書評という名の感想: 大栗博司さんによる『大栗先生の超弦理論入門』講談社ブルーバックス

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大栗博司さんによる『大栗先生の超弦理論入門』という本が 8/20 にブルーバックスから出版される.


これの早刷による書評募集があったので, 応募したら当選になったようで, 本が送られてきた. 送るべき書評は 400 字までなのだが, 備忘録も込め, ここでは詳しく書いておく. 自分の趣味に沿った, 普通の人は気にすることのない細かいいちゃもんのようなものもあるが, このブログ読んでいる人に普通の人はいない想定なのでよしとする.

まず一言でいうと面白かった. 今まで断片的に知っていた色々な超弦理論関係の言葉が繋がっていってすっきりした, というのもある. 特に後半, 何を言っているのかさっぱりだが大栗さんが実に楽しそうに研究し, 本を書いている姿が伺える. 所々自分の趣味を刺激してくるので, 研究 (勉強ではなく) したくなる気にさせてくる素敵な本であった.

とりあえず私の知る大栗さん像から書き始めることにしよう. 私の専攻はいわゆる数理物理で大栗さんも広義の数理物理だとは思うが, 研究の方向についてほぼ関係はない. 始めて大栗さんの名前を聞いたのは東大数理の名誉教授 (話を聞いたときは教授だったが) の桂利行先生からだ. 何かのときに IPMU の話になって「大栗さんも村山さんも数学めちゃくちゃできる」と言っていたので名前を知った. 東大数理の名誉教授になるくらいなので桂先生も大概だが, その人にこう言わせるとは凄まじいな, と. 超弦関係の物理の人, 鬼のように数学できるので恐ろしいが, その中でもトップクラスとか戦慄した.

では内容. 「はじめに」から順に思うところを徒然に書いていく.

はじめに

超弦理論は素粒子の理論であると同時に時空の理論でもあるということ, 空間の「次元」が決定できる理論であると紹介される. P.5 で次のように書かれているので, 「決定」と書いてしまうのはまずい気もするが, あとの方で「次元が決定できて嬉しい」という記述はあったので.

超弦理論の研究から, 空間の「次元」が変化してしまうという驚くべきプロセスが発見されました.

何にせよ, のっけから空間の次元の話を押し出してきていて, 心を掴みに来ているな, という感じ. ふと思ったが, 時間は何で 1 次元扱いなのだろう. 不公平感溢れる.
P.6 に次のような記述があるが, ちょっと思うところがあった.

P.6
温度とは分子の平均エネルギーの表れにすぎません.

超弦理論, ブラックホールの温度という話も出てきたし形式的には多体系の理論になると思っているのだが, 温度はどう扱っているのだろう. 形式的に「絶対零度」の世界の理論なのだろうか. 京都の小嶋先生あたりの相対論的場の理論での非平衡状態に関する研究あるし, 温度が入ると Lorenz 不変性が壊れるとかいう話というのを聞いたので, その辺気になる. Curved spacetime 上, 普段私が触っているフラットな時空での対称性の議論がどこまで使えるかがまず問題なので Lorenz 不変性の話はいいとして, 温度の扱いは気になった. 超弦レベルでの温度の定義とかまた修羅の世界っぽいが, そもそも意味があるのかどうかが気になる.

のっけから私の話が脱線しまくっているのだが, 本ではストレートに空間とは何ぞ, 次元とは何ぞ, というところを考えるのだというのを強調している.

P.7
そして, この理論が数学的につじつまが合っているかどうか確認していく作業の過程で

超弦というか相対論的場の量子論を含む素粒子関係, 理論が異常なくらい綺麗なので時々驚く. 私は一応物性回りで, 綺麗になり過ぎないぎりぎりのところで, しかも現行人類に扱える範囲の対称性は持っているところを狙っているので, (不勉強で関連する物理がよく分かっていないこともあり) 綺麗すぎると物理として大丈夫なのか, というのが気になるが, 真っ向から逆を行っている感じ, 何ともいえず, 面白い. 数学的整合性を軸に議論するというの, AQFT では基本中の基本ではあるけれども.

P.8
第 4 章では, 超弦理論では「空間の次元が決まる」理由を明らかにします.

次元が決まるというの, 確かに面白いし魅力的. 普段好き好んで (d) 次元で考えている私が言うのもアレだが.

第 1 章 なぜ「点」ではいけないのか

量子統計というか非相対論的場の量子論というか, その辺で電子が点粒子なせいで, 基底状態の不安定性との戦いが必要になるので困っている方の市民だった. 私が扱っている範囲では原子核も点扱いが一次近似として正当なので, いつも困っている. もっというなら, つらくて手に負えないため普段は Hubbard で格子上に制限してその辺さばいているのだが. というようなことをタイトルを見た時点で色々思う.

章の冒頭の一文を引いておこう. 駄目な大人には困ったものだ.

P.12
私たち素粒子物理学者はこうした問いかけを心に抱き続けたまま, 大人になってしまいました.

超弦だと物質の基本は (昔ながらの) 粒子とするのではなく弦だと思うという話だが, 少なくとも何故「点」では困るのか, というところから始まる. ここまで書いて思ったが, 脱線が多過ぎて本の筋が何なのか見えなくなりつつある感想文になってしまっていて実にアレ.

Euclid あたりの数学的な点の扱いから Demokritos の原子論に流れて, というお決まりの話の流れが出てくる. この辺については我らが江沢洋先生の『だれが原子をみたか』がハイパー面白いのでお勧め. 江沢先生は日本の数理物理の草分けで素粒子・場の理論界隈の数理物理の人だ.


原子・原子核からさらに陽子・中性子, クォーク, 標準模型の話で, そこから標準模型の問題を議論して弦だ, となる.

単純に私が知らなかっただけだが, 暗黒物質は標準模型関係の話だというの, あまり認識していなかった. 宇宙論関係の話だとしか思っていなかったので「ほー」と思った.
重力と電磁気力の比較のところ, 物質の安定性関係で中性子星 (重力多体系) の扱いなどを思ったが今は別に関係ない (はず).

電子が自分で作った場との相互作用で無限大が出てきて困るから点は駄目なので, 繰り込みでどうにか対処したがある所まで行くと 繰り込みも駄目だからどうしようとなって弦に行きついた, というところで 1 章が終わる.

章末のコラムでひもと弦という言葉回りの小話が紹介される. ひもという言葉を使った方が一般にインパクトがあるらしいというのだが, 弦と言った方が格好いいのに, と思ったけれども, Twitter で「女性に寄生する男性としてのひも点意味での超ひも理論」とかいう地獄の底から這い上がってきたような, 何重もの意味で線型代数で殲滅すべき発言をよく見かけることを想起し, 納得せざるを得なかった.
次の話, 涙を禁じ得ない.

P.32
先日も著名な天文学者と話しているときに「大栗さん, 超弦理論と超ひも理論というのは, 同じものだったのですか」と聞かれて, びっくりしました.

第 2 章 もはや問題の先送りはできない

電子の話だが, 電磁場が出てくるので光の話も出てくる. くりこみの話がメインだが, 重力を考えるとくりこみができなくなって困った, というところで終わる.

P.37
光は「波」であり「粒」でもある

よくあるアレだが, 超弦くらいの無茶な話をするなら, もう「光は波やら粒子やらといった (古典的な) 存在ではなく量子という別の何かであって, 常識的な見方は捨てるように」と言い切った方がいいのではないか. 「物理学者は保守的」という記述もある中, 保守的な人間ですら常識を捨てざるを得ないほどよく分からないということ, もっと強調していいと思う. その上でさらにどうしようもなくなって弦のような何かというところまで行き着いた, という話ではないのか.

P.42
これをファインマン図で表すと, 図 2-3 の左のように, 電子が自ら発した光子を吸収する現象と表現することができます. これによって電子の質量が無限大になってしまうのです.

Feynman ダイアグラムがぽんと描かれていて爆笑した. この辺きちんとやったことがない方の市民なので, これ見ても何故無限大になるのかさっぱりだが, 無理矢理ぶっこんで来る気概, 尊い. あとで弦のダイアグラムも出てくる.

P.46
自然界の階層構造

この周辺でくりこみの話が議論される. 階層構造のおかげでくりこみが上手く働くのだが, 重力を考えないといけなくなるとここが難しくなるという話.
私は (超弦から見て) 階層構造の上の方, 特に 上の方が上の方で本当に閉じているのかを数学的にきちんと追跡しきる部分に興味がある のだが, あまり下の方をきちんと勉強していなかったので, この辺, 最下層に進撃している人の見解が見られて面白かった. 私は自然界の階層構造の数学的整合性それ自体を調べたい. その辺を改めて認識させられて, 私にはとても刺激的な部分だ.

P.53
先ほども述べたように, 自然界に階層構造があって, よりミクロな世界の理論のほうが基本的であるというときには, 空間的な距離がきちんと測れることを前提をしています. 距離が測れなければ, よりミクロな世界とは何を意味するのかさえわかりません.
中略
重力と量子力学が統一される世界までいくと, それよりもミクロな世界は存在しないと考えられているのです.

ここ, さらりと書かれているが凄まじい. 最後, ブラックホールの話が出て次章となる.

P.58 コラム 思考実験
街中を散歩していても, 食事中でも, 思考実験はいつでもどこでもすることができます.

数学だと「思考」が外れて本当に実験ができる. 理論と実験の区別, 特にないのが数学のいいところ, ということで牽強付会に数学につなげていきたい.

第 3 章 「弦理論」から「超弦理論」へ

弦と超弦, 何が違うのかよく知らなかった方の市民だったが, ここではじめて違いを知る. 違うのは把握したが, どう違うのか.

南部・後藤の提唱, 開弦と閉弦, 粒子を弦にしたときの Feynman ダイアグラムと進んでいく. P.70-71 で弦にしたおかげで原理的に発散の困難を取り除けたということがダイアグラムを使って説明されるが, 私にはよく分からなかった. ダイアグラム自体よく分かっていないのも大きいのだろう. ひとまず何か大丈夫らしい, ということで先に進む.

P.72
光子は「開いた弦」の振動
閉じた弦は重力を伝える

弦の話に入って早々に光と重力が弦で統一的に理解できるという無茶がぶっこまれる. さらりと猛スピードでやってくるのでびっくりだ.

P.78
弦理論と超弦理論の違い

弦理論だと boson だけ, 超弦だと fermion も含む, ということらしい. 超空間とかグラスマン数の話が出てくる. 物理の人はよくグラスマン数というが, 数学だと普通は外積代数という. Lie 代数と Lie 環, 作用素代数と作用素環のように, この辺, どういうところから言葉の使い方の違いが出てきたのか前から不思議に思っている. 外積代数に関しては, はじめに見つけた人の名前を出す物理の人の言い方がいいとは思うし, Lie 代数についても環ではなく代数の方が正確だからこれも物理の言い方の方がいいと思うが, 物理の人の言葉遣い, 無茶苦茶な方が普通なので, こう色々なものを感じる. 数学は数学で, 量子化・量子何とか・エネルギーなど物理用語を魔解釈することはあるにはあるのだが.

最後, 超対称性と余剰次元の話が出てきて章が終わる. 外積代数の方の次元が「空間」の次元扱いになるの, 凄まじい. 自然やばい.

第 4 章 なぜ九次元なのか

タイトルからして既に危険領域に突入している.

章の冒頭に小川洋子『博士の愛した数式』の一節と Euler の公式が引用されている.


話の本筋と全く関係ないが, 数学会の会誌の「数学会報」だか何かに, 「博士の愛した数式を読んで, 改めて自分が日々触れている数学が素晴らしいものだということに気づかされた」という書評があったのを思い出した. この章では (zeta) が出てくる.

P.95
なぜ三次元なのか

正面切って聞かれると答に窮する疑問だが, 超弦だとこれが出てくるという戦慄すべき話が語られる. 大栗さん自身次のように書いている.

P.95
次元の数が決まるというのは, 物理法則としては前代未聞のことです.

超弦理論という「理論」を「自然法則」と言っていいのかはよくわからないが, 次元を決めてしまう理論が凄まじいのは間違いない. これではじめて知ったのだが, これなら超弦理論に夢中になる人がいるのも道理だという認識に至った. この章では 25 次元の話なども出てくる. ここに興味がある向きは是非きちんと本を買って読んでみてほしい. あと, ここの特に超弦理論の計算のところ, 参考文献つけてほしい.

コラムで超弦理論の実験的検証という話があるが, 実験的に検証するための実験の提案などはあるのだろうか. 少なくとも現段階で高エネルギー領域での直接検証は無理だろうが, 最近物性への応用の国際会議があったとか聞いたし, そういう方向からの話は何かないのか. この本, 基本的に理論の話で実験の話はないので, そういう方向の参考文献とか知りたい.

P.111
超弦理論の研究で, 数学的な整合性が大きな導きの意図になっているのはそのためです.

散乱理論が作れない中で出てきた AQFT や GQFT の動き・目的は正にここだったのに, 物理の人から「公理的場の理論の物理への寄与は任意に与えられた正数よりも小さい」とか言われていた, というのをふと想起した.

第 5 章 力の統一原理

冒頭にヘレン・ケラーが引用されているあたりに大栗さんの感情の高ぶりを感じる. ここではゲージ原理の話が出てくる.

金融市場を例に説明されるのだが, これが私にはわかりづらい. これは一般向けの本であって, 私は厳密には対象の層ではないので全く参考にならない意見だろうが, 一般にはこの説明は分かりやすいものなのか, というは気になるところではある.

また, Yang-Mills の話が出てくる. これは Clay 研究所の 7 問題のアレだ. つまりこの辺 (の数学), 死ぬ程難しい.

第 6 章 第一次超弦理論革命

Schwarz の孤軍奮闘とその背景・歴史的経緯がまず語られる. I 型, II 型, アノマリーなど聞いたことのある言葉が乱舞しはじめて楽しい.

P.150
「三十二次元の回転対称性だ」

これ, 本当に (SO(32)) なのだろうか. 本当に「Infinity cancellations in SO(32) superstring theory」というタイトルで, Green-Schwarz だしこれだろうか. Yang-Mills にしろ, 本当に回転なのか. 何故球面上の話がそんなに大事なのだろう. そもそもゲージがよく分かっていないというところがあるから仕方ないのだが. ぎりぎり BCS と BEC を知っている (分かっているわけではない) が, そこでも「向き」が大事なようだし, 何か向きの話なのだろうな, という漠然とした感覚はあるが, それでいいのかよく知らない.

ヘテロティック弦理論がまた意味不明でやばい. 何だこれは.

P.158
カラビ-ヤウ空間によるコンパクト化

Calabi-Yau からの Witten が来た. Witten は「量子力学は 20 世紀の数学を彩ったが, 21 世紀の数学は場の量子論の数学になるだろう. 超弦理論は本来 22 世紀の数学なのに間違って今世紀に出てきてしまった. 私はこちらで頑張るが, 場の量子論界隈は 21 世紀の数学をきちんとやっておくように」のようなことを言ったと聞いている. それならほぼ死んだ状態の場の量子論界隈の数理物理に人を回すよう手配してほしいと思っているのだが, 全く実現しない. 困ったものだが, そのおかげで私も大学出てしばらく経つのに場の理論の数学界隈から取り残されずに済んでいるのでつらい.

それはそうと, ここでのコンパクト化, 数学的には何をやっているのかずっと前から気になっているのだが結局よく分からない. こちらも全然知らないが, Riemann 多様体の崩壊みたいな話が関係あったりする? この辺まで来ると, 正直物理よりも数学的な内容の方が気になってくるあたり, 物理学科出身ではなかったのかと自らの業の深さを感じる.

P.160
コンパクト化したときにその条件をぴったり満たす六次元空間が, 六年前の一九七八年に数学者によって見つかっていたことを知りました.

この条件とか凄く気になる. あと Calabi-Yau, 問題自体は大分前 (20 世紀初等くらい) から出ていたと思っていたが, かなり最近だというのを確認してちょっとびっくりした. 解決自体は Yau だからそれ相応の年代というのは知っていたが. 数学的な発見の時代と物理的な利用の時代が時期的にかなり近いというかほぼ同時進行なのも奇跡的で面白い.

P.162
カラビ-ヤウ空間の幾何学で, 素粒子模型が決まる

トポロジーからクォークの世代数が決まるという話, 意味不明で凄まじい. トポロジーというか幾何から物理が決まるというの, P.130 あたりの Aharonov-Bohm でもあるにはあるのだが, 結局この辺触ったことほとんどないからぴんと来ないというか戦慄する感じはある. Aharonov-Bohm も物理というより数学関係, CCR の表現論として触ったところが強いので, そういうのもいけないのだろうけれども.

P.169
カラビ-ヤウ空間が与えられることで答えの出る問題は, 実は素粒子の世代数だけではありません. 後略

あまり書いてしまうとよくないかと思って省略した. これは凄まじい. それは超弦理論に, Calabi-Yau に夢中になると理解.

P.170
距離の測り方すらわからない

この記述の意味は以前 Twitter で大栗さんに直接聞いたことがある. ここで周辺の話についてちょっと書いておいたので興味がある向きはご確認頂きたい大栗さんから Twitter で頂いたお返事は別途引用しておこう. よくある存在だけは分かっているが性質がよく分からないというアレだ.

@phasetr コンパクトなカラビ‐ヤウ多様対については、 計量テンソルが存在することは証明されているが、その具体的な形がわかっていないということを噛み砕いて述べたものです。

P.172
ゲルマンはのちに, 「超弦理論のような絶滅に瀕している分野のために, 保護区を設けたのだ」と語っています.
中略
ゲルマンのような目利きが見守っていたからこそ, シュワルツも自由な心と集中力を持って研究ができ, 真のイノベーションを起こすことができたのです.

言いたいことは分かるが, 何というか, 結果的にゲルマンが目利きだったという部分が強調されているような感じでちょっと嫌. 結果的に超弦が駄目な結果になっていたとしても, それに賭けて心血注いだ Schwarz とそれをサポートした Gell-man の志は尊い. いいたいことが上手くまとまらないが, 言いがかりに近いアレだ.

第 7 章 トポロジカルな弦理論

名前だけは知っていた topological string, 大栗さんの業績だったのかというのを始めて知る夏だった. 量子効果を計算するというがそれが何なのかさっぱり分からないというか, そもそも書いていないという認識. 気になる. 定義自体はやはり計量に依存する量の計算なのだろうか. そうでないと話に意味がないので多分そうなのだとは思うのだが. あと P.179 の式, Word みたいな表示で嫌: TeX の感じで載せてほしかった. 難しいのだろうか.

P.184
大事件が起きたのは, その数ヶ月後でした. 第一次超弦理論革命と同時に研究者人生をスタートした私は, バークレイで研究室を立ち上げようとしていたときに, 第二次超弦理論革命に直面することになったのです.

大栗さん, 超弦理論の発展の生き証人という感じで実に羨ましい. 研究者になりたかったと改めて思わされる.

第 8 章 第二次超弦理論革命

Witten が再登場した: 双対性や M 理論の話.

P.196
空間の次元を高くすると, 二種類の粒子の数を合わせることができなくなるからです.

これ, どういうことなのだろう. 参考文献知りたい. 数学的・物理的に読めるかどうか, 読む時間が取れるかはともかく.

P.203
当時はまだこの研究に使える数学的な道具が限られていたことも, 理由の一つでしょう.

数学的に何が足りなかったのだろう. それが無性に気になる. 超弦ではなく場の理論だが, こういう「物理に必要な数学を見つける・作る」という問題, 自分の専門ということもあるから.

P.204
円の半径が, 力の大きさになる
P.207
結合定数が大きければ大きいほど複雑化し, 計算が困難になると思われていた超弦理論が, その極限では一〇次元空間の超重力理論になるという, きわめてシンプルで美しい理論になっていたわけです.

円の半径が変わるというはともかく, 結合定数が変わるというのはどういうことなのだろう. ある物質というか場の結合定数が大きいときの問題というにしても, 結合定数変わるのだろうか. 裸の結合定数とかその辺の話? それは超弦理論でもまだ何かあるということか. 光学格子上の BEC のように, 結合定数を変化させられるのだろうか.

P.214 column
そもそも, 素粒子論や超弦理論の新しい発展が, 既存の数学ですべて理解できるとはかぎりません. 研究をしながら, 新しい数学を作っていくことも必要になるでしょう. そして, このような研究から新しい数学分野が開けていくこともあります.

超弦界隈は現在進行形で色々あるようだが, 私の専門の量子統計・場の量子論でも色々あるし今もある. 特に作用素環への影響は顕著だ. 熱力学・統計力学で一番基本になる概念である平衡状態の定義そのもので新しい数学が生まれたことがある. 正確にいうと数学での発展と物理での発展が同時に起こって一体になって進んだ経緯がある. 有名な話でバトンルージュでの国際会議で, 後に冨田のモジュラー理論 (冨田-竹崎理論) と呼ばれる理論に関する冨田稔のプレプリントが出ていたのだが, Haag-Hugenholz-Winnink による平衡状態の定式化に関する話もあった. プレプリントを見ると出てくる式がやたら似ていて不思議なこともあるものだ, と思っていたら, 実は数学的には同じ話だった, という荒木先生の話があった. 最近量子統計界隈でそういう動きはないように思うが, 相対論的場の量子論, AQFT ではまだまだ動きがある. 非相対論的場の量子論 (構成的場の量子論) だと新しい数学と言えるのかは分からないが, 数学的研究は進んでいる. 超弦は人がたくさんいるので, 興味がある向きは是非こちらにも来てほしい.

2.10 第 9 章 空間は幻想である

その辺の適当に何かかじっただけの人間がいっていたら苦笑いするしかないような発言だが, まともな物理学者が言っていることに戦慄する方の市民だった.
ブレーンの話が出てくるのだが, 破滅的に意味不明で戦慄する. もう, どうなっているのだ, としかいいようがない.

P.225 の IIA 型の話, 何を言っているのか全然分からない.

P.229
ブラックホールの温度が説明できるようになったのです.

ブラックホールの温度, どう定義しているのだろう. ブラックホールの熱力学というのを聞いたことはあるが, 実際に何をやっているのかは知らない. 「p-ブレーンも温度を持つ」という記述があるが, p-ブレーンの温度もどう定義しているのか気になって仕方がない. P.230 で「開いた弦の運動によって説明できた」との記述があるが, 平衡系の計算みたいなことをしているのだろうか. ブラックホールに平衡系の理論は適用できるのだろうか. とりあえず適用してみて一致することが分かった, という話? 素人がすぐに思うことを専門家が突っ込まないはずがないので, きちんと議論はあるのだろうし, それを知りたい.

P.234
重力のホログラフィー

また名前だけは知っている重力ホログラフィーと AdS/CFT が出てきた. AdS/CFT, この辺の話だったのか.

P.239
温度も, 空間も, その中に働く重力も, 本質的なものではない.

何だか知らないが「温度が本質的なものではない」というのにイラっと来た. 自分の熱力学・統計力学への過剰な思い入れを感じる出来事だった.

P.242
この現象は, 重力のホログラフィー原理を使って予言されていました.

理論で予言できた現象が実験で再現されるという話, 無条件に胸が高鳴る.

2.11 第 10 章 時間は幻想か

理解が置いつかなくなっていることもあり, もはや「ほー」「へー」くらいしか書くことがなくなっている方の市民だった.

P.252
私「空間とは, どのような種類の集合なのですか」
数学者「近いものと遠いものの区別がつくような集合です」

数論幾何をやっている nolimbre さんの「位相空間は甘え」という言葉を想起した.

P.261
超弦理論のこれまでの研究は, 九次元空間のコンパクト化のような, 時間的に変化しない現象に集中してきました. しかし, 宇宙の始まりの問題に超弦理論を応用しようとすると, 超弦理論において時間がどのように扱われるべきかについて, 深く考える必要があります.

これまでの記述は時間変化のない現象ばかりだったということ, 意識していなかったので「ほー」という印象.

P.269
学生が大学院に入学してから超弦理論の論文を書けるようになるまでの年数が, 私が大学院生だった三〇年前も現在も, 変わっていないことです.

難しくなりすぎて研究者が離れて, 今では滅亡の危機に瀕している構成的場の量子論とは大違いだ. 非相対論的場の量子論の方ならもう少し何とかなる気はする. 4 次元 (phi^4) の自明性ですら手が負えず, QED は Dyson が 50 年も前に存在しないだろうという兆候を見つけたきり多分何も動いておらず, かといって QCD もどうにもならない. (量子) 統計方面でも, Heisenberg や Hubbard ならもう少し何とかなる気はするが, Ising だと大体悪魔のような問題しか殘っていなくて, 革命的な展開が 2-3 は必要という印象がある. 超弦理論, 羨ましい.

P.270
超弦理論はまだまだ発展途上の理論です. それは研究者にとっては, 挑戦すべき問題がたくさんあるということでもあります. この分野のさらなる発展にご注目下さい.

もちろん注目はするが, 少し研究者をこちらに分けてほしい.

2.12 まとめ

この本の感想だか何だかよく分からないことになってしまったが, 刺激的な本だった. 2 年くらい書きかけで放置していた論文をいい加減まとめようという気持が湧いてきた. 頑張ろう.

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