2014 ソウルでの ICM で Fields 賞が発表になった その2 Terence Tao のブログから

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これもメルマガの転記だ.

2014 ソウルでの ICM で Fields 賞が発表になった その2 Terence Tao のブログから

引き続き Fields 賞のネタだ.
今回は Terence Tao のブログの翻訳を中心にする.

 

前回と同じく, 私のコメントは ==== で囲んでおく.

 

その前に: タレコミとちょっとした調査

メルマガ読者の方から Hairer に関して次のような情報を頂いた.
前評判として少なくとも春頃から彼が Fields 賞を取るのではないかと
確率論関係者の間では噂になっていたらしい.
Twitter での確率論の院生が「本当に Hairer が取った」と言っていたので,
多分そういう噂はあったのだろう.
それだけ強烈な仕事をしたとも言える.
そして確率 Navier-Stokes に関し, 普通の Navier-Stokes と違う話として,
ある状態 (2 つの大きな渦ができている) から別の状態 (層流) へのランダムな転移が
よく見られるが, 普通の Navier-Stokes でも同じ現象が見られると
いうのは聞いたことがない, という情報を頂いた.
また受賞理由にはないものの, 確率偏微分方程式の一つ KPZ 方程式で
有名な仕事があってそれで業界では有名になったという.
これも先の院生が KPZ の話をしていたので, やはりそれで有名なのだろう.
Renormalization がどうこうというのも KPZ universality class などの
スケーリング則的な議論についての言及なのかもしれない, とのこと.
最近, 繰り込みもいろいろなところでの応用が始まっているようなので,
その辺の話なのだろうという気はする.
ちなみに繰り込み群の数学的展開としては,
次のような研究集会が隔年で開かれている.
http://goo.gl/aLJMvf
応用先についても言及があるので引用しておこう.

  1. 統計力学や場の理論での応用,
  2. 非線形微分方程式での応用,
  3. 流体力学での応用,
  4. 力学系での応用
  5. 非可換空間上の場の理論の構成
  6. LPA近似された繰り込み群方程式の解の一般的解

あと Riemann surface with marked points は
「点付き」と訳すことが多いとのこと.
点付きについて調べていて, Twitter で Riemann 面をやっている
人に聞いてみたら, 超弦関係の数学をやっている人から
次のような情報を頂いた.
点付き Riemann 面は, Riemann 面とその上の順序有りの有限個の点の集合のことで,
Mirzakhani の仕事や Witten 予想で点付き Riemann 面のモジュライが出てくるのは,
Riemann 面を退化させて切り張りして漸化式を考えるからで,
曲面のホモロジーサイクルをつぶしてちぎると
ちぎったところに点が 2 個出てくる, とかそういう話らしい.
退化とか (ホモロジー) サイクルを潰して千切るというあたりが
さっぱりだが, とりあえず定義は了解した.
ググっても定義が見当たらなかったので困っていたが, 助かった.

 

Terence Tao のブログの翻訳

2014 年の Fields メダリストは次の 4 名とアナウンスされた:
Artur Avila, Manjul Bhargava, Martin Hairer, それに Maryam Mirzakhani だ.
http://en.wikipedia.org/wiki/Artur\_Avila
http://en.wikipedia.org/wiki/Manjul\_Bhargava
http://en.wikipedia.org/wiki/Martin\_Hairer
http://en.wikipedia.org/wiki/Maryam\_Mirzakhani
Simons 財団のページにはプロフィールの動画もある.
http://goo.gl/TGgD2y
前回, 2010 のときにもメダリストの記事を書いた.
http://goo.gl/TZyJdC
今回は私 (Terence Tao. 以下同様) の専門と近くないので
あまり突っ込んだことは書けないし, 完全に正確でもないだろう.
前回と同じく, 彼ら/彼女らの業績に関する話は
私自身の興味にしたがって取り上げていく.
それは必ずしもメダリスト達の“最高の仕事”というわけではない.
プレスリリースも参考にしてほしい.
http://www.mathunion.org/fileadmin/IMU/Prizes/2014/news\_release\_avila.pdf
http://www.mathunion.org/fileadmin/IMU/Prizes/2014/news\_release\_bhargava.pdf
http://www.mathunion.org/fileadmin/IMU/Prizes/2014/news\_release\_hairer.pdf
http://www.mathunion.org/fileadmin/IMU/Prizes/2014/news\_release\_mirzakhani.pdf

 

Arthur Avila

Avila は力学系や Schrodinger 作用素の研究をしている.
私が一番親しみがある Avila の仕事は Svetlana Jitormiskaya との共著,
Kac の10 マルティニ問題の解決だ.
http://www.math.uci.edu/~szhitomi/ (Svetlana のページ)
この名前は (Barry Simon によると) Kac が
解決に関して 10 マルティニを賭けたことによる.
====
Avila の論文が, 名前もそのままずばり
The Ten Martini Problem だった.
http://arxiv.org/abs/math/0503363
そしてこのページにいくつか情報がある.
http://goo.gl/tDDPjW
第一次大戦後, 悲劇のポーランドで Banach まわりの人間が
いろいろ集まっていた Scottish cafe の話から
Kac が着想を得たということらしい.
Kac は当然 Mark Kac だ.
確率論の Feynman-Kac の公式や
【Can one hear the shape of a drum?】で名高い.
http://goo.gl/sCQfVO
後者はスペクトル幾何という分野と深く関係している.
太鼓の形が変わると音が変わる, つまり音に影響を与える.
これを【太鼓の形を見れば出る音がわかる】と表現しよう.
ではこの逆, 【音の変化で太鼓の形が分かるか】というのが
上で Kac が印象的に命名した問題だ.
何を調べるかというと, Riemann 多様体上の
Laplacian の固有値を調べる問題になる.
Laplacian の性質には多様体の幾何の影響が出る.
例えば Riemann 多様体がコンパクトなら
Laplacian のスペクトルは離散的になる.
逆に Laplacian のスペクトルからどれだけ
多様体の情報が取れるか, というのが
Kac が提唱した問題といえる.
これ自体は否定的に解決されたはずだが,
いろいろな数学が交錯する分野で,
まだまだ研究するべきことはある.
で, Tao が【Simon によると】と言っているのが
次の論文だ.
http://www.math.caltech.edu/SimonPapers/R26.pdf
これの P.487 で言及している.
のっけから余談だらけになるが,
Simon は私 (コメント中なので Terence Tao ではない) の分野,
構成的場の量子論および厳密統計力学の巨人だ.
教科書として Reed-Simon と呼ばれる関数解析の 4 巻本,
Methods of Modern Mathematical Physics というのがある.
他にも有名な本や論文がある.
例えば学習院の物理の田崎さんが
「3 人の数理物理の神々の饗宴」と称した,
反強磁性 Heisenberg モデルでの相転移の存在証明論文がある.
田崎さんいわく, これは鏡映正値性を駆使した
変態的な論文ということだ.
この話をしていると終わらないので,
ここで無理矢理切り上げる.
====
この問題はおそらく非自明なスペクトルの性質を持つ
Schrodinger 作用素の最も単純な例,
概 Mathieu 作用素 \(H_{\omega}^{\lambda, \alpha} \colon \ell^2{\mathbb{Z}} \to \ell^2{\mathbb{Z}}\) を含む.
ここで \(\alpha, \omega \in \mathbb{R} / \mathbb{Z}\) で \(\lambda > 0\) だ.
具体的な形は次の通り.
\begin{align} (H^{\lambda, \alpha}_{\omega} u)_n = u_{n+1} + u_{n-1} + 2 \lambda (\cos 2 \pi (\theta + n \alpha)) u_n. \end{align} つまり余弦ポテンシャルを持つ離散的な 1 次元 Schrodinger作用素だ.
これは有界な自己共役作用素なので,
スペクトルは実軸のコンパクトな集合になる.
====
スペクトル解析が私の専門なのでびしびし心に来る.
まず離散 Schrodinger って何ぞ, というところだが,
物理の人が興味を向けるのかは知らないのだが,
少なくとも数学だと結構よく扱われている印象がある.
例えば Anderson 局在を格子の上で
研究している数学者達がいる.
http://arxiv.org/abs/1104.2317
数学的に面白いらしい.
また, 自己共役作用素というのはいわゆる
(無限次の) Hermite 行列のことだ.
これも話し出すと止まらないので,
ここではこれ以上書かない.
====
概 Mathieu 作用素は整数量子ホール効果など
いろいろな物理の文脈で出てくる.
ただここではこうした応用は議論しない.
特にこのスペクトルの構造は振動数 \(\alpha\) の
Diophantine 的な性質が決定的に効いてくる.
====
だいたいこの時点でかなり不穏な空気が出てくる.
Diophantine はいわゆるディオファントスで,
要は数論の問題が絡んでくるということ.
ちなみに九大の若山先生が非可換調和振動子のスペクトルを
研究していて, このスペクトルゼータが
パラメータの調整で本当に Riemann の \(\zeta\) になる.
http://goo.gl/pEuk4t
つまり自己共役作用素のスペクトル解析は
数論が飛び出してくることのある魔界にもなりうる.
場の理論からの話だと新井先生の次の論文がある.
http://eprints3.math.sci.hokudai.ac.jp/637/
またもっと直接的にスペクトル理論と
\(\zeta\) に関して Hilbert-Polya 予想がある.
http://goo.gl/uaSwU9
====
例えば \(\alpha = p/q\) が有理数のとき,
作用素は \(q\) を周期として周期的になる.
そして離散 Floquet 理論からスペクトルは
単純に \(q\) 区間の和になる.
しかし \(\alpha\) が無理数だと (この場合
スペクトルは位相 \(\theta\) によらない),
フラクタル的な様相を呈してくる.
例えば \(\lambda = 1\) という臨界的な場合は
スペクトルは (\(\alpha\) の関数として)
Hofstadter butterfly になる.
====
Hofstadter butterfly は下記ページ参照.
http://en.wikipedia.org/wiki/Hofstadter%27s\_butterfly
私もはじめて知ったが, 東北大の小谷先生の
Harper 作用素の結果で, 同じようにスペクトルの紋様の
研究があったような覚えがある.
http://www.phys.tohoku.ac.jp/coe/symposium/pdf/Kotani.pdf
私が聞いたのは磁場つき Harper の結果だったし,
出版年からしてももう少し後の結果だったと思う.
ちなみに小谷先生は離散微分幾何の専門家だ.
ちょっと検索したら Harper 作用素の
代数幾何とかあって戦慄した.
http://arxiv.org/abs/1102.4136
====
Ten martini problem は
全ての無理数 \(\alpha\) と結合定数 \(\lambda\) に対して
スペクトルが Cantor 集合と同相になるという主張だ.
====
上で【スペクトルは位相 \(\theta\) によらない】と書いたが,
これがもちろん phase の意味の位相だ.
Topology ではない.
また Cantor 集合が出てきたが, Cantor 集合は
測度論で出てくる何か変な零集合というだけではない.
このようにふとした瞬間にポンと出てくる魔人だ.
Cantor の先見の明と優れた例の構成力には心底驚かされる.
Cantor 集合は力学系の話だと
かなり普遍的に出てくる感じがある.
作用素環でも千葉大の松井さんの仕事で
基本的な話の中にポンポン出てきた覚えがある.
面白くて余談が止まらない.
====
Avila と Jitormiskaya の仕事の前,
この問題に対する多くの部分的な結果があった.
特に Puig は次の論文を書いている.
http://www.ams.org/mathscinet-getitem?mr=2031032
これは \(\lambda\) が十分小さいか十分大きいかという
摂動的な仮定をつけた結果と同じく,
パラメータ \((\lambda, \alpha)\) の
a full measure set に対するスペクトルの Cantor 性を確立した.
====
A full measure set をどう訳したものか.
零集合との対比っぽい印象は受けた.
また【スペクトルの Cantor 性】は Cantor spectrum の訳だが,
正しいのかわからない.
下記論文からするとこういう感じかな, と思ったのだが.
http://sloan2.caltech.edu/SimonPapers/152.pdf
ちなみに Cantor 集合は全疎で完全な閉集合で,
完全と閉はすぐわかるが全疎性を示すのが難しいと上の論文に書いてある.
よく見たら Bellisard だけでなく上掲の Simon も著者だった.
あと摂動というところだが, 一応物理と同じような意味で使っている.
十分小さい場合はその数の正べき, 十分大きい場合は
その逆数の正べきが十分速く収束するので
いろいろな議論がはかどるという話.
物理と違って収束の話はきちんとするから,
ふつう, つらい解析的な仕事になる.
====
\(\alpha\) が Liouville 数のように有理数に非常に近い場合,
または Diophantine 数のように有理数から非常に遠い場合には
この結果は示されていたが,
これらの中間の結果がなかった.
問題を解くために次のような背理法による驚くべき議論とあわせて
摂動的・非摂動的双方の既存の技術を幅広く使っている:
彼らは (ある領域で) スペクトルは Cantor 集合にならないと仮定し,
この仮定を \(\alpha\) の関数としてスペクトルの
Lipschitz 的で付加的な制御をするために使っている.
これのおかげで彼らは (膨大な議論のもとで) 既存の議論の
改良をすることができ, スペクトルが実際に
Cantor 集合であることを証明した!
====
Avila 1 人で膨大な量になってきたから今回はこの辺で終わろう.
次回は Bhargava だ.
====


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