第040回 第20文の多言語比較

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まず確認

YouTube 公開用: これを読んでいる方への注意・言い訳

これはコンテンツの原稿案であり, 私の勘違いや単純なミスを含めた間違いも含まれた文章・コンテンツです. そのつもりで内容を眺めてください. 勉強会の最中や後で指摘を受けてオリジナルの原稿には修正を入れ続けますが, 多重管理が大変なのでこちらの記録自体はいちいち修正しません. もちろん指摘は歓迎しますし, 個々の md に関して指摘された部分は修正します. 適当なタイミングでコンテンツ・サービスをリリースするので, もしあなたが間違いを潰した (少ない) バージョンのコンテンツで勉強したいなら, それを待ってください.

講義動画と関連リンク

この記事・動画に特化したリンク先は次の通りです。

以下いつもの関連コンテンツ群です。

(YouTube 動画の説明欄にいつも張るリンク集)

進捗・TODO・今日のメモ

内容: コンテンツ (案) からの転記

対象文

en.20

It might appear possible to overcome all the difficulties attending the definition of "time" by substituting "the position of the small hand of my watch" for "time".

de.20

Es könnte scheinen, daß alle die Definition der „Zeit" betreffenden Schwierigkeiten dadurch überwunden werden könnten, daß ich an Stelle der „Zeit" die „Stellung des kleinen Zeigers meiner Uhr" setze.

fr.20

Il peut sembler que toutes les difficultés provenant de la définition du «temps» peuvent être supprimées quand, au «temps», nous substituons «la position de la petite aiguille de ma montre».

it.20

Potrebbe sembrare che tutte le difficoltà che riguardano la definizione del "tempo" si potrebbero superare se sostituissi al posto di "tempo" l'espressione "posizione della lancetta piccola del mio orologio".

sp.20

Podría parecer que todas las dificultades relacionadas con la definición del "tiempo" se superarían si en lugar de "tiempo" utilizara "la posición de la manecilla peque˜na de mi reloj."

ru.20

Может показаться, что все трудности, касающиеся определения «времени», могут быть преодолены тем, что вместо слова «время» я напишу «положение маленькой стрелки моих часов\guillemotleft.

sch.20

也许有人认为, 用我的表的短针的位置''来代替时间'', 也许就有可能克服由于定义``时间''而带来的一切困难.

ja.20

「時間」を「私の時計の短針の位置」に置き換えることで, 「時間」の定義に伴う全ての困難を克服できるように思えるかもしれない.

英語

文構造

このitは仮主語でto overcome ---が真の主語です. どんなdifficultiesかがわからないので, attending --- timeで補足説明されています. さらに副詞節by substituting ---が文全体を修飾しています.

It might appear possible to overcome all the difficulties

文型は第二文型SVCです.

Itが何かがto不定詞句で指示してあります. 真の主語であるto不定詞句はto overcome all the difficultiesで, 定冠詞がついています. 時間に関わる問題を議論していたので, それら全ての問題という限定です.

意味として難しいことはないものの, 動詞部分が非常に特徴的です. 単にpossibleというだけでも可能性の示唆で意味が弱いのに, appearで弱めた上にmightまで被せて意味を弱めに弱めています. ドイツ語原文を見ると接続法第2式を使っていて, それを反映させているのでしょう.

アカデミックライティングでは段落冒頭にはふつうその段落のトピックを書きます. 典型的な譲歩系の構文であることとも合わせると, そんな単純な話ではないと話が続くはずです.

attending the definition of "time"

現在分詞の形でall the difficultiesをもっと強く限定する形容詞句です.

ふつうattendは「出席する」という意味で覚えているでしょう. しかしここでは「伴う」という意味で取った方が適切です. これは辞書にも載っている意味です.

目的語はthe definitionと定冠詞がついています. ここではof timeまでセットで限定しているとみなすのが適切です.

by substituting "the position of the small hand of my watch" for "time"

メインメッセージは「---ができる」なので, それを実現する手段を表現しています. このsubstitutingが導く句を理解するにはいつもの五文型の知識が使えます. ここではクォートで括られているため構造が明確で, substitute A for B「AをBの代わりに使う」です. 熟語として覚えてもいい一方, SV A for B, 特にA for Bをforのコアミーニングに合わせて「AとBを交換する」と一般的に捉えることもできます.

構造が見えたのでAとBを詳しく見てみましょう. まずAのthe position of the small hand of my watchは各名詞に定冠詞がついています. ここでもmyは定冠詞相当のはたらきをしているので広義定冠詞として処理しています. 一方Bのtimeは無冠詞単数なので抽象的な概念としての時間を表しています. つまり英文の構造からは「抽象概念を具体物(時計の針の位置)で置き換える」形になっています. 日本語では曖昧になりがちな具体的な時刻・時間と, 抽象概念としての時間が, 冠詞と可算・非可算という名詞に対する概念ですっきり明確に表現しています.

補足

主語が人ではない理由

ここでは主語を人にせずぼかしています. 人にすると誰がそう思っているか書くのが難しいからでしょう. これは論文なので論文の"we"を使う手もあったかもしれませんが, それを避けてあるのです. そもそも論文の"we"は原則として実験事実のような誰もがそう思うことに対して使うので, 「そう思うかもしれない」のところには使いづらいのだと思います. ふつうの文章なら"you"でいいかもしれませんが, 論文で"you"は使いづらい事情もあるのでしょう.

attendの意味

ここでのattendは「出席する」ではなく「伴う」と紹介しました. 解説でも書いたように「伴う」は辞書にも載っている意味です.

実は私も最初はこの意味を知らず, 出席ではおかしいと思って「関わる」と訳出したのですが, 改めて辞書を調べたらここではぴったりの「伴う」があったので, これに変えました. 知っている単語だからと言ってその意味を無理にあてはめてもうまく行かないことがあります. そういう場合は一呼吸置いてきちんと辞書を調べてみましょう. 特に意外な意味に出会った場合は英英辞典を見たり語源を調べて, 何故その意味を持つにいたったか考えてみると言語に対する直観が磨けます.

substitute A for Bの意味

これについて念のため書いておきましょう. 一般的に「AとBを交換する」だとAとBが等価なように感じるかもしれません. しかし純粋に構造だけで見ると, まずsubstiture Aで意味が完結していて補足としてfor Bがあります. つまり「Aを使う」ことが前提で「Bの代わりに」が補足情報として添えられているため, 「AをBの代わりに使う」というAが前に出てくる訳語が選ばれています.