第019回 第7文の補足・第8文の読解

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記事公開手順

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(講義動画と関連リンクの内容)

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YouTube 公開用: これを読んでいる方への注意・言い訳

これはコンテンツの原稿案であり, 私の勘違いや単純なミスを含めた間違いも含まれた文章・コンテンツです. そのつもりで内容を眺めてください.

勉強会の最中や後で指摘を受けてオリジナルの原稿には修正を入れ続けますが, 多重管理が大変なのでこちらの記録自体はいちいち修正しません. もちろん指摘は歓迎しますし, 個々の md に関して指摘された部分は修正します.

適当なタイミングでコンテンツ・サービスをリリースするので, もしあなたが間違いを潰した (少ない) バージョンのコンテンツで勉強したいなら, それを待ってください.

講義動画と関連リンク

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内容: コンテンツ (案) からの転記

第7文

en.7

We will raise this conjecture (the purport of which will hereafter be called the Principle of Relativity) to the status of a postulate, and also introduce another postulate, which is only apparently irreconcilable with the former, namely, that light is always propagated in empty space with a definite velocity $c$ which is independent of the state of motion of the emitting body.

補足

相対性原理

相対性原理が出てくる文なのでやはり決定的に大事な文です.

論文が書かれた時点では一次の微少量, つまり一次近似まででしか成り立つことがわかっていない言明がありました. 高次まで成り立つかわかりませんし, 厳密に成り立つかどうかはなおさらです. これを一気に厳密に成り立つとし, さらに原理のレベルにまで持ち上げるという非常に強い主張をしています.

公理・公準

名詞postulateはふつう公準と訳すようです. 数学だとふつう公理はaxiomをあてます. 以下で説明する理由によってpostulateを公理と訳しました.

そもそも公準・公理という日本語自体がわからないでしょうから, 補足しておきます. これはユークリッド幾何に由来する言葉です. 哲学などでは区別して使われているかもしれません. しかし数学や物理では必ずしもはっきりした区別はありません. とりあえずは同じ意味だと思ってもらって構いません.

公理は物理よりも数学や論理学でよく出てきます. ときどき特に公理は「自明な前提」のように言われることもあります. 少し凝った話をしようと思うと初学者にとっては何が・どこか自明かわかりません. 単に理論を進めるための仮定・議論の前提だと思ってください.

予想

Conjectureは「予想」と訳します. 数学でもよく使われる単語です. いくつかの傍証があって成り立つとは思われているものの, まだ完全解決にいたらない言明は予想と呼ばれます. 数論に関わるフェルマー予想やゴールドバッハ予想などが有名でしょう. この予想がconjectureです.

光速を表す文字$c$

ドイツ語原文とフランス語では大文字$V$を使っていて, 英語版では$c$を使っています. 現代物理では英語版のように光速には小文字の$c$をあてています. これは真空中での光速の値を定数として採用していて, 時空の単位の基準になっています.

もちろんドイツ語の原論文が書かれた頃はそうした認識がなかったので, 単に論文中で特殊な意味を持たせた大文字の$V$で書かれています.

黒体輻射

Radiation (輻射)はアインシュタインの他の仕事とも関係が深いので, 簡単に補足説明しておきます. 最近は放射と呼ぶ方がよくあるかもしれません.

黒体輻射(black body radiation)の議論があり, 同じ1905年にアインシュタインが革命的な論文を書いています. どのくらい革命的かと言えば, アインシュタインのノーベル賞の業績はこの黒体輻射に関する光電効果の説明に対してあてられたほどです. 正確にはこれ以外にもいくつか光電効果の論文を書いていてそれらも含むようですが, 1905年の論文の意義は薄れません.

第8文

対象文

en.8

These two postulates suffice for the attainment of a simple and consistent theory of the electrodynamics of moving bodies based on Maxwell's theory for stationary bodies.

de.8

vor = fore (before) aus = out voraus = ahead, before setzungen = setzen -> Setzung -> Setzungen Umgebung unter - under

Diese beiden Voraussetzungen genügen, um zu einer einfachen und widerspruchsfreien Elektrodynamik bewegter Körper zu gelangen unter Zugrundelegung der Maxwellschen Theorie für ruhende Körper.

fr.8

pour = for former = form

Ces deux postulats suffisent entièrement pour former une théorie simple et cohérente de l'électrodynamique des corps en mouvement à partir de la théorie maxwellienne des corps au repos.

it.8

Questi due postulati bastano a pervenire ad un'elettrodinamica dei corpi in movimento semplice ed esente da contraddizioni, costruita sulla base della teoria di Maxwell per i corpi in quiete.

sp.8

Basándonos en la teoría de Maxwell para cuerpos en reposo, estas dos hipótesis son suficientes para derivar una electrodinámica de cuerpos en movimiento que resulta ser sencilla y libre de contradicciones.

ru.8

Эти две предпосылки достаточны для того, чтобы, положив в основу теорию Максвелла для покоящихся тел, построить простую, свободную от противоречий электродинамику движущихся тел.

sch.8

由这两条公设, 根据静体的麦克斯韦理论, 就足以得到一个简单而又不自相矛盾的动体电动力学。

jp.8

静止物体に対するマクスウェル理論に基づいて単純で首尾一貫した運動物体の電気力学の理論を構築するには, これらふたつの仮定で十分である.

英語解説

文構造

主な構造はごく単純な第一文型 SV です.

もちろん suffice for を動詞句とみなして次のような第 3 文型 SVO を基礎構造と見ても構いません.

ここでは前者の解釈を取ります.

前文で公理をふたつ設定しているのでその存在の様子を議論する文です. 詳しく見ましょう.

These two postulates suffice

先程コメントした通り第一文型 SV で, とにかく these two postulates が存在していて, その存在の様子が suffice です. 端的な訳としては「これらふたつの公理 (公準) で十分である」でいいでしょう.

この論文全体の特徴がここにも現れています. 何かといえば these と two という修飾です. These だけでも十分なところを「ふたつの公理」だと強調しているのです. ふたつ大事な仮定をしていて, 両方それぞれ大事な意味があるからそれを絶対に忘れるな, というメッセージと思ってもいいでしょう.

さて, 存在の様子が suffice 「十分」なのはわかりました. もちろんどう十分なのかが気になります. それが次の for the ataignement で示されています.

for the attainment of a simple and consistent theory

主な構造を第 3 文型 SVO と思うなら目的語にあたります. 端的な訳としては「単純で首尾一貫した理論を得るためには」でいいでしょう.

まず attainment に定冠詞がつき, theory に不定冠詞 a がついていることに注意します. つまり theory は初出のよくわからない概念なので, あとに補足説明が来るはずです.

この the attainment の the は日本人にはなかなかつけられない定冠詞です.

TODO この the の気分をどう説明するか?

Attainment はもともと他動詞 attain なので, of a simple and consistent theory 「単純で首尾一貫した理論」は目的語です. 直接的な英文理解を超えた物理としての気分を補足で解説します. 興味があれば読んでみてください.

ここで a theory で不定冠詞がついているので補足説明が必要です.

of the electrodynamics of moving bodies

A theory の直接的な補足説明をしている句で「運動物体の電気力学」と訳せばいいでしょう. タイトルで提示された問題を解決するにはこのふたつが重要だという宣言です. 学問名・分野名を表す electrodynamics には定冠詞 the がついていて moving bodies は無冠詞の複数であることに注意しましょう. ずっと議論をしているから the electrodynamics であり, moving bodies については特定の運動物体ではなく一般的な運動物体を指しています.

based on Maxwell's theory for stationary bodies

最後の補足で「静止物体に対するマクスウェル理論に基づいて」と訳せばいいでしょう. ここでは based on 「---に基づいて」を動詞句とみなして目的語が Maxwell's theory と捉えてください. さらに何に対する理論なのかを for stationary bodies で表しています.

この句の based の意味上の主語は the electrodynamics でいいでしょう. 意味的にも「運動物体の電気力学は静止物体に対するマクスウェル理論に基づく」と綺麗におさまります.

定冠詞 the の限定がどうかかるかをここで補足説明しているともみなせます. TODO 何を言っていたのか忘れてしまった

Theory には冠詞の代わりに Maxwell's が定冠詞としてはたらいています. 一方で stationary bodies は複数で冠詞なしです. こちらも特定の静止物体ではなく一般の静止物体に言及しています.

単語

補足

エーテル

歴史的にエーテルの影響は甚大で定冠詞 the で「あなたもご存知の」と言われるほどです. くり返しを厭わずコメントしましょう. 次にコメントする「単純で首尾一貫した理論」ともつながる話です.

もともと振動・波動についてはフックやニュートンによる理論がありました. 波とは何なのかという話です. いまとなっては「悪い名前」であることがわかっている量子力学の「波動関数」, そして昔の混乱を表す「量子力学的粒子の粒子性・波動性」があるように, 全くもって簡単な話ではないのです.

エーテルに話を戻しましょう. 振動・波動, 略して波が何かといえば媒質の運動の様子なのです. 目に見えない音にしても, 高校物理で勉強するように媒質である空気の粗密の伝播の様子が音・音波として伝わります. 光についても同じように媒質の運動の様子だと思いたくなるのが物理学者の人情です. そこで想定された媒質がエーテルです.

単純で首尾一貫した理論

オッカムの剃刀と呼ばれる有名な議論があります. これは「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くを仮定するべきでない」とする指針です. これは一般的に理論を作るときの指針とされていて, ゴリゴリに理屈が大好きな西洋に限らず, 歴史上で世界中の人類が採用してきていると思います.

首尾一貫性はともかくなぜ単純性を求めるか, 簡単に説明しておきます. 一般に余計なことをいろいろ考えていると混乱するからです. たいていの人間は複雑なことを処理しきれないといっても構いません. まずはできる限り単純にし, 必要に応じて条件をつけて複雑にしていき, 複雑すぎて扱える限度を超えてきたらまた単純化できないか考える, このステップが基本的です.

物理での典型例が天動説と地動説です. 史実はともかく一般に流布していて私が把握しているのは次のような見解です. 大昔は観測精度が低く, 天動説でも地動説でも科学としての精度に問題はありませんでした. しかし時代が上がるにつれてもっと詳しく知りたい・知るべき流れが生まれ, 観測精度が上がると天動説を指示していては不都合な観測結果が出てきました. いわゆる周転円で天動説を修正できはしても, 理論がどんどん複雑になってしまったのです. そこで地動説を採用すると余計な周転円が一気に消えて理論が単純になりました. こうした歴史的な経緯もあって, 特に自然科学を考える上ではなるべく単純な理論を取ることが大事です.

念のため書いておくとここで問題になっているのは理論が採用する仮定の単純さです. そこからの議論が複雑になるのは問題になりません. 理論の単純さは採用する仮定の単純さと少なさです.

この文で問題になった単純さはエーテルの存在を仮定するかどうかです. 先ほど力学的な振動波動の伝播では媒質が必要と言いました. 光は電磁波なので光の伝播にも媒質が必要なのではないかというのです. しかしそれが何かはよくわからないのでエーテルという媒質を想定しました. 正体不明の存在を仮定する複雑さを削れるので嬉しいという理論の優越性を主張しているのです.