数学ソフトウェアの世界/相転移プロダクション

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この間、日大生物資源の教官、
濱田龍義さんのお話を聞いて来ました。
内容はタイトル通り「数学ソフトウェアの世界」です。

知っている人は知っている、
DVD から起動できて数学系ソフトウェアが詰まっている
MathLibre (旧 Knoppix/Math) を開発されている方です。

一言で言えば面白かった、という話をするわけですが、
まずはもっともっと宣伝すべきいいソフトがあるので、
きっちりその宣伝をしておきましょう。

MathLibre

MathLibre は DVD 起動で数学系ソフトウェアが
大量に使えるようになります。

  • http://www.mathlibre.org/index-ja.html

厳密には DVD で Debian ベースの
Linux 系 OS を立ち上げ、その上でソフトウェアを使う、
という形です。

GeoGebra, SageMath

純粋なソフトウェアという観点からは、
GeoGebra や SageMath が特に話題に上がっています。
世界的なプロジェクトとしても動いているので。

SageMath は「応用からの中高数学再入門
中高数学駆け込み寺」でも使っている
Python を基盤言語とするソフトです。

超大雑把に言えば、
Mathematica のような総合的なソフトウェアです。

ちなみに上記講座の申込ページはここ。

  • https://phasetr.com/mrlp1/

上記講座では特に numpy, matplotlib を使っていて、
これも SageMath に取り込まれています。

SageMath のページはここ。

  • http://www.sagemath.org/

確か Windows はインストールが
死ぬほど面倒だった気がします。
面倒なインストール抜きでオンラインで使いたいなら、
次の CoCalc にアクセスしてみてください。

  • https://cocalc.com/

一方 GeoGebra はもっとお絵描き的にも使える楽しいソフトです。
もちろんかなりのハードユースにも耐えます。

  • https://sites.google.com/site/geogebrajp/

こちらもオンラインで使うことができます。

  • https://www.geogebra.org/graphing

Geogebra と SageMath の開発、新講座作成への道

GeoGebra か SageMath は開発にも
参加してみたいと思っていて、
どちらに参加するか検討中です。

GeoGebra は JavaScript が基盤言語になったようです。
JavaScript はインストール不要で動かせるので、
プログラミング系の通信講座を作るうえで
こちらの方がいいかな、と思って心が揺れています。

ただ、最近、JavaScript は動きが激しすぎて
ついていけないですね。

数学のように、一度証明されたらそのままの形で
ずっと使えるならいいのですが、
続々と新たなライブラリは出てくるわ、
実行環境のブラウザもどんどんバージョンアップして
古いコードのメンテナンスが大変だわ、
と数学と物理の片手間でやるにはハードすぎるのです。

どなたか、JavaScript シミュレーション的な方向で
一緒に講座作ってくれる方いないでしょうか?
そういう本も出てはいて、
遊んでみたいと思いつつ、なかなか時間が取れていません。

講演内容

基本的な宣伝もすみました。
いいものはどんどん共有したいですね。
では講演本体の内容を簡単にお話していきます。

ちなみに講師である濱田さんの
今の所属は生物資源学科です。
しかし専門はバリバリの数学、微分幾何です。

この辺、あなたが大学院くらいまで行っているなら
多少は意味わかると思います。
「何でこの人、専門全然違うのにこんな学科に所属しているの?」
という例のアレです。

それはそれとして内容の話にうつります。
昔、TeX もない頃は大島利雄先生による
大島ワープロなどの数式入力ソフトもあったとか、
歴史的な話もいろいろあり、
昔から大島先生はすさまじいことやっていたのか、
と改めて衝撃を受けました。

灘の生徒だったころからプログラミングをやっていた、
とかいう話が出て、「大島先生、灘だったのか」という新知識。
確か元学生で現東大教授の小林俊行先生も灘だったような。

大島先生の謎エピソードとして、
東大の数理の学科長になったときの
有名なエピソードがあります。

ふつう学科長になると忙しくなるので、
研究も進みにくくなりますが、
大島先生は逆に論文増えたそうです。

理由がすごくて「時間がないので研究用の
ソフトウェアを作る時間を削ったから」
という話でした。

この話は他の東大の先生から伺いました。
数学の研究をするにあたってまずライブラリを作るそうで、
もう何なの、と思わざるを得ません。

大島先生、城西大に移ってからは、
数学教育にもプログラムを積極的に取り入れているそうで、
行列を入れたら基本展開してくれるソフトを
Risa/Asir で作って講義でも使っているという話をしていました。
こういうのも取り入れてみたいですね。
夢だけはどんどん膨らんでいきます。

数学者トークで言うと、森重文さんの話がありました。
濱田さんが大学院の頃にデファクトスタンダードだったという
久保ワープロに関して、森さんは開発に携わっていたそうです。
どうも森さんはアセンブラを書ける数学者として一部で有名らしく、
「100 ページの論文を書いていたら落ちた」から
何とかしようというので関わってきたそうです。

他の分野の様子はよく知りませんが、
数学で 100 ページの論文は滅多になく、
本当に大論文でそんなもんよく書くわ、という話がありました。

計算機科学の科学史

科学史にも関わる部分では、
ソフトウェアに関して記録が残っていないという話がありました。
古いコードは全く保存されていないし、
ある教官がやっていたとしても、
退官されるとそれが引き継がれずなくなってしまう、という話です。
コードなども残っていないそうです。
計算機関係の科学史を追う上でかなり面倒なことになっていますね。

ここで、ソースコードと実行環境の保存に関しては、
他にも問題があります。

実用的な話としては、昔書いたコードが動かない場合、
バージョンアップが必須です。
言語の改良でパフォーマンスやセキュリティも上がるので、
コスト (要はお金や人的資源) が合うなら、
素直に書き直します。

役に立つライブラリもどんどん出てきていて、
そうしたライブラリは古いバージョンに対応していないことも多いので、
新しくできるならそうした方がいいわけです。

これを科学史研究の観点から見ると大変なことになります。
ふつうに考えれば古いコードを持っていても仕方ないので、
削除してしまいます。
少なくとも積極的にメンテナンスしたり、
保持しておく理由がありません。
実際にそういう状況になっています。

こうすると、昔のコードやその実行環境が
どんどんなくなっていきます。

一般に科学関係だと古い装置があっても、
それは実用にとってはほとんど意味がないので、
実用的には取っておく必要がありません。
歴史的な経緯からの意味はあるにしても。

例えば有名な話として、キュリー夫人のノートはいまだに
放射能を持っていて、ふだんは鉛の箱に入れて保管されていて、
閲覧するにも免責同意書にサインして防護服を着て閲覧しなければならないそうです。

  • http://gigazine.net/news/20150802-marie-curie-paper-still-radioactive/

そしてこの問題は他の文化遺産にもはねていきます。
観光資源としてお金になるとかいうならまだしも、
場所や保管代でむしろ出費の方が大きいなら、
廃棄する理由の方が大きいですから。

そういう問題があって、
こう、難しいと。

お金の話

とても世知辛い話ですし、
数学系の人は特に猛烈に嫌がるとは思うのですが、
お金の話をします。
実際、講演のときにも最後に大きな問題として
取り上げられていたのです。

先の科学史のための資料・史料保存は
そのものずばりですね。
管理・維持に途方もないお金が必要です。

先のキュリー夫人の研究遺産の管理を考えてください。
記事にもあるように、
キュリー夫人の研究室をそのまま保持するなら除染が必要でした。
放射能を持つ物質を保管するなら当然厳重な保管が必要で、
人もお金も必要です。

キュリー夫人となるとノーベル賞受賞者であり、
世界的にも有名なので、取り壊したり廃棄するとなったら
それなりに大きな反響が出るでしょう。
科学者団体からも抗議声明が出るのではないかと思います。

かといって、その保管の手間とお金をどこの誰がどう払うのか、
という大きな問題があります。
いつまでもどこまでもひたすらにお金がついて回ります。

一般にマネタイズ能力の弱い学者では、
解決しきれない問題です。
特に継続的に施設設備と
専門的な知識を持つ人材を雇い続けるための
大きな金額が必要です。

単に装置などの形を残しておくだけならまだしも、
それらを動かせるようなレベルにまで
メンテしないといけないとなると、
さらにコストが跳ね上がります。

これを無駄といってしまうと、
科学館や博物館が死滅しかねません。
深刻な問題です。

他の分野を見てみよう

ただ、これがまた難しいです。
先日、ニュースで日本最古の
ティンパニーの話題がありました。

  • https://jcc.jp/news/12541282/

東京芸術大学の前身の東京音楽学校の
教師・ドイツ人音楽家・アウグストユンケルから
1904年に贈られたことを示す
JUNKERの文字が刻まれたティンパニーについて、
東京芸術大学・元特任教授・瀧井敬子は
「もっとも古いといって間違いないと思う。
オーケストラが日本に根付く過程をしめす貴重な物的証拠」と話す。

これ、あなたはどう思うでしょうか?
「貴重な資料だ。ぜひ保存しなければ」と思ったでしょうか?

小平邦彦先生のように、
数学、または数学者と音楽には
割と親和性があります。

しかし「いや、オーケストラが
日本に根付く過程と言われても
特に興味ない」という方もいらっしゃるでしょう。

もっとはっきりいえば、
単にティンパニーがあればいいだけではなく、
きちんと場所と時間と人、さらにお金を使ってこれを
保管しようというときに「そこまでやる意味はどこまであるのか?」
と言われて、きちんと答えられる人は
まずいないのではないでしょうか?

先のキュリー夫人の研究遺産に関しても、
どの程度までその意義を見出せばいいでしょうか?
実際、音楽関係者と予算の取り合いになるわけで、
他人事ではありません。

役に立つ問題

よくある「何の役に立つ」問題とも強く関係します。
私の専門である数学や物理なら、
「いや、役に立つから」と言い切れるし、
何なら「あなたがそれを知らなくても、
理解できなくても一切関係ない」と
まで言い切ることすらできるでしょう。

専門家を育てる必要はあって、
彼らに対する教育が第一で、
数学を知らなくてもほとんどの人は困らないし、

何なら日常生活を営む上で、
数学よりも勉強すべきことはたくさんあるとすら言えます。
学校の勉強にしても理科や法律、歴史などの方が
よほど重要と判断できる
真っ当な判断基準も作れるでしょう。

しかし、科学史上の史料についてまで
「いや、これ役に立つから」と言い切るのはなかなか厳しいです。
明らかに有限な場所・人・お金をどう配分するか、
という問題まで絡んでくるときにどうするか、という問題です。

別に答えがあるわけでもなく、
ただただ厳しいです。

数学ソフトウェアの発展と資金調達問題

そしてこの問題は数学ソフトウェアにも同じ問題があります。
これも 1 つの大きな要素はお金です。
実際に講演の後半でマネタイズに苦労しているという話が出ました。
濱田さん自身「DVD を無料で頒布したら
よけいマネタイズ厳しくなるのに何でそんなことやってるの?」
という指摘を受けている、という話もありました。

GeoGebra はイギリス政府だかの補助があり、
まだ何とかなっているそうですが、
SageMath は本当に資金が厳しいそうです。
教育用の用途だけでなく、研究用の用途もあり、
企業活動などの実用上の用途もあります。

企業からの寄付もあるとはいうものの、
まるで足りないそうで。
特にオープンなソフトウェアの開発ではよくあることですね。
開発者はボランティアでやっていることも多く、
家庭の事情など何かしらの理由で開発しなくなる、
できなくなることも多いので、
継続的に回したければやはりビジネスにするしかありません。

開発を進めるためには開発者が必要で、
それも場合によってはプログラミングだけでなく、
数学にも精通した高度な人材が必要です。
そんな人は引く手あまたなわけで、
そうした人に開発に集中してもらいたければ、
雇ってしまってそれで
生活できるようにしてしまうのが一番でしょう。

ポスドク問題と同じで、人には生活があるのです。

一方、多くの人が使うからといって、
それにお金を出すかはまた別の話です。
なくて困るかと言われると
必ずしもそんなことはないので。

GeoGebra, SageMath の広報や使いやすさを高めること

GeoGebra、SageMath ともにオンラインで
ソフトを使える環境も整備されています。

  • https://www.geogebra.org/graphing
  • https://cocalc.com/

充実したハードウェアを持たない人や、
必ずしも身の回りにコンピュータに
詳しい人がいなくても使えるように、
という配慮もありますし、

使いやすい環境を用意して知名度をあげて、
寄付を募るといった目的もあります。

ただ、このオンライン環境も維持管理に人とお金が必要です。
「なら、やめれば?」と言われてもそういうわけにもいきません。
いわゆる「理念」というやつです。
そして理念だけでは食っていけない、
という世知辛い話でもあります。

私も、それこそ継続的に寄付したい、
と思いはしても、なかなかその余裕がありません。
こういうとき「稼ぐ」という意味での
自分の明らかな無力さを強く感じます。
本当に、きちんと稼げるようになって、
こういうところに少しでも寄付したり、
開発にも参加したりしたいです。

私の活動に関して

そういう話をしたので改めて言及しておくと、
私がやっている活動でも同じです。

細々としたことを抜かせば、
事実上、いまはほぼボランティア状態でやっています。
上記のソフトウェア開発や災害救助なども含め、
ボランティアの限界はまさにボランティアであることです。
ボランティアで活動できる余裕があることです。
余裕がなくなった瞬間にその活動は止まってしまいます。

私もある時期、一年程度、
ほとんど全く活動できなくなったことがありました。
そのときに改めて痛感したことでもあります。

「きちんと活動を続けるためには、
マネタイズすること、きちんと継続に回し続けられる
ビジネスにすることが大事だ」と。

DVD を作って Amazon で販売してみたり、
直近では有料の通信講座を
運営してみたりしている理由の 1 つでもあります。

何度か言っているように、これはもちろん、
他の専門家にも、その人独自の色が強くでた、
有料の通信講座などをやってほしい、というメッセージでもあります。
特にポスドク問題が起きているので、
そうした人達が生きていく術としても確立したいと思っていて、
そのための「人体実験」としても実験・活動しています。

生きていなければ数学もできません。
もっときちんとこの社会で生きることも考えなければならない、
そんなことも改めて考えさせられた講演でした。

今後のメルマガ

今後、こうした世知辛い系統の話もしていく
機会が増えると思います。
1 つにはそうした状況を伝えないといけないと思うからです。
特に中高数学向けの通信講座には、
必ずしも現在の大学院の状況を
ご存知の方ばかりではないからです。

上に書いたように、私が愛してやまない研究者達が
研究を続けながら生きていけるように、
私なりのポスドク問題への対処法の研究や、
その研究発表も兼ねています。

重たい話をしたいわけではなく、
私にとっては生きることも数学なのです。
生きていなければ数学できませんし、
そのための生計を立てることも数学です。
一数学徒の生き様を眺めてもらおうと思っています。

「また変なことやっとるわ」と気楽に眺めていてください。
その筋の方々も「これなら自分でもできる」と思ったら、
ぜひやってみてください。

私がやっているメルマガや通信講座は
トータルでのべ 1000 人の読者がいるので、
面白い話があればどんどん共有します。

通信講座の「今後の勉強の指針」とか
参考文献紹介の中で、
他社サービスや大人向け数学塾なども
紹介していますし、その一環です。

現代数学観光ツアーのアンケート解答も滯っているし、
メルマガもネタはあるのでどんどん発刊したいですね。
試験的にポッドキャストもやってみたいと思っています。
引き続きいろいろがんばります。

ではまたメールします。


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