特殊な漸化式と微分方程式 微分方程式のシミュレーションの観点から/中高数学駆け込み寺 第 9 回

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目次

はじめに

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復習

ベクトル, 関数, 数列ときて,
数列を決めるルールとしての漸化式に流れてきました.
最初の微分方程式のシミュレーションでは,
そもそもの話として微分方程式を近似して漸化式を出し,
その漸化式をもとに数値計算・シミュレーションをしていたのでした.
いい加減この 2 つをきちんと繋げましょう.
それが今回の目的です.

前回は小学校の算数の文章題を思い出していました.
ついでに高校の力学の話もちょっとやりました.
要は $a_{n+1} – a_{n} = \alpha_n$ と階差数列が定数ではなく数列になっているわけです.
そして一般的にその数列がわからないから手も足も出ない, と.

一般論は捨てる

一般論は諦めましょう.
階差 $a_{n+1} – a_{n}$ が数列であったとしてもどうにかなる場合はあります.
それは高校でもいくつか具体例は見ています.

一番暴力的に単純なのは $a_{n+1} – a_{n} = \alpha a_{n}$ のように,
階差が直接 $a_{n}$ で, それも $a_n$ の一次式で書ける場合です.
これは特に $a_{n+1} = (1 + \alpha) a_n$ なので等比数列です.
あなたは「そんな都合のいいやつだけ考えて意味あるの?」と思うかもしれません.
微分方程式を考えるなら十二分に意味があります.
それを見てみましょう.

導関数の定義

まずは関数の微分係数を定義します.
ある点 $a$ での関数の微分係数 $f'(a)$ は次のように定義します.

\begin{align}
f'(a)
=
\lim_{h \to 0} \frac{f(a + h) – f(a)}{h}.
\end{align}

$\lim_{h \to 0}$ はあとで簡単に説明することにして,
まずは言葉を定義します.
次は導関数ですね.
いま微分係数の定義では点 $a$ を固定していました.
それを動かして一般の点 $x$ にすれば新しく数と数の対応が作れます.
つまり関数が定義できます.
その関数を導関数と呼びます.
元の関数から導出される関数だから導関数なんだと思ってください.

極限の定義

そもそも $\lim_{h \to 0}$ って何なのかと.

厳密な話は別のところでやっているので省略します.
ちゃんとやるの大変だし,
そもそも数学科でもない限り必要ない議論なので.

$\lim_{h \to 0}$ は $h \to 0$ の見た目の通り $h$ を $0$ に近づけていくという意味です.
$h$ を限りなく $0$ に近づけると言ったりもしますね.
つまり $\lim_{h \to 0} \frac{f(x + h) – f(x)}{h}$ は比 $\frac{f(x + h) – f(x)}{h}$ を考え,
$h$ をどんどん小さくしていった究極の姿を取り出せ, という命令です.

$h$ はステップの刻みである

前回, 漸化式で数列 {$a_n$} の $n$ はステップだと言いました.
1 分後とか 1 秒後とかそういう意味です.
極限の記号 $\lim_{h \to 0}$ で出てくる $h$ が何を制御しているかというと,
まさにこのステップの刻みです.

$h$ が分なり秒なりの適当な意味で $1$ だとすると,
$f(x + h)$ は $a_{n+1}$, $f(x)$ は $a_n$ だとみなせます.
大雑把に言えば数列の $n$ 番目, $n$ ステップ目 $a_{n}$ を
$x$ 番目と思ったのが $f(x)$ です.

極限はステップの刻みをどんどん小さくしていきますよ,
と言っているだけです.
小さくしていった究極の姿が導関数または微分係数 $f'(x)$ なので,
$h$ が小さければ $f'(x) \fallingdotseq \frac{f(x + h) – f(h)}{h}$ です.
極限という面倒な概念操作をはさむので $f'(x)$ はどうしてもわかりづらいですが,
右辺でよく近似できます.

微分方程式

ここでごく単純に $f'(x) = \alpha f(x)$ としてみましょう.
$f'(x)$ は $df(x) / dx$ とも書けます.
最初にやった微分方程式と揃えるため,
変数は $x$ から $t$ にして関数は $f$ ではなく $u$ と書くことにすると
$\frac{du}{dt} = \alpha u$ ですね.
これは最初にやった放射性物質の崩壊の微分方程式です.

次にさっきやった近似を使います.
$\frac{du}{dt} = \frac{u (t + h) – u(t)}{h}$ なのでした.
上の 2 式をまとめると次の式が出ます.

\begin{align}
\frac{u (t + h) – u(t)}{h}
=
\alpha u(t).
\end{align}

もちろん次のようにも書けます.

\begin{align}
u(t + h) – u(t)
=
\alpha h u(t).
\end{align}

$t$ や $h$ で書き変わっているものの,
$t$ が変数で $h$ が固定のステップの刻みなんだと思えば,
$a_{n + 1} – a_{n} = \alpha’ a_{n}$ と同じ形です: もちろん $\alpha’ = \alpha h$.
ご都合主義のような解ける漸化式,
実は現実とよくマッチしてるんですね.

まとめ

  • 一般の漸化式は解けない.
  • ご都合主義的に等比数列になる漸化式を考える.
  • 現実と関係の深い微分方程式がご都合主義の漸化式に帰着した.

こんなところです.
この講座では放射性物質の崩壊と単振動くらいしか紹介してはいませんが,
数列の処理がきちんとできると割とそのノリで物理もできます.
高校でもやる単振動の運動方程式は $\frac{d^2 u}{dt^2} = – \omega^2 u$ です.
2 階微分の左辺はともかく右辺で $u$ の一次式が出てくるわけで,
大雑把に言えばさっき説明したのと同じ形です.

次回は微分の一般論

今回, 微分の話もそこそこに微分方程式に突っ込んで流れを回収しました.
次回はちゃんと微分の話をしましょう.
厳密な話をしていてもきりがないので,
高校であまり触れられない「気分」を紹介します.

アンケートの回答をお願いします

今回もアンケートがあります.
改善につなげるためぜひ回答をお願いします.

ではまた次回をお楽しみに!

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