2021-01-15 第 014 回 第 6 文の読解 アインシュタインの特殊相対性理論の原論文を多言語で読む会

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今日の予定

  • 第 6 文の読解

進捗・TODO・今日のメモ

  • 第6文内の第2文の主節の構造を確認
  • 次回: 第 6 文内第 2 文の復習から
  • TODO: 頂いたコメントを転記
  • TODO: 修正した部分を本体に反映

内容: コンテンツ (案) からの転記

第 6 文

英文と訳

en.6

Examples of this sort,
together with the unsuccessful attempts
to discover any motion of the earth relatively to the light medium,
suggest that the phenomena of electrodynamics as well as of mechanics
possess no properties corresponding to the idea of absolute rest.
They suggest rather that,
as has already been shown to the first order of small quantities,
the same laws of electrodynamics and optics
will be valid for all frames of reference
for which the equations of mechanics hold good.

de.6

Beispiele ähnlicher Art,
sowie die misslungenen Versuche,
eine Bewegung der Erde relativ zum “Lichtmedium” zu konstatieren,
führen zu der Vermutung,
dass dem Begriffe der absoluten Ruhe nicht nur in der Mechanik,
sondern auch in der Elektrodynamik keine Eigenschaften der Erscheinungen entsprechen,
sondern dass vielmehr für alle Koordinatensysteme,
für welche die mechanischen Gleichungen gelten,
auch die gleichen elektrodynamischen und optischen Gesetze gelten,
wie dies für die Grössen erster Ordnung bereits erwiesen ist.

fr.6

Des exemples similaires,
tout comme l’essai infructueux de confirmer le mouvement de la Terre relativement au «médium de la lumière»,
nous amène à la supposition que non seulement en mécanique,
mais aussi en électrodynamique,
aucune propriété des faits observés ne correspond au concept de repos absolu;
et que dans tous les systèmes de coordonnées
où les équations de la mécanique sont vraies,
les équations électrodynamiques et optiques équivalentes sont également vraies,
comme il a été déjà montré par l’approximation au premier ordre des grandeurs.

  • (NdT 1) (médium de la lumière) médium de la lumière: En jargon moderne, il s’agit de l’éther luminifère.
jp.6

光の媒質に対して相対的な地球のどんな運動を見つけられなかったことと合わせて,
この種の例が示唆するのは,
電磁気現象と力学現象は絶対静止の概念に対応するどんな性質も持たないことである.
それらはむしろ次の内容を示唆する:
つまり既に 1 次の微少量までは示されているように,
力学の方程式がよく成り立つ全ての座標系に対して,
電気力学と光学の物理法則は正しい.

  • [TODO] この訳, 内山訳と the same laws の取り方が違う.
    上の訳で正しいか要確認.
    英訳自体がドイツ語訳からずれている?
    該当箇所だけ見るとそんなことはなさそうだが.
  • cf. 内山訳: そのような座標系のどれから眺めても, 電気力学の法則および光学の法則は全く同じであるという推論である.
  • cf. 唐木田訳: 電気力学や光学の法則が同じ形で成立する.
解説
英語
# 英語第 1 文
## 構文

文構造を確認しましょう.

  • Examples of this sort suggest
    • that the phenomena of electrodynamics as well as of mechanics possess no properties
      • corresponding to the idea of absolute rest
    • together with the unsuccessful attempts
      • to discover any motion of the earth
        • relatively to the light medium

まず主節は A suggest that の構造で that 節があり,
カンマに挟まれた,
together with からなる副詞句が長い挿入があります.

## Examples of this sort suggest that

これが主節です.
主語はもちろん Examples of this sort です.
間の長い挿入を無視して動詞 suggest を見つけられうかがまず勝負です.

Examples of this sort は「この種の例」と訳し,
suggest that — は「—を示唆する」と訳せばいいでしょう.
何を示唆するかが that 節の中身です.
Examples は無冠詞の複数で,
sort は単数で this の限定がついていることに注意してください.

よく suggest は suggest that のかたまりで出てきますし,
提案の内容までセットで骨格を掴みたいと思うのも人情です.
先に補足説明を除いた骨格を示しておくと次の通りです.

  • Examples suggest that the phenomena possess no properties.

何故これが骨格なのか調べてみましょう.

## (that) the phenomena of electrodynamics as well as of mechanics possess no properties corresponding to the idea of absolute rest

Suggest の目的語である that 節は主語が長いものの,
主な構造は the phenomena possess no properties です.
The phenomena と possess の間にある of A as well as of B が
phenomena の補足説明で as well as は and と思ってください.
No properties の補足説明が corresponding to からなる形容詞句です.
ついでに動詞が possess になっているので
the phenomena は複数形であることもわかります.

ここで examples は何なのか,
phenomena は何なのか,
no properties は何なのかを説明する句がたくさんある構造がわかります.
先にこの骨組を見抜いておき,
修飾がある単語に対して「確かに補足してもらわないとわからないな」と感じるのも大事です.
それぞれ複数形であることも大事です.
冠詞の有無にも注意しましょう.

では深掘りしていきましょう.
まずは基本構造の the phenomena possess no properties からはじめます.
名詞 phenomena は phenomenon の複数形で「現象」という意味です.
動詞 possess は have と思ってください.
目的語の no properties は直接日本語では表現しづらいので多少意訳して,
この全体は「その現象は (以下で説明する) 性質を何も持たない」と訳せます.
目的語の no properties は英語らしい表現で,
多くの場合「そのような性質はない」などと訳せば問題ありません.
次の例文がイメージしやすいでしょう.

  • There is no room for compromise.
  • 妥協の余地はない. $¥gets$ 妥協に対する余地が 0 個ある.

次に主語を詳しく見てみます.

  • the phenomena of electrodynamics as well as of mechanics

これは単に the phenomena of electrodynamics and mechanics と思えばよく,
「電気力学的な現象と力学的な現象」とシンプルに訳せば十分です.
電気力学と力学という専門用語,
ギリシャ語由来の phenomena が複数形であることがポイントです.

次は動詞を詳しく見てみます.
動詞 possess は単純に「持つ」と思いましょう.
もしあなたがサッカーが好きなら「ボールのポゼッション」という言葉を聞いたことがあるでしょう.
「ボールをどれだけ持っているか」という意味で,
サッカーで言えばチームのボール所有支配率という意味です.
スポーツなり何なり, 身近に英語を含めた多言語は溢れています.
自分なりの言語, ひいては情報収集ルートを整備してみてください.

次は目的語です.

  • no properties corresponding to the idea of absolute rest

TODO the idea の定冠詞に関して言及

No properties は冠詞のない複数形で正体不明です.
何かしら補足説明があるべきで,
それが corresponding to からなる形容詞句です.

Absolute は「絶対」という意味で relative 「相対」に対応する単語です.
Relative に対応する単語である以上,
この論文のキーワードです.
そしてここでの rest は「静止」という意味で,
absolute rest で「絶対静止」です.
静止状態 (概念) は座標系の取り方による概念であり,
静止状態は相対的にしか定義できず,
絶対的な静止状態が存在しないという特殊相対性理論の重要な主張につながります.
この論文の内容として本質的な部分です.
冒頭でテーマをすっきり論じるのは欧米系の文章作法であり,
それに即して議論が進んでいることがわかります.

## together with the unsuccessful attempts to discover any motion of the earth relatively to the light medium

挿入句で examples of this sort を補足しています.
第 5 文までは理論上の話であり,
いわば人間の頭の中の話です.
この挿入句が何を言っているかというと実験に関する話です.
ここでの attempts は実験の話なのです.

物理は実験科学である以上,
どれだけ理論的に優れて見えたとしても実験と合わないならその理論は捨てるしかありません.
その重要な話を補足説明しているのです.
これは理論の論文で理論に重点がある以上,
話の筋は理論的な問題です.
しかし実験的にもきちんと支持されている話だという補足なのです.
Together with attempts でここまで読み取る必要があります.
物理学者はそういう思考習慣があると言っても構いません.

ここで大事なのは attempts は単に attempts なのではなく,
the (unsuccessful) attempts と定冠詞がついています.
つまり「物理学者であるあなたなら先刻承知の試み」だと言っています.
高校物理でも出てくるマイケルソン-モーリーの実験があり,
当時でもこれらの実験を自然と結びつけられたのでしょう.
この特殊相対性理論の論文には他の論文の引用がなく,
これらの実験に関する論文をきちんと引用するべきだったという批判があることもコメントしておきましょう.
何にせよこの 1 文で実験に関する諸々を一気に説明していて,
いわゆる大きな行間がある挿入句なのです.

読解上のコメントが先行しました.
文法的に解析しながら読み進めてみましょう.
まず together with the attempts が基本構造です.
どんな unsuccessful attempts なのかが気になるので
即 to discover の形容詞句での説明があります.
Discover の目的語は any motion で,
any motion をさらに of the earth が修飾しています.
最後の relatively to the light medium はまず
to the light medium が any motion of the earth を修飾していて,
relatively は to the light medium を修飾しています.

まずは to discover any motion から見てみましょう.
ここの any は unsuccessful の un (not) と結びついています.
「いろいろがんばって見たがどんな運動も見つけられなかった」のです.
どんな運動なのかが気になるので,
それを of からの形容詞句で説明されています.

ここの discover の目的語は次の文 (節) であると思った方がわかりやすいかもしれません.

  • the earth moves relative to the light medium

こうした節で表現すると any motion の any はこの構文ですっきりと表現するのが難しく,
discover any motion と名詞で表現するとすっきり書けることもわかります.
念のため move relative to に関する例文を 1 つ紹介しておきます.

  • Two objects move relative to each other.

さて, 元の文章に戻りましょう.
まずは of the earth で地球の運動なのだと説明されています.
Earth は普通名詞で定冠詞がつくという教科書にも書いてある話が出てきて,
教科書が役に立つことを教えてくれます.

特殊相対性理論は運動の相対性を問う理論なので,
何に対して相対的な運動なのかが気になります.
それが relatively to the light medium です.
つまり「光の媒質に対して相対的な運動」なのだとわかります.

ここでまた the light medium と定冠詞がついていることに注意します.
「あなたも先刻承知の光の媒質」でありいわゆるエーテルです.

TODO as well as = and でもいいときはある.
翻訳者泣かせ.
「B だけでなく A」, 「A と B」どちらがわかっていることか,
重きを置くかで文脈によって決まる.

# 英語第 2 文
## 構文
  • They suggest rather that
    • the same laws of electrodynamics and optics will be valid
      • for all frames of reference
        • (all frames) for which the equations of mechanics hold good.
    • as has already been shown to the first order of small quantities,

主節は They suggest that で suggest する内容が that 節の内容です.
最初の they は前文の主語である「この種の例」を指しています.
主節は前文と同じで they suggest that という形になっていることにも注意しましょう.

この that のあとに “, as …,” とカンマで区切られた as 節は
that 節に対する副詞節です.
あとで調べることにしましょう.
Suggest に対する that 節のメインの構造は
the same laws will be vaild です.

## They suggest rather that

これが主節で基本的には英語第 1 文と同じ構造です.
Suggest が「提案する」で提案内容は that 節の内容です.
文章理解の上では主語 they の理解が大事です.
前文 (第 1 文) の主語 examples of this sort,
together with the unsuccessful attempts と思えばいいでしょう.

ここの rather が解釈上重要です.
日本語では「むしろ」とでも訳せばいいでしょう.
これは次のように捉えます.

  • 電気力学にも力学にも絶対静止という概念を持たせられない.
  • これを否定的な材料と思わず肯定的に捉えて理解するべきだ.

つまり the customary view からの大きな転換を表しているのです.

目的語の that 節を見ると as has already からはじまる挿入節があります.
この挿入節は後回しにして,
that 節の本体を確認しましょう.

## the same laws of electrodynamics and optics will be valid for all frames of reference

主な構造は次の通りです.

  • the same laws will be vaild

もちろん「同じ物理法則が成り立つであろう」と訳します.
これは suggest の目的語の that 節であることに注意すれば
ここでの will は未来形ではなく推量の助動詞と見るべきです.

The same laws で何の法則かが気になるわけで,
それが electrodynamics and optics です.
Electrodynamics は電気力学で optics は 光学です.
光は電磁波なので光学は電磁気学 electromagnegnetism です.
ここでelectromagnegnetism ではなく electrodynamics が出ているので optics をわけているのかもしれません.
読み進めるとわかるように情報伝達のための信号として光を使っているので,
それを強調するためにあえて optics を積極的に取り上げているのかもしれません.

Be vaild はどういう状況で成り立つのかが問題になります.
それが for all frames of reference で指示されています.
All frames of reference の直訳は「全ての参照枠」でいいでしょう.
特に一般相対性理論を視野に入れて現代的に考えると,
数学的な言葉で言えば全ての局所座標系と訳せます.
局所座標系は多様体論の言葉・概念で一般相対性理論の数学でも出てくる大事な概念です.
もちろん特殊相対性理論でも座標系の概念は大事です.
あとで何度も出てくるので嫌でもわかります.

最後, frames は all がついているとはいえ定冠詞がありません.
「皆さんご承知の全ての座標系」とは言っていないので,
何かしらの決めきれない部分があります.
それを指定するのが次の関係代名詞節の内容です.

## for which the equations of mechanics hold good.

主節の suggest の目的語である that 節の内容をさらに補足する内容です.
特に all frames を修飾しています.
ここで hold good は hold が be 動詞のようにはたらいていて,
文型は第 2 文型 SVC と見るといいでしょう.

主語は the equations of mechanics です.
定冠詞 the がついていることに注意してください.
そしてここは明確に力学 mechanics と言っていて
electrodynamics ではありません.
電磁気学と切り離した純粋な力学の話が影響すると言っているのです.

最後の hold good は「よく成り立つ」という意味で,
特に hold を「成り立つ」とみなすのが大事です.
Hold の有名な訳「持つ・つかむ・抱える」の意味を発展させて「成り立つ」と訳してください.
数学や物理で重要な単語です.
また equations に対する動詞 hold のコロケーションを覚えておいてください.

## as has already been shown to the first order of small quantities

さて, 挿入節です.
接続詞の as は様態で訳すと落ち着きます.

まず as 節は主語がなく動詞が has と三単現になっていることに注意しましょう.
これは前の文自体の内容を it で受け,
さらにそれを省略した形とみなせます.
動詞は現在完了形をさらに already で修飾していて既存の確立した結果という気分が強く出ています.
そして既存の結果としては to the first order of small quantities です.
これは物理や理工学では典型的な表現で,
議論の精度・近似の精度に関する言及です.
まだ近似レベルで留まっていて厳密に示されているわけではないという主張でもあります.

(TODO これの主語は何? 単数のどれ?
前文の内容全体を it/that などで示して受けていると思えばいい?)

ここでは動詞が現在完了で already まで入れて強調しているのがポイントです.
ふつう「見せる, 示す」と訳す show は「証明する」の意味で理解するといいでしょう.
つまり「既に証明されているように」と訳します.
物理・数学, 特に数学ではよく使われる用法です.

これに対して to が導く句で証明されている程度を表しています.
高校物理でもよく議論したように,
物理では適当な近似の範囲で成り立つというタイプの議論がよくあります.
物理で厳密な証明は難しく,
近似で仮定した範囲での限定的な「証明」なのです.

The first order of small quantities は「1 次の微少量」と訳します.
これは物理でよく出てくる数学表現で,
微分, 特に 1 階の微分係数・導関数を使った近似を指します.
そして実際に高校の物理でよく出てくる近似はこの「1 次の微少量による近似」です.

この文は数学と近似に関わる議論なので,
物理の議論に慣れていないと難しいでしょう.
念のため簡単に補足をつけておきました.
必要なら補足の節を確認してください.

補足

英語第 1 文
専門用語としての sort

Sort はプログラミングでは「データの集合を一定の規則に従って並べる」という意味でも使われ,
日本語でもそのまま「ソート」と言います.
データ構造とアルゴリズムの話題で必ず出てくる計算機科学の基本です.

絶対性に関わる議論

特殊相対性理論では静止という力学的な概念の絶対性を否定します.
一方で他の絶対的な概念を導入しています.
それがまさに特殊相対性理論の 2 つの仮定 (原理) です.

  • 光速度不変の原理: 真空における光の速度$c$はどの慣性座標系でも同一である.
  • 相対性原理: 全ての慣性座標系は等価である.

どちらも謎と言えば謎の概念です.
ここでは相対性原理に注目しましょう.
相対性原理は座標系に注目して定義されていますが,
ここから座標系に付随する概念についても適当な等価性が要求されます.
たいていの物理法則は微分方程式で記述されます.
特に偏微分方程式を記述するための微分概念である偏微分は座標系にべったり依存しています.
そこで座標系に依存しない微分概念を導入する必要があり,
そのための数学が実は幾何学です.
この意味で一般相対性理論の記述言語は微分幾何だと言われています.

現代数学の話に突撃するので簡単ではありません.
2020 年のノーベル物理学賞でのペンローズの業績がまさに一般相対性理論で記述言語は幾何であり,
2016 年のノーベル物理学賞でのトポロジカル絶縁体ではトポロジーという分野名が幾何から来ています.
最近, 理論物理をはじめとして理工系では幾何が非常に重要な役割を担いつつあります.

the unsuccessful attempts

本文で出てきたこの名詞句についてもう少し深掘りします.
ポイントはもちろん the でいわゆるエーテルの検出問題です.
The は「皆さんご存知の」という意味なので,
本当に当時の大テーマだったのでしょう.

光の媒質に対する運動はまさにエーテルの検出に関わる実験の問題です.
当時, 何であれ振動・波動が伝わるには媒質が必要だと思われていたようです.
そして電磁気学のマクスウェル理論によって電磁波は波なので,
何かしらの媒質を想定しようとし,
それを「エーテル」と呼んでいたわけです.
エーテル検出失敗実験として有名なのがマイケルソン・モーリーの実験です.
これは大学受験ネタとしてもよく出てくるので知っている人も多いでしょう.
実際に相対性理論の論文の中で,
高校物理で学んだことが生きています.

他に人間の営みとしての物理学にも触れておきます.
高校物理や通俗的な科学史では話が激烈に単純化されています.
つまりマイケルソン-モーリーの実験でエーテルの存在は否定され,
アインシュタインの特殊相対性理論で旧来の節は完全否定されたと思う人もよくいます.

しかし実際には他にも歴史的に多くの人達がいろいろがんばってやってきた末,
何をどうやっても無理そうだ・敗色濃厚だとなり,
その中でも印象的な仕事の 1 つがマイケルソン-モーリーの仕事であり,
アインシュタインの特殊相対性理論の論文なのです.
有名な話として, アインシュタインと同等の結論はローレンツが得ていたものの,
数学的な推論だけで物理的な洞察に乏しく,
物理の原理に踏み込んで導出したアインシュタインのこの論文はやはり偉い,
そういう事情もあります.

アインシュタインのこの論文は引用がないことでも有名ですが,
ローレンツの論文やマイケルソン-モーリーの実験論文をきちんと引用すべきだったという話もあります.
引用は必死の思いで先人が積み上げてきた営為への敬意を示す行為でもあり,
そうした「礼儀」がなっていないのはどうか,
という視点もあります.
科学者も人間なので自分がやった
(決定的な) 仕事を無視されたら面白くないと感じる人も多いのです.

実験科学としての物理, そして数学

この論文は理論の論文ですが,
上で補足したように大事なところに関してはきちんと実験にも言及があります.
理論だからといって実験を無視してはいけないのです.

物理を勉強するためには数学の勉強も必要です.
そこで数学の勉強に役立つ話もしておきます.
数学にもいろいろな形で「実験」が必要で重要です.
電磁気学でも有名なガウスは現代では数学者として有名です.
そのガウスは常人には対応しきれない膨大な計算を捌いた人間としても有名です.
そのガウスを受けて日本人数学者の高木貞治は「数学は帰納の学問である」と言いました.

数学ではどうしても一般的な定理に注意が向きがちですが,
膨大な計算例をもとに一般的な規則を予測・推測することこそが数学の核だと主張したのです.
ここでいう「数学」は学校で「勉強する」数学ではなく,
自ら切り開いてく学問・アートとしての数学です.
現代では手計算以外にコンピューターを使った計算もあり,
特に物理ではコンピューターを使った計算の重要度が上がってきていますし,
そのためには「人工言語の語学」,
つまりプログラミングが大事になってきています.

この英語の講座では数学・物理・プログラミングについては議論しきれませんが,
補完する講座・コンテンツを準備しています.
ぜひそちらも勉強してみてください.

エーテルの話

実験の話の中でエーテルが出てきたので本文の解説には盛り込みませんでしたが,
理論的にも重要なのでここで補足しておきます.

高校の波動の理論や振動・波動の理論では次のような話になっています.

  • 波はパターンが空間を伝播する現象である.
  • 波はそれ自体に実体があるわけではなく媒質の運動の伝播である.

波をこう定義して理解しようとしていて電場・磁場も波として伝わると見た以上,
電磁波の媒質が何かが当然大問題になります.
電磁波の媒質として想定されたのがエーテルなのです.
エーテルがないとなると電磁波はどう伝わるのか,
もっと言えば電磁波とは何なのか,
波をどう定式化し直すべきかという物理全体の問題に波及しさえします.
簡単に補足説明しかされていない挿入句は,
実は物理としてはこのくらい重要な転回です.

ちなみに高校の化学で有機化合物としてエーテルが出てきますが,
実はこのエーテルのこの語源は光の媒質としてのエーテルです.
こちらも興味があればぜひ調べてみてください.
科学史, そして歴史を深掘りして楽しむ切り口になるでしょう.

英語第 2 文
英文理解のポイント

ここでのポイントは 2 つあります.

  • 1 次の微少量までは示されていること.
  • 全ての座標系に対して成り立つこと.

前者は物理でよくある近似の話です.
高校の物理でも振動・波動, 光の議論ではよく近似を使ったはずです.
ふつう高校物理で使うのは 1 次近似です.
To the first order と言っているのはまさにこれです.
いま見たい現象を見たい精度で確認できればいいので,
1 次でいいかどうかは何を考えているかによります.

大学の頃, 物理学科の光学の講義はレンズ開発の現場にいる人が講師で,
その人が「この式は教科書には近似と書いてあるが,
現場でレンズを開発していると厳密に成り立つ式くらいの気分がある」と言っていました.
現場の開発者として持つべき感覚は工学のそれで物理ともまた違います.
こうした背景がある表現なのです.

もう 1 つ, 全ての座標系について成り立つべしという要請は相対性理論の基礎基本であり,
この論文のメインテーマです.
座標系は人間側の都合で使う概念でしかなく,
そんなものに本質的に依存するようでは自然の記述として不十分だろうという程度のことで,
当たり前と言えば当たり前の主張です.
物理としては解析力学とも共通する発想で,
現代幾何学の母胎である多様体論の基礎でもあります.

歴史的には微分方程式を厳密に解くとき,
(解の存在と一意性が言えているなら特に) 「解ければ正義」で,
実際に「何をどうすればそんな変換を思いつけるのか」としか思えない,
めちゃくちゃな変数変換や式変形も考えます.
変数変換をした程度のことでもとの方程式の大事な部分が変わってほしくないわけで,
こうした具体的な問題が背景にあります.

これはいわば「方程式の大事な部分」を物理と言っていて,
それを突き詰めると方程式の不変性といった概念にも導かれます.

数学的補足: 「微少量の 1 次まで」について

高校物理でも波動の分野などで$\sqrt{1+x} \approx 1 + \frac{1}{2}x$という近似式が出てきます.
実は$\sqrt{1+x} = 1 + \frac{1}{2}x – \frac{1}{8}x^2 + \frac{1}{16} x^3 + \cdots$という展開があり,
テイラー展開と呼ばれています.

ここで$x$が小さいとすると$n > 1$に対する
$x^n$は急激に小さくなります.
表にしてみましょう.

$x$0.10.001
$x^2$0.010.00001
$x^3$0.0010.0000001
$x^4$0.00010.000000001

変数$x$の値が小さいとき$1$次の量,
つまり$x$に比べて$x^2$はまさに桁違いに小さいので無視できます.
状況にもよりますが「有効数字での検出限界以下になって無視せざるをえない」と思った方が適切かもしれません.

この手の近似計算は高校レベルでさえよくやりますし,
大学に入ってからはなおのことよく出てきます.
これは適当な解説書で勉強してみてください.
もちろん私が作っている別の講座やコンテンツも参考になるでしょう.


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