Math Advent Calendar 2017 12/4 量子論の数理とリーマンのゼータ関数

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はじめに

これは Math Advent Calendar 2017
の $12/4$ 回です.
ちょっと書き足りないところもあるので,
適当なときに追記したいとは思っています.

次のリンクに PDF があるので,
PDF で読みたい方はどうぞ.

Markdown 変換と TeX の表記の相性が悪いようで,
サイト上では 表示がバグってうまく表示されないようなので,
PDF で見た方がいいかもしれません.

ヒルベルト-ポリア予想

今回のキーワードはヒルベルト-ポリア予想です.
とりあえず Wikipedia を引用しておきましょう.

内容もいくつか引用しておきます.

数学において, ヒルベルト・ポリア予想 (Hilbert–PóLya conjecture) とは,
スペクトル理論によるリーマン予想への一つのアプローチの方法である.
1910 年代に, ヒルベルトとポリアが,
リーマン予想の証明は自己共役作用素を見つけることにより得られるのではないかと示唆したことが,
この予想の契機である.

一言でいえば,
この自己共役作用素として量子力学でも出てくるハミルトニアンが焦点に上がってきている,
という話です.
つまりヒルベルト空間上の線型作用素論という,
ふつう数論との交点をほぼ何も意識しない,
そして結びつきもなさそうに思えそうなタイプの解析学が実は数論との交点を持っているという話です.

一方, ヒルベルト空間上の線型作用素論といえば,
量子論の数理として発展した経緯があります.
ここでの「量子論」は相対論・非相対論,
一体・多体の粒子系, 場の理論, など全てを含めた言葉として使っています:
ふつう量子力学, 多体系の量子論, 量子統計力学, 場の量子論のように,
状況に応じて呼び分けられる分野をまとめた呼称です.
ヒルベルト空間上の線型作用素論と数論に繋がりがあるのなら,
数学的には自己共役作用素の理論である量子論と数論にも適当なつながりがあるはずで,
そのテーマを追いかけるのが今回の目的です.

話を先に進める前に,
せっかくなのでもう少しヒルベルト-ポリア予想に関して
Wikipedia から引用しておきましょう.

1950 年代とセルバーグ跡公式

ポリアとランダウの会話の時代には,
このような見方の土台はほとんど無かった.
しかし, 1950 年代初期にアトル・セルバーグは,
リーマン面の長さスペクトルとラプラス作用素の固有値の間の双対性を証明した.
セルバーグ跡公式は, 明示公式に非常によく似ていて,
明示公式はヒルベルト・ポリヤの見方に信憑性を与えている.

セルバーグの跡公式ともなると数論の中心地という感がします.

1970 年代とランダム行列

彼は 1972 年にプリンストン高等研究所を訪れたとき,
この結果をフリーマン・ダイソンに示した.
ダイソンはランダム行列理論の基礎を築いた一人である.
ダイソンは,
モンゴメリーが発見した統計分布がランダムエルミート行列の固有値のペア相関分布と同一に見えることを知った.

ここでのダイソンは量子電気力学 (QED) でも有名なフリーマン-ダイソンです.
今回の議論ではあまり関係ないものの,
ランダム行列の話題が出たので,
最近の超弦理論などの展開とも合わせたランダム行列に関する文献を 1
つ紹介しておきましょう.

これはこれで面白いのでぜひ読んでみてください.
著者の 1 人, 木村太郎さんに伺ったところ,
ランダム行列は現代の物理数学とも言われているそうで,
実際眺めてみても話題豊富でとても面白い内容です.

最近

このような函数解析を通したリーマン予想へのアプローチへ実質的な力を与えている発展として,
アラン・コンヌは, リーマン予想と実質的に同値な跡公式を定式化した.
従って, この跡公式の主張とセルバーグ跡公式との類似が一層強くなった.
彼は, アデールの非可換幾何学上の跡公式として,
数論での明示公式の幾何学的な解釈を与えた.

これ以外にも今回のテーマと関わる形で「数論の相転移と自発的対称性の破れ」という論文があります.

これはまさに量子統計ネタです.
当然, 伝家の宝刀 KMS 状態が出てきます.

量子論の数理

これを読んでいるあなたが純数学サイドなら,
量子論をそもそもほとんど知らないでしょう.
そこで簡単に量子論の数理を紹介しておきます.

有名なのは量子力学に関して偏微分方程式論,
シュレディンガー方程式の解析でしょうか.
もう 1 つ基本的なアプローチが,
私の専門でもある作用素論によるハミルトニアンの解析です.
要はシュレディンガー方程式の偏微分作用素を線型作用素とみなし,
それを研究します.
他にも作用素環を使った代数的場の量子論や,
作用素解析に確率論を使うアプローチなどもあります.

超弦理論まで含めれば,
量子論は恐ろしく広い範囲の数学との交点を持ちます.
解析学に関しては, 物理そのものが微分積分の生みの親です.
超弦理論は幾何との繋がりがあり,
その幾何に関わる代数という形で代数とも接点があります.
もちろん対称性の表現という観点から群,
そしてその表現論との深い関わりもあります.
物理学者が表現論の新たな地平を切り開いた事実に関してはヴェイユの述懐が残っているほどです:
興味があれば [@TakeshiHirai2 P.453] を参照してください.
代数的場の量子論での DHR-DR 理論 [@HellmutBaumgartel1]
のような金字塔もあります.

これにとどまらず,
ふつうの数学ですらなかなか交点を意識しない・できない,
集合論との交点もあります.
実際,
記述集合論を使って量子論と関わる作用素の解析をしている数理物理の研究もあるほどです.

他にも,
特に解析学と量子論の数理の交点を中心にこのページでもいくつかネタを紹介しています.
興味があれば適当に眺めてみてください.
書きはじめるときりがないのでこの辺にしておきます.

非可換調和振動子の数論

数学としては常微分方程式論の枠に入る話でもあります.
実際, 常微分方程式論の知見を使って解析する場面も多いようです.
まずはいくつか文献を引用しておきましょう.

特に最初の文献をもとにごく簡単に議論を紹介します.
まず非可換調和振動子の作用素 $Q$ を定義しておきます.

$$\begin{aligned}
Q
=
A {\left( – \frac{1}{2} \frac{d^2}{dx^2} + \frac{1}{2} x^2 \right)} + B {\left( x \frac{d}{dx} + \frac{1}{2} \right)}.\end{aligned}$$

ここで $A$ と $B$ は適当な行列で,
考えているヒルベルト空間は
${\mathcal{H}}= {L^2}({\mathbb{R}}) \otimes {\mathbb{C}}^2$ です.
見てすぐわかるようにこれは 2 階の微分方程式です.
$A = 1$, $B = 0$ のときがふつうの調和振動子で,
行列係数という意味で「量子化・非可換化」していることから非可換調和振動子と呼ばれています.
これの物理に関する文献は節の最後で紹介します.

以下では特に
$A = \begin{bmatrix} \alpha & 0 \ 0 & \beta \end{bmatrix}$,
$B = \begin{bmatrix} 0 & -1 \ 1 & 0 \end{bmatrix}$ としましょう.
特に $\alpha$, $\beta$ は $\alpha \beta > 1$ となる実数とします.

恐ろしくシンプルな設定です.
しかしこの $A$, $B$ に対して恐るべき事実があるわけで,
これからそれを見ていきます.
細かい話は論文を見てもらうことにして,
ここでは単刀直入にいきましょう.

作用素 $Q$,
特に $Q$ のスペクトル (一般化された固有値)
についてはいくつか一般的な性質があります.
例えば $Q$ のスペクトルは多重度有限の固有値しか持ちません:
これはまさにふつうの調和振動子のスペクトル特性でもあります.
ここでは特に固有値が多重度を込めて
$0 < \lambda_1 \leq \lambda_2 \leq \lambda_3 \leq \dots (\to \infty)$
となると仮定します.
このとき $Q$ のスペクトルゼータを次のように定義します.

$$\begin{aligned}
\zeta_Q (s)
=
\sum_{n=1}^{\infty} \lambda_n^{-s}.\end{aligned}$$

これは絶対収束し, $\operatorname{\mathrm{Re}}(s) > -1$
で正則な関数であることがわかっていて,
さらに ${\mathbb{C}}$ 上に一価な有理型関数として解析接続できます.
特に $\alpha = \beta$ のとき,
次のように書けることが知られています: Gerrit van Dijk, Masato Wakayama,
2010, Casimir Force, Casimir Operators and the Riemann
Hypothesis
.

$$\begin{aligned}
\zeta_Q (s)
=
2 (\alpha^2 – 1)^{s/2} \zeta (s, 1/2), \quad
\zeta (s, x)
=
\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{(n+x)^s}.\end{aligned}$$

$\zeta(s, x)$ はフルヴィッツのゼータで,
リーマンのゼータは $\zeta (s) = \zeta (s, 1)$ です.
つまりこのときのスペクトルゼータは本質的にリーマンのゼータです.
いまの $Q$
がどこまで実際の物理のモデルと関係するのか私はわかりませんが,
少なくとも, 名前の上だけではあっても,
明らかに量子力学を意識した作用素のスペクトルがゼータの情報を持っていることは伝わるかと思います.

もう 1 点大事なのは,
上記論文でも Rabi モデルや
Jaynes-Cumming モデルが挙げられているように,
これと類似の行列係数の微分方程式,
または作用素が本当に理論物理,
少なくとも数理物理で議論されていて,
実験との対応まで含めて議論されていることです.
これについては例えば次のような文献を紹介しておきます.

他には arXiv で廣川先生の論文も探してみてください.

量子力学のスペクトル問題が数論との関係を持つことは感じてもらえたと信じて,
次は場の理論に関する話を紹介します.

場の理論とゼータ

これは新井朝生先生の論文 [@AsaoArai7] の概要説明です.
細かい話は論文を参照してもらうことにしてさらっと流して説明します.

まず作用素の前にその作用素が定義される空間の話を定義します:
それがフォック空間です.
ソリトンや可積分系の理論でも出てくるのでそれなりに有名な空間ではあるでしょう.

後の議論の関係から ${\mathcal{H}}$ と ${\mathcal{K}}$
を複素ヒルベルト空間で無限次元だとします.
まずふつうのフォック空間は
${\mathcal{F}}({\mathcal{H}}) = \bigoplus_{n=0}^{\infty} \bigotimes^n {\mathcal{H}}$
と定義します:
$\bigotimes^n {\mathcal{H}}$ は $n$ 階のテンソル積,
$\bigoplus$ はヒルベルト空間の直和であり,
ここで $\bigotimes^0 = {\mathbb{C}}$ と定義しています.

次にボソンフォック空間とフェルミオンフォック空間を定義しましょう.
$\bigotimes^n_s {\mathcal{H}}$ と $\bigotimes^n_a {\mathcal{H}}$
をそれぞれ対称テンソル積,
反対称テンソル積として,
\begin{align}
\mathcal{F}{\mathrm{b}} ({\mathcal{H}})
&=
\bigoplus
{n=0}^{\infty} \bigotimes^n_s {\mathcal{H}}, \
\mathcal{F}{\mathrm{f}} ({\mathcal{H}})
&=
\bigoplus
{n=0}^{\infty} \bigotimes^n_a {\mathcal{H}}.
\end{align}
がそれぞれボソンフォック空間とフェルミオンフォック空間です.
さらにこれのテンソル積としてボソンフェルミオンフォック空間
\begin{align}
{\mathcal{F}{\mathrm{b}}}({\mathcal{H}}) \otimes {\mathcal{F}{\mathrm{f}}}({\mathcal{K}})
\end{align}
も考えます.

この上に第 2 量子化作用素を定義します.
第 2 量子化という言葉は歴史的な経緯のある言葉で,
その命名の意味を深く考える必要はありません.
これはフォック空間を構成する 1 体のヒルベルト空間
${\mathcal{H}}$ 上の作用素 $H$
を相互作用のない多体系に持ち上げる処方です.
直和の前に $n$ 階のテンソル積空間に対してどう持ち上げるかを確認します.

まず 1 体の空間を ${L^2}({\mathbb{R}^d})$ とすると,
統計性を無視した $n$ 体の空間は
$\bigotimes^n {L^2}({\mathbb{R}^d}) = {L^2}({\mathbb{R}}^{dn})$
と書けます:
これは $x = (x_1, \dots, x_n)$,
$x_k = (x_{k,1}, \dots, x_{k,d}) \in {\mathbb{R}^d}$ との記号のもとで
$f (x) = f (x_1, \dots, x_n)$ としたことにあたります.

第 $k$ 粒子に対する 1 体のハミルトニアンを
$H_k = – \operatorname{\raisebox{.2ex}{\scalebox{0.8}{$\triangle$}}}k + V (x_k)$
と書くことにしましょう.
ここで
$\operatorname{\raisebox{.2ex}{\scalebox{0.8}{$\triangle$}}}_k = \partial
{k_1}^2 + \cdots + \partial_{k_d}^2$
と定義しています.
これを使うと相互作用のない $n$ 体のハミルトニアンは形式的に
$H = {\sum_{k=0}^n}H_i$ と書けます.
これをテンソル積を使って一般的にどう書くかといえば,
$1 \otimes \cdots \otimes 1 \otimes H_k \otimes 1 \otimes \cdots \otimes 1$
と書けます.
これを改めて $H_k$ と書くことにすれば,
$H = {\sum_{k=0}^n}H_i$ と書けます.

さて, 改めてフォック空間上に移ります.
一体のハミルトニアンが $H$ であるとき,
フォック空間全体のハミルトニアンは
$n$ 体系への制限が先の
$H_{\mathrm{n-body}} = {\sum_{k=0}^n}1 \otimes \cdots \otimes 1 \otimes H \otimes 1 \otimes \cdots \otimes 1$
である作用素として定義されます.
つまり第 2 量子化は
${d \Gamma}(H) = {\sum_{n=0}^{\infty}}H_{\mathrm{n-body}}$
と定義されます.
そして $\Gamma (e^{iH}) = e^{i {d \Gamma}(H)}$ です.

また, 一般論として,
対象がヒルベルト空間,
ヒルベルト空間からヒルベルト空間への非拡大作用素 (non-expansive
operator) を射とする圏 ${\mathbb{H}}$,
さらに対象として特にフォック空間だけを取った圏 ${\mathbb{F}}$
を考えます.
このとき, 上で定義した第 2 量子化 $\Gamma$ は関手になっています.
これについては, ここでこれ以上は議論しません.
そもそもあまりよく知らないので.

ゼータ関数の導出

細かい話は省いて一気に進めます.
$A$ をトレースクラスの作用素,
$s > 0$,
$z \in D = {\left{w \in {\mathbb{C}}\, \middle| \, {| z |} \leq 1\right}}$
とし,
$Z_b (s, z; A) = \operatorname{\mathrm{Tr}}(\Gamma_b (z) e^{-s {d \Gamma_{\mathrm{b}}}(A)})$
とします:
これは量子統計のいわゆる分配関数です.
論文の定理 2.2 によって,
この $Z_b (s,z;A)$ は次の表現を持ちます.

$$\begin{aligned}
Z_b (s,z;A)
=
\frac{1}{\det (1 – z e^{-sA})}.\end{aligned}$$

論文には細かい議論はいろいろありますが,
ここではまず有限次元で考えて何を意味しているか調べてみましょう.
$A$ が自己共役だとし,
$A = \sum_k \log a_k P_k$ とスペクトル分解しておきます.
スペクトル定理によって $e^{-sA} = \sum_k a_k^{-s} P_k$ と書けます.
そして行列式は $\det (1 – z e^{-sA}) = \prod_k (1 – z a_k^{-s})$ です.

いくつか追加の仮定をつければ,
${\mathcal{H}}$ が無限次元の場合でも同じように議論できます.
そこで ${\mathbb{P}}$ を素数全体の集合とし,
$A = \sum_{p \in {\mathbb{P}}} \log p P_p$ とすると,
$\det (1 – z e^{-sA}) = \prod_{p \in {\mathbb{P}}} (1 – z p^{-s})$
と書けます.
つまり $(P_p){p \in {\mathbb{P}}}$ を互いに直交する射影の族とし,
$A = \sum
{p \in {\mathbb{P}}} \log p P_p$ とすると,
先の行列式はリーマンのゼータの無限積による表現であり,
$Z_b (s, 1; A) = \zeta (s)$ です.

何の感動もなくさらっと書いてしまったので展開に大失敗感もありますが,
何はともあれ, フォック空間上の自己共役作用素,
そしてその分配関数からゼータが導出できました.
上の構成, 特に $A$ の構成を工夫すれば,
ディリクレ級数の形でいろいろな数論上重要な関数が導出できます.
詳しくは論文を眺めてみてください.

また,
ボソン-フェルミオンフォック空間上で超対称性を意識した構成によって,
いろいろな関数の関係式が導出できます:
興味があればぜひ 5 章を眺めてみてください.
注意 5.3 では双対性との関係に言及しています.

このあたり,
時間ができたら論文をもう少し詳しく説明したいとは思っています.

作用素環と数論, コンヌ

この節では次の論文の概要を紹介します.

この論文, 手強すぎてそもそも私はいまだに詳細をほとんど全く追えません.
そのつもりで読み進めてください.

まずは基本的なところから.
作用素環で相転移を扱うという場合,
とりあえず量子統計のセッティングで話をします.
特に $C^{}$ 力学系,
または $W^{
}$ 力学系の話で,
そこで分配関数が $\zeta$ になる,
という方向に持っていくことになります.

イントロで相転移や自発的対称性の破れについても,
論文に直観的な説明が書いてあります.
興味があるならぜひそれも参考にしてください.
この論文では素数の分布と自発的対称性の破れの関係を論じています.

$C^{}$ 力学系は,
$C^{
}$ 環 $A$ と
$A$ 上の強連続な自己同型群 $(\sigma_t)$ の組のことをいいます.
$W^{*}$ 力学系の場合も適当な連続性を課して同じように議論します.

ヒルベルト空間上の連続なユニタリ群は
ストーンの定理もしくは半群理論によって,
自己共役作用素 $H$ を使って $U_t = e^{itH}$ と書けます.
GNS 表現にしても構いませんが,
$C^*$ 環上でも適当に調整すれば,
半群理論から直接 $\sigma_t = \mathrm{Ad} \, e^{itH}$ のように書けます.
純数学的,
より強く冨田-竹崎理論から見ても,
このハミルトニアン $H$ のスペクトルが色々大事な情報を持っています.
新井論文では実際に適当なハミルトニアンを構成して,
リーマンのゼータを作っています.

量子統計では KMS 状態が基本的な対象です.
まず状態の空間が定義から凸集合になり,
さらに KMS 状態の集合自体も凸集合になります.
すると KMS 状態による端点分解ができてそれ自体が熱力学的な純粋相を表す,
という話があり,
眺める限り, この論文ではそれが数論の数学としても大事なようです.

P.413 あたりから今回のターゲットの $C^$ 環が
Hecke 環だという話になってきます.
$\mathbb{C}$ の格子の Hecke 対応とか何とか出てくるものの,
まるでわかりません.
ここで double coset
$GL (2, \mathbb{Z}) \setminus GL (2, \mathbb{Q}) / GL (2, \mathbb{Z})$
が出てきて,
いかにも数論という雰囲気があります.
離散群の作用がある場合の作用素環は膨大な研究があり,
その線から見ても意味がありそうですね.
そして, 適当な条件下で離散群 $\Gamma$ とその部分群 $\Gamma_0$ から
convolution algebra として Hecke 環ができるらしく,
$\ell^2 (\Gamma_0 \setminus \Gamma)$ への
Hecke 環の正則表現の閉包として $C^
$ 環を作ります.

Prop. 4. では自己同型群を作っていて,
記号からしても KMS のモジュラー自己同型群だろうと思います.
「思います」程度しか書けないほどにこの論文が読めていません.

P.415 で力学系の相転移に付随する自発的対称性の破れの記述がはじまります.
$\mathbb{Q} / \mathbb{Z}$ 上の関数 $\psi_{\beta}$
を適当な素因数分解を使いつつ定義しています.
面倒なので $P$ の定義は論文を見てもらうことにして,
$\Gamma = P_{\mathbb{Q}}^+$, $\Gamma_0 = P_{\mathbb{Z}}^+$ とすると,
$\mathbb{Q} / \mathbb{Z} \subset \Gamma_0 \setminus \Gamma / \Gamma_0$
になり,
ここから Hecke 環や $C^*$ 環の包含も出ます.

この辺をうまく解析すると主定理の Theorem 5 になり,
Riemann の $\zeta$ が出てきます.
$\mathbb{Q}^{\mathrm{cycl}}$ のように数論的な対象がたくさん出てきます.
また Galois 群
$G = \mathrm{Gal} (\mathbb{Q}^{\mathbb{cycl}} / \mathbb{Q})$
が自己同型群として作用して,
しかも時間発展 (KMS のモジュラー自己同型) と可換になり,
これが自発的対称性の破れを記述する, とのこと.
Theorem 5 の証明の前に力学系と素数の分布の関係の説明をしよう,
といって節が変わり 2 節になります.

2 節の冒頭で E. Nelson の「第 2 量子化は functor
である」という言葉が引用される.
この Nelson は 2011 年に
The Inconsistency of
Arithmetic

で話題になり,
最近なくなった Edward Nelson です.
基礎論や超準解析の印象が強い方も多いでしょうが,
元々構成的場の量子論にいた人なのです.

今回, 冷静になって考えて見れば当然という趣はあるものの,
特に強調したいのは P.417 の Lemma 6 です.
$\mathcal{P}$ を素数の集合とし,
$T$ が Hilbert 空間 $H$ 上の自己共役作用素として,
$T$ の第 2 量子化作用素を $\Gamma (T)$ とします.
このとき, $\sigma (T) = \mathcal{P}$ と
$\sigma (\Gamma_0 T) = \mathbb{N}^*$ が同値という命題です.
ここで $\sigma (T)$ は $T$ のスペクトルを表しています.
これは単なる素因数分解です.
証明は論文に書いてあるので,
興味がある向きは眺めてみてください.

そして上の $T$ を使って次のようにリーマンのゼータが定義できます.
$$\begin{aligned}
\operatorname{\mathrm{Tr}}(\Gamma (T))^s
=
\frac{1}{ \det (1 – T^s)}.\end{aligned}$$

ここまで来れば分かるように,
上記の新井先生はこの命題を基礎にして Fock
空間上で直接色々議論しています.
要はボソンの場の量子論と数論に関係があるという話ですね.

3 節では 2 節で作った $C^*$ 力学系と数論の概念を関係づけ,
Theorem 5 の Hecke 力学系を作っています.
当然局所コンパクト群や Haar 測度も出てくるので,
色々な数学が交錯する姿を見てみたい学部生が読んでも面白いでしょう.
当然ながら $p$-進数や付値なども出てきます.
アデールなど, 学生時代, 非可換幾何をやっていた先輩の話で出てきたな,
という程度の知識しかないので適当に読み飛ばさざるを得ませんでした.

さらに派手に飛ばすと,
6 節では $\beta > 1$ KMS の分類をし,
7 節では $\beta \in (0, 1]$ での KMS 状態の一意性を議論しています.
III 型環とかがちゃがちゃ出てくるので面白そうですが,
私の手には負えません.
代数的場の量子論をやるとこの辺の議論が必要です.

最後, 参考文献に Araki-Woods や Connes-Takesaki,
Bratteli-Robinson, Haag, Pedersen の有名な論文や教科書がある中,
Dirac, Serre, Shimura, Tate, Weil があるのには苦笑せざるを得ません.
私には読めない.
何にせよ,
色々な数学が交錯する姿が見られる論文なので,
興味がある方はぜひアタックしてみてください.

最後に

今回は量子力学と数論というネタでいろいろ紹介しました.
純数学的な話を中心にしつつ,
前半では多少なりとも物理との関わりが強い話も紹介しました.

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