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次の本を元に脳内授業の例, 数学版をたくさん出していきます.
やさしい理系数学 三訂版 (河合塾シリーズ, 河合出版)
勉強法として脳内授業をお勧めしています.
また見ていない方は次のページや
Kindle にまとめた書籍を参考にしてください.
『やさしい理系数学』は「内容はいいのに解説が少ない」という評判なので,
ここではその解説部分を補充する形でやっていきます.
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必要な情報がなく, 適切なアドバイスができないことが多いためです.
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問題 1(東海大)
2 次方程式
\begin{align} x^2 + mx – 12 = 0 \end{align}の 2 解がともに有理数となるような自然数 \(m\) の値を求めよ.
問題 1 ポイント
解に関する話で 2 次方程式なのだから解の公式がまずポイントだ.
何度となく強調しているように, 試行錯誤,
実験も大事なのできちんと身につけてほしい.
ある整数が 2 乗の形になるかならないかを調べる問題は時々出てくるので,
そのための処方箋もきちんと覚えて道具箱に入れておく必要がある.
有理数は整数/整数という形だからどこかしらで整数が絡んでくる.
整数に関する基礎知識もきちんと整理しておく必要がある.
解に有理数という条件がある上で係数を決定する問題なので,
解と係数の関係を使うことも考えよう.
もちろん係数にも自然数という条件がある.
単に整数ではなく自然数 (正の整数) というところでさらに絞り込みがかかる.
また, 一般に代数方程式が有理数解を持つとき,
その有理数解が整数解になることがある.
それは定理として明確な形で証明できる.
そして今回, 実際に有理数解は (2 解とも) 整数解になる.
整数は有理数以上に厳しい制限がかかるから,
それをうまく使えないか考えてみるのも大事だろう.
例えば和と積が両方偶数になる 2 数は両方とも偶数になる.
これは例題 3 でも出てきた「あまりに着目」する手法で考えていくと簡単に証明できる.
命題としてまとめておこう.
命題 1
\(f(x) = \sum_{k=0}^n a_k x^k\) は整数係数の多項式とする.
代数方程式 \(f(x) = 0\) が \(p\), \(q\) を互いに素な整数として有理数解 \(q/p\) を持つなら,
\(p\) は最高次の係数の約数であり \(q\) は定数項の約数である.
証明
\(f(q/p) = 0\) だから
\begin{align} 0 = \sum_{k=0}^n a_k (\frac{q}{p})^k = a_n (\frac{q}{p})^n + \sum_{k=0}^{n-1} a_k ( \frac{q}{p} )^k. \end{align}辺々 \(p^{n}\) をかけると
\begin{align} a_n q^{n} = – p \sum_{k=0}^{n-1} a_k q^k p^{n-k} \end{align}\(p\) のべきを見ると右辺は整数だから左辺も整数でなければならない.
\(p\) と \(q\) は互いに素だったから \(a_n\) は \(p\) の倍数でなければならず,
\(p\) から見れば \(p\) は \(a_n\) の約数になる.
一方, 辺々に \(p^{n}\) をかけた式は次のようにも書ける.
\begin{align} a_0 p^n = – q \sum_{k=1}^n a_k q^{k-1} p^{n-k}. \end{align}右辺は整数で \(p\) と \(q\) は互いに素だから \(q\) は \(a_0\) の約数でなければいけない.
命題 2
\(a\), \(b\) を整数とする.
\(a+b\), \(ab\) が両方偶数になるなら \(a\) も \(b\) も偶数になる.
証明
対偶を見ればいい.
\(a\) か \(b\) のどちらかが奇数とすると \(a+b = 2(l+m) + 1\) となって和が奇数になってしまう.
両方とも奇数なら積が奇数になる.
また数学は「–が存在しない」ことをきちんと示せるという特徴がある.
他の学問だと虱つぶしに全て調べきることが原理的にできない (場合が大半な) ので,
「これ以外にない」というのはなかなか言えない.
例えば物理で「そんなことはありえない」と言っても実験的に実現できてしまったら終わりだ.
この問題では実際に「実験して出した答え以外に解がない」ことを証明する必要がある.
そこでこの辺の認識があるかどうかが問われるのだ.
それをきちんと示せるので示さないといけないから.
問題 1 方針
方針 1
あとで別解も紹介するが,
2 次方程式なので解の公式があり,
実数か有理数をわける分水嶺として根号部分があるから,
そこに着目するのが一番素直な方針だろう.
というわけでまずは解の公式に叩き込む.
\begin{align} x = \frac{-m \pm \sqrt{m^2 + 48}}{2}. \end{align}いまの場合 \(g(m) = \sqrt{m^2 + 48}\) が整数になっていてくれればいい.
何度も言っているが, 無理に一般的にやっていこうとする前にまずは実験してみよう.
\(m=1\), \(m=4\) のとき, \(g(1) = 7\), \(g(4) = 8\) になるから,
少なくともこの 2 解はある.
実験を頑張った人は \(m=11\) まで見つけられるだろう.
判別式で見ずに元の方程式 \(x^2 +mx -12 = 0\) から直接考えた方が見やすいかもしれない.
問題はこれ以外に解があるかどうかだ.
さすがにこれは一般的に示さないといけない.
これも何度も言っているがここまで書いて「少なくとも \(m=1\), \(4\) は解になる.
他の解があるか, またはそれに限るかを調べる. 」とか書いておけば部分点が来る.
地道にこういう習慣もつけていこう.
実験の習慣があればここまでは来られるはずだ.
何も知らなければ次のアクションをどうすればいいかで手が止まるだろう.
ここもやはり基本的な手法を覚えているかどうかで決まる.
具体的には次のようにすればいい:
\(l\) を自然数として \(m^2 + 48 = l^2\) とする.
もっと自然な流れはこれだ: \(\sqrt{m^2 + 48}\) が整数でなければいけないのだからまず整数 \(l\) を使って
\(\sqrt{m + 48} = l\) としてみる.
最終的に消さないといけないパラメータを増やすことになるのでかなり嫌な選択肢ではあるが仕方ない.
ここでまた手が止まるだろう.
このままでは手の打ちようがない.
そこで 2 乗を計算してみられるかが勝負だ.
つまりここまでパラメータを増やして「ルートは整数であるべき」という要請を具体的に式に落とし込めるか,
そのままでは手の打ちようがないから次の手が打てるように 2 乗してみられるか,
という 2 つのポイントを乗り越えられるかが勝負になる.
さらに計算すると
\begin{align} l^2 – m^2 = 48 \Rightarrow (l+m)(l-m) = 2^4 \cdot 3. \end{align}ここまで来れば最後の詰めだ.
左辺は 2 整数の積, 右辺は素因数分解された形なので適当に素因数分解していけばいい.
何をしたか, 式の形で流れを整理しよう.
\begin{align} l &= \sqrt{m^2 + 48} \\ l^2 &= m^2 + 48 \\ (l+m)(l-m) &= 2^4 \cdot 3. \end{align}式で書けばそれぞれ 1 行だが各ステップ全てが勝負所になっている.
知っていれば何ということはないが,
何も知らずに試験会場で思いつけるかと言われるとこれはつらい.
\((l+m)(l-m) = 2^4 \cdot 3\) から左辺の 2 整数に因数をふりわけるラストステップも,
普通の精神状態ではない試験本番できちんとそこまで辿り着けるかと言われると相当きつい.
呼吸するように自然に動けるよう思考が流れるように,
繰り返し復習して完璧に身につけなければいけない.
それでは最終ステップだ.
整数に関する基本定理, 素因数分解をきちんと使えるかが大事になる.
\(m\) は自然数なので \(l+m > l-m\) だからこれに注意すれば素因数分解の組も決まる.
実際には事前にもっと絞り込める.
具体的には \((l+m) – (l-m) = 2m\) に注意する.
命題 2 から \(l+m\), \(l-m\) は両方とも偶数になる.
つまり \(l+m\), \(l-m\) ともに 3 だけを因数にすることはない.
この条件下で素因数分解のペアを考えていけばいい.
表にするとわかりやすいだろう.
方針 2
命題 1 を使って有理数解が整数解になると言ってしまってもいいが,
ここでは直接見てみよう.
別解は解を有理数と仮定してから絞り込みをかける.
これも有理数ならどうなるか, どんな性質を持つべきなのかを実験しているといってもいい.
\(p\), \(q\) を互いに素な整数で \(p>0\) としておく.
\(q/p\) を \(f(x) = 0\) の有理数解とすると
\begin{align} (\frac{q}{p})^2 + m (\frac{q}{p}) – 12 = 0 \Rightarrow q^2 = p(12p – mq). \end{align}\(p\), \(q\) は互いに素だから \(p=1\) となるしかない.
つまり \(f(x) = 0\) の 2 解は整数になる.
また解と係数の関係から 2 解の積は \(-12\) になる.
2 解を \(\alpha\), \(\beta\) とすると, 再び解と係数の関係から
\(m\) は \(- (\alpha + \beta)\) になる.
\(\alpha \beta = -12\) となるペアの中から \(m\) が自然数になるペアだけ選べばそれが解だ.
最後に: 気軽に質問してください
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コメント (4)
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どうしてlを自然数と出来るのですか?整数でもいいのではないでしょうか。わかりません。。。教えてください。
ご質問・コメントありがとうございます.
ちなみに重複したコメントは削除しておきました.
自己解決されたようで何よりです.
ただ, せっかくコメントを書いたのと,
他にもお困りの方がいるかもしれないので,
コメントをお返ししておきます.
結論からいうなら整数でもいいです.
あとで勝手に【正でないとまずい】ことは出てきます.
自分自身の記述が適当過ぎてアレですが,
ここでの $l$ は次の箇所の $l$ でいいでしょうか:
> 具体的には次のようにすればいい:
> $l$ を自然数として $m^2+48=l^2$ とする.
(すぐ次に【まず整数 $l$ を使って $\sqrt{m + 48} = l$ としてみる.】とあって,
記述が自然数と言ったり整数と言ったり,
適当なこと書いてるな, というのが【適当過ぎてアレ】というのの意味です. )
ご質問がここでの $l$ だとします.
別に整数でもいいですが, 自然数に絞っておいて何ら問題ないし,
見方によっては負の整数では本当に困ります.
それは正に上で【まず整数 $l$ を使って $\sqrt{m + 48} = l$ としてみる.】として
引用した部分です.
$\sqrt{m+48}$ が正なので, $l$ が負の整数であっては困ります.
だからはじめから $l$ を正の整数, 自然数と仮定しています.
はじめから $l^2 = m^2 + 48$ と思って $l$ を見るなら
整数でもいいです.
また, 負の整数まで許すことにしても,
最後の $(l+m)(l-m) = 2^4 \cdot 3$ の絞り込みで
勝手に負の整数ではまずいこともわかるので,
この意味でいうならどちらでもいいです.
lはエルです。
すみません。自己解決しました!