2014 ソウルでの ICM で Fields 賞が発表になったので受賞者の業績紹介をしたい

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日本語のろくな業績紹介がないようなので、
ICM や Terence Tao の英語の記事の翻訳+私のコメントと言う形式で
2014 の Fields 賞の話を数学的にもっと突っ込んだ話で紹介していきたい.

これはメルマガの転記なので, さらに詳しくはメルマガにご登録頂ければこれ幸い.

目次

2014 ソウルでの ICM で Fields 賞が発表になった

8/13 に ICM で Fields 賞が発表になった.
数学に関わる一市民としてやはり気にはなる.
放っておくとそのまま過ぎてしまうので,
メルマガにするという強制力をうまく使って
概要くらいは把握したい.
参考にしたのは次のページだ

 

受賞者と大体の分野, 業績: ICM のページから

Avila, Bhargava, Hairer, Mirzakhani が今回の受賞者だ.
このうち, Mirzakhani は初の女性受賞者ということで注目されている.
まず ICM のページから概要を抜いてこよう.
Fields クラスの仕事となると専門から遠いとかいうレベルではないので,
基本的に翻訳くらいしかできないが.
分野の概要について知っている範囲のことについては
次回以降で多少の解説はしようと思う.
翻訳部と私のコメントがごちゃごちゃで見づらいので,
翻訳部がはっきりするよう, 私のコメントは ==== でくくっておこう.
「数学の人間でも何が何なのかさっぱりわからない」という様子を
示しておくのは有意義なのかもしれないと思わないでもない.

 

Avila

力学系が専門.
ご多分に漏れず広範な影響を与えていて,
実・複素の一次元力学系, Schrodinger 作用素のスペクトル理論,
平坦なビリヤード (flat billiards だが訳語は適切か不明),
特に双曲力学系に強いインパクトを与えた.
実 1 次元力学系での仕事としては renormalization theory とも関わる
確率論的観点からの深い理解と分野の完成をもたらしたことがある.
複素力学系としては Feigenbaum Juria 集合の
フラクタル幾何への深い貢献がある.
====
renormalization theory とあるが, これ, 物理の繰り込みだろうか.
Hairer の項にも出てくるのだが.
====
one-frequency difference Schrodinger operators の
スペクトル理論では離散スペクトルと連続スペクトル間の
相転移の大域的な記述をし, Liapunov 指数の
stratified analyticity を確立した.
====
one-frequency difference Schrodinger operators というのが謎い.
論文はこの 2 つか.
https://www.imj-prg.fr/~artur.avila/strat.pdf
https://www.imj-prg.fr/~artur.avila/global2.pdf
前者の P.1 に作用素の定義があるので,
そこでとりあえず命名の雰囲気は察した.
Stratified analyticity, どう訳せばいいのだろう.
困る.
ちなみに論文, これだろうか.
http://arxiv.org/abs/0905.3902
【Stratified analyticity】でググったら一番に出てきた.
====
Flat billiards の理論では
Interval-exchange map のエルゴード的な振る舞いに関する,
長いこと未解決だった問題をいくつか解決した.
典型的な部分双曲系 (partially hyperbolic system) の
定常エルゴード性 (stable egodicity) 問題に
大きな進展をもたらした.
====
Interval-exchange map の訳語がわからない.
訳語がわからないの, 結構困るが仕方ない.
それはそうと, Mirzakhani もエルゴードまわりで仕事をしている.
先日エルゴード理論セミナーをしたのは結構タイムリーだったようだ.
本来のターゲットだった子が当日体調不良で
休んだので, またセミナーやる.
====
Avila の協働的なアプローチは若い世代の
多くの数学者にインスピレーションを与えている.

 

Bhargava

数の幾何 (geometry of numbers) での仕事.
====
数論幾何 (arithmetic geometry) とは違うのだろうか.
楕円曲線あたりで強烈な手法を開発してきたらしいので,
Fields 賞受賞者に相応しい魔人の感がある.
あまりにも勘が効かな過ぎる分野なので, そもそも翻訳がまるでできない.
詳しくはICM のページ http://goo.gl/2oZqGz で直接英文を
見ることをお勧めしたい.
====
数の幾何を【count rings of small rank and
to bound the average rank of elliptic curves】に応用した.
====
これはどう訳せばいいのだろうか.
そもそも意味がわからない.
====
博士論文で 2 つの 2 変数 2 次形式の合成に対する
Gauss の法則の再構成をした.
Standard integral representation の 3 つのコピーのテンソル積上の
\(SL(2, \mathbb{Z})\) の軌道が
\(\mathbb{Z}\) 上ランク 2 の環 (quadratic rings) とその積が自明になる
3 つのイデアル類に対応することを示した.
====
Standard integral representation,
文脈がよくわかっていないのでうまく訳せない.
例えば, standard は単純に「標準的」と訳せるわけではない:
少なくとも作用素環で standard representation で
「標準的な表現」ではなく「標準表現」と呼ばれる概念があるし,
これは私の主力兵器でもある.
Integral も「積分」を想像する人がいるかもしれないが,
整数 (integer) の形容詞でもあり, 代数で
integral domain といったら「整域」だ.
====
上記の対応を示すことで Gauss の合成則を計算上効果的な方法で
再構成することに成功した.
そこから cubic, quartic, quintic rings など
さらに複雑な環の軌道の研究に進み, 有界な判別式を持つ環を調べた.
====
cubic, quartic, quintic rings はどう訳せばいいのだろう.
最後のところ, 英文は【counted the number of
such rings with bounded discriminant】なのだが
正確には何と訳すのだろう.
count the number というがこの number は何なのか.
====

 
【Bhargava next turned to the study of representations with a
polynomial ring of invariants】とのこと.
====
これも訳に困る.
Invariants は「不変量」あたりでいいのだろうか.
With もどう訳したものか.
====
上記表現の一番単純な例は 2 変数 2 次形式の空間上の
\(PGL(2, \mathbb{Z})\) (射影一般線型群) の作用だ.
これは 2 つの独立した不変量を持ち, 楕円曲線のモジュライと関係している.
彼の学生 Arul Shankar とともに【Bhargava used
delicate estimates on the number of integral
orbits of bounded height to bound the average rank of elliptic
curves】.
====
動詞, use なのか.
評価 (不等式で挙動をおさえる) したというわけではない?
Number も integral orbits も (bounded) height も
average rank も意味がわからないし訳せない.
====
最近, 大きな種数の曲線にこれらの手法を一般化して,
少なくとも種数 2 の多くの超楕円曲線が有理点を持たないこと示した.
====
内容はさっぱりわからないがこれはやばそうな雰囲気を感じる.
(超) 楕円曲線がやばいというのは, Fermat の最終定理を解決するのに
使われた谷山-志村予想が楕円曲線 (と保型形式) に関する定理だというのを
言えば大体状況がわかると思う.
ちなみに「種数」というのはよく「穴の数」だと言われる.
3 次元空間内におかれたドーナツ (浮き輪とかでもいい) は種数 1 で,
これをつなげていくとその分だけ種数が増える, というのがその元だ.
「曲線の種数 (穴の数)」というのは何か, という話になるが,
複素化しておけば複素 1 次元 (複素曲線) は実次元 2 なので
曲面だから, とりあえず穴っぽく理解できる感じにはなる.
====
Bhargava の仕事は数論的群 (arithmetic group) の表現論の深い理解と
代数的手法と解析的手法の独特なブレンドからなる.

 

Martin Hairer

確率解析の人.
確率偏微分方程式に対する貢献, 特に
解の正則性構造の理論構築で顕著な仕事をした.
====
解の正則性というのは, 解の微分可能性を調べるとかそういうの.
例えば, 楕円型の方程式 (例: Laplace 方程式) は 2 階の偏微分方程式だから
2 階微分はできるはずだが, 実際には無限回微分できることが多い.
これを楕円型正則性 (ellptic regularity) という.
(elliptic regularity としか呼んだことがないので訳は怪しい.
楕円的とした方がいいのだろうか. )
これもパターンはいろいろある.
複素解析の Cauchy-Riemann 方程式も楕円型なのだが,
この場合は無限回微分可能どころか複素解析的になる.
放物型の方程式の場合は平滑化という現象がある.
波動方程式の場合, また違う現象が出てくる:
例えばパルス波を考えればわかるように, 「波」は
特異性 (微分できない点がある) を持ったまま伝播していける.
つまり, 波動方程式の解として普通の意味では微分できない
解があってもいいし, 物理などへの応用としては
そうあってほしいということだ.
分散型 (Schrodinger 方程式) でもまた違う特徴がある.
大雑把に言えば「物質波」とかそういう話も関係するから
波っぽくあってほしいし, 一方で虚時間化すると
放物型 (拡散方程式) の特徴も何となくありそうだから.
特に物理現象などの背景がある方程式の場合,
詳しくいうなら方程式の個性に応じていろいろな振舞いをするし,
微分方程式論は一般論が作れない・作りづらいことこそ
特徴とも言えるが, 型に応じてある程度の一般論は作れる.
その 1 つが正則性の理論だ.
詳しくは次回以降またまとめよう.
知っているところだとこのくらい書けるが,
Bhargava のように未知の分野だと
そもそも訳すらできないというこの悲しみ.
====
科学で重要な数学的問題として,
微分方程式にのったノイズの影響,
解の長時間の振る舞いにのったノイズの影響を理解するという問題がある.
常微分方程式に対しては伊藤清が 1940 年代に解決した.
偏微分方程式に対する総合的な理解は難しいことがわかっていて,
線型の方程式や非線型性が緩い方程式など特定の場合にしか
満足な扱いはできてない.
Heirer はこの理論の 2 つの中心的な課題に対して貢献した.
Mattingly とともに Malliavin 解析と新たな手法をもとに
2 次元確率 Navier-Stokes 方程式のエルゴード性を示した.
====
2 次元確率 Navier-Stokes というのが何なのかさっぱりだが
魔界なのだろうというのはわかる.
以前, 2 次元の普通の Navier-Stokes については,
次元の関係から特殊な関係式がいくつか成立することがあり,
そこからいろいろなことが言えるという話は聞いたことがある.
話がずれると思うのだが, 流体力学極限という理論があり,
これは普通の偏微分方程式を確率解析の手法で研究する理論だ.
特に非線型の方程式の解析は関数解析的手法を取るのが普通だが,
そこに確率論という別の流れを載せることで,
従来得られなかった結果を得たり, 従来の結果に
確率論的な新たな風を吹き込もうという分野になる.
この分野, 難し過ぎて手を出す人があまりおらず,
人が少なくなりはじめていると聞いている.
日本だと東大の舟木先生や東工大の内山先生が有名だが,
後があまりいないようで, 舟木研出身で
いま慶應にいる佐々田さんが頑張っているとか何とか聞いている.
====
常微分方程式に対する Lions のラフパスの手法にもとづいて,
確率偏微分方程式に対する正則性構造の抽象論を構築し,
任意の時空点のまわりでの Taylor 型の展開ができるようになった.
これで Hairer は renormalization の固定点として
特異な非線型確率偏微分方程式の解を系統的に構成する手法を編み出した.
Hairer は物理で出てくる多くの確率偏微分方程式に対して
はじめて厳密で本質的な (intrinsic) 意味を与えた.
====
正則性構造の抽象論, 何者だ.
正則性に関して抽象論があるというのが結構衝撃的な感がある.
またラフパスに関するこの仕事に関して,
Twitter で確率論の人が「これでまたラフパスが盛り上がるな」と言っていた.
Renormalization というの, 物理の繰り込みと関係あるのだろうか.
固定点とか言っているし, いかにもそれっぽくはある.
あと気になるのが上記, 本文最終文の「intrinsic」の意味だ.
物理とはまた別に数学内部での意義, みたいなのを想像して,
はじめ「内在的」とかそういう感じの訳の方がいいのかとも思ったのだが,
よくわからない.
Hairer の仕事をきちんと理解していないとこの訳ができない.
あと, Lions の仕事が出てくるが,
Lions は父子で数学者でこれは多分息子の方.
両方とも超有名で, 息子の方は Fields を取っている.
息子は Boltzmann 方程式に関する業績での受賞で,
その他にも粘性解などの業績がある.
というのは知っているが詳しくは何もわからない.
粘性解というのは超関数のように微分を一般化して
解を考える範囲を広くしようという手法の 1 つと聞いている.
超関数 (distribution の方) は部分積分で
微分を一般化するのだが, 粘性解では最大値原理を使うと聞いているものの,
どうやってやるのかまでは知らない.
日本では早稲田の石井先生が有名で, Lions, Crandall との
共著の User’s guide to viscosity solutions of second
order partial differential equations という論文もある.
http://goo.gl/foTfOc
====

Mirzakhani

Riemann 面とそのモジュライ空間の幾何とダイナミクスに関する業績.
====
「outstanding contributions to the dynamics
and geometry of Riemann surfaces and their moduli spaces.」
とある中の dynamics をどう訳したものかと悩む.
力学系としても良さそうだが, とりあえずそのままにした.
Riemann 面というと何か親しみやすそうだが,
(\(\mathbb{C}\) での) 代数曲線と言われると魔界っぽいので
要は Riemann 面も魔界.
最近, 超弦理論でもよく出てくるようなので,
魔界の面目躍如という感はある.
====
Riemann 面とそのモジュライ空間の理論に対する顕著な貢献があり,
この分野の新たな領域を切り開き, 牽引している.
彼女の洞察力で例えば代数幾何, トポロジー, 確率論など
多くの分野からの手法が統合されている.
====
念の為に書いておくと, 代数幾何は「代数と幾何」ではなく
algebraic geometry という分野だ.
代数幾何とトポロジーなら幾何だしまだ分かるが,
代数幾何と確率論との連携というのもあるのだろうか.
あとで実際に出てくるが微分幾何と確率論なら,
測地流のエルゴード性という話は知っているから想像はつく.
力学系と思えばトポロジー色もあるだろう.
2006 年に Fields を取った Werner の業績として
確率論としての Schramm–Loewner evolution と
共形場まわりの話があり, 共形場つながりで
代数幾何との接点はあるが, Mirzakhani は何をしたのだろう.
超気になる.
====
双曲幾何では種数 \(g\) の Riemann 面上の
単純閉測地線の数に対する漸近公式と統計的性質を確立した.
これらの結果を Riemann surfaces with marked points の
モジュライ空間に対する特性類の公式に関する Witten 予想の
予想だにしなかった新しく完全な証明に応用した.
====
「Riemann surfaces with marked points」は何と訳せばいいのだろう.
With marked points がわからない.
あと, 双曲幾何での測地線が作るフロー (測地流) と
エルゴード理論 (確率論) との関係については,
この間の東工大でのエルゴード理論セミナーで
少し話をしたのだが, いまだに Fields クラスの
仕事があることに戦慄している.
Witten 予想とか出てきたのでやばい.
ちなみに Witten というのは物理の超弦理論関係の
魔人で, やはり Fields メダリスト.
物理の人であるにも関わらず Fields というのがやばい.
====
Dynamics (力学系?) ではモジュライ空間の正則性とシンプレクティック性を
橋渡しする構成を発見し, それを使って
Thurston の earthquake flow がエルゴード性・混合性を持つことを示した.
====
今回, Avila もエルゴード関係で強烈な仕事をしているし,
またエルゴードか, という感じがある.
Thurston の earthquake flow, 名前が何か格好いいので
これが何か知りたい.
Mirzakhani の論文はこれだろうか.
http://imrn.oxfordjournals.org/content/2008/rnm116.refs
2 ページ目に定義が書いてあったのだが,
幾何弱者なので全くわからなかった.
====
最近, 複素領域で, 共同研究者と一緒に
モジュライ空間内での複素測地線の閉包が
常に部分代数多様体になるという予想について,
長く求められていた証明を完遂させた.
モジュライ空間の実測地線の閉包は fractal cobweb で
分類できたものではないという背景がある.
====
the closure of a complex geodesic in moduli space を
「モジュライ空間内での複素測地線の閉包」と訳したのだが
合っているのか全くわからない.
それはそれとして, 実だとフラクタルになってしまって
分類もへったくれもない話が複素だと
代数多様体になるというのは衝撃というほかない.
複素に行けば正則性が支配するようになるとはいえ,
何でもかんでも正則で片がつくはずもなく,
実際, 代数多様体だから適当な特異性はあるはずだ.
何にせよ凄まじい.
====
思ったよりも長くなったので, Terence Tao のブログ,
Simons 財団の記事の翻訳的なところは次回以降にしよう.
Simons 財団の記事は生い立ちといったところにまで触れていて
1 人 1 人がかなり長いので, 適当に数学部分だけ拾うことにしよう.
数学者の生い立ちというのもなかなか
面白い話ではあるから, 目だけは通したい.

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