2020-09-06 高校までの数学と大学の数学/メルマガから

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今週作ったコンテンツのまとめ

新たな動きとしては,
理工系向け語学の勉強会をスタートさせました.
その第 1 回を動画で公開してあります.
参加者は理工系出身の大人ですが,
面白いと言ってもらえたので,
この方針は 1 つの方向性だと自信が持てました.

1 時間あるので軽い気持ちで見られる内容ではありませんが,
勉強会の資料は記事を公開してあり,
そのリンクも以下で紹介しているので,
興味があれば記事だけでも眺めてみてください.

記事

動画

プログラム

宣伝: Mathpedia

現代数学探険隊でも言及した,
位相空間の定式化で使うネットとフィルターの話,
Mathpedia に記事が載ったので紹介しておきます.

現代数学探険隊でも書いたように,
チコノフの定理の証明の簡略化としてよく使われる議論です.
簡略化といっても, その前にネットまたはフィルターの議論の準備が必要なので,
本当に簡略化されているのかは微妙なところですが,
証明だけに着目するならすっきりシンプルにはなっています.

私自身フィルターはあまり使いませんが,
ネットは作用素環でときどき出てくるので多少馴染みはあります.
しかし私はいまだにネットやフィルターがよくわかっていません.

上記ページにある程度の一般論を追いかける程度は特に問題はありません.
問題なのは, ネットやフィルターでないと掴まえられない世界の位相です.
具体的には, 私が扱う空間はノルム空間や内積空間がメインですし,
弱位相を取るにしてもそれなりに強い性質を持つ空間です.
特に強位相で考えるなら距離空間になります.
距離空間は第 2 可算公理をみたすかなり強い空間です.

一方, ネットやフィルターがその威力を 1 番発揮するのは,
こうした可算公理が成り立たない空間です.
最近 Twitter で話題になって圏論的に位相空間論を議論するという本
https://www.math3ma.com/blog/topology-book でもネット・フィルターの話が出てきます.
ここでは [0,1]^{[0,1]} に直積位相を入れた空間が第 1 可算ではないとか,
P.58 の例 3.5 で収束する点列を持たないといった議論がぱっと追えません.
第 1 可算公理をみたさない厳しい世界に慣れていないため,
何をどうすればいいのかすぐにわからないのです.

さすがにがんばれば何とかなるとは思いますが,
これに割く時間があるなら他のことをしたいのできちんと考えていません.

ツイキャスでも infinity_topoi さんが話していたのですが,
位相空間論といっても対象とする分野によって必要な位相空間は大きく変わるので,
自分の趣味に合った位相空間を勉強するのが大事ということでした.
確かに関数解析系で非ハウスドルフ空間を触るのはほとんど意味がありません.

単に推測ですが,
複素幾何などで層が必要な人達でも,
非ハウスドルフの位相空間をゴリゴリやるのは違うのではないかと見ています.

かといって層が必要な人達がハウスドルフだけやっていればいいというのは違うでしょう.
少なくとも幾何で出てくる非ハウスドルフな層の例はきちんとおさえておくべきです.
代数解析だと代数的な事情を重視するために,
第 1 分離公理さえ満たさない位相空間が出てくると聞いています.
その辺の温度差を吸収した多彩な位相空間のコンテンツがあるとありがたいです.
関数解析系はとりあえずヒルベルト空間論とバナッハ空間論をやっておけば十分で,
さらには実数論も重要です.
この辺は現代数学探険隊にまとめてあるので,
興味があれば眺めてみてください.
募集・案内ページを見るだけでも様子はわかると思いますし,
別途無料で配布している参考文献集から関数解析の適当な本を見繕ってもらっても構いません.

p進解析だと超距離とそこから出てくる位相空間が完全非連結だったりする関係で,
実数や複素数体上の関数解析とはまた趣の違う関数解析です.

書くべきことはたくさんありますが,
とりあえずこのくらいにしておきましょう.

頂いたアンケート回答から

久しぶりに現代数学観光ツアーに高校生からの回答がありました.
「DVD に傷がついても見られるのは何故かに興味がある」みたいなコメントがあったのですが,
いまちょうど動画でその部分を作り直しているところです.

PC のブラウザ, 特に Chrome から見ているなら,
次のツールで 5 倍速くらいにしつつ,
一時停止を併用するとテンポよく見られると思います.

私自身を含め, 動画よりも文章がいい派もいるのは知りつつ,
文章のリリース方法を決めてきれていなくて何もできていませんが,
そちらもそのうち何かします.

現代数学観光ツアー,
内容としてはいまでも面白く役に立つとさえ思っていますが,
いかんせんボリューム設定などがおかしすぎる欠点があります.
はじめて作ったミニ講座だったので,
気合が入りすぎていたとかいろいろな理由はあるにせよ,
ちょっとよろしくない部分も目につくコンテンツです.

毎日新しい動画を内容から作るのも大変なので,
整理する目的も兼ねて動画を作っています.

高校までの数学と大学の数学

大分前のアンケートで質問をもらって,
回答を書いたままで放置しているようだったので,
いまさらながら回答を放流しておきます.

当時の回答なので自分自身「何の話だ」と思う部分もあるのですが,
少し書き換えたり記述を追加した上で適当に放流しておきます.

質問紹介

次のような質問を頂きました.

高校までの数学をやりきっても大学レベルの数学には余り結び付かないと聞くことがあります。中高数学をやり直しても無駄になるのでしょうか?

いま作っているミニ講座でも書いていることなので,
簡単に紹介します.

勉強の視点

まずどういう視点で中高数学をやり直そうとしているかによります.
大学レベルの数学といって物理などの応用向けの数学,
特に微分積分や線型代数を想定しているか,
集合・位相のような数学科の数学を想定しているかでも変わります.

大学レベルの数学に結びつかないのは当然と言えば当然で,
単純に高校数学が簡単すぎるからです.
「実用」に足るレベルではないのです.
これは小学校のマラソンレベルで速く走れるからといって,
42.195km のフルマラソンに耐える力はないという程度の意味です.

もちろん必ずしも無駄なわけではありません.
小学校のマラソンも走れる程度の体力もないのに,
フルマラソンに耐えられるはずがありません.
基礎体力向上のためには役に立ちます.

もう 1 つ大事なのは,
大学の数学では一般性と抽象性が高くなる上に,
読む本によっては取っつきやすい具体例が取り上げられていません.
中高数学はその具体例を提供してくれます.

そして大学の数学でも一定の計算練習が大事です.
中高数学はその計算練習ネタを提供してくれる側面もあります.
大学数学の演習書ももちろんありますが,
やはりそう簡単ではありません.
下手な本を選ぶとふつうに本を読むよりも大変です.
特に昔エリートしか大学に進学していなかった頃に
書かれた古い本は恐ろしく難しいことがよくあります.

エリートがエリート向けに書いているわけで,
「このくらいでわかるだろう」の水準が噛み合わないのは当然です.
よく「解析入門と言いつつ解析門前払いになっている」
という言いがかりをつける人がいますが,
「お前が対象なのではない」というだけです.
それはいろいろな意味で.

適切な本を選ぼう

適切な本を選ぶのも大事なことで,
それがあるから参考文献をいろいろ紹介しています.
あと, 私は数学・物理を本格的に勉強する前提で本を選んでいるので,
上で「解析門前払い」と書かれた杉浦光夫の解析入門を推薦書に入れていたりします.

実際私はこれを一通り眺めた (完全に理解して頭に入っているとは言っていない)
のですが, 証明が非常に丁寧で,
コンテンツを作るときや復習するときにも実際によく参考にしています.

この本が厳しいのは,
もちろん数学科水準の内容であること,
そして他の本ではなあなあで済ますことをいちいちギチギチに書いているので,
通読しようと思うと心底鬱陶しいことです.
辞書として使うと非常に役に立ちます.
実際, 先程書いたように, 私はこの本を辞書として使っています.

加藤文元さんによるチャート式大学数学

あと紹介しようと思って忘れていたのですが,
最近, 東工大の加藤文元さんが書いた大学教養数学に対応する,
チャート式の演習書があります.

詳しく読んでいる人に様子を聞くと,
加藤さんの執筆による本体はよくても,
演習書の出来にはいまひとつな部分はあるようです.
それでも 1 つ定番になりそうな本ではあるので,
紹介くらいはしておきます.

「大学の数学」で何を指すのか問題

先程書いたように大学の数学といって何を指すかも大きな問題です.
物理などの応用に使うための数学と,
数学科の数学でかなり趣が違います.
高校までの数学は物理などの応用に使う,
微分積分や線型代数 (ベクトルと行列) がメインです.

一方, 数学科の数学をやる上では集合・位相との戦いが必須です.
これは中高の数学をいくらやったところでほとんど意味はありません.
知識ではなく純粋な数学的体力だけが求められます.

私は学部が物理学科で集合・位相が必修でした.
大学受験の数学は本当に駄目で,
私は数学科進学ははじめから考えてさえいなかったのですが,
物理学科の大半の人間が撃沈していた一方で,
私はむしろ数学科の数学世界に高い耐性を持っていたようで,
むしろ取り組みやすいくらいでした.

どうやら本質的な向き不向きはあるようですが,
少なくとも数学科の数学を勉強する上で表面的に必要なのは,
予備知識ではなく数学に挑む気概と尋常ではないレベルの忍耐,
そして数学に没頭する時間です.
こちらは知識としての中高の数学なしでダイレクトに挑戦できます.
試しに挑戦してみるのもいいでしょう.

参考文献集

次の PDF は何度かリンクを共有している参考文献集です.
この中にお勧めの集合・位相の本とその簡単な書評もあるので,
ぜひ参考にしてください.

  • http://phasetr.com/members/myfiles/file/math_expedition_000_003_FPWpc.pdf

最近だと数学市民による Mathpedia も参考になるでしょう.

  • http://mathematicspedia.com/

これは管理者が数学科卒で非常に強い人なので,
内容的に一定の信頼がおけます.
参考書ページに簡単な書評もあるので,
そこにある範囲の本については参考になるでしょう.
最近できたばかりでまだ充実度は低い面があるものの,
私がカバーできる範囲とは全く違うところが強い人ですし,
これからの充実を期待しています.

何を意図して中高数学を勉強するのか

まとめると,
何を意図して中高数学をやるかによります.
大学数学の「理論」学習のための準備としてはほぼ使いものになりません.
簡単すぎるからです.
一方, 最低限の基礎体力をつけたり,
理論だけで理解を上滑りさせないように具体例を触る目的なら,
中高数学の復習には一定の意味があります.

どちらにしろ, 中高数学はただただ箱庭であって,
完全に実用もしくは数学のための数学になる大学の数学を勉強する上では限定的な意味しかありません.
基礎体力がないなら,
大して役に立たないことを承知で,
歯を食いしばって中高数学をやるしかないでしょう.

数学科の数学に挑むことが前提なら,
とりあえず集合・位相の本を読んでみてください.
予備知識はほぼ不要です.
いまはオンラインの数学教室もありますし,
適切な指導者をつけることをお勧めします.

参考までに書いておくと,
動画作成のために数学・物理を復習もしながら計算の詳細を詰めていますが,
本や論文で「読者に任せる」と書かれた 1 行の計算結果を出すのに
2 週間くらいかかったこともありますし,
何ならこれで軽いくらいです.
学生の頃は 3 年くらいしてようやく計算できた
(計算できただけでわかったわけではない) みたいなこともよくありました.
この手の苦労を少しでも減らしたいなら,
きちんとお金なり適切な対価を支払って指導者をつけましょう.

具体的なサービス紹介

私がぱっと思いつく (覚えている) のは次の 2 つです.

  • 和から https://wakara.co.jp/
  • すうがくぶんか https://sugakubunka.com/

他にも探せばもう少しあります.
これ以外にほぼ無料で参加できる,
相互扶助勉強会もいくつかあります.

上の 2 つはもともと対面の教室ですが,
このご時世なのでオンライン指導もやっていると思います.
すうがくぶんかは 1 時間あたり 7,000 円が相場です.

どう控え目に言っても高いですが,
もし私がやるにしても同じくらいの金額をチャージするでしょう.
そのくらいしないと労力に見合いません.

では今日はこんなところで.
またメールします.


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