カテゴリー: 数学

  • メルマガから:2014 ソウルでの ICM で Fields 賞が発表になった その 3 Terence Tao のブログから その 2

    メルマガから抜き出してきた Fields 賞の話.

    2014 ソウルでの ICM で Fields 賞が発表になった その 3 Terence Tao のブログから その 2

    タイトルがやたら面倒なナンバリングになっているが
    あまり気にしないでほしい.
    引き続き Fields 賞のネタだ.
    今回は Terence Tao のブログの翻訳を中心にする.

    前回と同じく, 私のコメントは ==== で囲んでおく.

    Terence Tao のブログの翻訳

    Manjul Bhargava

    Manjul Bhargava は驚くほど美しい数学を生み出している.
    しかしその大半は私の専門分野ではない.
    ====
    前回と同じく, 地の分の「私」は Terence Tao のことだ.
    ====
    私の興味と重なる分野 (ランダム行列の理論だ) での彼の仕事として
    彼が多くの共著者と進めている楕円曲線のさまざまな数論的特徴の
    統計的性質のモデリングがある.
    これには予想の定式化も厳密な仕事もある.
    具体的にはランクや Selmer 群や Tate-Shafarevich 群の研究だ.
    ====
    ランダム行列, 何となく確率論と線型代数の話か,
    と思っている人もいるかもしれないが, かなりの魔界だ.
    とりあえず Wikipedia を張っておこう.
    http://goo.gl/ttiQId
    【現在では核物理学のほかに, 量子カオス, 固体物理学,
    統計力学, 数論, 生態学, 遺伝子工学, 金融工学, 無線工学,
    複雑ネットワークなどの研究で応用されている. 】とのこと.
    このとおり, 物理でも数学でもいろいろなところで出てくるし,
    以前東大数理で毎年開かれている Summer School 数理物理でも
    ランダム行列の話題が出たときがある.
    http://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~yasuyuki/mp2005.htm
    ほとんど名前だけしか知らないが, Wigner の半円則がとりあえず有名.
    立川さんの YouTube でのミニ講義を紹介しておこう.
    http://goo.gl/pCJ1zL
    ちょっとググったら次のような PDF も出てきた.
    http://web.mit.edu/18.338/www/Acta05rmt.pdf
    http://cims.nyu.edu/~zeitouni/cupbook.pdf
    http://terrytao.files.wordpress.com/2011/08/matrix-book.pdf
    目次を眺めただけだが, 超幾何に Painlevé も関係するらしい.
    自由確率論は作用素環ネタで, それは上記
    Summer School 数理物理でも出てきた話で,
    九大の植田さんがやっていたりする.
    Golden-Thompson 不等式は私も使ったりする.
    量子統計で使うのだ.
    ====
    例えば Kane, Lenstra, Poonen, Rains との共著
    http://arxiv.org/abs/1304.3971
    では, これら統計的性質の全てを予想するランダム行列モデルを提出している.
    例えば Tate-Shafarevich 群の \(p\)-要素 が,
    ある \(p\) 進ランダム行列の余核のように分布することを予想している.
    これは以前のポストで議論した Cohen-Lenstra の発見的議論の精神に沿った話だ.
    http://terrytao.wordpress.com/2009/10/02/at-the-austms-conference/
    ====
    predict の訳語がよくわからない.
    アブストで conjecture という単語が踊っているので,
    予想にしてはおいたのだが, それなら conjecture にするのでは, という気もする.
    ====
    しかしさらに強く印象的なことは, Manjul と共著者達が
    このモデルに関していくつか非自明な事実 (例えば,
    あるモーメントが予想された漸近的な性質を満たす) の証明に成功していることだ.
    はじめてこれらの様々な統計的性質の非自明な上下界を与えている.
    例えば楕円曲線がどのくらいの頻度でランク 0 になるか
    ランク 1 になるかの下限を得ている.
    また最近, Gross-Zagier
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr%3D833192
    や Kolyvagin,
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr%3D1106906
    そしてその他の人達の仕事と合わせて, Skinner と Zhang との共同研究
    http://arxiv.org/abs/1407.1826
    で驚くべき結果を導いている.
    それは (高さで順序づけられた) \(\mathbb{Q}\) 上の全ての楕円曲線のうちの
    少なくとも 66% が Birch Swinnerton-Dyer 予想にしたがうという結果だ.
    http://goo.gl/9MJncq
    以前は曲線の positive proportion が予想にしたがうことすら知られていなかった.
    ====
    何を言っているのかさっぱりわからない.
    訳も正しいのかわからない.
    大変困っている.
    Positive proportion, この場合どう訳したものか.
    それはそれとして, Birch Swinnerton-Dyer 予想は
    リンク先の Wikipedia にもある通り,
    ミレニアム問題の一角なので超がつくレベルの難問だ.
    予想の定式化からして何を言っているのかわからない.
    あと上で Kolyvagin が出てきたが,
    これは Wiles による Fermat 予想の解決で使われたとかいう
    Kolyvagin-Flach method の Kolyvagin だろうか.
    http://goo.gl/w0dFfS
    Wikipedia を見ていて, Wiles ももう 60 を越えているのか,
    と時の流れを思いつつ, 下の方にこの Bhargava が学生だと
    いう記述を見つけ, 感慨にふけった.
    ====
    予想の完全解決にはまだ道程はある.
    特にランク 2 以上の少数の曲線に関してはまだ理解が進んでいない.
    そして Bhargava 達の仕事で使われている Gross-Zagier,
    Kolyvagin の理論は \(\mathbb{Q}\) 以外の体では使えない.
    しかし少なくとも統計的な意味で予想は
    射程圏内にあるという望みは与えている.
    ====
    最後の一文, 訳があっているのか非常に不安だ.
    ====

    Martin Hairer

    Martin Hairer は確率論と偏微分方程式の狭間で仕事をしている.
    特に確率微分方程式の理論が専門だ.
    私の興味と一番近い彼の結果は Jonathan Mattingly との共同研究による,
    2 トーラス \({\bf R}/{\bf Z})^2\) 上の
    2 次元確率 Navier-Stokes 方程式に対する不変測度の一意性に関する優れた仕事だ.
    \begin{align} \partial_t u + (u \cdot \nabla u) = \nu \Delta u – \nabla p + \xi \\ \nabla \cdot u = 0 \end{align} ここで \(\xi\) はランダムネスの源泉となる固定した振動数の集合を走る Gauss 場だ.
    Mattingly のページ: http://fds.duke.edu/db/aas/math/faculty/jonm/
    ====
    最後の一文, 相当意訳した.
    元の文は【where {\xi} is a Gaussian field
    that forces a fixed set of frequencies】だ.
    Force がよくわからないが, 普通の
    Navier-Stokes にランダムネスを入れる項なのだろうということで.
    原論文はこれだろう.
    http://arxiv.org/abs/math/0406087
    arXiv をあさっていたら Hairer もエルゴード関係の仕事をしている.
    今回はエルゴード祭りか.
    そもそも Navier-Stokes だが, これは流体力学の基礎方程式だ.
    Navier-Stokes 方程式の解の存在と滑らかさについては
    有名なミレニアム問題として取り上げられている.
    つまり魔界.
    http://goo.gl/uu0DBz
    ====
    任意の適当に性質がいい初期値に対して,
    この方程式の解は漸近的に Kolmogorov のべき乗則にしたがって
    分布すると期待されていた.
    これは以前のポストでも議論した通りだ.
    http://goo.gl/49NuMp
    Dyadic モデルに対しては, Cheskidov, Shvydkoy, Friedlander らによる
    この方向の結果 http://goo.gl/N2pfQH はあるものの,
    問題解決には程遠い状況だ.
    しかし Hairer と Mattingly はほとんど全ての初期値に対して
    漸近的に収束していく一意的な確率分布の存在証明に成功した.
    エルゴード定理によれば, これはフローに対する
    不変測度の存在と一意性を示すことに等しい.
    存在は標準的な方法で示すことができるが一意性は難しい.
    一意性を示す標準的なルートの 1 つは強 Feller 性を示すことだ.
    これで推移作用素にある種の連続性を与えられる.
    ====
    あとで分かるが, この論法はそのままでは成立しない.
    以下しばらく英語では仮定法で話が続いている.
    それはそれとして, 非数学の人向けに言っておくと,
    数学では状況に応じていろいろな連続性を使い分ける.
    教養レベルでも普通の連続と一様連続が出てきたと思うが,
    Lipschitz 連続とか Hölder 連続とか絶対連続というのもある.
    あと Feller は『確率論とその応用』を書いた
    確率論で有名な例の人だろう.
    概念に自分の名前が付く学者, やはり魔人だと言わざるを得ない.
    ====
    とりわけ, これは 2 つの交差する台を持つエルゴード測度が
    実際には非自明な共通要素を持つことを意味する.
    これはエルゴード定理に反する.
    そして異なるエルゴード測度は互いに特異になってしまう.
    ====
    【have a non-trivial common component】の部分,
    数学的に正確な主張を知らないと多分きちんと訳せないのだが,
    論文追うのはつらいので断念した.
    ====
    Navier-Stokes に対する全ての エルゴード 測度は
    台として原点を含んでいることがわかるので, これで一意性を示すことができる.
    不幸なことに強 Feller 性は Navier-Stokes に対する
    無限次元の相空間で成立しそうにない.
    ====
    以上, ここで仮定法が途切れる.
    無限次元の相空間というのは何なのだろう.
    無限次元化は微分方程式論由来なのか,
    確率論由来なのか, その辺も気になる.
    ====
    ここで Hairer と Mattingly はこれに対応する,
    すっきりとした抽象的な代替理論を作った.
    彼らは漸近的強 Feller 性と呼んでいるが,
    推移作用素の正則性に関する性質だ.
    Malliavin 解析を注意深く使うことでこれを示している.
    ====
    Malliavin も非常に有名なフランスの数学者で,
    もちろん確率論の人だ.
    http://en.wikipedia.org/wiki/Paul\_Malliavin
    Malliavin 解析は私でも名前は知っているクラスに有名.
    arXiv を見ていて
    On Malliavin’s proof of Hörmander’s theorem のコメントに
    http://arxiv.org/abs/1103.1998
    【Comments: Dedicated to the memory of Paul Malliavin】
    とあったのでちょっと調べてみたら,
    Malliavin は 2010 年に亡くなっていたようだ.
    知らなかった.
    ====

    Mirzakhani

    Maryam Mirzakhani は Teichmüller タイプのモジュライ空間の
    幾何とダイナミクスに集中して仕事をしている.
    例えば種数と尖点の数を固定した (または決まった長さを持つ測地線からなる
    境界の数を固定した) Riemann 面のモジュライ空間だ.
    ====
    モジュライ空間, 現代幾何学の中心的な研究対象らしいので
    良く聞くのだがいまだによくわかっていないというか
    そもそも勉強していない.
    あまり楽しい話ではないが, Teichmüller というと
    ナチスに参加していたという話をどうしても思い出す.
    http://en.wikipedia.org/wiki/Oswald\_Teichm%C3%BCller
    ====
    これらの空間は (Weil-Peterson 計量による
    Kähler 幾何のような) 幾何構造から, (Riemann 面または
    関連する空間上の写像類群の作用による) 力学系の構造,
    (空間を代数多様体と見ることによる) 代数構造と
    非常に豊かな構造を持ち, 幾何や力学系での
    他の多くの面白い題材との繋がりがある.
    http://en.wikipedia.org/wiki/Weil-Petersson\_metric
    http://en.wikipedia.org/wiki/Mapping\_class\_group
    ====
    この間も書いたが, まず Riemann 面の理論は
    \(\mathbb{C}\) 上の代数曲線論であってその時点で魔界だ.
    その上でさらに豊富な構造を持っているなら
    大体何でも関係してくるだろうし, 正に「数学」という趣がある.
    ====
    例えば, 下記論文でこの空間の Weil-Peterson 体積に対する
    新しい再帰的な公式を作ることで, Mirzakhani は
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr=2264808
    下記論文で双曲平面内のある閾 \(L\) 以下の長さの
    単純な prime geodesics の数を
    漸近的に数えることに成功した.
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr=2415399
    ====
    prime geodesics, どう訳せばいいのだろう.
    Geodesics はもちろん測地線が, prime が謎.
    ====
    (より正確には Mirzakhani は写像類群の
    決まった軌道の上記測地線の数の漸近公式を得た. )
    解は \(L\) の多項式になっていて, \(L\) の指数関数に漸近してしまう
    非単純な prime geodesics の遥かに大きなクラスに対する結果とは対照的だ.
    (非単純な場合の結果は Delsart, Huber, Selberg, and Margulis らによる
    古典的な一連の仕事, “測地線に対する素数定理” として知られている. )
    ====
    Delsart と Huber は知らないのだが,
    Selberg と Margulis は私でも名前を知っている魔人だ.
    Selberg は数論で顕著な業績があるので, こちらは知っている人も多いだろう.
    素数定理と言っているくらいだから,
    prime geodesics は素測地線と訳してもよさそうな気はするが
    違う定訳があるとまずいのでそのままにする.
    ====
    彼女はまたこの公式を下記論文で Kontsevich がはじめて示した
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr=1171758
    交差数に関する Witten 予想の新たな証明を与えるのにも使った.
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr=1144529
    ====
    Witten も Kontsevich も Fields メダリストなので魔人.
    超弦理論まわりの数学で獅子奮迅の活躍をしている.
    やばい.
    ====
    最近, Eskin と Eskin, Mohammadi との 2 つの長い共著論文で
    http://arxiv.org/abs/1302.3320
    http://arxiv.org/abs/1305.3015
    Mirzakhani は上記モジュライ空間上の
    \(SL_2 (\mathbb{R})\) の作用に対する剛性定理を証明した.
    これはべき単生成群に対する Ratner の剛性定理類似だ.
    (これは以前のブログで議論した. )
    http://terrytao.wordpress.com/2007/09/29/ratners-theorems/
    ====
    前者の論文, 172 ページとかあってやばい.
    あと \(SL_2(\mathbb{R})\) はやはり魔界だった.
    剛性定理というのは数学で一般的にある定理だ.
    http://en.wikipedia.org/wiki/Rigidity\_(mathematics)
    群作用とあわせて幾何で出てくるときは,
    だいたいその多様体 (空間) の対称性を表す群が小さいという主張だ.
    例えば複素多様体は複素構造自体が珍しいため,
    それを保つような変換ははじめから少ないはずで,
    そこから複素多様体は固いと言える: 要は剛性がある.
    一方, 測度空間上, 保測変換はその性質上めちゃくちゃ柔らかいと思える.
    何せ面積・体積にあたる測度さえ保っていればいいので
    連続性さえいらない暴力的な変換も許される.
    そういう感じの話をするのが剛性問題だ.
    ====
    Ratner の定理は証明が難しいので悪名高く,
    べき単流の多項式安定性に非常に強く依存している.
    この遥かに複雑な設定下でべき単流はもはや tractable ではない.
    ====
    tractable, 何か数学で対応するような用語があった気がしたので,
    とりあえず英語のままにしておいた.
    幾何・力学系がわからなくてつらい.
    ====
    Mirzakhani はかわりに Benoist と Quint の“指数ドリフト” 法を使っている.
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr=2831114
    ====
    論文, フランス語のようだ.
    フランス人は大事な論文であっても英語ではなく
    フランス語で書いてくるのであまりにも憎たらしい.
    理由はこれだけではないが, 最近フランス語の勉強をはじめた.
    ====
    Ratner の定理は等質力学系に関わる全ての問題に対して
    信じられないくらい役に立つし, Mirzakhani, Eskin, Mohammadi による
    類似の定理も同じように広い応用を持つ.
    例えば有理多角形内の周期的なビリヤードの軌跡を数えるのに使える.
    ====
    よくわからないが Terence Tao が incredibly useful という
    Ratner の定理がやばいということだけは伝わった.
    ====
    ====
    長くなったが, これで Terence Tao のブログの翻訳は
    とりあえず終わった.
    Simons 財団のページの翻訳はさらに長いので
    心が折れつつありやらないかもしれない.
    興味がある方は直接読んだ方がいいかもしれない.
    ====

  • 2014 ソウルでの ICM で Fields 賞が発表になった その2 Terence Tao のブログから

    これもメルマガの転記だ.

    2014 ソウルでの ICM で Fields 賞が発表になった その2 Terence Tao のブログから

    引き続き Fields 賞のネタだ.
    今回は Terence Tao のブログの翻訳を中心にする.

     

    前回と同じく, 私のコメントは ==== で囲んでおく.

     

    その前に: タレコミとちょっとした調査

    メルマガ読者の方から Hairer に関して次のような情報を頂いた.
    前評判として少なくとも春頃から彼が Fields 賞を取るのではないかと
    確率論関係者の間では噂になっていたらしい.
    Twitter での確率論の院生が「本当に Hairer が取った」と言っていたので,
    多分そういう噂はあったのだろう.
    それだけ強烈な仕事をしたとも言える.
    そして確率 Navier-Stokes に関し, 普通の Navier-Stokes と違う話として,
    ある状態 (2 つの大きな渦ができている) から別の状態 (層流) へのランダムな転移が
    よく見られるが, 普通の Navier-Stokes でも同じ現象が見られると
    いうのは聞いたことがない, という情報を頂いた.
    また受賞理由にはないものの, 確率偏微分方程式の一つ KPZ 方程式で
    有名な仕事があってそれで業界では有名になったという.
    これも先の院生が KPZ の話をしていたので, やはりそれで有名なのだろう.
    Renormalization がどうこうというのも KPZ universality class などの
    スケーリング則的な議論についての言及なのかもしれない, とのこと.
    最近, 繰り込みもいろいろなところでの応用が始まっているようなので,
    その辺の話なのだろうという気はする.
    ちなみに繰り込み群の数学的展開としては,
    次のような研究集会が隔年で開かれている.
    http://goo.gl/aLJMvf
    応用先についても言及があるので引用しておこう.

    1. 統計力学や場の理論での応用,
    2. 非線形微分方程式での応用,
    3. 流体力学での応用,
    4. 力学系での応用
    5. 非可換空間上の場の理論の構成
    6. LPA近似された繰り込み群方程式の解の一般的解

    あと Riemann surface with marked points は
    「点付き」と訳すことが多いとのこと.
    点付きについて調べていて, Twitter で Riemann 面をやっている
    人に聞いてみたら, 超弦関係の数学をやっている人から
    次のような情報を頂いた.
    点付き Riemann 面は, Riemann 面とその上の順序有りの有限個の点の集合のことで,
    Mirzakhani の仕事や Witten 予想で点付き Riemann 面のモジュライが出てくるのは,
    Riemann 面を退化させて切り張りして漸化式を考えるからで,
    曲面のホモロジーサイクルをつぶしてちぎると
    ちぎったところに点が 2 個出てくる, とかそういう話らしい.
    退化とか (ホモロジー) サイクルを潰して千切るというあたりが
    さっぱりだが, とりあえず定義は了解した.
    ググっても定義が見当たらなかったので困っていたが, 助かった.

     

    Terence Tao のブログの翻訳

    2014 年の Fields メダリストは次の 4 名とアナウンスされた:
    Artur Avila, Manjul Bhargava, Martin Hairer, それに Maryam Mirzakhani だ.
    http://en.wikipedia.org/wiki/Artur\_Avila
    http://en.wikipedia.org/wiki/Manjul\_Bhargava
    http://en.wikipedia.org/wiki/Martin\_Hairer
    http://en.wikipedia.org/wiki/Maryam\_Mirzakhani
    Simons 財団のページにはプロフィールの動画もある.
    http://goo.gl/TGgD2y
    前回, 2010 のときにもメダリストの記事を書いた.
    http://goo.gl/TZyJdC
    今回は私 (Terence Tao. 以下同様) の専門と近くないので
    あまり突っ込んだことは書けないし, 完全に正確でもないだろう.
    前回と同じく, 彼ら/彼女らの業績に関する話は
    私自身の興味にしたがって取り上げていく.
    それは必ずしもメダリスト達の“最高の仕事”というわけではない.
    プレスリリースも参考にしてほしい.
    http://www.mathunion.org/fileadmin/IMU/Prizes/2014/news\_release\_avila.pdf
    http://www.mathunion.org/fileadmin/IMU/Prizes/2014/news\_release\_bhargava.pdf
    http://www.mathunion.org/fileadmin/IMU/Prizes/2014/news\_release\_hairer.pdf
    http://www.mathunion.org/fileadmin/IMU/Prizes/2014/news\_release\_mirzakhani.pdf

     

    Arthur Avila

    Avila は力学系や Schrodinger 作用素の研究をしている.
    私が一番親しみがある Avila の仕事は Svetlana Jitormiskaya との共著,
    Kac の10 マルティニ問題の解決だ.
    http://www.math.uci.edu/~szhitomi/ (Svetlana のページ)
    この名前は (Barry Simon によると) Kac が
    解決に関して 10 マルティニを賭けたことによる.
    ====
    Avila の論文が, 名前もそのままずばり
    The Ten Martini Problem だった.
    http://arxiv.org/abs/math/0503363
    そしてこのページにいくつか情報がある.
    http://goo.gl/tDDPjW
    第一次大戦後, 悲劇のポーランドで Banach まわりの人間が
    いろいろ集まっていた Scottish cafe の話から
    Kac が着想を得たということらしい.
    Kac は当然 Mark Kac だ.
    確率論の Feynman-Kac の公式や
    【Can one hear the shape of a drum?】で名高い.
    http://goo.gl/sCQfVO
    後者はスペクトル幾何という分野と深く関係している.
    太鼓の形が変わると音が変わる, つまり音に影響を与える.
    これを【太鼓の形を見れば出る音がわかる】と表現しよう.
    ではこの逆, 【音の変化で太鼓の形が分かるか】というのが
    上で Kac が印象的に命名した問題だ.
    何を調べるかというと, Riemann 多様体上の
    Laplacian の固有値を調べる問題になる.
    Laplacian の性質には多様体の幾何の影響が出る.
    例えば Riemann 多様体がコンパクトなら
    Laplacian のスペクトルは離散的になる.
    逆に Laplacian のスペクトルからどれだけ
    多様体の情報が取れるか, というのが
    Kac が提唱した問題といえる.
    これ自体は否定的に解決されたはずだが,
    いろいろな数学が交錯する分野で,
    まだまだ研究するべきことはある.
    で, Tao が【Simon によると】と言っているのが
    次の論文だ.
    http://www.math.caltech.edu/SimonPapers/R26.pdf
    これの P.487 で言及している.
    のっけから余談だらけになるが,
    Simon は私 (コメント中なので Terence Tao ではない) の分野,
    構成的場の量子論および厳密統計力学の巨人だ.
    教科書として Reed-Simon と呼ばれる関数解析の 4 巻本,
    Methods of Modern Mathematical Physics というのがある.
    他にも有名な本や論文がある.
    例えば学習院の物理の田崎さんが
    「3 人の数理物理の神々の饗宴」と称した,
    反強磁性 Heisenberg モデルでの相転移の存在証明論文がある.
    田崎さんいわく, これは鏡映正値性を駆使した
    変態的な論文ということだ.
    この話をしていると終わらないので,
    ここで無理矢理切り上げる.
    ====
    この問題はおそらく非自明なスペクトルの性質を持つ
    Schrodinger 作用素の最も単純な例,
    概 Mathieu 作用素 \(H_{\omega}^{\lambda, \alpha} \colon \ell^2{\mathbb{Z}} \to \ell^2{\mathbb{Z}}\) を含む.
    ここで \(\alpha, \omega \in \mathbb{R} / \mathbb{Z}\) で \(\lambda > 0\) だ.
    具体的な形は次の通り.
    \begin{align} (H^{\lambda, \alpha}_{\omega} u)_n = u_{n+1} + u_{n-1} + 2 \lambda (\cos 2 \pi (\theta + n \alpha)) u_n. \end{align} つまり余弦ポテンシャルを持つ離散的な 1 次元 Schrodinger作用素だ.
    これは有界な自己共役作用素なので,
    スペクトルは実軸のコンパクトな集合になる.
    ====
    スペクトル解析が私の専門なのでびしびし心に来る.
    まず離散 Schrodinger って何ぞ, というところだが,
    物理の人が興味を向けるのかは知らないのだが,
    少なくとも数学だと結構よく扱われている印象がある.
    例えば Anderson 局在を格子の上で
    研究している数学者達がいる.
    http://arxiv.org/abs/1104.2317
    数学的に面白いらしい.
    また, 自己共役作用素というのはいわゆる
    (無限次の) Hermite 行列のことだ.
    これも話し出すと止まらないので,
    ここではこれ以上書かない.
    ====
    概 Mathieu 作用素は整数量子ホール効果など
    いろいろな物理の文脈で出てくる.
    ただここではこうした応用は議論しない.
    特にこのスペクトルの構造は振動数 \(\alpha\) の
    Diophantine 的な性質が決定的に効いてくる.
    ====
    だいたいこの時点でかなり不穏な空気が出てくる.
    Diophantine はいわゆるディオファントスで,
    要は数論の問題が絡んでくるということ.
    ちなみに九大の若山先生が非可換調和振動子のスペクトルを
    研究していて, このスペクトルゼータが
    パラメータの調整で本当に Riemann の \(\zeta\) になる.
    http://goo.gl/pEuk4t
    つまり自己共役作用素のスペクトル解析は
    数論が飛び出してくることのある魔界にもなりうる.
    場の理論からの話だと新井先生の次の論文がある.
    http://eprints3.math.sci.hokudai.ac.jp/637/
    またもっと直接的にスペクトル理論と
    \(\zeta\) に関して Hilbert-Polya 予想がある.
    http://goo.gl/uaSwU9
    ====
    例えば \(\alpha = p/q\) が有理数のとき,
    作用素は \(q\) を周期として周期的になる.
    そして離散 Floquet 理論からスペクトルは
    単純に \(q\) 区間の和になる.
    しかし \(\alpha\) が無理数だと (この場合
    スペクトルは位相 \(\theta\) によらない),
    フラクタル的な様相を呈してくる.
    例えば \(\lambda = 1\) という臨界的な場合は
    スペクトルは (\(\alpha\) の関数として)
    Hofstadter butterfly になる.
    ====
    Hofstadter butterfly は下記ページ参照.
    http://en.wikipedia.org/wiki/Hofstadter%27s\_butterfly
    私もはじめて知ったが, 東北大の小谷先生の
    Harper 作用素の結果で, 同じようにスペクトルの紋様の
    研究があったような覚えがある.
    http://www.phys.tohoku.ac.jp/coe/symposium/pdf/Kotani.pdf
    私が聞いたのは磁場つき Harper の結果だったし,
    出版年からしてももう少し後の結果だったと思う.
    ちなみに小谷先生は離散微分幾何の専門家だ.
    ちょっと検索したら Harper 作用素の
    代数幾何とかあって戦慄した.
    http://arxiv.org/abs/1102.4136
    ====
    Ten martini problem は
    全ての無理数 \(\alpha\) と結合定数 \(\lambda\) に対して
    スペクトルが Cantor 集合と同相になるという主張だ.
    ====
    上で【スペクトルは位相 \(\theta\) によらない】と書いたが,
    これがもちろん phase の意味の位相だ.
    Topology ではない.
    また Cantor 集合が出てきたが, Cantor 集合は
    測度論で出てくる何か変な零集合というだけではない.
    このようにふとした瞬間にポンと出てくる魔人だ.
    Cantor の先見の明と優れた例の構成力には心底驚かされる.
    Cantor 集合は力学系の話だと
    かなり普遍的に出てくる感じがある.
    作用素環でも千葉大の松井さんの仕事で
    基本的な話の中にポンポン出てきた覚えがある.
    面白くて余談が止まらない.
    ====
    Avila と Jitormiskaya の仕事の前,
    この問題に対する多くの部分的な結果があった.
    特に Puig は次の論文を書いている.
    http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr=2031032
    これは \(\lambda\) が十分小さいか十分大きいかという
    摂動的な仮定をつけた結果と同じく,
    パラメータ \((\lambda, \alpha)\) の
    a full measure set に対するスペクトルの Cantor 性を確立した.
    ====
    A full measure set をどう訳したものか.
    零集合との対比っぽい印象は受けた.
    また【スペクトルの Cantor 性】は Cantor spectrum の訳だが,
    正しいのかわからない.
    下記論文からするとこういう感じかな, と思ったのだが.
    http://sloan2.caltech.edu/SimonPapers/152.pdf
    ちなみに Cantor 集合は全疎で完全な閉集合で,
    完全と閉はすぐわかるが全疎性を示すのが難しいと上の論文に書いてある.
    よく見たら Bellisard だけでなく上掲の Simon も著者だった.
    あと摂動というところだが, 一応物理と同じような意味で使っている.
    十分小さい場合はその数の正べき, 十分大きい場合は
    その逆数の正べきが十分速く収束するので
    いろいろな議論がはかどるという話.
    物理と違って収束の話はきちんとするから,
    ふつう, つらい解析的な仕事になる.
    ====
    \(\alpha\) が Liouville 数のように有理数に非常に近い場合,
    または Diophantine 数のように有理数から非常に遠い場合には
    この結果は示されていたが,
    これらの中間の結果がなかった.
    問題を解くために次のような背理法による驚くべき議論とあわせて
    摂動的・非摂動的双方の既存の技術を幅広く使っている:
    彼らは (ある領域で) スペクトルは Cantor 集合にならないと仮定し,
    この仮定を \(\alpha\) の関数としてスペクトルの
    Lipschitz 的で付加的な制御をするために使っている.
    これのおかげで彼らは (膨大な議論のもとで) 既存の議論の
    改良をすることができ, スペクトルが実際に
    Cantor 集合であることを証明した!
    ====
    Avila 1 人で膨大な量になってきたから今回はこの辺で終わろう.
    次回は Bhargava だ.
    ====

  • コンテンツアーカイブを作りました

    コンテンツアーカイブを作りました

    新たにコンテンツアーカイブを作りました。

    理工系のための総合語学・リベラルアーツのコンセプトのもとに、数学・物理・プログラミング・英語(語学)を中心にしたコンテンツをこれまで以上に見やすく整理しています。

    これまで公開していなかったコンテンツも公開していくので、ぜひコンテンツアーカイブにあくせすしてください。

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