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はじめに
次のような地獄のツイートを見かけた.
前にブログのネタにしたことあるけど、平均値の線形性
E [a X + b Y ] = a E [X ] + b E [Y ]
とかも、ちゃんと証明するにはフビニの定理とか必要なはずなんだけど、雑にしか説明してない本が多い。— Studio RAIN (@r1ms31dk) February 7, 2021
これが私の昔書いた記事なんですが、https://t.co/ityD8OkoEl
この程度の基礎知識の人間だと、こういうロジックしか出てこなくないですか???— Studio RAIN (@r1ms31dk) February 7, 2021
渡辺ベイズでの期待値の定義
いろいろ調べるのが面倒なのでとりあえず我らが渡辺澄夫『ベイズ統計の理論と方法』,
P.205, 8.2 の定義を引用する.
$\mathrm{R}^N$に値を取る確率変数 $X$の確率分布を $q(x)$とする.
$\mathrm{R}^N$から $\mathrm{R}^M$への関数 $f(x)$が与えられたとき,
確率変数 $f(X)$の平均を $$\mathbb{E}[f(X)] = \int f(x)q(x) dx$$と定義する.
ここで $f$が恒等写像なら $\mathbb{E}[X] = \int x q(x) dx$なので,
この辺がいろいろとアレなのだろう.
ちなみにこの流儀で他の確率変数 $Y$の期待値は,
$Y$の確率分布を $q_Y(y)$とした上で$\mathbb{E}[Y] = \int y q_Y(y) dy$と書ける.
この書き方をすると$\mathbb{E}[X] = \int x q_X(x) dx$になっている.
確率分布 $q_X$か $q_Y$かで別物なことに注意しなければならない.
少なくとも渡辺ベイズではその点きちんと書いてある.
これを読者がきちんと読み取れるかはどうかわからないけれども.
先に引用した記事はここがわかっていない.
多分言葉遣いが微妙すぎて本当にわからないのだろう.
それも無理ないという気分はある.
確率論のセットアップでの期待値
念のため確率論のセットアップをきちんと書いた上で期待値の線型性の議論を書いておこう.
特にわかりやすさなどに配慮はしないのでそのつもりで読んでほしい.
$$\mathrm{E}[X+Y]=\int_{\Omega} (X(\omega) + Y(\omega)) dP(\omega)=\int_{\Omega} X(\omega) dP(\omega)+\int_{\Omega} Y(\omega) dP(\omega)=\mathrm{E}[X] + \mathrm{E}[Y].$$
またしても念のため統計学の本によく出ている期待値の定義について補足しておこう.
これは変数変換を使っている.
測度 $P$に対して $P^X$を $P^X(A) = P(X^{-1}(A))$とし,
これを確率測度$P$に対する $X$の分布と呼ぶ.
このとき変数変換に $\int_\Omega X(\omega) dP(\omega) = \int_{X^{-1}(\Omega)} x dP^X(x)$と書ける.
ここでさらに $dP^X(x)$が確率密度関数 $q_X$によって測度が$q_X(x) dx$と書けるとしたのが統計学の本に書いてある定義だ.
確率論で確率密度関数と呼ぶ対象を統計学では雑に確率分布と呼んでいるというよくある雑な用語法に関する話もある.
はまりポイント、統計の本の厳しさ
ふだんこの読み替えを意識せずにやっているので期待値の線型性にこの手のはまりポイントがあるとは思ったことがなかった.
渡辺さんは一応きちんと書いているが, これ, 非専門の人がどれだけ読み解けるのだろうか.
もっと言えば応用の人達が書いたふつうの統計の本,
ここに関する記述をどこまできちんと書いてあるのだろうか.
宣伝:必要な人向けに
面倒なので数学科での確率論に対する記述はあまり丁寧ではないが,
参考になる人もいるだろうと思うから記事にしておく.
確実なオーバーキルなので勧められたものではないが,
この辺の議論を一からこってり書いたPDFコンテンツとして現代数学探険隊をリリースしている.
確率論自体はカバーしていないが, 基礎になるルベーグ積分論はきちんと書いてある.
あと, 統計学をやるのにルベーグ積分が必要だとは思えないので,
統計学のためとか測度論のためとかいう理由で買うのは一切勧めない.
あくまで数学として解析学をやったみたいという人にだけ勧める.
少なくとも理論物理の人にとっては物理学者にとってモチベーティブに関数解析に関わる数学を書いている,
という評価は頂いている.
理論物理に関数解析が必要だとは全く思っていないが,
辞典・事典としては使えると思う.
物理学科の学生だった私がほしかった数学コンテンツという面もある.
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