Hilbert 空間から始めるよく分からない数学 2 Hilbert 空間の定義

この記事は4分で読めます

このサイトは学部では早稲田で物理を, 修士では東大で数学を専攻し, 今も非アカデミックの立場で数学や物理と向き合っている一市民の奮闘の記録です. 運営者情報および運営理念についてはこちらをご覧ください.

中高の数学の復習から専門的な数学・物理までいろいろな情報を発信しています.
中高数学に関しては自然を再現しよう役に立つ中高数学 中高数学お散歩コース
大学数学に関しては現代数学観光ツアーなどの無料の通信講座があります.
その他にも無料の通信講座はこちらのページにまとまっています.
ご興味のある方はぜひお気軽にご登録ください!


とりあえず Hilbert 空間自体何か, というのをまず言わないといけない気がしたので, 天下りに定義だけしておこう. 次回以降で物理のどこでどういう風に出てくるか, これがあるとどう嬉しいかというのは説明するので, 今回は辛抱してほしい. 読み飛ばして必要になったら参照, というのでも構わない.

メインターゲットに据えるのは無限次元の Hilbert 空間なのだが, 有限次元も同じくらいに大事だ. 有限次元の Hilbert 空間は実数または複素数係数の Euclid 空間, (mathbb{R}^d) や (mathbb{C}^d) だ. これをもとに無限次元まで含めた定義をしているので, それを頭において次の定義を読んでほしい.

まず内積空間からはじめよう. と思ったが, 念の為に線型空間から定義しておこう.

定義: 線型空間.

(mathbb{F}) を (可換) 体とする. (mathbb{R}) または (mathbb{C}) と思っておけばいい. (mathcal{H}) が次の条件を満たすとき, (mathcal{H}) を (mathbb{F}) 上の線型空間であるという. 以下では (Psi, Phi, Theta in mathcal{H}), (alpha, beta in mathbb{F}) とする.

(1) (交換則) (Psi + Phi=Phi + Psi).
(2) (結合則) (Psi + (Phi + Theta)=(Psi + Phi) + Theta).
(3) すべての (Psi in mathcal{H}) に対し, (Psi + 0 = Psi) が成り立つベクトル 0 がただ一つ存在する.
(4) すべての (Psi in mathcal{H}) に対し, (Psi + Psi’ = 0) が成り立つベクトル $Ψ’ $ がただ一つ存在する. この (Psi’) を (- Psi) と書く.
(5) (1Psi = Psi).
(6) (alpha (beta Psi) = (alpha beta )Psi).
(7) (alpha (Psi + Phi) = alpha Psi + alpha Phi).
(8) ((alpha + beta )Psi = alpha Psi + beta Psi). (blacksquare)

ややこしく色々書いてあるが, いわゆる「足し算とスカラー倍ができる」と思っておけばいい. 私もすぐ忘れる.

では内積空間を定義しよう.

定義:内積空間.

(mathbb{F}) を (mathbb{R}) または (mathbb{C}) とし, (mathcal{H}) を (mathbb{F}) 上の線型空間とする. (Psi), (Phi in mathcal{H}) に対し, 次の 4 つの性質を持ち, (mathbb{F}) に値を持つ 2 変数関数 (langle cdot, cdot rangle) を (mathcal{H}) の内積と呼び, (mathcal{H}) を (mathbb{F}) 上の内積空間または前 Hilbert 空間と呼ぶ.

(H.1) (線型性) 任意の (Psi, Phi_1, Phi_2 in mathcal{H}) と (alpha, beta in mathbb{F}) に対して begin{align} langle Psi, alpha Phi_1 + beta Phi_2 rangle = alpha langle Psi, Phi_1 rangle + beta langle Psi, Phi_2 rangle. end{align}
(H.2) (対称性) 任意の (Psi, Phi_in mathcal{H}) に対して begin{align} langle Psi, Phi rangle = overline{langle Phi, Psi rangle}. end{align} ここで複素数 (alpha) に対し (overline{alpha}) は複素共役を表す. (mathbb{F}) が実数の場合は複素共役は不要.
(H.3) (正値性) 任意の (Psi in mathcal{H}) に対して (langle Psi, Psi rangle geq 0).
(H.4) (正定値性) (langle Psi, Psi rangle = 0) ならば (Psi = 0_{mathcal{H}}). ここで (0_{mathcal{H}}) は (mathcal{H}) の零ベクトルを表す. 以下, 面倒なので (0_{mathcal{H}}) も 0 と書く.

これもいちいち書くと鬱陶しいが, (mathbb{C}^d) の内積を考えて, それが満たす性質だと思えばいい. (mathbb{R}^d) だと複素共役がなくなるだけだ.

ようやくだが Hilbert 空間の定義をしよう.

定義:Hilbert 空間.

内積空間 (mathcal{H}) がその内積から決まる距離に関して完備となるとき, (mathcal{H}) を Hilbert 空間という.

完備というのが出てきたが, とりあえずどうでもいい. 数学的な性質の良さをつけただけだ. 気になる向きは調べてほしいが, 実数の完備性 (連続性) の完備と同じで「任意の Cauchy 列は収束する」ということだ. あと「内積から決まる距離」というのが出てきたが, 一応これも定義しよう. どんどん面倒になっていくが, まずはノルムを定義する.

定義:(内積から決まる) ノルム

(Vert Psi Vert := sqrt{langle Psi, Psi rangle} (geq 0)) で定義される関数 (Vert cdot Vert) を内積から定まるノルムという.

これは要はベクトルの長さに対応する. 同じ線型空間に対して色々な「長さ」を考えることができるし, またそれを考える必要もあるので, わざわざ長さと言わずノルムと呼ぶ. 当面はあまりご利益を感じられるような話をしない予定なので意味が分からないだろうが, とりあえず言葉自体はよく使うので覚えておいてほしい.

定義:内積から決まる距離.

(d(Psi, Phi) := Vert Psi – Phi Vert) で定義される 2 変数関数 (d(cdot, cdot)) をノルムから定まる距離という. 特にノルムが内積から定まるとき, この距離は内積から定まる距離という.

これも距離空間というのがあって, そこの一般論がきちんと使えますよ, というポーズのために導入しておいた言葉なので, これも今は詳細はどうでもいい.

(mathbb{R}^d) と (mathbb{C}^d) がそれぞれ実または複素係数の Hilbert 空間というのは言ったが, それ以外の例を出さないといけないだろう. 量子力学以外でも Fourier 変換やら電磁気やらでも使うのだが, とりあえず数列空間 ((ell^2) と書く) と Lebesgue の意味で 2 乗可積分な関数の空間 ((L^2(mathbb{R}^d)) と書く) を紹介したい. ただ, もう大分長くなってきたのでこれは次回に回そう.


中高の数学の復習から専門的な数学・物理までいろいろな情報を発信しています.
中高数学に関しては自然を再現しよう役に立つ中高数学 中高数学お散歩コース
大学数学に関しては現代数学観光ツアーなどの無料の通信講座があります.
その他にも無料の通信講座はこちらのページにまとまっています.
ご興味のある方はぜひお気軽にご登録ください!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る
  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

このサイトについて

数学・物理の情報を中心にアカデミックな話題を発信しています。詳しいプロフィールはこちらから。通信講座を中心に数学や物理を独学しやすい環境づくりを目指して日々活動しています。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

YouTube チャンネル登録

講義など動画を使った形式の方が良いコンテンツは動画にしています。ぜひチャンネル登録を!

メルマガ登録

メルマガ登録ページからご登録ください。 数学・物理の専門的な情報と大学受験向けのメルマガの 2 種類があります。

役に立つ・面白い記事があればクリックを!

記事の編集ページから「おすすめ記事」を複数選択してください。