第018回 第7文の読解

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まず確認

記事公開手順

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(講義動画と関連リンクの内容)

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勉強会の最中や後で指摘を受けてオリジナルの原稿には修正を入れ続けますが, 多重管理が大変なのでこちらの記録自体はいちいち修正しません. もちろん指摘は歓迎しますし, 個々の md に関して指摘された部分は修正します.

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内容: コンテンツ (案) からの転記

en.7

We will raise this conjecture (the purport of which will hereafter be called the Principle of Relativity) to the status of a postulate, and also introduce another postulate, which is only apparently irreconcilable with the former, namely, that light is always propagated in empty space with a definite velocity $c$ which is independent of the state of motion of the emitting body.

jp.7

私達はこの予想を公準の地位にまで持ち上げよう: 以下ではこれを相対性原理と呼ぶことにする. そしてもうひとつ, 光はそれを放射する物体の運動状態によらず, 常に真空中を一定の速度$c$で伝播するという公準を導入する. 一見するとこれは前者と調和しない.

英語の解説

全体構造

主節1

(the purport of which will hereafter be called the Principle of Relativity)

修飾はなるべく修飾したい語の近くに置く原則からすれば, これはthis conjectureの補足説明と思えばいいでしょう.

TODO まずは本質的には名詞がひとつ入っているだけ

構造を理解するためにまずwhich節の中身を単純化して考えると which is called Aが見えてきます. これを次のように置き換えれば元の文章です.

さてwhich節は明らかに主語がありません. 主語は何だと思えばいいでしょうか? 実は主語はthe purport of this conjectureです. この挿入句が難しいのは主語の判断です. 関係代名詞節として先行詞はthis conjectureであり, これはthe purport of this conjectureという形で入ります.

Purportは「趣旨」と言った意味で, 定冠詞がついていることに注意してください. Conjectureの内容を指しているだけなので, 上の訳では「これ」と軽く訳しています. Hereafterは「今後この論文の中では」と訳すといいでしょう.

The Principle of Relativityはもちろん「相対性原理」です. この時点で既に定冠詞theがついています. 原理や基本法則を追い求める物理でprincipleは最重要単語です. Relativityも相対性理論のrelativityなので当然大事です. 単語の先頭が大文字になっていることにも注意してください.

主節2

全体構造

まず等位接続詞の and でつながっていることに注意してください. 当然同じ系統の意味の文になっているはずです. その上で第二文を見ると主語がありません. この主語は第一文と同じweと判定すればいいでしょう.

改めて文構造を意識した形で主節2を再掲します.

TODO 厳密には助動詞willも補足すべき

we also introduce another postulate

主節2の基本構造で, ごく単純な第三文型SVOです. Introduceは「導入する」という意味です. Alsoはtooと同じで, postulateにanother (an + other)という不定冠詞がついています. これが何かが気になるのでもちろん補足説明があります. ひとつはthat節の内容で, もうひとつは関係代名詞の非制限用法で説明が入っています.

, which is only apparently irreconcilable with the former

きちんと意味が取れることが大事なので文型の解釈には自由度があります. ここではis irreconcilable withを動詞句と見て第三文型SVOとして考えます.

TODO 主語の話を盛り込む

Only apparentlyは副詞がふたつついているだけで, 文法的な問題はありません. 目的語のthe formerは「前者」という意味です. 主節1のa postulateと対比させています. やはり定冠詞に注意してください. ちなみにformerの対義語はlatterで「後者」です.

Apparentlyは「一見」という意味の副詞で, irreconcilableは「調和しない, 矛盾する」と言った意味の形容詞です.

読解上面白いのは動詞・副詞のセットとその意味です. 動詞句中のirreconcilableのirは否定の接頭辞です. そしてonly apparentlyは「見かけだけ」と訳せるのでやや否定的な意味があります. 「見かけ上は第一の公理と矛盾しているように見えるかもしれないが実はそうではない」という挿入です. ちなみにapparentlyは「見かけ上」と「明白に」という相反するような意味があります. ここの訳語では「見かけ上」を取りました.

, namely, that light is always propagated in empty space with a definite velocity $c$

Another postulateの実質的な内容であるthat節を見てみましょう. 基本構造は次の通りでごく単純です.

TODO that節の中身は完全な文になっている

受身になっていて面倒ではあるもののpropagateの意味も一緒にして考えると, 形式的にはbe propagatedが動詞(句)の第一文型SVとみなせます. 受身系はふつうの第五文型の枠組みに入りません. 無理に五文型の枠には入れずに柔軟に考える必要があります. 物理学でのlightはふつう無冠詞扱いのようです.

TODO light は物理でいつも無冠詞というわけでもないので記述整理

さて, 第一文型と思うとその存在の様子が気になります. 存在する場所はin empty spaceで示されていて, どのような状態で存在するかがwith a definite velocity $c$で示されています. ここでspaceは無冠詞, velocityはaと不定冠詞がついていることに注意しましょう. つまりvelocityは正体不明なので補足説明がほしくなります. それが最後のwhichの関係代名詞節です.

意味を確認します. Namelyは「つまり」という意味の副詞で, lightはもちろん「光」です. Alwaysは「常に」という意味の副詞で, propagatedは「(光の波が) 伝わる, 伝播する」という意味のpropagateの過去分詞です.

TODO 補足に回す

Empty spaceは直訳すると「何もない空間」という意味で, 物理の文章の日本語訳としては「真空」(vacuum)と訳すべきでしょう. ここでは無冠詞で出てくることに注意してください. 物理・数学ではいろいろな空間が出てくるのでspaceはよく可算名詞として出てくる一方, ここでは抽象的な空間の意味で捉えています. 真空という概念自体も物理ではなかなか厄介で, 例えば場の量子論では理論としてもいろいろな真空があり, 具体的な可算名詞として捉えなければいけない場面もよくあります. 他にも例えば日本工業規格(JIS)では「大気圧よりも低い状態」を真空と定義しています.

A definite velocityは「一定の速度」です. Velocityは力学で出てくる速度でやはり重要単語です.

相対論: rapidity

イタリックの小文字の$c$は一定不変の光速を表す定数として物理の中で使われています. この英訳では現在の慣習に合わせて小文字の$c$を使っていますが, アインシュタインのドイツ語の原論文では大文字の$V$で書かれています. もちろん歴史的な事情によります.

which is independent of the state of motion of the emitting body

A definite velocity $c$の補足説明のwhich節です. 基本構造はwhich is independent of the state ---です. 動詞がisなので主語は単数であり, そこからもa velocityが先行詞が主語になっていることが推測できます.

ここもbe independent ofを動詞句とした第三文型SVOとみて考えましょう. 目的語はthe state of motionです. 名詞stateに定冠詞がついているのが重要です. 何のmotionなのかを明確にするため, さらにof the emitting bodyがあります. ここにもbodyに定冠詞がついていることに注意してください. このふたつのtheは日本人にはなかなかつけられない定冠詞ではないでしょうか.

意味を確認します. Independentは「独立した, 依存しない」という意味の形容詞です. Stateは「状態」でmotionは「運動」です. Emit (emitting)は「放出する」という意味の動詞で, ここでは光を放出しているという意味です. 光の放出にはemitを良く使うので覚えておきましょう. 似たような意味で輻射(放射)という言葉があり, ふつうradiationを使います. Bodyは「物体」です.

Light is propagatedのpropagatedは日本語では「光が進む」と訳して構いませんが, 英語では「伝播する」を意味するpropagateを使うことに注意してください. Empty spaceは「真空」です. ふつうはvacuumと書きます. ドイツ語で(im) leeren Raumeと書かれているの忠実に訳したのでしょう.

TODO 記述整理

A definite velocity $c$「一定の速度$c$」です.

TODO 補足

物理としての注意を入れておくと, 速度$c$で進むのは真空中だけであることも注意してください. 現代物理では定数であることを強調して光の速度にはconstantの$c$を使います. ドイツ語原文では真空中の光速を大文字の$V$で表しています.

読解上のポイント

「一見すると前者と調和しない」という部分です. 何故かというとこの文で説明がないからです. 人によってはこの部分の理解でつまずくでしょう. このあとの本文で追加説明があるかもしれませんし, 論文を読むレベルの人間なら何も言わなくてもわかるだろうと思われて省略されているのかもしれません. 何にせよ論文読解の上でひとつ問題が提起されたとも読めます. 文章に接するとき著者との対話をしているスタンスで臨むのが大事です.

念のため調和しない(ように見える)理由を簡単に説明しておきましょう. これは高校レベルの力学を知っていれば解決する問題です. 電車の中でボールを投げたとき, ニュートン力学ではそのボールの速度には電車の速度も加えるべきですが, 光に対してはそう考えないと言っています.

全体のまとめ

この文は副詞や挿入句でくどいくらいに細かい注意が出てきました. アインシュタインの原論文ではこれからもこの手の細かい注意がくどいくらいに出てきます. 当時の理論物理の混沌とした状況を少しでもクリアにしようという意識を感じます.

念のため書いておくとここでの「見かけ上の矛盾」は次のような意味です.

この「見かけだけの」矛盾をどう乗り越えるかが論文でも当面のテーマになるはずです. そう思って読解を進めてください.