Hilbert 空間から始めるよく分からない数学 4 Cauchy-Schwarz の不等式

この記事は3分で読めます

このサイトは学部では早稲田で物理を, 修士では東大で数学を専攻し, 今も非アカデミックの立場で数学や物理と向き合っている一市民の奮闘の記録です. 運営者情報および運営理念についてはこちらをご覧ください.

中高の数学の復習から専門的な数学・物理までいろいろな情報を発信しています.
中高数学に関しては自然を再現しよう役に立つ中高数学 中高数学お散歩コース
大学数学に関しては現代数学観光ツアーなどの無料の通信講座があります.
その他にも無料の通信講座はこちらのページにまとまっています.
ご興味のある方はぜひお気軽にご登録ください!


今回は Cauchy-Schwarz の不等式の証明をする. この段階でいきなり一般的にこの不等式の証明をつけるのはどうしようかと思ったのだが, それでもつけることに意味があると思ったのは次の理由による. これから Legendre 多項式や Laguarre 多項式といった直交多項式と Hilbert 空間の関係を紹介していくが, そのときに前回紹介したのとはまた少し違う内積を使う. 少し違う場合であっても, 内積の公理を満たすのであればいつでも成り立つということを伝えたいからだ. Cauchy-Schwarz の不等式は内積の公理から直接証明できることであって, 内積の具体的な取り方にはよらないということは, 証明を見ればはっきりするから.

あとで使うということもあって, Cauchy-Schwarz の不等式の証明の前にいくつか概念や予備定理を準備しよう. 有限次元と同じことだが, 念の為きちんと定義しておきたい.

以下, (mathcal{H}) を Hilbert 空間とする.

定義:規格化.

零でない任意のベクトル (Psi in mathcal{H}) に対して次の単位ベクトル (tilde{Psi}) を作る手続きを規格化という. begin{align} tilde{Psi} := frac{Psi}{Vert Psi Vert}. end{align}

定義:ベクトルの直交.

ベクトル (Psi), (Phi in mathcal{H}) が (langle Psi, Phi rangle = 0) を満たすとき, (Psi) と (Phi) は直交するといい, (Psi perp Phi) と書く.

定理. (Pythagoras の定理)

(Psi), (Phi in mathcal{H}) が直交するならば begin{align} Vert Psi + Phi Vert^2 = Vert Psi Vert^2 + Vert Phi Vert^{2}. end{align}

(証明) 定義に従って左辺を直接計算すればいい. begin{align} Vert Psi + Phi Vert^2 = Vert Psi Vert^2 + 2 Re langle Psi, Phi rangle+ Vert Phi Vert^2 = Vert Psi Vert^2 + Vert Phi Vert^{2}. end{align} ここで (Re z) は複素数 (z) の実部を表す. (blacksquare)

もちろん, これはいわゆる「三平方の定理」だ. Pythagoras の定理も内積の公理から直接出てくることが分かる. こういう感じで Cauchy-Schwarz の不等式も証明できる.

定理. (Cauchy-Schwarz の不等式)

任意の (Psi), (Phi in mathcal{H}) に対して begin{align} | langle Psi, Phi rangle | leq Vert Psi Vert , Vert Phi Vert. end{align} 上式で等号が成り立つのは (Psi) と (Phi) が一次従属のときに限る.

(証明) 場合分けして考える. (Phi = 0) のとき, 成立は自明. (Phi neq 0) のとき, (Phi’ := Phi / Vert Phi Vert) とすると, begin{align} 0 leq Vert Psi – langle Psi, Phi’ rangle Phi’ Vert ^2= Vert Psi Vert^{2} – left| langle Psi, Phi’ rangle right|^{2}. end{align} したがって (left| langle Psi, Phi’ rangle right|^{2} leq Vert Psi Vert^{2}) となり, (Phi’) を (Phi) に戻して Cauchy-Schwarz の不等式が成り立つ.

等号成立時の条件について考えよう. 等号が成り立つとき, 上の導出から (Psi – langle Psi, Phi’ rangle Phi’ = 0) だから一次従属性が分かる. 逆, つまり一次従属なら等号が成り立つことは明らか. (blacksquare)

このとおり, Cauchy-Schwarz の不等式は内積の性質しか使っていない. ついでに Pythagoras の定理も内積の性質から導けることが分かった. 次回はこの認識に立って色々な (L^2) 空間, 内積とそこから出てくる直交多項式を紹介したい. 具体的には色々な線型の偏微分方程式の解法で出てくることを紹介して, それらの背後に Hilbert 空間があること, Hilbert 空間で統一的に数学的な部分を把握できることを紹介する.


中高の数学の復習から専門的な数学・物理までいろいろな情報を発信しています.
中高数学に関しては自然を再現しよう役に立つ中高数学 中高数学お散歩コース
大学数学に関しては現代数学観光ツアーなどの無料の通信講座があります.
その他にも無料の通信講座はこちらのページにまとまっています.
ご興味のある方はぜひお気軽にご登録ください!

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る
  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

このサイトについて

数学・物理の情報を中心にアカデミックな話題を発信しています。詳しいプロフィールはこちらから。通信講座を中心に数学や物理を独学しやすい環境づくりを目指して日々活動しています。
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

YouTube チャンネル登録

講義など動画を使った形式の方が良いコンテンツは動画にしています。ぜひチャンネル登録を!

メルマガ登録

メルマガ登録ページからご登録ください。 数学・物理の専門的な情報と大学受験向けのメルマガの 2 種類があります。

役に立つ・面白い記事があればクリックを!

記事の編集ページから「おすすめ記事」を複数選択してください。