物理と微分形式/メルマガから

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今週のコンテンツ

前回, 勉強会でフランス語と英語の語彙がよく似ているという話になったので,
フランス語とイタリア語も割と共通点が多く,
フランス語を経由して英語とイタリア語にも共通項が多いという話をするべく,
ちょっとイタリア語の話をしています.

この辺の単語まわり, 何というか数学の表現論の趣があります.
印欧祖語やら何やらの母胎があって,
そこから各言語に対して準同型があるかのような感じ.

これに絡めて, 改めてドイツ語と中国語の単語を覚え直そうと,
日々ちょこちょこ進めています.
やはり文法より先に単語をやらないと勉強が捗りません.
相対論の論文は1000単語程度あって,
物理や数学系の論文を読むにはこの1000語だけでもかなりできるようになりそうなので,
まずはここにフォーカスをあててやっていこうと思っています.

挨拶用・日常会話で大事な単語だとすぐ飽きるので,
もうこういうところからやるしかないと腹を括りました.

集合・位相の勉強に関して

森の未知さんとやりとりしたのを紹介しておきます.
はじめに書いておくと, 何でもそうですが, 才能やら何やらいう前に膨大な量の修行が必要です.
没頭する時間的な余裕が必要とも言えます.

旧帝大未満の偏差値の数学科で集合・位相を教えるなら、まずは集合の無限族の共通部分・和や写像の逆像の計算を徹底的にやらせるのが大事ではないかと最近思う。
あの辺の集合論の基本演算ができないと位相空間論でも詰む。
「集合・位相こそそれまで習った計算中心の数学と一線を画する数学科らしい数学」みたいな先入観のある人も少なくないかもしれないけど、全くそんなことはなくて、基本的な計算演習を疎かにしている人が多すぎるだけだと思う。

最近機械学習方面でなぜか話題の測度論・確率論ではまる理由、大抵ハードな集合演算+実数論周りの極限処理の暴力的な演習量の足りなさだといつも思っています。測度論・確率論の議論、集合論部分がリアルにつらい一方でそこをカットして来る応用の人が多いので本物の地獄になっている気分があります。

そういえば学部レベルでの測度論も地味に集合演算が重たかったのを思い出しました。そう考えるといかにもありそうな話ですね……。

ちなみに私は冗談抜きで確率論・測度論に耐えられません。作用素環でも直積分まわりで測度論・確率論を酷使するのですが、処理しきれず挫折しました。ルベーグ積分の極限処理と測度論・確率論の処理は全然違います。「市民感覚の確率論の本が欲しい」とよくいうのはこの深い挫折に基づいています。

ちなみにくるるさんによる次のような話もありました.

「基本的な計算演習」がここでどのようなものを指すのかはわからないのですが、普通に数学をやってきたくらいの人は、∀∃または∃∀の形の論理式に当たる概念(例えばG_δやF_σ)が出ると最初は完全に詰まるので、そこは練習しないと越えられないと思う。
という話は @kadamasaru さんが何度もされてますが。機械的に論理式を解釈していけばちゃんと証明になっていくじゃん!みたいなのは少なくとも本学のレベルでは通用しない印象。

よく「努力できること自体が才能」という話もありますが,
何の役に立つかもわからないタイプの数学に没頭できるのは確かに才能かもしれません.
いいことなのかどうかは別問題です.

統計学の本の記述で確かにそんな問題があったか事案

TwitterでRTで回ってきた話です.

前にブログのネタにしたことあるけど、平均値の線形性
E [a X + b Y ] = a E [X ] + b E [Y ]
とかも、ちゃんと証明するにはフビニの定理とか必要なはずなんだけど、雑にしか説明してない本が多い。

ここから少しやりとりして次のような記事が出てきました.

間違っているのでリンク先は読まなくて構いません.
これを見て少し考えたのですが, よく統計の本に書いてある期待値の定義を杓子定規に考えると,
確かに期待値の線型性に関する E[X+Y] の認識は破滅するかもしれません.
きちんと確率空間上の可測関数とその積分というセットアップで見れば何の問題もなく,
無意識にそれで補完してしまっていて, 気付きさえしませんでした.

前にどこかで書いた気もしますが,
高校の確率のセットアップをきちんとやると実はかなり大変です.
試行回数を増やすことは積空間・積測度を考えることにあたります.
たまに大学受験の問題でも確率に関する級数が出てくることがある (少なくともその記憶がある) のですが,
その構成には無限積空間・無限積測度が必要です.

大学受験のレベルなら可算積で済む一方,
確率積分などを考えるときは非可算の積がところどころで出てくるので,
微妙な回避処理が必要でかなり大変なところがあります.
学生の頃, 非専門の身で時々その辺の面倒な処理にぶちあたり,
確率論には挫折したままです.

それはそれとして, 最近統計の勉強会でずっと講師役をやっていて,
黒木さんのipynbを読んでいます.
特に先週次のipynbを読み終えました.

これまでの蓄積もあるとは思いますが,
本腰を入れて読んでようやくある程度全体像が掴めるようになりました.
この資料はお勧めです.
あえて数学的に細かいところには踏み込み切っていない (ギチギチに証明を書き切っていない) ようなので,
細かい計算はともかくまずは全体像を掴みたいという人にむしろお勧めです.
一部の計算は他の資料に詳しく書いてあることもあるようです.
私はいまKL information and descriptive statistics.ipynbを読んでいます.
これも数値実験つきでなかなかよさそうな資料です.

ベクトル解析を微分形式で書く

Twitterで時々浮上してくるこの話題,
いつも思っていることを何となくツイートしました.

ベクトル解析を微分形式で書くのがいいとかいうやつ、数学はツール・言葉で、みんながそれを使わないと意味がないので数学部分だけ伝えたところで意味がなく、その分野の教科書を全部微分形式で書いて揃えて教科書シリーズを作るくらいの労力をかけないと何の意味もない。勉強しても共通言語にならない.
この微分形式で書くというやつ、物理でよくやる近似周りの議論とどれだけ相性がいいのかよくわかっていない。微分形式のルールに則ったお行儀のいい近似のほうが色々捗るみたいな研究も必要なのだと思うが、面白くなくて誰もやらなさそう。

物理で微分形式が役に立つというのをどういう視点で強調してコンテンツを作ればいいのかがいまだによくわからない。数学・幾何だと幾何的な情報を持つ・コホモロジーを記述できると言えるが、物理で使うとき、必ずしもこういう話はせず「方程式が綺麗にまとまる」くらいの話ばかり見かける。
あとは計算が楽になるというやつ。計算が楽になるのは間違いなくご利益だが、それで「こんな風に物理の理解が深まる」という感じで使われているのをあまり見かけない。そして実際ここがよくわからないので、何かコンテンツを作ろうにもどういう切り口にすればいいのかいまだにわからない。
電磁気学を公理的に微分形式で書き進めるという本があるのだが、相対論のために記述がこう色々と面倒になっていて、逆にかなりややこしくなっている気分がある。曲がった時空などへの対応もすぐできるとか書かれていたが、それがどこまでの利点になるのかよくわかっていない。
特に必ずしも相対論的な定式化を意識しないタイプの議論でどこまでどんなご利益があるのか。幾何と関係がある以上、位相的な効果が出てくる電磁気の問題や量子力学の問題では便利なところもあるのだろうが、特に工学的なところでどの程度ご利益になるのかわかっていない。
理論物理方面の話だけ考えていればいいわけでもない。数値計算への応用があるのも知っているが、工学の人がどのくらいスクラッチで数値計算コードを書くのかもよくわからない。数学だけ勉強して物理・工学の本を微分形式で自力で書き直せというのも無茶がある。
あと物理・工学への応用を考えるとき、テンソル解析と微分形式による処理がどのくらい気分が違うのかなどもよくわからない。
あと応用向けに微分形式をやるという話にどれだけの意義があるかわからない事案として数学のPDEの人達の流儀がある。幾何解析だといわゆるテンソル解析になるだろうしふつうのPDEでベクトル解析の代わりに微分形式を使おうという人をみたことがない。こういうのが徹底的に書いてある本、洋書でもある?

ツイートでは「こんなのがある」とだけ書いて面倒で文献紹介をしませんでしたが,
具体的な文献を知っている範囲で一応紹介しておきます.

Hehl-Obukhovの本, 時間の方向を特別扱いしないといけない局面があり,
そこの扱いで記号も面倒になっていてあまり読むのはお勧めできません.
面白い試みだとは思っていますが, ふつうの人が読むには趣味的に過ぎます.

我らが久徳先生からのコメントもちょっと載せておきましょう.

安直に微分形式を役に立てようとするなら積分量を定義するところかなあ。テンソル解析だけだと不変性が怪しいので

完全に数学としての幾何の本でもテンソル解析スタイルで進めて不変性もがんばって示す本はよくあるので,
この不利・不便さを超えた物理として意義がどの程度あるのかがわかっていません.
よけいな数学的苦労を背負い込ませるだけの大義名分がないとなかなか勧めづらいです.

いま別に進めている幾何の方は, 物理のことを何も考えておらず,
ふつうに幾何・微分幾何をやるだけで,
微分形式にはご利益があるというより空気のような存在で,
吸えないと即死するみたいなタイプの不穏ささえあります.
リーマン面も細部は適当に流しつつ,
わかる部分だけTeXでノートを書いて日々少しずつ復習して細部を埋めていくスタイルで勉強を続けています.

何を読んでいたのかのメモさえ残していない昔のノートと,
適当な英語の講義ノートPDFで勉強していて,
日本語の訳語がわからないことが時々あります.
いくつかリーマン面の本のストックがあってもいい気はするので,
何か日本語の本を買おうかとも思っています.
証明や議論の構成でも参考になるでしょうから.

集合・位相はもちろん必要で, 多少の多変数まで含めた微分積分,
線型代数, 多少の代数とそれなりに予備知識が必要なのは厳しいところですが,
逆にそれらをモチベーション豊かに勉強できるのがリーマン面のいいところです.
そこから広がる世界も深く広く,
超弦関係の物理でなら実際に使うのもひとつお勧めポイントです.

ぜひあなたもリーマン面やりましょう.

プログラミングと数学

プログラミングに関しても,
既にリリースしたコンテンツをもとに勉強会をしていて,
それがそろそろ一周終わります.

一通りやってみて改めて思ったのは,
プログラムはメンテが必要で本当に面倒くさいということでした.
メンテが極限まで減らせるのにしないとやっていられそうにありません.

いろいろあって, その勉強会では前半でIT基礎知識,
後半でコンテンツで数学・プログラミング学習という形でやっています.
プログラミングもちょっと突っ込むとIT基礎知識が割といろいろ必要で,
それに絡めてやはりアルゴリズムとデータ構造に近い形で数学遊びできるネタで何かやるのがよさそう,
というか, そうでないとコンテンツのメンテが面倒でやっていられない,
という感触があります.
一通り終わったらデータ構造とアルゴリズムをやる一方で,
Project Eulerを進めるタイプの勉強会にしようかと思っていろいろ考えています.

いつも以上にとりとめがないですが,
今回は勉強のログとコンテンツ制作雑感といった感じで,
こんなところで終わります.

ではまたメールします.

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