タグ: 相転移プロダクション

  • 黒木さんのツイートまとめ, 自分の参照用: 掛け算の順序強制とその教育学の研究成果をまとめた文献が知りたいので

    せっかくなので個人参照用に黒木さんの掛け算ツイートをまとめておく.

    この間次のようなツイートをしておいた.

    この辺, 教育学関係の人からの情報がほしい.

  • メルマガ転載:Grothendieck が亡くなったので追悼 1: 略歴と簡単な業績と小ネタ紹介

    この記事はメルマガからの転載だ。
    メルマガでは濃い話をまとまってしているので, ご興味のある方は
    こちらのページからご登録頂きたい.

    去る 11/13 日, Grothendieck が亡くなったとの報告が出た.
    http://goo.gl/yYqZEf
    元記事はフランス語なのでほぼ読めない.
    ちょうど今フランス語勉強中だが, フランス語が読めないと
    こういうときに困ることを実感してしまいつらい.

    それはそれとして, 物理のプロから Grothendieck の
    紹介記事を書けという無茶振りを受けた.
    https://phasetr.com/?p=1092

    その内数学セミナーあたりでも特集が出るだろうが,
    こういう機会でもないと調べないこともあるので,
    自分用に簡単にまとめたい.

    まず業績概要や略歴などの一般的な話をさらっと書いて,
    数学的に詳しいところは書ける範囲で後にまとめる.
    代数幾何関係はほぼ引き写しになってしまうが,
    これはもうどうしようもないので.

    Wikipedia から略歴など

    まずは URL を張っておこう.
    http://goo.gl/cm3Nlm

    業績の簡単なまとめ
    スキームだとかの代数幾何の猛烈に抽象的な定式化をしたというのは
    やはり分野外の素人でも知っている業績だろう.
    エタールコホモロジーやクリスタリンコホモロジーの発見とそれによる
    Weil 予想への貢献, モチーフ, 遠アーベル幾何, Grothendieck 群による
    K 理論への貢献, トポス, アーベル圏によるホモロジー代数の統合,
    Galois 圏・淡中圏による Galois 理論の一般化だとか, 名前だけは
    分野外の人間でも知っている話ばかりで, しかもこれだけたくさんある.
    やはり驚異的と言わざるをえないだろう.

    略歴
    博士の指導教官が Laurant Schwartz だったというのは
    今回 Wikipedia ではじめて知ったのだが, ある意味その関係で
    初期は関数解析の研究をしていた.
    Dieudonne の元で研究をはじめたとのこと.

    有名な著書の関係から Dieudonne は解析の人だと思っていたが,
    Wikipedia 先生いわく代数でも業績あるらしく,
    Bourbaki メンバーの魔人ぶりを見せつけられるし,
    フランスの底力を感じる.
    http://goo.gl/f3osIe

    関数解析, テンソル積, 核型空間

    話を Grothendieck に戻そう.
    この関数解析での業績では線型空間のテンソル積が有名.
    (むしろこれ以外私は知らないのだが. )
    核型空間という大事なクラスがあるのだが,
    これ自体の定義が Grothendieck による模様.
    http://goo.gl/z69goa
    理論の大半も Grothendieck が発展させている.
    http://en.wikipedia.org/wiki/Nuclear_space

    閑話しまくりなのだが, ある程度関係ある話として,
    以前竹崎先生から伺った話がある.
    その昔, Gelfand-Naimark が作用素環から手を引く前後あたりだろうか,
    フランスに作用素環を志そうという優秀な若手がいたそうなのだが,
    Grothendieck が「作用素環はもう駄目だ」と言って作用素環を
    やめさせてしまったらしい.

    時代的には 1950 年代だろうか.
    数年前, 何かのときに Grothendieck の話が出たときに
    竹崎先生が「僕は Grothendieck には恨みがあるんだよ」と
    50 年は経っている時点でも言っているくらいなので,
    若き日の竹崎先生には相当強烈な出来事だったのだろう.
    作用素環ネタはあとでも少し出す予定なので,
    そこで関連する話にも少し触れると思う.

    代数幾何へ

    この時期のフランスには Bourbaki という一派がいて,
    魔人が何人もいるのだが, その中に Serre という魔人がいる.
    位相幾何と代数幾何で超人的な業績があり Fields 賞も受賞している.
    Weil 含めこの辺の魔人の影響を受け,
    代数幾何に研究のフィールドを移していく.

    1950 年代後半からのスキームによる代数幾何の書き換え,
    ホモロジー代数と圏論に貢献した.

    スキームと代数幾何の基礎付け

    記述が見つからないのだが, スキームについては
    その数年前に Weil による代数幾何の野心的で先進的な
    基礎付けに関する本が出たのに, それを一瞬で
    時代遅れにしてしまったという逸話がある.

    ちなみに代数幾何の基礎付けについては他にもいろいろな逸話がある.
    よく数学は厳密とかいわれるがそれは本当にごく最近の話だ.
    有名な話として 20 世紀初頭の代数幾何のイタリア学派の定理には
    ほぼ必ず反例があったとかいうネタがある.
    しかし具体例に関する勘所は外さなかったようなので,
    イタリア学派の Castelnuovo, Enriques, Severi あたりは魔人認定できる.

    で, Zariski というこれまた有名な人がいるのだが,
    この人が学生時代に上の誰かに「定理を作るのは貴族の仕事,
    証明は奴隷の仕事」とか言われて激怒して代数幾何学の基礎付けに
    励んだという話がある.

    代数幾何というのは一応, 連立多項式の零点集合として
    定義される図形の性質を調べる学問だ.
    要は多項式くらいなので, ありとあらゆる数学が動員できるから
    使えるものは何でも使って厳密な定式化をやっていった.
    その辺の話は上野健爾『代数幾何』の前書きにも書いてあった気がする.
    http://goo.gl/Yk0RvS

    代数幾何, 多項式程度しか扱っていないのに何故あんなに
    難しいのかと思う向きがあるかもしれないが,
    それはむしろ逆で, 多項式程度だからこそ悪魔のように
    いろいろ話が絡んできていくらでも難しくなる.

    ちなみに今でも有名な教科書・論文レベルですら
    間違いがある場合があり, 定理は正しくても
    証明がおかしいことはよくあるそうだ.
    しかもものすごい注意して読まなければ証明に間違いがあることに
    気付けないそうなので魔界としかいいようがない.
    怖い.

    ホモロジー代数と圏論

    まず圏自体がホモロジー代数を記述する言語として
    発達したという背景があるっぽい.
    ホモロジーは同じくフランスの魔人, Poincare が発見した概念で,
    いわゆる位相幾何, トポロジーの話だ.
    幾何の話を代数に帰着させるという悪魔のような発想で,
    その枠内で考えればスキームとも深い関係がある (と思う).

    現代の代数幾何・複素幾何では層係数のコホモロジーは
    基本中の基本らしく, ホモロジー代数の発展は代数幾何に不可欠とのことなので,
    やはりとんでもない業績なのだろう.

    Wikipedia にも【ホモロジー代数と圏論などへの貢献は
    それぞれの分野だけでなく数学全体に決定的な影響を与えた】とある.

    まず代数幾何とも関係が深い可換環論は,
    代数幾何から来たホモロジー代数の手法で代数幾何の進展と
    機を同じくして爆発的に発展したと聞いている.
    また, 岡潔と, 同じくフランス勢の Henri Cartan による層の理論は
    多変数関数論が起源だが, 特にこのコホモロジーは
    複素多様体が関わる幾何に深い影響を与えている.
    専門外なので詳しいことはろくに知らないが,
    何かというと層のコホモロジーとか Chern 類とか出てくるので,
    それなしでは何もできなさそうな雰囲気は感じる.

    多変数関数論を背景にした佐藤の超関数論があるが,
    これなどは本質的にコホモロジーの理論だ.
    代数幾何的な手法を駆使した数論の一分野である数論幾何でも
    コホモロジーは主力兵器と聞いている.
    上でも少し触れたエタールコホモロジーだとか
    クリスタリンコホモロジーはまさにその辺.

    幾何学起源ということもあり,
    幾何での (コ) ホモロジーの影響は当然大きい.
    そもそもコホモロジーで多様体の分類をするという話もあるし,
    コホモロジー的な特徴で定義される多様体だってある.

    よく数学は代数・幾何・解析が大きな 3 分野と言われるが,
    そのうち代数・幾何での大きな基礎になっているのだから,
    それは影響も大きいという話だ.
    解析でも多変数関数論, 代数解析では主力というか基礎だし,
    作用素環でも時々出てくる.

    Weil 予想

    これの解決を目標と定め, そのために代数幾何を
    根底から書き直そうとしてできたのが,
    数学の人なら誰でも知っている EGA (代数幾何原論, Éléments de Géométrie Algébrique) だ.
    Euclid の『原論』と同じく, 13 巻刊行しようとしたらしいが,
    しかし 1 巻から 4 巻まで約 1500 ページだけで 5 巻以降は未完成.

    1500 ページというのが魔界っぽいが,
    私の分野で有名な Reed-Simon による関数解析の 4 巻本,
    Methods of mathematical physics も元々 13 巻くらい出す予定で
    4 巻までで 2000 ページあるので人のこと言えなかった.

    13巻までの内容は自分の学生達と開いた
    「マリーの森の代数幾何セミナー (SGA)」として刊行されている.
    1 巻から 7 巻まであり約 6500 ページ.
    頭おかしい.

    ちなみに齋藤毅先生による EGA, SGA と
    Tohoku に関する思い出を綴った PDF がある.
    http://goo.gl/2zGfcQ
    毅先生, こんなのを読みふけっていたとかやばい.
    以前, 齋藤毅先生と同級生だったという東大数学出身の方と
    お話したことがあるのだが「あんなのが同級生なんて嫌になってしまう.
    こんなの相手にやっていける自信はない」と思い,
    研究者への道を諦めたと仰っていた.

    Weil 予想自体は有限体上の代数多様体に関する予想だ.
    http://goo.gl/N9wDXI
    合同ゼータ関数というゼータの一種に関する話で,
    Riemann のゼータの有名な予想の類似が成立するかどうかとか
    そういう話があって, これを Deligne が解決したという風に繋がっていく.
    あとでもう少し調べて紹介したい.

    Weil 予想に最も貢献したのは Grothendieck が発見した
    新しいコホモロジー, エタールコホモロジー (Cohomologie étale) とのこと.
    l-進コホモロジーだのクリスタリンコホモロジーだのあるが,
    さっぱりわからない.
    ここではあまり関係ないが, Twitter で p進大好きbot という人がいて,
    その人が l-進を敵視していることで私の中で有名.
    https://twitter.com/non_archimedean

    Weil 予想は Grothendieck による道具立てを駆使して
    Grothendieck の学生だった Deligne が解決した.
    どこかを調べれば出てくるはずだが, 確か,
    Grothendieck はもっと自身の理論を深めていくべきだったのに
    それをせずに応用しかしなかったとかいう理由で Deligne を
    激しく非難していて云々, という小ネタがある.
    http://goo.gl/n4uHlv

    IHES と Fields 賞

    Dieudonne と一緒に IHÉS の最初のパーマネントの数学の教授に選ばれる.
    IHES 自体が Grothendieck のために作られたというとんでもない話がある.
    http://goo.gl/8589cw

    1966 年に Fields 賞を取っている.
    http://goo.gl/VdJRht
    代数幾何への深い貢献, 特に K 理論と
    Tohoku でのホモロジー代数への革命的な業績が受賞理由となっている.
    上記, 齋藤先生の PDF によると,
    一般の位相空間に対して層係数コホモロジーをどう扱うか,
    というのを Abel 圏の理論を作り上げて解決したのが
    his celebrated “Tohoku paper” ということらしい.

    IHES を抜けて以降の隠遁生活

    反戦運動と環境問題に熱心で,
    IHÉS に軍からの資金援助があることを知ると IHÉS をやめた.
    その後は数学から距離を置いた隠遁生活を送るようになった.
    凄まじい潔癖症だと思う.
    なかなか真似できないがあまりしたくもない.

    1985 年には自伝的作品 “Récoltes et semailles” を書き,
    邦訳は有名な『収穫と蒔いた種と』だ.
    http://goo.gl/wVENZU

    1991 年に家族のもとを去り, その後ピレネー山脈で隠遁生活をしていたらしい.
    2003 年 8 月には「グロタンディークは元気だが,
    あいかわらずだれにも会いたがらない」と伝えられたとのこと.

    2014年11月13日の朝にサン=ジロンで 86 歳で没.
    隠遁したままだと思っていたのでどうやって死亡を確認したのか,
    と思ったら, 病院でなくなったとのことだった.

    その他ネタ

    • Grothendieck 素数

      自然数 57 は「Grothendieck 素数」と呼ばれる.
      これは Grothendieck が素数に関する一般論に関する講演をしたときに
      具体的な素数で例を挙げるように言われたときに
      57 を選んだことに由来する.

      関さんによる素数大富豪でも 57 は
      Grothendieck 素数として素数扱いするように, というルールがある.
      素数大富豪については下記ページにルールブックへのリンクがあるので,
      それも参考にしてほしい.
      https://phasetr.com/prime-daifugo/

      上記ページは素数大富豪をするときの素数判定に使えるように,
      ということで簡単な Web アプリだ.
      素数判定アプリなどたくさんあるのに何故新たに作ったのか,
      という指摘には Grothendieck 素数を素数と
      判定してくれるアプリが見つからなかったから自作した,
      とお答えしていきたい.

    • Mordell 予想

      Faltings による Mordell 予想の解決は Grothendieck の
      スキーム論を使ったという話がある.
      Faltings はこれで Fields 賞を取っているので,
      そのくらいの凄まじい業績だと言える.
      http://goo.gl/Z8WwD0

      Mordell 予想自体は『有理数体 上に定義された 1 よりも
      大きな種数を持つ曲線は有限個の有理点しか持たないであろう』という予想のこと.
      あとで を代数体に拡張され,
      これを Faltings が示したという流れらしい.
      http://goo.gl/J4qaaQ

      曲線が楕円曲線のとき, 特に Mordell の定理と呼ばれていて,
      楕円曲線の本には大抵書いてある気がする.
      以前眺めたことがある本には大体書いてあった記憶があるので.

      ちなみに楕円曲線もまた魔界で, Fermat の最終定理を
      解決に導いた谷山-志村予想 (の解決) は楕円曲線に関する予想だ.
      しかも最近は暗号理論との関係もいろいろあって,
      セキュリティ界隈との交流が深まっている.

    まとめ

    Grothendieck の業績は数論・代数幾何・位相幾何を
    統合するものだと評されるらしいが, そうなのか, というコメントしか出せない.

  • 2014-10-15 に高知工科大学で【科学と社会の狭間の一市民の奮闘】というタイトルの市民講演をしてくる方の市民

    2014-10-15 に高知工科大学で 科学と社会の狭間の一市民の奮闘 という
    タイトルで市民講演してくることになった.
    概要を転載しておこう.

    近年科学と社会の関係がやたらと取り沙汰されているが
    社会的に論じられていることは私にとってはどうでもいい.
    私から見て決定的に重要なのは社会の中の個人がどう生きていくかであり,
    数学や自然科学を学んできた者達がその専門への愛情を捨てるように
    強要されることなく生を謳歌できるかでありいかにしてそれらと添い遂げていくかだ.
    一昔前ならいざ知らず, 今はたとえどれだけ強く願ったところで皆が皆大学や企業,
    研究所の研究者・開発者になれるわけでもない.
    そんな中, 大学・大学院で専門教育を受けた個人が何をしてどう生きていくか,
    どう社会と殴り合っていくのか, 研究開発には従事していない
    一個人の立場からその戦いの一例を見せたい.

    原稿はそのうち適当な場所にアップロードする.
    元となる資料はあるとはいえ, 90 分におさまるように
    きちんと配分しないといけない.

    学生に刺激を与えられるような講演を, というお達しなので
    鋭意努力する所存.

    それはそうと, 他の講演者を見たら
    新井紀子さん, 小澤正直さんなど割とやばいレベルの
    重鎮が講演している最中, おそらくただ一人,
    博士すら持たない市民の名前があるのにひたすら爆笑する.
    いつも通りやってくるだけだが.

    追記

    博士号すら持たない方の市民だった.

  • メルマガから:2014 ソウルでの ICM で Fields 賞が発表になった その 3 Terence Tao のブログから その 2

    メルマガから抜き出してきた Fields 賞の話.

    2014 ソウルでの ICM で Fields 賞が発表になった その 3 Terence Tao のブログから その 2

    タイトルがやたら面倒なナンバリングになっているが
    あまり気にしないでほしい.
    引き続き Fields 賞のネタだ.
    今回は Terence Tao のブログの翻訳を中心にする.

    前回と同じく, 私のコメントは ==== で囲んでおく.

    Terence Tao のブログの翻訳

    Manjul Bhargava

    Manjul Bhargava は驚くほど美しい数学を生み出している.
    しかしその大半は私の専門分野ではない.
    ====
    前回と同じく, 地の分の「私」は Terence Tao のことだ.
    ====
    私の興味と重なる分野 (ランダム行列の理論だ) での彼の仕事として
    彼が多くの共著者と進めている楕円曲線のさまざまな数論的特徴の
    統計的性質のモデリングがある.
    これには予想の定式化も厳密な仕事もある.
    具体的にはランクや Selmer 群や Tate-Shafarevich 群の研究だ.
    ====
    ランダム行列, 何となく確率論と線型代数の話か,
    と思っている人もいるかもしれないが, かなりの魔界だ.
    とりあえず Wikipedia を張っておこう.
    http://goo.gl/ttiQId
    【現在では核物理学のほかに, 量子カオス, 固体物理学,
    統計力学, 数論, 生態学, 遺伝子工学, 金融工学, 無線工学,
    複雑ネットワークなどの研究で応用されている. 】とのこと.
    このとおり, 物理でも数学でもいろいろなところで出てくるし,
    以前東大数理で毎年開かれている Summer School 数理物理でも
    ランダム行列の話題が出たときがある.
    http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~yasuyuki/mp2005.htm
    ほとんど名前だけしか知らないが, Wigner の半円則がとりあえず有名.
    立川さんの YouTube でのミニ講義を紹介しておこう.
    http://goo.gl/pCJ1zL
    ちょっとググったら次のような PDF も出てきた.
    http://web.mit.edu/18.338/www/Acta05rmt.pdf
    http://cims.nyu.edu/~zeitouni/cupbook.pdf
    http://terrytao.files.wordpress.com/2011/08/matrix-book.pdf
    目次を眺めただけだが, 超幾何に Painlevé も関係するらしい.
    自由確率論は作用素環ネタで, それは上記
    Summer School 数理物理でも出てきた話で,
    九大の植田さんがやっていたりする.
    Golden-Thompson 不等式は私も使ったりする.
    量子統計で使うのだ.
    ====
    例えば Kane, Lenstra, Poonen, Rains との共著
    http://arxiv.org/abs/1304.3971
    では, これら統計的性質の全てを予想するランダム行列モデルを提出している.
    例えば Tate-Shafarevich 群の \(p\)-要素 が,
    ある \(p\) 進ランダム行列の余核のように分布することを予想している.
    これは以前のポストで議論した Cohen-Lenstra の発見的議論の精神に沿った話だ.
    http://terrytao.wordpress.com/2009/10/02/at-the-austms-conference/
    ====
    predict の訳語がよくわからない.
    アブストで conjecture という単語が踊っているので,
    予想にしてはおいたのだが, それなら conjecture にするのでは, という気もする.
    ====
    しかしさらに強く印象的なことは, Manjul と共著者達が
    このモデルに関していくつか非自明な事実 (例えば,
    あるモーメントが予想された漸近的な性質を満たす) の証明に成功していることだ.
    はじめてこれらの様々な統計的性質の非自明な上下界を与えている.
    例えば楕円曲線がどのくらいの頻度でランク 0 になるか
    ランク 1 になるかの下限を得ている.
    また最近, Gross-Zagier
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr%3D833192
    や Kolyvagin,
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr%3D1106906
    そしてその他の人達の仕事と合わせて, Skinner と Zhang との共同研究
    http://arxiv.org/abs/1407.1826
    で驚くべき結果を導いている.
    それは (高さで順序づけられた) \(\mathbb{Q}\) 上の全ての楕円曲線のうちの
    少なくとも 66% が Birch Swinnerton-Dyer 予想にしたがうという結果だ.
    http://goo.gl/9MJncq
    以前は曲線の positive proportion が予想にしたがうことすら知られていなかった.
    ====
    何を言っているのかさっぱりわからない.
    訳も正しいのかわからない.
    大変困っている.
    Positive proportion, この場合どう訳したものか.
    それはそれとして, Birch Swinnerton-Dyer 予想は
    リンク先の Wikipedia にもある通り,
    ミレニアム問題の一角なので超がつくレベルの難問だ.
    予想の定式化からして何を言っているのかわからない.
    あと上で Kolyvagin が出てきたが,
    これは Wiles による Fermat 予想の解決で使われたとかいう
    Kolyvagin-Flach method の Kolyvagin だろうか.
    http://goo.gl/w0dFfS
    Wikipedia を見ていて, Wiles ももう 60 を越えているのか,
    と時の流れを思いつつ, 下の方にこの Bhargava が学生だと
    いう記述を見つけ, 感慨にふけった.
    ====
    予想の完全解決にはまだ道程はある.
    特にランク 2 以上の少数の曲線に関してはまだ理解が進んでいない.
    そして Bhargava 達の仕事で使われている Gross-Zagier,
    Kolyvagin の理論は \(\mathbb{Q}\) 以外の体では使えない.
    しかし少なくとも統計的な意味で予想は
    射程圏内にあるという望みは与えている.
    ====
    最後の一文, 訳があっているのか非常に不安だ.
    ====

    Martin Hairer

    Martin Hairer は確率論と偏微分方程式の狭間で仕事をしている.
    特に確率微分方程式の理論が専門だ.
    私の興味と一番近い彼の結果は Jonathan Mattingly との共同研究による,
    2 トーラス \({\bf R}/{\bf Z})^2\) 上の
    2 次元確率 Navier-Stokes 方程式に対する不変測度の一意性に関する優れた仕事だ.
    \begin{align} \partial_t u + (u \cdot \nabla u) = \nu \Delta u – \nabla p + \xi \\ \nabla \cdot u = 0 \end{align} ここで \(\xi\) はランダムネスの源泉となる固定した振動数の集合を走る Gauss 場だ.
    Mattingly のページ: http://fds.duke.edu/db/aas/math/faculty/jonm/
    ====
    最後の一文, 相当意訳した.
    元の文は【where {\xi} is a Gaussian field
    that forces a fixed set of frequencies】だ.
    Force がよくわからないが, 普通の
    Navier-Stokes にランダムネスを入れる項なのだろうということで.
    原論文はこれだろう.
    http://arxiv.org/abs/math/0406087
    arXiv をあさっていたら Hairer もエルゴード関係の仕事をしている.
    今回はエルゴード祭りか.
    そもそも Navier-Stokes だが, これは流体力学の基礎方程式だ.
    Navier-Stokes 方程式の解の存在と滑らかさについては
    有名なミレニアム問題として取り上げられている.
    つまり魔界.
    http://goo.gl/uu0DBz
    ====
    任意の適当に性質がいい初期値に対して,
    この方程式の解は漸近的に Kolmogorov のべき乗則にしたがって
    分布すると期待されていた.
    これは以前のポストでも議論した通りだ.
    http://goo.gl/49NuMp
    Dyadic モデルに対しては, Cheskidov, Shvydkoy, Friedlander らによる
    この方向の結果 http://goo.gl/N2pfQH はあるものの,
    問題解決には程遠い状況だ.
    しかし Hairer と Mattingly はほとんど全ての初期値に対して
    漸近的に収束していく一意的な確率分布の存在証明に成功した.
    エルゴード定理によれば, これはフローに対する
    不変測度の存在と一意性を示すことに等しい.
    存在は標準的な方法で示すことができるが一意性は難しい.
    一意性を示す標準的なルートの 1 つは強 Feller 性を示すことだ.
    これで推移作用素にある種の連続性を与えられる.
    ====
    あとで分かるが, この論法はそのままでは成立しない.
    以下しばらく英語では仮定法で話が続いている.
    それはそれとして, 非数学の人向けに言っておくと,
    数学では状況に応じていろいろな連続性を使い分ける.
    教養レベルでも普通の連続と一様連続が出てきたと思うが,
    Lipschitz 連続とか Hölder 連続とか絶対連続というのもある.
    あと Feller は『確率論とその応用』を書いた
    確率論で有名な例の人だろう.
    概念に自分の名前が付く学者, やはり魔人だと言わざるを得ない.
    ====
    とりわけ, これは 2 つの交差する台を持つエルゴード測度が
    実際には非自明な共通要素を持つことを意味する.
    これはエルゴード定理に反する.
    そして異なるエルゴード測度は互いに特異になってしまう.
    ====
    【have a non-trivial common component】の部分,
    数学的に正確な主張を知らないと多分きちんと訳せないのだが,
    論文追うのはつらいので断念した.
    ====
    Navier-Stokes に対する全ての エルゴード 測度は
    台として原点を含んでいることがわかるので, これで一意性を示すことができる.
    不幸なことに強 Feller 性は Navier-Stokes に対する
    無限次元の相空間で成立しそうにない.
    ====
    以上, ここで仮定法が途切れる.
    無限次元の相空間というのは何なのだろう.
    無限次元化は微分方程式論由来なのか,
    確率論由来なのか, その辺も気になる.
    ====
    ここで Hairer と Mattingly はこれに対応する,
    すっきりとした抽象的な代替理論を作った.
    彼らは漸近的強 Feller 性と呼んでいるが,
    推移作用素の正則性に関する性質だ.
    Malliavin 解析を注意深く使うことでこれを示している.
    ====
    Malliavin も非常に有名なフランスの数学者で,
    もちろん確率論の人だ.
    http://en.wikipedia.org/wiki/Paul\_Malliavin
    Malliavin 解析は私でも名前は知っているクラスに有名.
    arXiv を見ていて
    On Malliavin’s proof of Hörmander’s theorem のコメントに
    http://arxiv.org/abs/1103.1998
    【Comments: Dedicated to the memory of Paul Malliavin】
    とあったのでちょっと調べてみたら,
    Malliavin は 2010 年に亡くなっていたようだ.
    知らなかった.
    ====

    Mirzakhani

    Maryam Mirzakhani は Teichmüller タイプのモジュライ空間の
    幾何とダイナミクスに集中して仕事をしている.
    例えば種数と尖点の数を固定した (または決まった長さを持つ測地線からなる
    境界の数を固定した) Riemann 面のモジュライ空間だ.
    ====
    モジュライ空間, 現代幾何学の中心的な研究対象らしいので
    良く聞くのだがいまだによくわかっていないというか
    そもそも勉強していない.
    あまり楽しい話ではないが, Teichmüller というと
    ナチスに参加していたという話をどうしても思い出す.
    http://en.wikipedia.org/wiki/Oswald\_Teichm%C3%BCller
    ====
    これらの空間は (Weil-Peterson 計量による
    Kähler 幾何のような) 幾何構造から, (Riemann 面または
    関連する空間上の写像類群の作用による) 力学系の構造,
    (空間を代数多様体と見ることによる) 代数構造と
    非常に豊かな構造を持ち, 幾何や力学系での
    他の多くの面白い題材との繋がりがある.
    http://en.wikipedia.org/wiki/Weil-Petersson\_metric
    http://en.wikipedia.org/wiki/Mapping\_class\_group
    ====
    この間も書いたが, まず Riemann 面の理論は
    \(\mathbb{C}\) 上の代数曲線論であってその時点で魔界だ.
    その上でさらに豊富な構造を持っているなら
    大体何でも関係してくるだろうし, 正に「数学」という趣がある.
    ====
    例えば, 下記論文でこの空間の Weil-Peterson 体積に対する
    新しい再帰的な公式を作ることで, Mirzakhani は
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr=2264808
    下記論文で双曲平面内のある閾 \(L\) 以下の長さの
    単純な prime geodesics の数を
    漸近的に数えることに成功した.
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr=2415399
    ====
    prime geodesics, どう訳せばいいのだろう.
    Geodesics はもちろん測地線が, prime が謎.
    ====
    (より正確には Mirzakhani は写像類群の
    決まった軌道の上記測地線の数の漸近公式を得た. )
    解は \(L\) の多項式になっていて, \(L\) の指数関数に漸近してしまう
    非単純な prime geodesics の遥かに大きなクラスに対する結果とは対照的だ.
    (非単純な場合の結果は Delsart, Huber, Selberg, and Margulis らによる
    古典的な一連の仕事, “測地線に対する素数定理” として知られている. )
    ====
    Delsart と Huber は知らないのだが,
    Selberg と Margulis は私でも名前を知っている魔人だ.
    Selberg は数論で顕著な業績があるので, こちらは知っている人も多いだろう.
    素数定理と言っているくらいだから,
    prime geodesics は素測地線と訳してもよさそうな気はするが
    違う定訳があるとまずいのでそのままにする.
    ====
    彼女はまたこの公式を下記論文で Kontsevich がはじめて示した
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr=1171758
    交差数に関する Witten 予想の新たな証明を与えるのにも使った.
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr=1144529
    ====
    Witten も Kontsevich も Fields メダリストなので魔人.
    超弦理論まわりの数学で獅子奮迅の活躍をしている.
    やばい.
    ====
    最近, Eskin と Eskin, Mohammadi との 2 つの長い共著論文で
    http://arxiv.org/abs/1302.3320
    http://arxiv.org/abs/1305.3015
    Mirzakhani は上記モジュライ空間上の
    \(SL_2 (\mathbb{R})\) の作用に対する剛性定理を証明した.
    これはべき単生成群に対する Ratner の剛性定理類似だ.
    (これは以前のブログで議論した. )
    http://terrytao.wordpress.com/2007/09/29/ratners-theorems/
    ====
    前者の論文, 172 ページとかあってやばい.
    あと \(SL_2(\mathbb{R})\) はやはり魔界だった.
    剛性定理というのは数学で一般的にある定理だ.
    http://en.wikipedia.org/wiki/Rigidity\_(mathematics)
    群作用とあわせて幾何で出てくるときは,
    だいたいその多様体 (空間) の対称性を表す群が小さいという主張だ.
    例えば複素多様体は複素構造自体が珍しいため,
    それを保つような変換ははじめから少ないはずで,
    そこから複素多様体は固いと言える: 要は剛性がある.
    一方, 測度空間上, 保測変換はその性質上めちゃくちゃ柔らかいと思える.
    何せ面積・体積にあたる測度さえ保っていればいいので
    連続性さえいらない暴力的な変換も許される.
    そういう感じの話をするのが剛性問題だ.
    ====
    Ratner の定理は証明が難しいので悪名高く,
    べき単流の多項式安定性に非常に強く依存している.
    この遥かに複雑な設定下でべき単流はもはや tractable ではない.
    ====
    tractable, 何か数学で対応するような用語があった気がしたので,
    とりあえず英語のままにしておいた.
    幾何・力学系がわからなくてつらい.
    ====
    Mirzakhani はかわりに Benoist と Quint の“指数ドリフト” 法を使っている.
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr=2831114
    ====
    論文, フランス語のようだ.
    フランス人は大事な論文であっても英語ではなく
    フランス語で書いてくるのであまりにも憎たらしい.
    理由はこれだけではないが, 最近フランス語の勉強をはじめた.
    ====
    Ratner の定理は等質力学系に関わる全ての問題に対して
    信じられないくらい役に立つし, Mirzakhani, Eskin, Mohammadi による
    類似の定理も同じように広い応用を持つ.
    例えば有理多角形内の周期的なビリヤードの軌跡を数えるのに使える.
    ====
    よくわからないが Terence Tao が incredibly useful という
    Ratner の定理がやばいということだけは伝わった.
    ====
    ====
    長くなったが, これで Terence Tao のブログの翻訳は
    とりあえず終わった.
    Simons 財団のページの翻訳はさらに長いので
    心が折れつつありやらないかもしれない.
    興味がある方は直接読んだ方がいいかもしれない.
    ====

  • 2014 ソウルでの ICM で Fields 賞が発表になった その2 Terence Tao のブログから

    これもメルマガの転記だ.

    2014 ソウルでの ICM で Fields 賞が発表になった その2 Terence Tao のブログから

    引き続き Fields 賞のネタだ.
    今回は Terence Tao のブログの翻訳を中心にする.

     

    前回と同じく, 私のコメントは ==== で囲んでおく.

     

    その前に: タレコミとちょっとした調査

    メルマガ読者の方から Hairer に関して次のような情報を頂いた.
    前評判として少なくとも春頃から彼が Fields 賞を取るのではないかと
    確率論関係者の間では噂になっていたらしい.
    Twitter での確率論の院生が「本当に Hairer が取った」と言っていたので,
    多分そういう噂はあったのだろう.
    それだけ強烈な仕事をしたとも言える.
    そして確率 Navier-Stokes に関し, 普通の Navier-Stokes と違う話として,
    ある状態 (2 つの大きな渦ができている) から別の状態 (層流) へのランダムな転移が
    よく見られるが, 普通の Navier-Stokes でも同じ現象が見られると
    いうのは聞いたことがない, という情報を頂いた.
    また受賞理由にはないものの, 確率偏微分方程式の一つ KPZ 方程式で
    有名な仕事があってそれで業界では有名になったという.
    これも先の院生が KPZ の話をしていたので, やはりそれで有名なのだろう.
    Renormalization がどうこうというのも KPZ universality class などの
    スケーリング則的な議論についての言及なのかもしれない, とのこと.
    最近, 繰り込みもいろいろなところでの応用が始まっているようなので,
    その辺の話なのだろうという気はする.
    ちなみに繰り込み群の数学的展開としては,
    次のような研究集会が隔年で開かれている.
    http://goo.gl/aLJMvf
    応用先についても言及があるので引用しておこう.

    1. 統計力学や場の理論での応用,
    2. 非線形微分方程式での応用,
    3. 流体力学での応用,
    4. 力学系での応用
    5. 非可換空間上の場の理論の構成
    6. LPA近似された繰り込み群方程式の解の一般的解

    あと Riemann surface with marked points は
    「点付き」と訳すことが多いとのこと.
    点付きについて調べていて, Twitter で Riemann 面をやっている
    人に聞いてみたら, 超弦関係の数学をやっている人から
    次のような情報を頂いた.
    点付き Riemann 面は, Riemann 面とその上の順序有りの有限個の点の集合のことで,
    Mirzakhani の仕事や Witten 予想で点付き Riemann 面のモジュライが出てくるのは,
    Riemann 面を退化させて切り張りして漸化式を考えるからで,
    曲面のホモロジーサイクルをつぶしてちぎると
    ちぎったところに点が 2 個出てくる, とかそういう話らしい.
    退化とか (ホモロジー) サイクルを潰して千切るというあたりが
    さっぱりだが, とりあえず定義は了解した.
    ググっても定義が見当たらなかったので困っていたが, 助かった.

     

    Terence Tao のブログの翻訳

    2014 年の Fields メダリストは次の 4 名とアナウンスされた:
    Artur Avila, Manjul Bhargava, Martin Hairer, それに Maryam Mirzakhani だ.
    http://en.wikipedia.org/wiki/Artur\_Avila
    http://en.wikipedia.org/wiki/Manjul\_Bhargava
    http://en.wikipedia.org/wiki/Martin\_Hairer
    http://en.wikipedia.org/wiki/Maryam\_Mirzakhani
    Simons 財団のページにはプロフィールの動画もある.
    http://goo.gl/TGgD2y
    前回, 2010 のときにもメダリストの記事を書いた.
    http://goo.gl/TZyJdC
    今回は私 (Terence Tao. 以下同様) の専門と近くないので
    あまり突っ込んだことは書けないし, 完全に正確でもないだろう.
    前回と同じく, 彼ら/彼女らの業績に関する話は
    私自身の興味にしたがって取り上げていく.
    それは必ずしもメダリスト達の“最高の仕事”というわけではない.
    プレスリリースも参考にしてほしい.
    http://www.mathunion.org/fileadmin/IMU/Prizes/2014/news\_release\_avila.pdf
    http://www.mathunion.org/fileadmin/IMU/Prizes/2014/news\_release\_bhargava.pdf
    http://www.mathunion.org/fileadmin/IMU/Prizes/2014/news\_release\_hairer.pdf
    http://www.mathunion.org/fileadmin/IMU/Prizes/2014/news\_release\_mirzakhani.pdf

     

    Arthur Avila

    Avila は力学系や Schrodinger 作用素の研究をしている.
    私が一番親しみがある Avila の仕事は Svetlana Jitormiskaya との共著,
    Kac の10 マルティニ問題の解決だ.
    http://www.math.uci.edu/~szhitomi/ (Svetlana のページ)
    この名前は (Barry Simon によると) Kac が
    解決に関して 10 マルティニを賭けたことによる.
    ====
    Avila の論文が, 名前もそのままずばり
    The Ten Martini Problem だった.
    http://arxiv.org/abs/math/0503363
    そしてこのページにいくつか情報がある.
    http://goo.gl/tDDPjW
    第一次大戦後, 悲劇のポーランドで Banach まわりの人間が
    いろいろ集まっていた Scottish cafe の話から
    Kac が着想を得たということらしい.
    Kac は当然 Mark Kac だ.
    確率論の Feynman-Kac の公式や
    【Can one hear the shape of a drum?】で名高い.
    http://goo.gl/sCQfVO
    後者はスペクトル幾何という分野と深く関係している.
    太鼓の形が変わると音が変わる, つまり音に影響を与える.
    これを【太鼓の形を見れば出る音がわかる】と表現しよう.
    ではこの逆, 【音の変化で太鼓の形が分かるか】というのが
    上で Kac が印象的に命名した問題だ.
    何を調べるかというと, Riemann 多様体上の
    Laplacian の固有値を調べる問題になる.
    Laplacian の性質には多様体の幾何の影響が出る.
    例えば Riemann 多様体がコンパクトなら
    Laplacian のスペクトルは離散的になる.
    逆に Laplacian のスペクトルからどれだけ
    多様体の情報が取れるか, というのが
    Kac が提唱した問題といえる.
    これ自体は否定的に解決されたはずだが,
    いろいろな数学が交錯する分野で,
    まだまだ研究するべきことはある.
    で, Tao が【Simon によると】と言っているのが
    次の論文だ.
    http://www.math.caltech.edu/SimonPapers/R26.pdf
    これの P.487 で言及している.
    のっけから余談だらけになるが,
    Simon は私 (コメント中なので Terence Tao ではない) の分野,
    構成的場の量子論および厳密統計力学の巨人だ.
    教科書として Reed-Simon と呼ばれる関数解析の 4 巻本,
    Methods of Modern Mathematical Physics というのがある.
    他にも有名な本や論文がある.
    例えば学習院の物理の田崎さんが
    「3 人の数理物理の神々の饗宴」と称した,
    反強磁性 Heisenberg モデルでの相転移の存在証明論文がある.
    田崎さんいわく, これは鏡映正値性を駆使した
    変態的な論文ということだ.
    この話をしていると終わらないので,
    ここで無理矢理切り上げる.
    ====
    この問題はおそらく非自明なスペクトルの性質を持つ
    Schrodinger 作用素の最も単純な例,
    概 Mathieu 作用素 \(H_{\omega}^{\lambda, \alpha} \colon \ell^2{\mathbb{Z}} \to \ell^2{\mathbb{Z}}\) を含む.
    ここで \(\alpha, \omega \in \mathbb{R} / \mathbb{Z}\) で \(\lambda > 0\) だ.
    具体的な形は次の通り.
    \begin{align} (H^{\lambda, \alpha}_{\omega} u)_n = u_{n+1} + u_{n-1} + 2 \lambda (\cos 2 \pi (\theta + n \alpha)) u_n. \end{align} つまり余弦ポテンシャルを持つ離散的な 1 次元 Schrodinger作用素だ.
    これは有界な自己共役作用素なので,
    スペクトルは実軸のコンパクトな集合になる.
    ====
    スペクトル解析が私の専門なのでびしびし心に来る.
    まず離散 Schrodinger って何ぞ, というところだが,
    物理の人が興味を向けるのかは知らないのだが,
    少なくとも数学だと結構よく扱われている印象がある.
    例えば Anderson 局在を格子の上で
    研究している数学者達がいる.
    http://arxiv.org/abs/1104.2317
    数学的に面白いらしい.
    また, 自己共役作用素というのはいわゆる
    (無限次の) Hermite 行列のことだ.
    これも話し出すと止まらないので,
    ここではこれ以上書かない.
    ====
    概 Mathieu 作用素は整数量子ホール効果など
    いろいろな物理の文脈で出てくる.
    ただここではこうした応用は議論しない.
    特にこのスペクトルの構造は振動数 \(\alpha\) の
    Diophantine 的な性質が決定的に効いてくる.
    ====
    だいたいこの時点でかなり不穏な空気が出てくる.
    Diophantine はいわゆるディオファントスで,
    要は数論の問題が絡んでくるということ.
    ちなみに九大の若山先生が非可換調和振動子のスペクトルを
    研究していて, このスペクトルゼータが
    パラメータの調整で本当に Riemann の \(\zeta\) になる.
    http://goo.gl/pEuk4t
    つまり自己共役作用素のスペクトル解析は
    数論が飛び出してくることのある魔界にもなりうる.
    場の理論からの話だと新井先生の次の論文がある.
    http://eprints3.math.sci.hokudai.ac.jp/637/
    またもっと直接的にスペクトル理論と
    \(\zeta\) に関して Hilbert-Polya 予想がある.
    http://goo.gl/uaSwU9
    ====
    例えば \(\alpha = p/q\) が有理数のとき,
    作用素は \(q\) を周期として周期的になる.
    そして離散 Floquet 理論からスペクトルは
    単純に \(q\) 区間の和になる.
    しかし \(\alpha\) が無理数だと (この場合
    スペクトルは位相 \(\theta\) によらない),
    フラクタル的な様相を呈してくる.
    例えば \(\lambda = 1\) という臨界的な場合は
    スペクトルは (\(\alpha\) の関数として)
    Hofstadter butterfly になる.
    ====
    Hofstadter butterfly は下記ページ参照.
    http://en.wikipedia.org/wiki/Hofstadter%27s\_butterfly
    私もはじめて知ったが, 東北大の小谷先生の
    Harper 作用素の結果で, 同じようにスペクトルの紋様の
    研究があったような覚えがある.
    http://www.phys.tohoku.ac.jp/coe/symposium/pdf/Kotani.pdf
    私が聞いたのは磁場つき Harper の結果だったし,
    出版年からしてももう少し後の結果だったと思う.
    ちなみに小谷先生は離散微分幾何の専門家だ.
    ちょっと検索したら Harper 作用素の
    代数幾何とかあって戦慄した.
    http://arxiv.org/abs/1102.4136
    ====
    Ten martini problem は
    全ての無理数 \(\alpha\) と結合定数 \(\lambda\) に対して
    スペクトルが Cantor 集合と同相になるという主張だ.
    ====
    上で【スペクトルは位相 \(\theta\) によらない】と書いたが,
    これがもちろん phase の意味の位相だ.
    Topology ではない.
    また Cantor 集合が出てきたが, Cantor 集合は
    測度論で出てくる何か変な零集合というだけではない.
    このようにふとした瞬間にポンと出てくる魔人だ.
    Cantor の先見の明と優れた例の構成力には心底驚かされる.
    Cantor 集合は力学系の話だと
    かなり普遍的に出てくる感じがある.
    作用素環でも千葉大の松井さんの仕事で
    基本的な話の中にポンポン出てきた覚えがある.
    面白くて余談が止まらない.
    ====
    Avila と Jitormiskaya の仕事の前,
    この問題に対する多くの部分的な結果があった.
    特に Puig は次の論文を書いている.
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr=2031032
    これは \(\lambda\) が十分小さいか十分大きいかという
    摂動的な仮定をつけた結果と同じく,
    パラメータ \((\lambda, \alpha)\) の
    a full measure set に対するスペクトルの Cantor 性を確立した.
    ====
    A full measure set をどう訳したものか.
    零集合との対比っぽい印象は受けた.
    また【スペクトルの Cantor 性】は Cantor spectrum の訳だが,
    正しいのかわからない.
    下記論文からするとこういう感じかな, と思ったのだが.
    http://sloan2.caltech.edu/SimonPapers/152.pdf
    ちなみに Cantor 集合は全疎で完全な閉集合で,
    完全と閉はすぐわかるが全疎性を示すのが難しいと上の論文に書いてある.
    よく見たら Bellisard だけでなく上掲の Simon も著者だった.
    あと摂動というところだが, 一応物理と同じような意味で使っている.
    十分小さい場合はその数の正べき, 十分大きい場合は
    その逆数の正べきが十分速く収束するので
    いろいろな議論がはかどるという話.
    物理と違って収束の話はきちんとするから,
    ふつう, つらい解析的な仕事になる.
    ====
    \(\alpha\) が Liouville 数のように有理数に非常に近い場合,
    または Diophantine 数のように有理数から非常に遠い場合には
    この結果は示されていたが,
    これらの中間の結果がなかった.
    問題を解くために次のような背理法による驚くべき議論とあわせて
    摂動的・非摂動的双方の既存の技術を幅広く使っている:
    彼らは (ある領域で) スペクトルは Cantor 集合にならないと仮定し,
    この仮定を \(\alpha\) の関数としてスペクトルの
    Lipschitz 的で付加的な制御をするために使っている.
    これのおかげで彼らは (膨大な議論のもとで) 既存の議論の
    改良をすることができ, スペクトルが実際に
    Cantor 集合であることを証明した!
    ====
    Avila 1 人で膨大な量になってきたから今回はこの辺で終わろう.
    次回は Bhargava だ.
    ====

  • コンテンツアーカイブを作りました

    コンテンツアーカイブを作りました

    新たにコンテンツアーカイブを作りました。

    理工系のための総合語学・リベラルアーツのコンセプトのもとに、数学・物理・プログラミング・英語(語学)を中心にしたコンテンツをこれまで以上に見やすく整理しています。

    これまで公開していなかったコンテンツも公開していくので、ぜひコンテンツアーカイブにあくせすしてください。

    コンテンツアーカイブは今後大量のページ・コンテンツを抱えていきます。もしあなたが「自分の趣味・興味に応じて好きなところをつまみ食いしたい」と思っているなら問題はないものの、次のような要望があるのもわかっています。

    • 一つ一つは面白いがコンテンツが多すぎて目が回る。
    • 興味あるものは見るが、実は面白いはずなのにそれが見つからない。
    • シリーズのコンテンツもあるだろうし、見る順番を指定してもらえると助かる。

    実際、ミニ講座としてまとめて作ったコンテンツもあり、一揃いで見てもらえると学習効率・効果が高いコンテンツ群もあります。これについても内容や提示の仕方を刷新し、特にミニ通信講座として提供します。ぜひご自身のご興味に応じて勉強を進めてください。