第042回 第21文の多言語比較・読解

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まず確認

YouTube 公開用: これを読んでいる方への注意・言い訳

これはコンテンツの原稿案であり, 私の勘違いや単純なミスを含めた間違いも含まれた文章・コンテンツです. そのつもりで内容を眺めてください. 勉強会の最中や後で指摘を受けてオリジナルの原稿には修正を入れ続けますが, 多重管理が大変なのでこちらの記録自体はいちいち修正しません. もちろん指摘は歓迎しますし, 個々のファイルに関して指摘された部分は修正します. 適当なタイミングでコンテンツ・サービスをリリースするので, もしあなたが間違いを潰した (少ない) バージョンのコンテンツで勉強したいなら, それを待ってください.

講義動画と関連リンク

この記事・動画に特化したリンク先は次の通りです。

以下いつもの関連コンテンツ群です。

(YouTube 動画の説明欄にいつも張るリンク集)

進捗・TODO・今日のメモ

内容: コンテンツ (案) からの転記

対象文

en.21

And in fact such a definition is satisfactory when we are concerned with defining a time exclusively for the place where the watch is located; but it is no longer satisfactory when we have to connect in time series of events occurring at different places, or---what comes to the same thing--- to evaluate the times of events occurring at places remote from the watch.

de.21

Eine solche Definition genügt in der Tat, wenn es sich darum handelt, eine Zeit zu definieren ausschließlich für den Ort, an welchem sich die Uhr eben befindet; die Definition genügt aber nicht mehr, sobald es sich darum handelt, an verschiedenen Orten stattfindende Ereignisreihen miteinander zeitlich zu verknüpfen, oder --- was auf dasselbe hinausläuft --- Ereignisse zeitlich zu werten, welche in von der Uhr entfernten.

fr.21

Une telle définition est dans les faits suffisante, quand il est requis de définir le temps exclusivement à l'endroit où l'horloge se trouve. Mais elle ne suffit plus lorsqu'il s'agit de relier chronologiquement des évènements qui ont lieu à des endroits différents --- ou ce qui revient au même ---, d'estimer chronologiquement l'occurrence d'évènements qui surviennent à des endroits éloignés de l'horloge.

it.21

Una definizione del genere basta infatti quando si tratta di definire un tempo indipendentemente dalla posizione nella quale si trova l'orologio; ma la definizione non basta più quando si tratta di collegare temporalmente serie di eventi che abbiano luogo in posti diversi, ovvero - il che è equivalente - valutare temporalmente eventi che abbiano luogo in posti lontani dall'orologio.

sp.21

De hecho, una definición de este tipo sería suficiente en caso de que se trate de definir un tiempo exclusivamente para el lugar en el cual se encuentra el reloj; no obstante, esta definición ya no sería suficiente en cuanto se trate de relacionar cronológicamente series de eventos que ocurren en lugares diferentes, o --- lo que implica lo mismo --- evaluar cronológicamente eventos que ocurren en lugares distantes del reloj.

ru.21

Такое определение, действительно, достаточно в случае, когда речь идет о том, чтобы определить время лишь для того самого места, в котором как раз находятся часы; однако это определение уже недостаточно, как только речь будет идти о том, чтобы связать друг с другом во времени ряды событий, протекающих в различных местах, или, что сводится к тому же, установить время для тех событий, которые происходят в местах, удаленных от часов. }

sch.21

事实上, 如果问题只是在于为这只表所在的地点来定义一种时间, 那么达样一种定义就已经足够了; 但是, 如果问题是要把发生在不同地点的一系列事件在时间上联系起来, 或者说------其结果依然一样------要定出那些在远离这只表的地点所发生的事件的时问, 那么这徉的定义就不够了.

ja.21

そして実は, 時計が置かれた場所に対する時間を定義することだけに関心がある場合, そのような定義で十分なのだ; しかし別の場所で起きた事象の時系列を繋がなければならないか, または---同じことに帰着するのだが---時計と離れた場所で起きた事象の時間を評価しなければならないとき, それはもはや満足のいく内容にはならない.

英語解説

文構造

まずは文法的に大きな構造を確認しましょう. 特に論文はその主題に沿って文章を組んでいるため, 文・単語など細部の構造も全体の構造から決まる部分が多くなります.

冒頭のAndは議論が直接的に続いていることを表し, 特にis satisfactoryと書かれています. そしてセミコロンのあとにbut it is no longer satisfactoryと来ていて, 前の内容を肯定的に受け取ったあと, 何かしらの意味でそれでは問題があると主張しているはずです. またor to evaluateはhave to connectの言い換えのorです. わかりにくい内容があってそれを補足している様子も見えます.

And in fact such a definition is satisfactory

主な構造は第二文型SVCで次の通りです.

主語は不定冠詞がついていて曖昧さがあります. もちろんsuchでその曖昧さを減らしています. ここでの曖昧さはここまでの「定義」が会話ベースの気分的な定義であることを受けています. 日本語で言えば「何にせよだいたい前の定義で示した気分」くらいの話を英語だと不定冠詞で表現できるとも言えます.

And in factは直接的に前の文を受けています. 「---できるように思うかもしれない」と言っているので, 「実際できることはできる」と言っているからです.

既に全体の構造を見ていて, 後半のbut以下でそれをひっくり返すことがわかっています. 次はwhenからはじまるので, 「状況を限定すれば正しいが一般的には正しくない」という話のはずです. 詳しく確認してみましょう.

when we are concerned with defining a time exclusively for the place

いつ正しいのかを示す副詞節です.

主な構造をどう思うかはひとつの焦点です. ここでは第三文型SVOで捉えます.

形式的には受身のように見えますが, ここはbe concerned with「---に関心がある」という熟語・動詞句とみなすべきです. 目的語は動名詞definingが導く名詞句です.

ここでのポイントはdefining a timeのa timeです. 前文でのtimeは無冠詞で抽象概念としての時間でした. ここでは不定冠詞がついているので何かしら具体化された存在です.

どういう意味で具体化されたのかと思うわけで, 続けて読むとexclusively for the place「特定の位置に対して」とあります. ここでexclusivelyをつけた上でthe placeとガチガチの限定が走っていて, ここに対して定義されたa timeであることがわかりました. こう思うとここでのtimeは日本語としては時間よりも時刻と訳した方が適切かもしれません.

さて, the placeと定冠詞つきのplaceが出てきました. ここのthe placeには多少の曖昧さがあるため, 曖昧さをなくすために関係副詞がつきます.

where the watch is located;

これはthe placeの曖昧さをなくすための補足です. どんな意味でthe placeなのかというと, 「時計がある位置」という意味でのtheだったのです.

もしあなたが何となくでも特殊相対性理論を知っているなら, 「知っている話がやってきた」と思うかもしれません. 実際にそうです. これはまさにその議論を提唱した論文であり, 慎重さに慎重さを重ねて論陣を展開しています. じっく見ていきましょう

but it is no longer satisfactory

文法的にも内容的にも特に言うことはありません. 強いていうなら単なるnotではなくno longerという表現を使っているのが内容的なポイントでしょうか. ここまでのちゃぶ台をひっくり返します. どうひっくり返すのか確認しましょう.

when we have to connect in time series of events occurring at different places,

あるときには問題なかったわけで, 内容的には問題がある状況が出てくるはずです.

大きな構造は第三文型SVOとして次のように取ってみます.

動詞はconnect inを動詞句または熟語とみなします. 実際connect in seriesで「直列につなぐ」と訳すときがあり, まさにこれを使っていると思っても構いません. ここでのseriesは複数形とみなせばよく, time seriesはふつう「時系列」と訳します. そして単なる時系列ではなくof events以下でさらに補足が入ります. 単なる「事象の時系列」ではなく「異なる場所で起きた事象の時系列」です.

実際に前段では「時計を一つ取り上げ, その時計がある場所」の時間を議論していました. いろいろな場所での事象とその時系列を考えるときに問題があることが示唆されました.

最後に助動詞have toを考えましょう. これによって「こういう状況を考える必要があるので前段の議論・定義では不十分なのだ」と強く示唆しています. 一語一語を徹底的に選び抜いていて, まさにお手本のような論文です.

---what comes to the same thing---

これはor to evaluateでorとtoの間に入る挿入句で, 意味を確定する上で先に挿入句を見ておいた便利です. 実は慣用句で「結局同じことだが」という意味です. ここから直前の接続詞orは言い換えを表すorであることも見えます.

or to evaluate the times of events occurring at places remote from the watch.

間に挿入句も入っているため, ぱっと見ではto不定詞のように見えるかもしれません. 実際にはhave to connect or have to evaluateを表すorで, このorは言い換えを表すorです. 既に挿入句の解析からもわかっていることです. 実は言い換えであることは目的語句が次のように似ていることからもわかります.

文章を書く技術として,似た内容を並べるときはなるべく同じ単語を使うことで, 違う部分を際立たせて違いを読み取りやすく工夫しているのです.

意味としてはevaluate the times of eventsで「各事象の時刻を評価する」で, 対象が時系列から各事象の時刻に変わりました. ここでthe timesと定冠詞を使っていることはしつこく注意しましょう. 場所も問題だったわけでそれに対する補足はat places remote from the watchです.

事象が無冠詞複数であることと合わせてplacesは無冠詞複数です. ここでplacesに定冠詞がついていない以上, the timesに合わせているわけではないことに注意してください.

もうひとつ, from the watchと時計が定冠詞単数で指定されていることに注意してください. 特定のひとつの時計を使っていても時計から離れた場所の場所での事象を考えるとうまくいかないという主張です. 冠詞の有無・単複に本質的な情報が詰まっているので見落としてはいけません.

節終了