「わかりやすい」全射・単射の定義とは何か: ある定義とそれへの応答

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最初にまとめ

結局そもそも「わかりやすい」の定義が問題になってくる話だと思っている.

発端は次のツイート.

昔、写像が全射・単射であることについて、rangeの要素に対応するdomainの要素の個数によって定義したらいいじゃんと思った。即ち「f:X→Yで、Yの要素yに対し、f(x)=yとなるXの要素xの個数が1以上なら全射、1以下なら単射と呼ぶ」

同じこと書いてる記事を見つけた。https://t.co/iGJqpW2rBE

(続く)— ゆうな (@kawauSOgood) September 24, 2020

元の記事の引用と批判

いくつか引用する.

普通の全射の定義はわかりやすいのに対し、単射の定義は初心者には不自然に見えます。また、全射と単射は互いに密接な関係があるのですが、定義を眺めているだけではそのように感じれられません。今回提案する方法はこれらを解消する利点があるような気がします。

まず全射の定義が本当にわかりやすいのかという気分がある. 単射が (初心者にとって?) 不自然かどうかもわからない. 少なくともはじめて触れたときに私はそうした違和感は感じなかった.

[今回思いついた定義]
(写像fが)全射:任意のBの要素yに対し,f(x)=yとなるAの要素xの個数は1以上.
つまり,
∀y∈B, #({x∈A|f(x)=y})≧1.
ただし,「#( )」は集合の濃度(個数)を表しています.

(写像fが)単射:任意のBの要素yに対し,f(x)=yとなるAの要素xの個数は1以下.

つまり,

∀y∈B, #({x∈A|f(x)=y})≦1.

この定義を思いつくまではこれらの関連性にもやもやしていましたが、今は

・全射 ~ (定義域の要素の個数が)1以上 ~ 「存在」

・単射 ~ (定義域の要素の個数が)1以下 ~ 「一意」

と明快なイメージを持てるようになりました。

全射との比較でいうなら単射は非存在または一意だろうから, これだとおかしいのではないだろうか. 当人はわかっているかもしれないが, 少なくともこう書いてしまった時点でミスリーディングを誘発するような表現という意味であとで引用する私のリプライにもあるように, わかりにくく教育的でもないのではないかという気分がある.

改めて「証明」とやらを見てみたが, そこでもこの非存在ケースを書いていないから, この人, 本当にそれに気付いていないようだ.

追記・注意: ここについて私の指摘が不当であるという指摘が入り, もっともな指摘だったので上のコメントは撤回する. ただしかえってこの記事がよけいに気に入らないという感を深めるやり取りになった. そのやりとりはリプライツリーに追加している.

思いついた定義⇒一般的な定義
x1≠x2
とおく。このときf(x1)=f(x2)とであると仮定すると

#( { x∈A| f(x)=f(x1) } ) ≧ #( { x1 , x2 } ) = 2

となって前提条件と矛盾する.
(∵集合S, TがS⊃Tならば#(S)≧#(T).)
ゆえにf(x1)≠f(x2)といえる.

こう思うと全射の定義のシンプルさは場合分けがいらないことによっていて, 単射の定義の難しさは本質的に場合分けが必要な点で, それを回避していて, しかも意識さえさせない点が優れていて教育的と言えるだろう. ふつうの単射の定義で「全射から見た定義域に対応する元がない場合の対処」が書かれていたら上記の証明のミスもないはずだ.

追記・注意: ここについて私の指摘が不当であるという指摘が入り, もっともな指摘だったので上のコメントは撤回する. ただしかえってこの記事がよけいに気に入らないという感を深めるやり取りになった. そのやりとりはリプライツリーに追加している.

(おそらく)証明で使い辛いという欠点はありますが、初学者用にいかがでしょうか。

あとのリプライツリーにあるように, むしろ入念な注意をしないと初学者殺しになるのではないか. 「非存在または一意」のような場合分けを見逃していくような不注意さは後々, 真綿で首を絞めるように効いてくる.

リプライツリー

大元

昔、写像が全射・単射であることについて、rangeの要素に対応するdomainの要素の個数によって定義したらいいじゃんと思った。即ち「f:X→Yで、Yの要素yに対し、f(x)=yとなるXの要素xの個数が1以上なら全射、1以下なら単射と呼ぶ」

同じこと書いてる記事を見つけた。https://t.co/iGJqpW2rBE

(続く)— ゆうな (@kawauSOgood) September 24, 2020

(続き)

でもこの定義だと、濃度とか個数とか、全単射が定義されてからじゃないと述べられない素朴概念が出てくるから陽には使えないんだと思う。

個数にしても、基数として扱うには全単射の議論が必要になると思う。

有識者各位、いかがでしょうか。— ゆうな (@kawauSOgood) September 24, 2020

字数の兼ね合いで文章を削りに削ったので、元々メモしてた定義の文章を参考までに載せておきます。:

「f:X→Yとする。Yの任意の要素yに対し、f(x)=yとなるXの要素xの個数が、1以上の場合を全射、1以下の場合を単射と呼ぶ」— ゆうな (@kawauSOgood) September 24, 2020

字数の兼ね合いで文章を削りに削ったので、元々メモしてた定義の文章を参考までに載せておきます。:

「f:X→Yとする。Yの任意の要素yに対し、f(x)=yとなるXの要素xの個数が、1以上の場合を全射、1以下の場合を単射と呼ぶ」— ゆうな (@kawauSOgood) September 24, 2020

私のコメント

その単射の定義をもとに単射性を示すのに結局ふつうの単射の定義を使うことになりそうで、ご利益をあまり感じない気分があります。
あと全く違う話ですが、個数と濃度と基数という同じような意味を持つ(詳しく知りませんが濃度と基数は別物になる定義もあるとか)用語が乱れ飛ぶ文が厳しい感。— 相転移P (@phasetrbot) September 24, 2020

あと、f(x)=yが一個以下という言明、一つの場合は問題ないとして0個の場合が意味する非存在がかなり分かりにくいのではないか感があります。一度xがあると思わせたことを書いておきながら実はない(0個)というの、数学に慣れていればそれはそうという話ですがそうではないならかなり難しいのでは。— 相転移P (@phasetrbot) September 24, 2020

個数というよく知っている気分になれる言葉を使ったからわかった気分になれるだけで内実難しさと冗長さを導入した定義でそれ本当にわかりやすいのか、議論を続ける上で使いやすいかみたいなところがごそっと抜けているのではという気分です。— 相転移P (@phasetrbot) September 24, 2020

川井新さんのコメント

有識者ではないですが、「個数」「濃度」「基数」という異なる概念が混同されてはいるかと。
ただ @kawauSOgood さんが提唱する様に単射・全射の概念は直感的には「codomainの要素に対応するdomainの要素の数」に着目したい(側面のある)ものであるという説明のためには有用であると思います https://t.co/WXN3CQhAH4— 川井新 (@squawai) September 24, 2020

そこには(言い方は悪いですが)「かずという直感的だが冗長な概念のためにあまり直感的ではないけど冗長でなく混乱のない定義を与えられる」という数学の効用を伝えるメリットがあるようには思います— 川井新 (@squawai) September 24, 2020

思いつく有効活用:
「これこれのために単射および全射という概念を定義したいので、定義を考えなさい」と問い、その際に使う— 川井新 (@squawai) September 24, 2020

ちなみにシングルトンと空集合は濃度の概念をパスして定義できる(できないとおかしいのですが)ので、これを単射、全射の「定義」として採用しているものを私が見たことがないあたりに「まぁ役に立たないんだろうな」と思います— 川井新 (@squawai) September 24, 2020

空集合とシングルトンについては次の嘉田さんのコメントを見よう.

嘉田勝さんのコメント

emp(x): ∀y(¬y∈x)
sing(x): ∃y(y∈x ∧ ∀z(z∈x → z=y))
という感じで、空集合とシングルトンは濃度の概念を使わずに定義できます。— 嘉田 勝 (@kadamasaru) September 24, 2020

「x の要素の個数が1以上」⇔ ¬emp(x)
「x の要素の個数が1以下」⇔ emp(x)∨sing(x)— 嘉田 勝 (@kadamasaru) September 24, 2020

数学って自由ですね…すごい…。

ありがとうございます、こんな風に表現できるのですね。非常に勉強になりました。— ゆうな (@kawauSOgood) September 24, 2020

これ, 自由なのか?

追記

【蛇足】一般に個々の有限濃度は写像の概念抜きで記述できます。たとえば、4はこうです。 pic.twitter.com/gFytAhxn6m— Hiroyasu Kamo ((φ→ψ)→φ)→φ (@kamo_hiroyasu) September 25, 2020

追記: 私のコメントに対するぼんてんぴょんさんのコメント

この中の「単射の非存在ケース」に関する指摘はおかしいと思うのだが。「一意」と言って「1個または0個」を指すのは普通だし(その慣習が初心者殺しという見解はありうるにせよ)元記事の証明にはその点に関しての抜けはない。 https://t.co/vF4zY9ReBU— ぼんてんぴょん(Bontenpon) (@y_bonten) September 25, 2020

イメージしたのは「存在するならば一意」と「存在証明」をわけるような状況です。パッと思いつかないのですが、「「一意」と言って「1個または0個」を指す」というの、どういう例があるでしょうか。言われればそうか、という話にはなりそうなのですが。— 相転移P (@phasetrbot) September 25, 2020

どういう場合も何も、数学で単に「一意である」とか「一意性」と言ったら「1個または0個」を指すのがむしろ通例なのではないでしょうか。そのためにわざわざ「一意に存在する」という言い方があるわけで。ほかならぬ貴殿に尋ねられると自信が無くなってしまいますが……— ぼんてんぴょん(Bontenpon) (@y_bonten) September 25, 2020

その通例、意識したことがありません。私はむしろ「存在するならば一意」「存在証明は別」というよくある話から「存在しない場合に一意と言わないのでは」という気分です。— 相転移P (@phasetrbot) September 25, 2020

そうなのですね……用語法はともかく、元記事の証明に非存在ケースに関する抜けがあるというのであれば、どう直せばよいのかが気になります。— ぼんてんぴょん(Bontenpon) (@y_bonten) September 25, 2020

本筋ではないがこの「0 個または 1 個で一意を表す」というの, 用例あるだろうか. いまだに気になっているが思い浮かばない. ぼんてんぴょんさんは細かい用語の定義にうるさい人なので, そういう人が言っているということは何かしらそういう用例なりそう書いてある本があるのではないかと思っている. 何か情報を持っている方は教えてほしい.

「y=f(x)を満たすxが存在しない場合に個数は0で議論すべきことはない。y=f(x)を満たすxが存在する場合は2つあったとしてこれが一致することを言えれば個数1が言える」と補足すれば十分ではないでしょうか。— 相転移P (@phasetrbot) September 25, 2020

一般に(通常の定義の)単射性を言うときに、終域の全ての要素を吟味してそんなことを示す必要はないでしょう。元証明はx1≠x2かつf(x1)=f(x2)なるx1,x2が存在すると仮定して矛盾を導いているだけであり、ごく普通の方法です。— ぼんてんぴょん(Bontenpon) (@y_bonten) September 25, 2020

それは確かにそうでした。私がイメージしたのは、それこそ初学者向けに杓子定規に仮定の条件をガチガチに確認してつける証明で、ごく普通の方法を意識していませんでした。— 相転移P (@phasetrbot) September 25, 2020

了解しました。考えてみれば貴殿の仰るように単射性を定義しても構わないわけで、よく知られた定義が∀y∈Bでなく∀x1,x2∈Aで始まっているのは、そういう点も含めて「洗練済み」なところがありますね。ありがとうございます。— ぼんてんぴょん(Bontenpon) (@y_bonten) September 25, 2020

この話、定義の気分をきちんと説明することが主眼なので、あくまで私が意図したような議論をする方が適切だと考えています。ぼんてんぴょんさんの指摘を本当に「普通だ」と言い切るくらい普通の感覚が醸成されている相手に対して、そもそもこの定義の議論をする意味があるか疑問です。— 相転移P (@phasetrbot) September 25, 2020

はい、それはそうかもしれません。譲れないのは、「(通例の定義との一致を確認している)あの証明に関して『非存在ケースへの言及がない』という指摘が不当である」という点のみです。— ぼんてんぴょん(Bontenpon) (@y_bonten) September 25, 2020

個数を確認できればいいのでそれはそう(不適切な指摘であった)というのを後で書いておきます。そしてこのやり取りで、今まで以上にあの記事は本当に気に食わないな、これで初学者向けというのをやめてほしい気分が深まりました。— 相転移P (@phasetrbot) September 25, 2020


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