that 節の内容です. 最初の they は前文の主語である「この種の例」を指しています. 主節は前文と同じで they suggest that という形になっていることにも注意しましょう.

この that のあとに ", as ...," とカンマで区切られた as 節は that 節に対する副詞節です. あとで調べることにしましょう. Suggest に対する that 節のメインの構造は the same laws will be vaild です.

## They suggest rather that

これが主節で基本的には英語第 1 文と同じ構造です. Suggest が「提案する」で提案内容は that 節の内容です. 文章理解の上では主語 they の理解が大事です. 前文 (第 1 文) の主語 examples of this sort, together with the unsuccessful attempts と思えばいいでしょう.

ここの rather が解釈上重要です. 日本語では「むしろ」とでも訳せばいいでしょう. これは次のように捉えます.

つまり the customary view からの大きな転換を表しているのです.

目的語の that 節を見ると as has already からはじまる挿入節があります. この挿入節は後回しにして, that 節の本体を確認しましょう.

## the same laws of electrodynamics and optics will be valid for all frames of reference

主な構造は次の通りです.

もちろん「同じ物理法則が成り立つであろう」と訳します. これは suggest の目的語の that 節であることに注意すれば ここでの will は未来形ではなく推量の助動詞と見るべきです.

The same laws で何の法則かが気になるわけで, それが electrodynamics and optics です. Electrodynamics は電気力学で optics は 光学です. 光は電磁波なので光学は電磁気学 electromagnegnetism です. ここでelectromagnegnetism ではなく electrodynamics が出ているので optics をわけているのかもしれません. 読み進めるとわかるように情報伝達のための信号として光を使っているので, それを強調するためにあえて optics を積極的に取り上げているのかもしれません.

Be valid はどういう状況で成り立つのかが問題になります. それが for all frames of reference で指示されています. All frames of reference の直訳は「全ての参照枠」でいいでしょう. 特に一般相対性理論を視野に入れて現代的に考えると, 数学的な言葉で言えば全ての局所座標系と訳せます. 局所座標系は多様体論の言葉・概念で一般相対性理論の数学でも出てくる大事な概念です. もちろん特殊相対性理論でも座標系の概念は大事です. あとで何度も出てくるので嫌でもわかります.

最後, frames は all がついているとはいえ定冠詞がありません. 「皆さんご承知の全ての座標系」とは言っていないので, 何かしらの決めきれない部分があります. それを指定するのが次の関係代名詞節の内容です.

## for which the equations of mechanics hold good

主節の suggest の目的語である that 節の内容をさらに補足する内容です. 特に all frames を修飾しています. ここで hold good は hold が be 動詞のようにはたらいていて, 文型は第 2 文型 SVC と見るといいでしょう.

主語は the equations of mechanics です. 定冠詞 the がついていることに注意してください. そしてここは明確に力学 mechanics と言っていて electrodynamics ではありません. 電磁気学と切り離した純粋な力学の話が影響すると言っているのです.

最後の hold good は「よく成り立つ」という意味で, 特に hold を「成り立つ」とみなすのが大事です. Hold の有名な訳「持つ・つかむ・抱える」の意味を発展させて「成り立つ」と訳してください. 数学や物理で重要な単語です. また equations に対する動詞 hold のコロケーションを覚えておいてください.

## as has already been shown to the first order of small quantities

さて, 挿入節です. 接続詞の as は様態で訳すと落ち着きます.

まず as 節は主語がなく動詞が has と三単現になっていることに注意しましょう. これは前の文自体の内容を it で受け, さらにそれを省略した形とみなせます. 動詞は現在完了形をさらに already で修飾していて既存の確立した結果という気分が強く出ています. そして既存の結果としては to the first order of small quantities です. これは物理や理工学では典型的な表現で, 議論の精度・近似の精度に関する言及です. まだ近似レベルで留まっていて厳密に示されているわけではないという主張でもあります.

(TODO これの主語は何? 単数のどれ? 前文の内容全体を it/that などで示して受けていると思えばいい?)

ここでは動詞が現在完了で already まで入れて強調しているのがポイントです. ふつう「見せる, 示す」と訳す show は「証明する」の意味で理解するといいでしょう. つまり「既に証明されているように」と訳します. 物理・数学, 特に数学ではよく使われる用法です.

これに対して to が導く句で証明されている程度を表しています. 高校物理でもよく議論したように, 物理では適当な近似の範囲で成り立つというタイプの議論がよくあります. 物理で厳密な証明は難しく, 近似で仮定した範囲での限定的な「証明」なのです.

The first order of small quantities は「1 次の微少量」と訳します. これは物理でよく出てくる数学表現で, 微分, 特に 1 階の微分係数・導関数を使った近似を指します. そして実際に高校の物理でよく出てくる近似はこの「1 次の微少量による近似」です.

この文は数学と近似に関わる議論なので, 物理の議論に慣れていないと難しいでしょう. 念のため簡単に補足をつけておきました. 必要なら補足の節を確認してください.

補足

英語第 1 文
専門用語としての sort

Sort はプログラミングでは「データの集合を一定の規則に従って並べる」という意味でも使われ, 日本語でもそのまま「ソート」と言います. データ構造とアルゴリズムの話題で必ず出てくる計算機科学の基本です.

絶対性に関わる議論

特殊相対性理論では静止という力学的な概念の絶対性を否定します. 一方で他の絶対的な概念を導入しています. それがまさに特殊相対性理論の 2 つの仮定 (原理) です.

どちらも謎と言えば謎の概念です. ここでは相対性原理に注目しましょう. 相対性原理は座標系に注目して定義されていますが, ここから座標系に付随する概念についても適当な等価性が要求されます. たいていの物理法則は微分方程式で記述されます. 特に偏微分方程式を記述するための微分概念である偏微分は座標系にべったり依存しています. そこで座標系に依存しない微分概念を導入する必要があり, そのための数学が実は幾何学です. この意味で一般相対性理論の記述言語は微分幾何だと言われています.

現代数学の話に突撃するので簡単ではありません. 2020 年のノーベル物理学賞でのペンローズの業績がまさに一般相対性理論で記述言語は幾何であり, 2016 年のノーベル物理学賞でのトポロジカル絶縁体ではトポロジーという分野名が幾何から来ています. 最近, 理論物理をはじめとして理工系では幾何が非常に重要な役割を担いつつあります.

the unsuccessful attempts

本文で出てきたこの名詞句についてもう少し深掘りします. ポイントはもちろん the でいわゆるエーテルの検出問題です. The は「皆さんご存知の」という意味なので, 本当に当時の大テーマだったのでしょう.

光の媒質に対する運動はまさにエーテルの検出に関わる実験の問題です. 当時, 何であれ振動・波動が伝わるには媒質が必要だと思われていたようです. そして電磁気学のマクスウェル理論によって電磁波は波なので, 何かしらの媒質を想定しようとし, それを「エーテル」と呼んでいたわけです. エーテル検出失敗実験として有名なのがマイケルソン・モーリーの実験です. これは大学受験ネタとしてもよく出てくるので知っている人も多いでしょう. 実際に相対性理論の論文の中で, 高校物理で学んだことが生きています.

他に人間の営みとしての物理学にも触れておきます. 高校物理や通俗的な科学史では話が激烈に単純化されています. つまりマイケルソン-モーリーの実験でエーテルの存在は否定され, アインシュタインの特殊相対性理論で旧来の説は完全否定されたと思う人もよくいます.

しかし実際には他にも歴史的に多くの人達がいろいろがんばってやってきた末, 何をどうやっても無理そうだ・敗色濃厚だとなり, その中でも印象的な仕事の 1 つがマイケルソン-モーリーの仕事であり, アインシュタインの特殊相対性理論の論文なのです. 有名な話として, アインシュタインと同等の結論はローレンツが得ていたものの, 数学的な推論だけで物理的な洞察に乏しく, 物理の原理に踏み込んで導出したアインシュタインのこの論文はやはり偉い, そういう事情もあります.

アインシュタインのこの論文は引用がないことでも有名ですが, ローレンツの論文やマイケルソン-モーリーの実験論文をきちんと引用すべきだったという話もあります. 引用は必死の思いで先人が積み上げてきた営為への敬意を示す行為でもあり, そうした「礼儀」がなっていないのはどうか, という視点もあります. 科学者も人間なので自分がやった (決定的な) 仕事を無視されたら面白くないと感じる人も多いのです.