第029回 第15文の英文読解・第16文の多言語比較¶
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まず確認¶
- 録画はじめた?
- 音は大丈夫?
- 一度音声が入っていなくてひどい目に遭ったことを忘れないように.
- 吃音があり, 言葉は非常に聞き取りづらいと思うのでそのつもりで聞いてほしい.
- 必要なら適当な手段で文章を書いて「話す」こともある.
YouTube 公開用: これを読んでいる方への注意・言い訳¶
これはコンテンツの原稿案であり, 私の勘違いや単純なミスを含めた間違いも含まれた文章・コンテンツです. そのつもりで内容を眺めてください. 勉強会の最中や後で指摘を受けてオリジナルの原稿には修正を入れ続けますが, 多重管理が大変なのでこちらの記録自体はいちいち修正しません. もちろん指摘は歓迎しますし, 個々の md に関して指摘された部分は修正します. 適当なタイミングでコンテンツ・サービスをリリースするので, もしあなたが間違いを潰した (少ない) バージョンのコンテンツで勉強したいなら, それを待ってください.
講義動画と関連リンク¶
この記事・動画に特化したリンク先は次の通りです。
- YouTube へのリンク: 第15文の英文読解・第16文の多言語比較 アインシュタインの特殊相対性理論の原論文を英語・多言語で読む会 よくわからない数学 理系のための語学・リベラルアーツ
- YouTube 勉強会シリーズのリスト: アインシュタインの特殊相対性理論の原論文を多言語で読む会
以下いつもの関連コンテンツ群です。
記事公開手順メモ¶
- 動画が変換でき次第, YouTube にアップしておく
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- 動画へのリンクを書き換える
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- 動画を公開して Twitter・Slack で共有
今日の予定¶
- 第 15 文の読解
- 第 16 文の多言語比較
進捗・TODO・今日のメモ¶
内容: コンテンツ (案) からの転記¶
プチ共有¶
数学徒用キリル文字記憶法¶
多言語学習: 日本語の力を上げるために¶
このサイトは理系のためのリベラルアーツ・総合語学という大きな方向性があります. その中で語学, 特に英語は重要な核の一つです. 英語一つだけでも大変なのになぜたくさんの (自然) 言語を扱うのかと思っている方がいます. あなたもそうかもしれません. 結論から言えば総合的な言語への認識を上げるため, とりわけ自然言語の運用力を上げるためです. もっと強く言えば, 母語 (である日本語) の運用精度を上げるためです. 以下, 母語の代わりに日本語と書くことにします.
よく言語に関する能力は母語 (日本語) の能力で決まると言われます. 実際, 日本語で言われてさえわからないことが英語や他の言語ではまず理解できません. かといってなかなか日本語それ自体を勉強するのは大変です. いちいち日本語学・日本語の言語学の専門書の適切な記述にあたれるわけでもありません. そんなときは比較対象として他の国の言語を勉強することで, 逆説的に日本語に焦点を当ててみよう, それが多言語に触れる理由です.
例えば実際にロシア語の本を読んでいて出会った例を挙げましょう. 日本語で「医者の兄」というとき, 「ある医者の兄」と「医者である兄」の意味があります. しかしロシア語ではこれらをはっきり区別します. 特に брат доктора (brat doktora) は「ある医者の兄」の意味です.
特に自然科学は日常に潜む何気ない現象を詳しく調べることが全てのはじまりです. 日々話す日本語・自然言語の何気ない現象に目を向け, 一歩立ち止まって考えるのは自然科学を考える上でも大事な営みです. 英語だけでは見えない世界もたくさんありますし, 言語にも好き嫌いがあります. だからこそいくつかの言語の世界に触れてみよう・触れてみてほしい, そんな思いを込めて私自身日々勉強しています.
第15文¶
対象文¶
en.15¶
If a material point is at rest relatively to this system of co-ordinates, its position can be defined relatively thereto by the employment of rigid standards of measurement and the methods of Euclidean geometry, and can be expressed in Cartesian co-ordinates.
de.15¶
Ruht ein materieller Punkt relativ zu diesem Koordinatensystem, so kann seine Lage relativ zu letzterem durch starre Maßstäbe unter Benutzung der Methoden der euklidischen Geometrie bestimmt und in kartesischen Koordinaten ausgedrückt werden.
ja.15¶
もしある質点がこの座標系に対して相対的に静止しているなら, その位置は剛体の物差しによる測定とユークリッド幾何の方法で定義でき, デカルト座標で表現できる.
英語解説¶
文構造¶
- If a material point is at rest
- relatively to this system of co-ordinates,
- its position can be defined
- relatively thereto
- by
- the employment of rigid standards of measurement
- and
- (by) the methods of Euclidean geometry,
- and (its position) can be expressed in Cartesian co-ordinates.
明確にするために省略されている単語を括弧で追加してあります. 主節が and でつながってふたつあり, if 節はその両方にかかっているので上のような構造で書いています.
特にひとつ目の主節が長いのでまずは基本構造を抜き出してみましょう.
- if a point is at rest
- its position can be defined
- and
- its position can be expressed
ここでそれぞれよくわからない点があるので, 補足説明をぺたぺた張りつけると上の巨大で複雑な文ができます. 順に詳しく見ましょう.
If a material point is at rest relatively to this system of co-ordinates¶
上に書いた通り主な構造は a material point is (at rest) の第一文型 SV です. 主語は a material point で不定冠詞の a に注目しましょう. 部が切り替わったばかりなので新たな話がはじまっているのです. そして単に「粒子 (質点) が存在する」と言われてもよくわからないので, 存在の様子が知りたくなります. それが at rest 「静止している」です.
TODO 前置詞句自体で補語の役割をはたす. 文法の本にもきちんと書いてある. be 動詞は存在よりも状態.
そして静止の様子はさらに踏み込んで補足説明されています. 相対性理論で重要なのはまさにその相対性で, 何に対して静止しているように「見える」かが問題です. それが this system of co-ordinates 「この座標系」です. これは前文の「静止系」であり, 「ニュートン力学がよく成り立つ系」と定義されていました.
最後に if は単なる従属接続詞で, 意味上は明らかで文法上の役割も明らかです. 文法上で従属節は前に置いても後ろに置いてもいいところ, この条件節を前提として主節を読み込んでほしいというメッセージから, 先に条件節を出している意図もきちんと読み込みましょう. 読み手が読みやすいように要素を並べ替えるのも著者の大事な仕事です.
its position can be defined relatively thereto¶
受身形なので正確には対応する文型がありません. 強いていうなら第一文型 SV でしょう. つまり its position 「その位置」がとにかく存在し, その存在の様子が can be defined 「定義されうる」なのです.
位置と言われるとどこかが気になります. それはまず thereto 「そこへ, そこに」で指示され, さらに relatively 「相対的に」で補足されます. ここでも相対的というキーワードが出てきていますし, 実際大事です.
by the employment of rigid standards of measurement¶
さて, 定義されるのはいいとしてどう定義するのかという問題が出てきます. 構文として受身なので, 本来の能動態での主語が何なのかと言ってもいいでしょう. それがこの by が導く句です.
TODO 主語というより手段とした方がいいだろう. あえて能動態に書き直すなら we では?
The employment 「利用」は抽象的な不可算名詞と定冠詞, rigid standards 「剛体の物差し」は一般的な複数形, measurement 「測定」は抽象的な不可算名詞の冠詞なしで使われていることに注意してください. 物理としては特に気にせずさらっと流し読んでもそれほど困らない部分です. しかし英語としてきちんと向き合おうと思うと全てきちんと考える必要があります.
まず rigid standards は一般に剛体の物差しであれば何でも構わないことを主張しています. (TODO 物差しをいっぱい使うというメッセージもある?) 無冠詞単数の measurement はここでいう測定という行為は具体的な測定を意味しているのではなく, 抽象的・一般的で特定されているわけでもないことを意味しています. (TODO 量子力学で量子測定理論.) 最後の the employment は剛体の物差しによる特定の測定方法という意味で定冠詞がついているのでしょう. 冠詞や名詞の単複の厳格な運用は日本語にはない視点なので, いちいち細かく検討するようにしておくべきです. 数学・物理の文献の読み書きに限定すれば必ずしもどうにもならない概念ではありません. しかし日常の英語では, どれだけ勉強してもネイティブの感覚には永遠に追いつけない部分で, 眺めていて飽きることがないほど面白い概念です.
TODO 名詞の冠詞と単複は上の解釈で問題ない?
and (by) the methods of Euclidean geometry,¶
まず and が何と何と並列させているかが問題です.
TODO 説明が微妙
直後に名詞が来ているので対象は名詞のはずです. もちろん結論から言えば the employment であり, もっと言えば by the employment と by the methods を並列させています.
念のため余計な修飾を潰した主節を見てみましょう.
- its position can be defined by the employment and the methods
- S V by A and B
こう書けば by A and B の形になっていて何が並列されているか見やすくなるはずです.
次のポイントは the methods 「(特定の) 方法」です. 定冠詞がついた上で複数形です. どんな方法なのかよくわからないので補足として of Euclidean geometry 「ユークリッド幾何の」がついています. ここでの geometry は分野名「幾何」として使われていて, Euclidean は人名「ユークリッド」から来る形容詞で, 幾何といってもいろいろある中でユークリッド幾何に限定しています.
もっと言えば Euclidean は定冠詞のように使われています. これで the methods で複数形が来ている理由もわかります. ユークリッド幾何にはいろいろな概念・定理・応用があります. 具体的に何かはともかく, ユークリッド幾何に由来するたくさんの方法を使う必要があり, それを複数形で表現しているのです.
and can be expressed in Cartesian co-ordinates¶
要素としては前の and the methods から and が連続して登場するので, 何が並列されているのか, 再びきちんと考える必要があります.
- a, b, c, and d
- TODO カンマは文法上はなくてもいいのでなくても読めるような判断能力が大事.
ここでのポイントは前の要素で "and the methods of Euclidean geometry," と最後にカンマが入っていることです. これは「ここで意味的に切って理解してほしい」ことを表す文法上の符丁なので, 文法上ここでいったん切って考えるべきです. 特に and can be と動詞が来ていて, 名詞を並べている the employment and the methods とは違います.
TODO 説明が微妙.
この二つの点から and が何を結びつけているか見抜く必要があります.
明らかに主語がないので何が主語なのか考える必要があります. 文法上は次のように並列されています.
- its position can be defined
- and
- (its position) can be expressed in Cartesian co-ordinates.
両方とも can be と受身になっているのもポイントです. 省略された主語は its position と思えばいいでしょう. 念のため助動詞があるせいで主語の単複の判定情報からの主語の絞り込みが使えないことも注意しておきます.
TODO can = können, ich kann - du kannst-er kann(?) -wir könenn
さて, 動詞は can be expressed 「表しうる」です. どうやって表すのかが気になるわけで, in が導く句 Cartesian co-ordinates 「デカルト座標」で表すと言っています. ここでは Cartesian が定冠詞のようにはたらく形容詞で定冠詞 + 複数形です. 複数なのはやはり空間変数として$x, y, z$で 3 つあるからです.
TODO de Cartes = デカルト. フランス語は基本的に語末の子音を読まない. Cartesian = カルテシアン.
単語¶
- if = もし
- material = 物質
- point = 点
- material point = 質点
- at rest = 静止した
- relatively = 相対的に
- system = 系
- of: 前置詞
- co-ordinates $\gets$ co-ordinate = 座標
- system of co-ordinates = 座標系
- position = 位置
- define = 定義する
- can = できる
- thereto = それに
- employment = 利用
- TODO rigid = 厳格な
- TODO standard = 標準
- measurement = 測定
- method = 方法
- Euclidean = ユークリッドの
- geometry = 幾何
- Euclidean geometry = ユークリッド幾何
- express = 表現する
- Cartesian = デカルトの
- Cartesian co-ordinates = デカルト座標
補足¶
剛体の物差し¶
実は相対性理論としては剛体は存在しません. 定義によって光速を超えて瞬時に情報が伝わってしまうからです. ここではこれ以上詳しく説明しません. 興味があればぜひ物理を詳しく勉強してください.
ちなみに最近 (2017 年) にいわゆる 4 次元時空の他にもうひとつ, 情報という軸を追加してみてはどうかという論文が出ています.
読み込めていないので私には妥当性が判断できません. 今でもいろいろな議論があることだけお伝えしておきます.
節終了¶
第16文¶
対象文¶
en.16¶
If we wish to describe the motion of a material point, we give the values of its co-ordinates as functions of the time.
de.16¶
Wollen wir die Bewegung eines materiellen Punktes beschreiben, so geben wir die Werte seiner Koordinaten in Funktion der Zeit.
- be: 他動詞を作る接頭辞
- weg = vec <- veho (vehere) -> vector
- describe <- scribe = こする
- schreiben = シュライベン
- (fr) île アイル = 島
- i の山括弧が何か?
- つぎに s が来ることを表す.
- island <- ラテン語が s が入っている.
- Werte = (en) value
- 発音: ヴェルテ
- ダブリュ = ダブルユー
- u v (w) は同じようなもの
fr.16¶
Si nous voulons décrire le mouvement d'un point matériel, les valeurs de ses coordonnées doivent être exprimées en fonction du temps.
- 重要なのは子音
- function = fonction
- 省略でよくわかる: ft, func
- ヘブライ語: 書くのは子音しかない.
- ヤハウェ = YWVH
- あいまい母音
it.16¶
Se vogliamo descrivere il moto di un punto materiale, diamo i valori delle sue coordinate in funzione del tempo.
sp.16¶
Cuando queremos describir el movimiento de un punto material, especificamos los valores de sus coordenadas en función del tiempo.
ru.16¶
Желая описать движение какой-нибудь материальной точки, мы задаем значения ее координат как функций времени.
- (超訳) Wanting to describe motion of some material point we set the sense of its coordinates as function of time.
sch.16¶
如果我们要描述一个质点的运动, 我们就以时间的函数来给出它的坐标值.
ja.16¶
もし質点の運動を記述したいと思うのなら, その座標の値を時間の関数として与える.
英語解説¶
文構造¶
これはシンプルな構造をしています.
- we give the values of its co-ordinates as functions of the time
- If we wish to describe the motion of a material point,
単純に見れば主節の基本構造は第三文型SVOで次の通りです.
- we give the values
詳しく見ていきましょう.
If we wish to describe the motion of a material point¶
主節の説明で困るので if 節からはじめます. 基本構造は we describe the motion で第三文型SVOです. 杓子定規に言えば動詞は wish ですが, これは助動詞で意味としては want to または will くらいに思えばいいでしょう. 主語はいわゆる論文の we で, 動詞 describe は「記述する」です.
目的語は the motion 「(特定の) 運動」で定冠詞 + 単数形の名詞です. 何の運動かは of が導く形容詞句で示していて, of a material point 「ある質点の」と指定されています. これは不定冠詞 + 単数で, 「何でもいいからとにかくひとつ質点を取って, その質点の運動を考えよう」という意図を表しています.
we give the values of its co-ordinates as functions of the time¶
先程見た通りメインは we give the values です. 先程と同じく主語は we で論文の we です. 動詞はただの現在形で三単現の s はありません. 目的語は the values で定冠詞 + 複数形の形になっています.
もちろん the values と言われてもわけがわからないので, of の形容詞句で補足説明されています. まず of its co-ordinates で複数形の co-ordinates はこれまでと同じく$x,y,z$で複数なのでしょう. Its については既に言及されている単数の名詞を指しているわけで ここでは if の条件節で言及した質点と思えばいいでしょう. 既に言及したひとつの質点に関わる値なので the で限定できます.
最後に as が導く句があります. 意味としては文全体を give A as B で「A を B として与える」と見ます. これは we think that A is B と思えますし, as には be 動詞のような等価接続の意味があるので, 第五文型 SVOC 「OC の意味を S が V の視点で変える」の視点で見ても構いません. つまり we give A as B は「私達は A を B とみなす」とも訳せ, give の具体的な意味は文型の型に託しても構いません.
これで 文全体の意味が確定したので最後に as B の B を詳しく見ましょう. これは functions of the time で, functions 「関数」は無冠詞の複数, the time 「時間」は定冠詞 + 単数です. Functions が複数なのは the values に対応していて, 無冠詞なのは何か特定の関数を想定しているわけではないからです. The time は変数として時空の 4 変数$x,y,z,t$のうちのひとつ$t$を指定しているから time が単数で, the は「皆様ご存知の時間変数です」という意味と思えばいいでしょう.